2011年 11月 28日

マルチビザ発給後の沖縄現地事情

今回のトラベルマートでは、沖縄のインバウンド関係者と面会することができました。今年7月1日より沖縄1泊が条件という変則的なルールで始まった中国人の個人観光マルチビザ(3年間有効)発給後の沖縄への中国人観光客の動向が気になるところでしたから、実際に現地で何が起きているのか、担当者に直接話を聞いてみたかったのです。
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中国の旅行会社向けに沖縄県が作った個人観光マルチビザ発給の広報資料


以下が沖縄のインバウンド関係者とのやりとりです。

――7月以降中国の個人ビザ客は増えていますか?
「これについては公式の見解と本音の部分の話があります。2009年7月に始まった中国人の個人観光ビザ発給は昨年の条件緩和をへて今年のマルチビザ発給に至るわけですが、沖縄に来る個人ビザ客は前年度の20倍以上になりました。これだけ聞けば、順調に伸びているといえる。しかし、いかんせん母数が小さい。昨年まで毎月50名程度だったのが、1000名を超えるようになったという話です。本音でいえば、ビザ効果でもっと爆発的に増えるだろうと思っていたが、それほどでもなかったといえます」

――7月末に海南航空の北京・那覇線(週2便)が新規就航したものの、傘下のCAISSA社による独占販売で、いきなり沖縄4泊5日4000元という激安ツアーが登場。中国側の関係者からも、沖縄が激安観光地に位置付けられることを懸念する声がありました(やまとごころ.jp)「中国人の日本ツアーはメイド・イン・チャイナである【前編】」沖縄側の反応はどうですか?

「我々もなぜそんなに安く売るのかとCAISSA社に申し入れましたが、聞き入れられませんでした。当初は同社を支援するつもりだったのですが、やめました。ただ来年1月から中国国際航空の北京・那覇線(週2便)が就航するため、市場が開放されることを期待しています。また上海・那覇線はすでに週6便飛んでいます。

沖縄はリピーターに支えられているという統計があります。国内客の80%以上はリピーター。一方現在中国客の大半は団体ツアーです。彼らの占めるシェアは全体から見ればまだとても小さいのですが、今後リピーターになってもらうことが大事だと考えています」

――ただせっかくマルチビザ発給の条件というインセンティブを得たのに、激安ツアーしか来ないというのでは、東京・大阪ゴールデンルートと同じ轍をふんでしまったのではないかという気もしますが……。

「外客受け入れという観点でいうと、沖縄には中国客の前に台湾客の問題があったんです。かつて台湾の方にとって初めての海外団体ツアーは沖縄という位置づけで、やはり激安だった。それを変えていくためにいろんな手を講じてきた経緯があるんです。まず『台北ウォーカー』などの若者向け情報誌で沖縄のビーチリゾートとしての側面をPRしました。台湾の方が沖縄でレンタカーを利用してもらうプランも打ち出しました。団体ではなく、個人客を増やしたかったのです。現在、台湾客の個人旅行は一般化しています。中国客にも今後同じような手を打っていくことになると思います」
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「アジアと日本文化が融合したリゾートアイランド沖縄」と題された沖縄県の映画やテレビドラマの誘致を図る広報資料。2011年は日中台合作のテレビドラマ『陽光天使』のロケが沖縄で行なわれたばかり


――なるほど、沖縄はすでにアジア客受け入れの初期段階に起こる苦い経験を、台湾客を通して知っているわけですね。アジアインバウンド市場は、団体客中心の時代から個人客へというプロセスをたどるのが常ですが、沖縄以外の自治体や観光業者をみていると、台湾からのツアーが今日の中国ツアーと同じように問題とされていた1980~90年代の事情を知っている人は少ないようです。当時は観光立国としてインバウンド振興を進めるという時代ではなかったからでしょうが、やはり沖縄は外客受け入れの難しさをよく知っているという意味でも、インバウンド先進県ですね。

「沖縄には観光しかないですからね。それでずっとやってきたのです。しかし、いま我々は強い危機感を持っています。内地からの旅行者が減少しているからです。

今回の個人マルチビザをめぐっても、いくつかの問題があります。沖縄1泊という条件も、実際どこまで守られているのか。関空経由で沖縄に寄って帰るツアーもありますが、ビザ発給時点で沖縄に立ち寄るスケジュールを組んでいたとしても、本当にその人が沖縄に立ち寄ったのかチェックする公的機関はないからです」

――えっ、私は勘違いしていました。今回の条件では最初の入国地を沖縄にしなければならないのでは?

「違います。1泊立ち寄るだけでいいんです。今回のマルチビザ発給は政府の急ごしらえの施策で、中国にある日本領事館では膨大な発給数を処理するだけでも大変な作業、対応に苦慮していると聞きます。近い将来、個人マルチビザの沖縄1泊という条件ははずされることでしょう。つまり、全国に解禁される。沖縄はそれまでが勝負といえます」

沖縄のインバウンド関係者の話からもわかるように、沖縄に立ち寄ったかどうかチェックを云々というような問題が起こること自体、今回のマルチビザ発給がいかに「急ごしらえ」の施策であったかを物語っています。

今回の施策をめぐって、当初中国側の一部から「どうして日本の地域振興のために沖縄に1泊しなければならないのか」というイチャモンがあったそうです。彼らにすれば、もっともな話ではないでしょうか。こうした中国側の受けとめ方と、かの国の富裕層の沖縄に対する認識については、以前「北京ラビオン社周社長の語る沖縄マルチビザ発給の訪日促進効果について」で書いています。

これは別の機会に考えるつもりですが、こうした「急ごしらえ」の施策も、日本のインバウンド市場の法整備に関わる政策担当者の圧倒的な経験の不足が背景にあると思います。もっとも、経験がないのは政策担当者に限った話ではなく、日本の大半の人たちがアジアインバウンドの時代を経験するのは初めてのことですから、無理もないといえる。そういう意味でも、沖縄の経験は貴重です。これからももっと耳を傾けていきたいと思います。
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by sanyo-kansatu | 2011-11-28 21:11 | “参与観察”日誌 | Comments(0)


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