ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2011年 11月 30日

ガイドブックでわかる旅行市場の成熟度(トラベルマート2011 その5)

ここ数年、外国人観光客向けのフリーペーパーが多数発行されるようになったことにお気づきの方も多いと思います。空港やホテルによく置かれていますね。もともと英語版がメインだったのですが、最近では中国語版(繁体字、簡体字)も増えています。

トラベルマートの会場にも、フリーペーパーを発行する制作会社がいくつか出展していました。以前、ぼくは
やまとごころ.jpの連載で、現在発行されている外客向けフリーペーパーの問題について指摘したことがあります。そこでは「本当に外国人観光客に読まれているのか?」という根本的な疑問を呈しています。そうした残念な現状があるなか、ちょっと面白い会社のブースを見つけました。

その会社はインフィニティ・コミュニケーションズ株式会社といいます。東アジア(韓国、台湾、香港など)で発行されている現地メディアと、観光客の来店を期待する日本のクライアントをつなぐ広告出稿業務を行なう代理店です。秋葉原などでよく見かける外客向けマップ「東京導遊図」の発行元でもあります。この地図は年間250万部以上発行しており、中国語版フリーペーパーとしては国内最大級の媒体だそうです。

同社のサイトには、東アジアで広告出稿業務を行なっているメディアが多数紹介されています。『旅游天地』や『新民晩報』など、中国でもおなじみの媒体ばかりです。

なぜこの会社が面白いと思ったかというと、彼らが外客向け情報発信メディアを自分たちの手で作るのではなく、現地メディアの編集者や記者に作らせるというスタイルを取っていることです。

一般に日本で発行される外客向けフリーペーパーは、日本人が作ってそれを翻訳する場合が多いようです。もともと日本の情報誌などを編集していた人たちが、同じ要領で取材し、デザインしているわけですが、実はこれが外国人に読まれないいちばんの理由といえます。なぜなら日本の編集者たちは、外客のニーズや嗜好をよく理解していないうえ、基本的に日本側のクライアントの広告に頼るビジネスモデルですから、読者不在の媒体が量産されてしまうという構造にあります。

インフィニティ・コミュニケーションズの女性担当者に話を聞いたのですが、彼女はその弊害をよく理解していました。同社のやり方はこうです。たとえば、台湾で発行されている情報誌やガイドブックの記者の来日時に、彼らの取材協力をしながら、日本のクライアントの広告をねじ込んでいく。記者側も取材経費の軽減につながる広告出稿は望むところです。しかし、クライアントに関わるページ以外は、自分たちの編集方針や取材の中身に日本側から口を出してもらいたくはない。

実は、これがいちばん重要なことなのです。海外の記者たちは、自分で見つけた日本の魅力的なスポットを自分なりの表現で自国の読者に紹介したいと考えるものです。その情熱こそが、読者を刺激し、誘客効果を生むのです。このやり方は、日本の旅行ガイドブックや雑誌などが海外取材する際の作法とまったく同じです。大事なのは、押しつけではなく、彼ら自身に発見させ、彼らの好む表現で自由に魅力を伝えさせること。日本側はそのお手伝いをするというスタンスに徹すること。それが賢いやり方なのです。

一口に東アジアといっても、観光客の特性は大きく違います。たとえば、中国と台湾でどのくらい違うかを理解するうえで、現地で発行されているガイドブックに表現されるコンテンツの比較は参考になります。

先日、北京の西単の新華書店で購入した2冊の旅行ガイドブックを紹介しましょう。一つは、台湾で発行されたガイドブックを中国の出版社がそのまま簡体字に変えただけの『东京攻略完全制覇』(2010年6月発行 人民郵電出版社)と、中国オリジナルの『东京好吃好玩真好买』(2011年10月発行 中国旅游出版社)です。
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左が『东京攻略完全制覇』(2010年6月発行 人民郵電出版社)で、右が『东京好吃好玩真好买』(2011年10月発行 中国旅游出版社)




表紙をひと目見ただけでも、台湾で作られたガイドブックは日本の媒体に限りなく近いことがわかると思います。さらに中身を見ると、その違いは歴然としています。お台場を紹介するページを見比べてみましょう。
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『东京攻略完全制覇』の紹介する物件数の豊富さや情報の細かさは、日本のガイドブックと比べても遜色ありません

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『东京好吃好玩真好买』は物件数も少ないうえ、解説の文章も写真のクオリティも残念のひとこと

両者の違いを見て何をお感じになったでしょうか。なにもぼくは中国のガイドブック編集者を貶めるためにこの2冊を比べてみせたのではありません。かつて台湾にも、中国と同じような時代があったはずです(それをいうなら、日本もそうでした)。

ここで読み取るべきなのは、東京という高度に発達した消費社会に対する両者の理解の深さの違いです。それはすなはち、両者の旅行者の成熟度の違いを意味しています。台湾からの観光客は地方から上京してきた日本人とさして変わらない感覚で東京を歩き、豊富な体験ができるのに対し、中国からの観光客の大半は、彼らのガイドブックに表現されているようなざっくりとした世界しか認知できていないということです。同じ東京にいても、見ている世界がまったく違うのです。そのタイムラグはおそらく20年以上はあるといえるでしょう。

であれば、台湾向けと中国本土向けの情報発信は、まったく中身を変えるべきなのです。そうしないとまったく相手に伝わらないからです。ところが、たいていの日本の中国語版フリーペーパーでは、繁体字版と簡体字版は文字こそ違っても、同じ内容になっています。

インフィニティ・コミュニケーションズの女性担当者はこう話してくれました。「中国客は基本団体ツアーですし、彼らに台湾や香港と同じような細かいガイドブック的な情報を発信しても意味がないので、いまは現地の高所得者向け雑誌に日本の自治体のイメージ広告を出稿することが多いです。それでも、最近中国側からカメラマンや記者を招聘するケースが増えています」。

同社では、単にインバウンド外客メディアの広告代理だけではなく、日本企業が現地に進出する際の現地媒体を使ったPR広告なども手がけているそうです。実は、そちらのほうがビジネスとして可能性が大きい気もします。いずれにせよ、現地メディアに直接アピールする取り組みはもっとあっていいと思います。
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by sanyo-kansatu | 2011-11-30 18:54 | “参与観察”日誌 | Comments(0)


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