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ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2011年 11月 12日

違法コピー侵害の訴えも黙殺(国際マンガサミット北京大会2011報告 その5)

「チャイナ大躍進」プレゼンテーション全開の中国側報告(それでも民間業者は課題を認識していましたが)に対して、他の東アジア参加国・地域の報告はどのようなものだったのでしょうか。

ひとことでいうと、同じ中華圏でも事情は本土とは大きく違う(本土以外はみんな共通の悩みがある)とういことでしょうか。

以下、各国・地域の現状報告を簡単にまとめてみます。

①韓国
デジタル化により紙媒体のマンガが衰退。海賊版問題でマンガ家の収入が激減。作家と読者の高齢化。創作意欲も減退。韓国政府も解決に向けて取り組み始めている。マンガとドラマのメディアミックスの可能性。マンガ批評と法整備(制度的保護)の必要性を強調。

②香港
マンガ書籍の売上減少。携帯マンガ導入後も、有料になるとアクセス減少。ペーパレスの時代、マンガをどう変革すべきか。

③台湾
台湾マンガにもヒーローが必要。「地球を救うのはいつも日本人ばかり」。台湾人キャラクターをどう生み出すか。貸しマンガ市場(50代以上の女性に人気)が流行する一方、若者が前よりマンガを読まなくなった。マンガ家はどうすれば食べていけるのか。

各国・地域ともマンガ市場がデジタル化の波を大きく受けていることがわかります。日本に比べると市場規模は小さいですが、基本的に日本と状況は共通しています。彼らが中国の報告者と違うのは、作品のあり方について言及していることでしょうか。

さて、いよいよ日本代表の里中満智子さんの報告です。里中さんはまず東日本大震災で日本の出版・印刷関係者が影響を受けたこと。しかし、いち早く復興に向けて取り組んできたことから話を始めました。そのうえで、マンガ業界にとって最も大きな問題は、違法コピー侵害であると主張します。

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演壇に立つ里中満智子さん

2010年2 月、『ワンピース』の違法コピーがネット上に現れたことを例にあげ、里中さんは次のように話しました。「現在もなお違法コピー問題は深刻な状況にある。各国のマンガ関係者は、目先の利益より読者の心を重視すべき。マンガ家の利益を侵害する違法コピー問題に対して出版社からの問い合わせに一切回答しないサイトもある。新しい企画、人材育成など、著作権が支えてきたマンガ文化を守ることこそ正しい社会のあり方です」

発表の場所が違法コピーの本場中国であっただけに、「社会の正しいあり方」という言葉をあえて使ったところに、ぼくは同じ日本人として胸のすくような思いがしましたが、あれれっ。会場はしらー……。里中さんのスピーチの後、その問題が再び取り上げられることはなかったのです。とりわけ中華圏の関係者には、違法コピー問題を討議する姿勢は見られませんでした。

翌日、たまたまホテルでお見かけした里中さんにお話を聞いたところ、「中国で開催されたフォーラムだからこそ、特に違法コピー問題は訴えたかった」と話されていました。ここが中国でさえなければ、もっともすぎるほどまっとうな主張なのに、意図してしらばくれているのか(中国側にすれば、そんなできもしないことを討議しても仕方がない、というのが本音だったでしょう)、暖簾に腕押しの会場に日本関係者のため息がこだましていたのでした。

いやはや、まったく……。ある別の日本関係者はこんなことも話していました。
「当初アニメフェアの会場を偽ディズニーで話題となった石景区遊園地で行うとの中国側の計画があり、日本側が慌ててやめさせた経緯もある。そんなことをしたら、笑いものになってしまうからです。今回のアニメフェアでも海賊版が売られているように、著作権侵害に対する中国側の意識の低さに呆れてしまう」。
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アニメフェア会場では、中国では版権を許可していない宮崎駿の簡体字版書籍(つまりは海賊版)が堂々と販売されていた。マズイという意識が希薄なことに呆れてしまう


里中さんの主張は、『ワンピース』の違法コピー問題の発生後、2010年4月に「週刊少年ジャンプ」の最新号と同社サイトに掲載された以下の文章の内容を踏襲するものといえます。

「読者の皆様にお願いです。ネット上にある不正コピーは、漫画文化、漫画家の権利、そして何より、漫画家の魂を深く傷つけるものです。それらすべて法に触れる行為であるということを、今一度、ご理解ください」

しかし、この話はそれほど単純ではありません。最近では雑誌の発売日より先にネット上にアップされる違法コピーも珍しくないというだけに、その深刻さははかり知れないものの、一方でネットのコピーがマンガ雑誌や単行本の売れゆきにPR効果があるという声もあります。また、すべての違法コピーを取り締まることは不可能である以上、打開策として新作をネットで発表するマンガ家も現れてきているといいます。これではまるで最初からネットで作品を発表するところからキャリアをスタートさせてきた人も多い中国のマンガ家の状況に似てきたというべきか。

日本のマンガ業界がつくり上げたスタンダードが大きく揺らぎ始めています。その流れを加速させているのが、中国をはじめとした新興国であることは間違いありません。

by sanyo-kansatu | 2011-11-12 10:26 | 中国の新人類「80后」世代


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