ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2013年 04月 27日

日本の1980年代を思い起こさせる中国のバックパッカーブーム

4月上旬、北京に行ってきました。
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最近、北京にはしゃれたブックカフェがいくつもあって、毎回書棚を覗きにいくのですが、今回発見したのは、沢木耕太郎の『深夜特急』の翻訳本です。ここ数年、「背包(バックパッカー)」ということばが若者文化を象徴するひとつのキーワードになっています。中国の若い世代は(もちろん、都市に生まれた恵まれた階層の若者たちだけの話なのでしょうが)ちょうど1980年代(『深夜特急』の刊行は1986年)の日本のような時代を過ごしていることがよくわかります。おもしろいですね。

昨年(2012年)の12月12日に中国で公開され、13億元超(約200億円)の大ヒットとなった爆笑ロードムービー「Lost in Thailand(人再囧途之泰囧)」のDVDを入手したので、帰国してから観ました。タイを舞台にした3人の男たちのドタバタコメディなんですが、この映画のヒットもまた中国のバックパッカーブームと大いに関係ありそうです。
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空港からホテルに向かう、北京と同じ超渋滞のタクシーの中で、運転手から日本語で話しかけられ、「No,I am Chinese」と主人公が英語で答えるシーンがあります。「これからは中国の時代だ」といわんばかりに気負っで見せるところが、いかにもいまっぽい感じです。数年前まで北京で制作されたこの手のコメディは、もうひとつさえない感じでしたが、かなり洗練されてきた気がします。漫才風のかけあいが秀逸で、けっこう笑えました(この作品、アメリカでも公開したけど、ウケなかったようですが)。

ひとつ思ったのは、日本のこの手の海外を舞台としたコメディの場合、主人公は現地の女の子との淡いロマンスを体験するのがお約束のように思いますが(主人公が現地の男の子と恋愛という逆パターンもあり。旅先で現地の人たちとの交流が描かれるのが日本人の好みなのでしょう)、この作品では舞台はタイでも、徹底して中国人だけで物語が進行していくところが、中国の作品らしい気がしました。いずれにせよ、今年の夏は、タイに中国人の若者があふれるに違いありません。

中国のバックパッカーブームの第一人者として有名なのが、『背包十年 我的职业是旅行(バックパッカー10年 僕の職業は旅)』という本の著者、小鵬さんです。彼はいまや旅のカリスマとして若者に人気です。
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彼は長崎県など、日本のいくつかの自治体に招聘され来日しています。人気ブロガーとして、日本で見たもの、体験したこと、食べたものなどを書いてもらうためです。通常の広告手法よりずっとPR効果があると考えられているのです。その内容は、彼のウエィボー(微博)http://blog.sina.com.cn/hepai で見ることができます。

さて、ブックカフェの書棚をさらに物色していくと、ロンリープラネットの中国版雑誌が定期刊行されていました。これは日本でもなかったことです。もちろん、ガイドブックシリーズのロンリープラネット中国語版も刊行されています。最初『孤独星球』って何のことだろうと思いました。いま中国の人たちは、世界中を見て回りたくてしょうがないようです。
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同じブックカフェに、日本のイラストレーターのたかぎなおこさんの『ひとりたび1年生(第一次一个人旅行)』が平積みで置かれていたのですが、帯にシリーズが100万部を突破したことが書かれていました。すごいですね。いまや中国で村上春樹の次に人気のある日本人作家は、たかぎなおこさんかもしれません。
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この本が売れた背景について、北京の児童出版社の女性編集者と話をしたことがあるのですが、都市で生まれたいまの中国の若者はほぼ全員ひとりっ子だからといいます。ひとりっ子の国、中国では“ひとり旅”が多くの若者の共感を呼ぶのだそうです。

この本の読者もそうでしょうが、最近は若い女性のバックパッカーも登場しているようです。昨年7月、やはり北京のブックカフェで中国版「女の子のひとり旅講座」とでもいうべき会合に偶然出くわしたことがあります。
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「独立女生旅行分享会」という集まりでした。大学を1年間休学して北欧をヒッチハイクしながらひとり旅した22歳の女性の書いた紀行本『我就是想停下来,看看这个世界 』の著者である陈宇欣さんと、自らも70リットルのザックを担いで旅するカルチャー雑誌『OUT』の女性編集者の座談会があったのですが、会場には154人の若い女性が集まっていました。時間がなかったので、じっくり彼女らの話を聞くことはできなかったのですが、その盛況ぶりに時代の変化を感じたものです。
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中国に行くと、かつて日本人が経験したことを数十年遅れで経験し始めたり、夢中になっていたりする若い世代の姿をよく見かけます。バックパッカーブームでいえば、1980年代当時世界にインターネットはなかったため、旅の体験談や情報の提供のあり方はいまとはずいぶん違いました。それでもなぜいまの中国の若者が世界に雄飛したいのかについては、当時を知るぼくはよく理解できます。今日の中国社会の閉塞感を知れば、無理もないと思いますし、そのひとつの突破口のようにバックパッカーの旅が考えられているだろうことも。実際、彼らの話を聞いていると、未熟でいたいけだった当時の自分を思い出して、照れくさいような気恥ずかしい気分にもなります。

当時の日本人と同じような若者がボリュームとしては相当数いるのが、いまの中国です。違う点は、当時の日本ではバックパッカーになるタイプの若者は特別な階層に属していたわけではなく、好景気に恵まれ、ひとつの趣味のジャンルとして時代を謳歌していたにすぎないのに対し、いまの中国ではそれなりの恵まれた階層に属していなければ実現できないことでしょう。国全体から見れば限られた層の話なのです。

それだけに、中国の新しい世代の選良たちを見ていると、彼らがバックパッカー経験を通じて、旧世代の自国中心的な歴史観に対する疑問や、異文化への敬意といった本来の意味での“国際標準”を身につけてくれるようになるといいのだが……などと先輩面して言いたくなります。余計なおせっかいなんでしょうけどね。
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by sanyo-kansatu | 2013-04-27 12:59 | “参与観察”日誌 | Comments(0)


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