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ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2013年 05月 17日

鴨緑江の源流は長白山南山麓の北朝鮮側にある

「中朝国境シリーズ」の第4弾です。さて、この写真はどこで撮ったものでしょうか。
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答えは、鴨緑江の源流近くです。長白山山麓を源流とし、中国と北朝鮮を隔て、吉林省長白鎮から遼寧省丹東をへて渤海にそそぐ鴨緑江。ここは、長白山に3つある中国側からの登山ルートのうち、「南坡(南坂)」の山門から車で天池を臨む山頂に向かって上る途中にあります。

この川幅わずか数メートルの急流は、中朝国境というわけです。道路脇の川の手前に中国側が設えた鉄条網が延々と張り巡らされています。中国が北朝鮮との国境に鉄条網を設えるようになったのは、北朝鮮が初めて核実験を行った2006年10月以降のことといわれます。鴨緑江の下流にある丹東新区や図們江の流域などに、いっせいに鉄条網が設えられたことはまだ記憶に新しいといえます。たいてい見せかけ程度の鉄条網で、脱北者も本気になればやすやすと乗り越えられそうなものですが、こんな山奥にまで鉄条網があったとは……。
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これが「南坡(南坂)」の山門です。長白山瀑布が有名な「北坡(北坂)」や2008年の長白山空港の開港で、ここ数年急ににぎやかになってきた「西坡(西坂)」に続き、2012年夏に本格的にオープンした登山ルートの玄関口です。
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地図をみるとわかるように、長白山の天池を北東から南西にかけて斜めに真っ二つに割るラインが中朝の国境線になっています。ところが、その先からは直角に折れ曲がるように南東に向けて国境線が伸びています。そして、そのラインが鴨緑江の源流近くとぶつかる地点から先は、そこが国境になっているのです。
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途中から急流は車道から離れていきます。その先に鴨緑江大峡谷があります。約1000年前の長白山の噴火によってできた大きな亀裂です。この先はもう中国側からは源流を捕捉できなくなります。本当の源流は長白山の南山麓の北朝鮮側にあるのです。
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山頂近くにある駐車場を降り、そこから登山道を数分上った先に、中国と北朝鮮の国境を示す「4号定界碑」があります。中国側は漢字で、北朝鮮側はハングルで書かれています。ここも中朝国境というわけです。「越境禁止」の看板があるのは、そこが北朝鮮領土であることもそうですが、その先はすぐに火口湖である天池に向かった崖っぷちになっていて危険だからです。
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本来であれば、ここから天池が眺められるのですが、その日(2012年7月2日)、山頂付近は深い霧で、天池を見ることはできませんでした。とても残念です。というのも、山の天気は変わりやすいといいますが、車で10分も下ると青空だったのですから。
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それにしても、天池を真っ二つに割るラインを中朝両国が国境線とした背景にはいろんな事情がありそうです。なぜなら、長白山(白頭山)を聖地とみなす民族的な心情は、明らかに北朝鮮の人たちのほうが強そうだからです。確かに、満州族にとっても長白山は特別な存在ではありますが、中国政府はこれまで満州族の民族的アイデンティティの高まりを抑えてきた張本人でもあるわけですし。

一般に、中国の人たちは「長白山の半分は中国が北朝鮮にあげたものだ」というような上から目線のもの言いを平気でします。朝鮮戦争で援軍を出したのは中国だからでしょう。援軍を出してやらなければ、白頭山の領有自体ありえなかっただろう、というわけです。

近年、長白山の観光開発が飛躍的なスピードで進んでいる背景には、「半分は北朝鮮にあげたとはいえ、長白山は本来中国のものだ」という東北工程的な史観の既成事実化があるように思います。

by sanyo-kansatu | 2013-05-17 10:42 | ボーダーツーリズム(国境観光)


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