ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2013年 09月 26日

タイ人客の誘致は食のプロモーションと連動させるべき(TITF報告その4)

8月中旬にバンコクで行われたタイのトラベルフェア(Thai International Travel Fair #13)で、日本からの出展団体で構成されるジャパンゾーンが盛況だったことを先日報告しましたが(→圧倒的なにぎわいを見せたジャパンゾーン。その理由は?(TITF報告その2))、その点について以前ぼくはこう書きました。

日本側がこれほど積極的だったのは、出展団体の多くが、昨年以降の中国に対する嫌厭感からにわかに進んだ日本経済の東南アジアシフトの機運と同調しているからだろうと。

ローカルブースに出展しているあるタイ在留邦人も、はっきりこう言います。「こんなに日本からの出展が増えたのは、中国問題にある。中国で痛い目に遭ったから、タイしかないというムードになったにすぎないのでは」。

日タイ関係を長く見てきた現地邦人たちは、今回のジャパンブース盛況の理由を意外に冷静に見ているのです。そして、彼はこう付け加えました。

「今後、日本の皆さんが期待するほどのタイの訪日旅行マーケットの爆発が起こるとは限らない。それは事前に了解しておいてほしいと思います」。

確かに、タイはここ数年、目覚ましい経済成長を遂げ、少なくともバンコクにいて巨大なショッピングモールに繰り出すタイ人たちの旺盛な消費力を目にしていると、この国に多くの海外旅行者が現れても、なんら不思議ではないとぼくは感じました。

実は、タイではこのところ政変や大洪水など、経済成長にブレーキをかける事態が頻発しました。それでも、現地関係者によると「タイの海外旅行市場は、2011年後半(10月末から12月前半)の大洪水の影響で12年度前半は落ち込みが見られましたが、後半は持ち直し、最終的に12年全体の統計では、タイ人の海外旅行者数は前年度比6%増の572万人」とのことです。

タイの海外旅行者数は、2012年時点で572万人という規模です(しかも、数では国境を接したマレーシアなど近隣国が上位を占めます)。そのうち、訪日したのは26万人。たとえば、同じ年の中国の海外出国者数は8300万人で、訪日は140万人です。確かに、インバウンドは市場規模がすべてではありません。むしろ市場の分散の必要こそが、昨年の教訓ですから。しかし、市場規模の違いは歴然としています。タイの人口は約6600万人ですが、広東省の人口だけで約9000万人いるのです。

その点について、別の在留邦人はこう指摘しています。「タイを訪れる日本人は1990年代に入り急増しましたが、2000年代に一時停滞しました。それでもここ数年また東南アジア経済の成長で持ち直し、だいたい年間120~30万人で落ち着いています。

つまり、渡航者数には頭打ちの時期があるのです。では、訪日タイ人数の落ち着きどころはどのくらいか? こればかりは誰にもわかりませんが、私はだいたい50万人くらいではないか、と考えています。根拠があるわけではないですが、タイの人口や経済規模からいって、そのくらいに見積もるのが妥当という考えです」

タイの訪日市場の伸び率は高いけれど、伸びしろには限りがあるのではないか。

昨年、中国で傷ついた日本人は、あらゆる面で好意的なムードと環境に恵まれたタイに来て癒された。実は、今回ぼく自身まったくそうでした。その気持ちはわかるけど、ムードだけで押し寄せても、どれだけの成果を得られるか、冷静に検討する必要があるだろう、という現地の声もあるのです。

タイで富裕層向け訪日旅行のフリーペーパー『The Cue Japan』を発行するO2 Asia Travel Design Co.,Ltd.の吉川歩代表取締役社長は、こう分析しています。
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The Cue Japan
https://www.facebook.com/pages/The-Cue-Japan/232035476859567

「タイの訪日旅行市場の規模を推定するポイントは2つあります。まず、すでにいるリピーターがあと何回日本に来てくれるか? そして、初めて来日するタイ人旅行者があとどれだけ残っているか?」

我々日本サイドが新しく“発見”したと思っていたタイという優良な訪日旅行市場も、現地の感覚ではすでにかなり成熟しているというのです。こうした現地サイドの客観認識をふまえ、これからタイ市場に対して何をすべきなのか。吉川さんはこう提言します。

「まず大事なのは、リピートできる都市を増やすことでしょう。現在、東京、大阪、札幌などがそれに当たると思いますが、もっと候補がないとリピーターを増やすことはできません。では、タイ人が1回しか訪れてくれない都市と何度もリピートしてくれる都市との違いは何か。それは食にあると思います」

タイ人の日本食好きについては、本ブログでも何度か紹介してきましたが(→タイ人はイチゴが大好き!? 旅行作家・下川裕治さんが語る「タイ人客はドーンと受け入れてあげるといい」)、やはり誘致のカギは食にあるというのです。吉川さんは言います。

「タイ人の訪日誘致は観光だけでは十分ではないと思います。地元の食の魅力を打ち出すことが、知名度を上げることにつながります。おいしいものを食べてみたいという動機だけで、その土地に訪れたいと思うのが、タイ人です。もっとそれぞれの地域が地元の食を強くアピールすべきでしょう。

そのためには、今回のトラベルフェアのような場でも、観光PRだけでなく、食のプロモーションと連動させるべきではないでしょうか」

なるほどと思いました。お祭りのようなタイのトラベルフェアですから、きまじめに「観光」PRだけに徹する必要はないのです。

実は、『DACO』(http:www.daco.co.th)という日本人の発行するタイ人向け情報誌の8月号に茨城県の食の物産展の広告が載っていました。そこには、いかにもタイ人が好きそうなイチゴやメロンなどのフルーツや地元食品が写真入りで紹介されていました。
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バンコクではこうした日本の自治体の物産展がよくあるそうですが、残念ながら同県はTITFには出展していませんでした。

つまり、吉川さんは、こうした食の物産展と観光誘致を連動させることが知名度を上げることにつながる。それがタイの訪日旅行市場の開拓にとって重要だと言っているのです。これはすべての国で当てはまる手法ではないかもしれませんが、少なくともタイでは有効なのです。

ところで、話は変わりますが、今回JNTOバンコク事務所がまとめた「TITF速報」には以下のような文面がありました。

・ 開催期間中、VJブースは常に来訪者で賑わっている状況であったが、他国NTOブースは閑散とした状況であり、訪日旅行の人気ぶりが顕著であった。

なかでも中国ブースの閑散とした状況は、たまたま隣にジャパンゾーンがあったことからも、その対照的な光景が印象に残りました。なぜだったのか。これにはいろいろ理由が考えられます。
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まず8月のTITFは2月に比べ、サブ的なイベントであることから、中国側のモチベーションは最初から低かったのかもしれません。いくつかの省ごとに机を並べただけの簡素な出展ブースにパンフレットを置くだけではPRにつながらないことは、最初から彼らもわかっていたことでしょう。午後になると、接客するスタッフすらいなくなっていたほどでした。

実は、先日東京ビッグサイトで開催されたJATA旅博でも、中国ブースでは同様の光景が見られました。「日本からの中国ツアー8割減」というニュースが伝えられる中、商機がないと悟ると、さっさと現場を立ち去る姿は、いかにも「中国人」らしいというべきなのか?

ただし、こんな事情もあるかもしれません。今年、タイを訪れる中国人観光客は過去最高になり、日本人客をはるかにしのいでいます。いまの中国の旅行業界はインバウンドよりもアウトバウンドに関心があるようです。国家旅游局の予算の配分にも影響があるのかも。

それからもうひとつ。日本より数の上では多くのタイ人客が訪れている韓国は、今回のTITFに出展すらしていませんでした(来年2月は出展するでしょうけれど)。今回のTITFにおいてジャパンゾーンが盛況だったことも、競合国のこうしたドライな対応を差し引いて考える必要があるのかもしれません。
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by sanyo-kansatu | 2013-09-26 12:40 | “参与観察”日誌 | Comments(0)


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