ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2013年 11月 06日

台湾でいまホットな話題は「シニア旅行」と「自由旅行」(台北ITF報告その6)

海外の旅行博で面白いのが「論壇(フォーラム)」です。そこで議論されるテーマや話題は、その国の旅行市場を理解するのに役立つ多くの示唆を与えてくれるからです。登壇してくる企業関係者やトレンドを代表する人物らがどんな発言をするかを通して、現在の市況はもちろん、今後のマーケットの見通しがそれなりにうかがえるからです。
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フォーラムは最終日の21日(月)にありました。テーマはふたつ。「シニア旅行」と「自由旅行」でした。これがいまの台湾の旅行関係者や消費者にとって最も関心の高い話題だというわけです。ちなみに、今年4月北京で開催された中国出境旅游交易会2013のフォーラムの主要なテーマも同じ「自由旅行」でしたが、議論の内容は少し違うものでした(→「世界一になったのに、なぜビザ緩和が進まないのか~中国の不満とその言い分(COTTM2013報告 その4)」)。

台北国際旅行博 旅游論壇(登壇者のPW資料をダウンロードできます)
http://www.taipeiitf.org.tw/Content/article2.aspx?Lang=1&SNO=02000042&TT=1

まず午前中に行われた「シニア旅行」に関するフォーラムから紹介しましょう。登壇者は以下のとおりです。
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司会進行:蘇成田(台湾国際旅行博主任委員)
基調コメント:Dr.Chuck Y.Gee(ハワイ大学ホテル管理学院名誉院長)
コメンテーター:沈方正(ホテルロイヤルグループ・ジェネラルマネジャー)、黄信川(雄獅旅行社総経理)、有村青子(指宿シーサイドホテルおかみ)

冒頭で、司会進行役の蘇成田ITF委員から、台湾のシルバー人口の増加に関する簡単な報告がありました。台湾でもシルバー世代の人口がふくらんでおり(2013年現在、11.3%)、2020年には65歳以上の人口が15%を超えるそうです。先進国で最も高齢化率の高い日本(2020年は25%超)に比べると台湾はまだ低いといえますが、現在の出生率は日本より低いため、40年代には日本とほぼ並び、30%を超えるといいます。

その一方、シルバー世代は時間とお金があり、旅行意欲は高い。だが、台湾ではまだシニア向けと若者向けの旅行商品は未分化で、今後は業界としていかにシルバー世代のニーズに対応するかが課題というわけです。こうした議論は、日本では1990年代から盛んに行われてきたものです。
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Chuck Y.Gee教授の基調コメントのタイトルは「The 21st Century Wave of Tourism :Surfing the Silver Tunami(21世紀のツーリズムの波:シルバー世代の“つなみ”を乗り越える」でした。教授は豊富な資料を駆使しつつ、今日のシルバー旅行について、以下のポイントを指摘します。
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①21世紀の高齢化の波は、台湾ではもちろん、世界中で起きている未曾有の経験であること。
②シルバー世代には時間はあるが、「なぜこんなに時計の針が早く進むのか」とも感じていること。現在のシルバー世代は「沈黙の世代(~1945年生まれ)」と「ベビーブーマー(1946~64年生まれ)に分けられ、前者が保守的であるのに対し、後者がこれまでのシニア像とは異なる新しいアクティブな世代であり、当然求められる旅のスタイルも異なること。
③シルバー世代の旅行にとって大切なのは金銭的問題とは別のハードやソフトの面にあること。旅行に求めるものも、単なるレジャーではなく、知的な好奇心や人とのコミュニケーションに重きを置くこと。

余談ですが、教授のなめらかな英語によるスピーチは、当初の25分という予定時間を1時間以上もオーバーしてしまいました。どうやら教授は自分の持ち時間を間違えておられたようで、スタッフが慌てて何度もその点をご本人に伝えたものの、ほとんど意に介せず、さながらハワイ大学の教室にいるかのような余裕綽々とした調子で講義を乗り切られたのでした。しかし、会場の誰もがそれを微苦笑しながら受けとめたのです。こういうのが、台湾ならではのおおらかさなんでしょうか。

おかげで、残りのコメンテーターたちは、すでにフォーラムの予定時刻を終了したところから、自分たちの話を始めなければなりませんでした。以後の登壇者のコメントについては、以下簡単に紹介します。

まずホテルロイヤルグループの沈方正ジェネラルマネジャーは、シルバー世代の旅の特質として、向学心や「有時間(時間のゆとりがあること)」「喜歓参興(参加すること)」とともに「好悪分明(好き嫌いがはっきりしていること)」などを挙げ、旅行業界は「需要傾聴(何を求められているか聞く姿勢が必要)」、とりわけ「需注意環境」「需注意個人身体状況」、すなはち個人によって異なるシルバー世代の体調に配慮したハード面の整備を進める必要があるといいます。そのうえで、バリアフリーの進んだ日本のホテルの事例を細かい写真を見せながら、台湾も学ぶべきだと指摘します。

台湾の旅行大手である雄獅旅行社の黄信川総経理は、台湾の年代別国内旅行の比較をしながら、シルバー世代は平日の旅行比率が高いことから、週末に偏りがちな宿泊旅行の分散化を図るうえで、大切な顧客と指摘します。いかにシルバー族の夢をかなえるかに貢献できるか、いくつかの事例を紹介しています(詳しくは上記サイトからPW資料をダウンロードしてください)。
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最後に登壇した指宿シーサイドホテルの有村青子さんは、シルバー世代に対する真心のこもった接待について語りましたが、会場からの大きな拍手が印象的でした。同じ日本人からすると、おかみは特別な話は何もしていないように思えるのですが、聴衆の多くは感心しながら聴いているようでした。台湾の人たちは、日本人の仕事に対する思いやまじめさをまっすぐ受けとめてくれるのだということをあらためて実感しました。
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結局午前中のフォーラムは13時に終わりました。一般にアジアの新興国の旅行者は若い世代が主役と思われがちですが、台湾のような成熟した市場が相手の場合、シルバー世代の訪日客に対するケアを配慮する必要があると思いました。また今回台北からの帰国が早朝便だったのですが、桃園空港の出発ロビーにシルバー世代のツアーグループがあふれかえっていたのが印象に残りました。

さて、午後2時からのテーマは「自由旅行のトレンドにいかに対応するか(How to respond to FIT trends)」。登壇者は以下のとおりです。
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司会進行:劉喜臨(台湾政府交通部観光局副局長)
基調コメント:何勇(中国C-Trip副総経理)
コメンテーター:平林朗(HIS代表取締役社長)、王春寶(台湾休閒農業発展協会顧問)、Cindy Tan(トリップアドバイザーアジア太平洋地区副総裁)

まず司会進行役の劉喜臨副局長から、自由旅行(FIT)は「バックパッカー」「家族旅行」「上班族(サラリーマン)」という3つの消費者像に分類されること。訪台市場のトップスリーが中国(35%)、日本(20%)、香港(14%)で、これから台湾も海外からのFIT客の受け入れ態勢を進めるべきだといい、コメンテーターにつなぎます。
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それを受けた基調コメントは、中国のネット旅行会社最大手C-Tripの何勇副総裁による「(中国の)自由旅行市場の展望」でした。何勇副総裁は「弊社では10年前からFITに関わってきた」と冒頭で語り、2003年同社で航空券+ホテルのいわゆるスケルトン型ツアーを利用した旅客数はわずか40名だったものの、10年後には100万人に達したといいます。その伸び率は毎年40%超で、同社の取り扱いはすでに85%がFITだそうです(ここでいう「FIT」はどうやら団体パッケージツアーに参加しない顧客すべてを指すようです)。今後中国でもFITのシェアは高まるだろうと指摘します。
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そして、中国のFITの旅行特性や志向性について解説が続きます。たとえば、「10大自由旅行出境地(海外目的地)」として、香港・マカオ、タイ、韓国、日本、モルジブ、インドネシア、シンガポール、カンボジア、マレーシア、アメリカ、フィリピンが挙げられます。また世代的には、25歳から45歳までが全体の70%を占めること(とりわけ30代前半に集中)、旅行期間の平均は4~5日と短いこと、男女比率では男性45%女性55%と女性が大きいこと(ただし、用意されたPW資料では逆になっていて、これは間違いだそうです)などを紹介しています。

同社では、ネット旅行会社の強みを活かしたFIT向けのさまざまな旅行サービスを開発中とのこと。テレビCMを打つよりはるかにSNSをはじめとしたネットによる情報やサービスの提供が効果的だといいます。また、同社では海外に営業店舗を出すのは人件費などのコストがかかるので、今後もITの技術力の活かしたサービス提供に注力するそうです。もちろん、C-Tripはネット専業ですから、日本の楽天トラベルと同様、「店舗より技術力」という発想になるのは当然なのでしょう(ただし、楽天トラベルはここ数年アジアを中心に海外営業拠点を増やしています)。

興味深いのは、次に登壇するHISの平林朗社長のコメントが何勇副総裁とはいかにも対照的だったことです。平林社長は、1980年に創業された同社のFIT向けの取り組みの歴史を紹介しながら、現在では海外157拠点の営業所(国内は280店舗)を持つこと。FIT向けには店舗をベースとしたコンサルティングや顧客ケアが重要で、今後は海外営業所同士の取引など、さらなるグローバル化を進めていくと話したからです。創業から歴史の浅いC-Tripが現状では海外に営業拠点をつくる余力がないことは確かでしょうが、そもそもその必要を感じていないと思われるところが、同じFIT市場への取り組みを語る場合でも、日中のビジネスに対する考え方の違いがこれほど鮮明に表れるところが面白いです。
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台湾休閒農業発展協会の王春寶顧問は、台湾と香港間の自由旅行の現状について報告しました。ここで面白かったのは、香港から台湾へのアグリツアー(農業観光:農業体験を目的とした旅行)が盛んになっていることです。実際、ITFの会場にもアグリツアーの大きなブースがありました。その顧客は台湾の国内客だけでなく、香港の旅行者も含まれるというわけです。あの狭い空間に高層ビルの林立する香港の人たちが自然に接する機会を尋常でなく求めているであろうことは容易に想像できますが、そのひとつの受け皿として台湾のアグリツアーがあることは、今後香港からの訪日客へのプロモーションや受け入れにも参考になる点が多いように思いました。日本は確かにアジアの最先端カルチャーの発信地なのでしょうが、それだけではないということでしょう。

最後の登壇者が、ホテルやレストラン、観光スポットなどの口コミをまとめたサイトを運営するトリップアドバイザーのCindy Tanアジア太平洋地区副総裁です。同サイトは他の類似サイトの追随を許していないことから、世界のFITの支持を勝ち得ています。実際、副総裁によると、年間書き込まれる1億件のコメントのうち、51%はホテルに関するものだといいます。膨大な口コミ情報をフィードバックできることが、同社のホテル業界に対するマーケティング・ビジネスを支えているようです。そして、「(FIT市場にとって重要なのは)割引ではなく価値だ」と、いかにも同社の関係者が言いそうだなと思われるすましたコメントを残しています。
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ちなみにトリップアドバイザーについては、以下のネット記事が参考になります。
http://wired.jp/2013/05/30/tripadvisor-ceo-interview/

フォーラムの登壇者たちのコメントを聞きながら、日本ではもうことさらFITの存在を強調して「自由旅行」について議論する時代ではないのですが(日本では、FITかパッケージツアー利用かというのは、消費者が目的によって好きに選べばいいというだけの話です)、いまの台湾や中国本土では「自由旅行」がホットな話題となっていることをあらためて感じました。

FIT化が進むと、パッケージツアーを造成してきた従来型の旅行会社の利益が減ることを懸念する業界からの問題提起(これはかつての日本、現在の中国本土で起きています)が出てくるものですが、今回のフォーラムではそうした議論はないようでした。すでに台湾ではエアライン主導のスケルトン型の安いツアーが多く出回っており、日本と同様もう決着のついた話なのかもしれません。
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by sanyo-kansatu | 2013-11-06 10:07 | “参与観察”日誌 | Comments(0)


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