ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2014年 02月 09日

東京オリンピックとインバウンド、期待と懸念

東京オリンピックの開催が決まり、訪日外国人旅行市場(インバウンド)の行方に関心を寄せる人たちの期待感が盛り上がっています。

「業界『五輪特需』期待」(毎日新聞2013年9月10日)では、「2020年の夏季五輪開催が東京に決まり、産業界は『五輪特需』に大きな期待を寄せる。競技施設建設や交通網充実などのインフラ需要に加え、外国人観光客増加も見込めるからだ。また、選手村が建設される東京湾岸エリアは開発ブームが加速する期待もある」と報じています。

同紙は、「東京五輪開催による主な業界の経済効果」として、以下のSMBC日興証券の推計値を挙げています。

■東京五輪開催による主な業界の経済効果

サービス産業(宿泊、観光、外食など) 7667億円
食料品 4968億円
建設業 3106億円
繊維製品 2958億円
電気機器(家電、メーカーなど) 1392億円
小売業 663億円
不動産業 629億円
(SMBC日興証券の資料による)

そのうち効果が大きいと見込まれる「建設・不動産」「観光・宿泊」「スポーツ用品」の3業界を取り上げたうえ、「観光・宿泊」産業について、「五輪開催時に観戦ツアーなどで訪日外国人が大幅に増えるのは確実で、観光業界では『最大のチャンス』(プリンスホテル)と早くも顧客獲得作戦を練り始めている」と報じています。

月刊レジャー産業2014年1月号では、特集「東京オリンピックへの期待―成熟社会における『インフラ開発』『インバウンド』戦略のあり方」を組み、同誌が扱う2つの関連業界の今後について、特集リードの中で以下のように述べています。長いですが、よく整理されていると思うので、書き出します。
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月刊レジャー産業
http://www.sogo-unicom.co.jp/leisure/

「2014年が幕を開けた。

いよいよ、6年後の東京オリンピック・パラリンピックに向けたさまざまなプロジェクトが動き出す。

オリンピックスタジアムとして、開・閉会式や陸上競技などの会場となる国立霞ヶ丘競技場(国立競技場)の改修計画が議論を呼び、さらには猪瀬直樹・東京都知事の疑惑が勃発したことで2月に予定される組織委員会立ち上げに混乱が見られるなど、一部に懸念もあるが、官民あげた準備の動きは徐々に活発化していくだろう。

2020年7~8月にかけて17日間開催されるオリンピックと、8~9月にかけて13日間開催されるパラリンピックは、期間中はもとより、準備期間においえてもその社会的・経済的な効果が期待されている。このうち、数量化が可能な経済効果は約3兆円を見込む。競技施設をはじめインフラ整備に関わる建設・不動産や、対人接客に直接的にかかわる観光・飲食・セキュリティなど各種サービス業などを中心に、期待をかける事業者は多い。

ただ、忘れてはならないのは、『成熟社会』日本・『成熟都市』東京において開催することの意義である。

そこで本特殊では、東京オリンピック・パラリンピック開催に伴う効果を踏まえ、特に、『インフラ開発』と『インバウンド』の拡大を切り口に成熟社会で開催される世界的イベントへの取り組みについて探ることとした。

『インフラ開発』については、厳しい財政事情が続くなか、国や地方自治体、民間事業者が密接な連携を図ることで、民間の自由なアイデア・知恵・技術・資金などを活用したPPP(Public Private partnership)導入の可能性を模索していくことが求められる。東京は招致に際して、基金として約4000億円を積み上げている点を強調し、盤石な財政基盤が評価されたことは確かである。しかし、開催に伴う関連施設や道路などのインフラ整備は、都内にとどまらず首都圏を中心に活発化していくことが見込まれるうえ、老朽化し、更新時期を迎えたインフラの再構築も全国的に喫緊の課題であり、PPPの必要性は高まっているといえる。

一方、日本が世界各国に比べ立ち遅れている外国人旅行客の誘致=インバウンド拡大については、東京オリンピックを飛躍に向けた大きなチャンスにしたい。都内をはじめ首都圏でのホテルの新設、改修はすでに動き出し、旅行・小売業者も受け入れ体制の拡充を進めているが、多言語対応や決済システムの整備といったソフト面を中心に、そのほかの観光・レジャー・サービス事業者の対応強化も急がれる。インバウンドが拡大することで、ビジネスも含めた人的交流も活性化し、さらに魅力ある国際都市へと成長できるはずである。

東京の、そして日本の潜在力を引き出す大きなチャンスを得たことを肝に銘じ、観光政策を担う行政と、最前線でサービス提供にあたる民間事業者が一体となった取り組みが推進されることを期待したい」。

まったくおっしゃるとおりで…という内容ですが、同誌の挙げる「インフラ開発」と「インバウンド拡大」に対する関心の大きさを、報道の扱いで比べる限り、前者のほうが高い気がします。経済規模が明らかに違うだけでなく、ハコモノづくりのほうが話がわかりやすいからでしょうけれど。

「20年五輪、東京決定 羽田・成田発着を拡大 インフラ整備前倒し 鉄道・高速道路も」(日本経済新聞2013年9月10日)では、「首都圏の交通インフラの整備」を取り上げ、「羽田と成田の両空港で発着できる便数を増やすため、航空機の東京都内の上空飛行を解禁したり、滑走路を増設したりする案が浮上。政府は高速道路の整備や更新も急ぐ。訪日外国人の急増や経済活動の盛り上がりを見据え、東京の国際都市としての地位向上にもつなげる考え」と報じています。

目玉は「羽田の滑走路増設や成田と羽田を結ぶ『都心直結線』の整備」。特に後者は「東京・丸の内地区の地下に新東京駅をつくって両空港をつなぎ、空港までの時間を大幅に短縮する計画」で、これができると「東京から羽田まで平均30分前後かかるのが18分に、成田には55分程度かかるのが36分に短縮する」といいます。

さらに、「東京湾岸 カジノ構想再燃」(産経新聞2013年10月8日)では、「観光客を呼び込み大きな経済効果があるとされるカジノ構想が熱を帯びてきている」と報じています。

同紙は、報道当時の猪瀬都知事が提言した「カジノのメリット」として以下の4点を紹介しています。

■猪瀬都知事の考えるカジノ合法化によるメリット

①レジャーを含む産業が増え、課税ベースが拡大
②非合法カジノによるブラックマーケットを防止
③地方の独自財源の創出
④公営ギャンブルの収支の使途の見直し

「複合観光施設 どう整備 カジノ中核 国に管理委 超党派で新法案提出へ」
(日本経済新聞2013年10月21日)でも、「カジノを中核」とした「複合観光施設(Integrated Resort=IR)」を推進する動きが活発になっていることを報じています。

IRとは、「会議場や展示会場、宿泊施設やカジノ、ショッピングモールなどを含む複合施設」のこと。「日本の展示会場の面積は米国や中国などに比べてかなり狭い。さまざまな施設を複合的に整備して観光客を呼び込み、雇用や税収の拡大につなげる考え」だといいます。

課題となっているのが、カジノの「負の側面」です。「賭博を禁じる刑法との関係だけでなく、犯罪の温床になるのではないか。未成年への悪影響はないのか、賭博依存症になる人が増えないかなどの懸念」があるのです。

そのため、超党派の国会議員連盟が提出するIR法も、「2段階で整備する方向だ。現在準備中のIR推進法案は、IRの位置付けや理念などが盛り込まれる予定。規制や監督、カジノ運営のより具体的な制度は、IR推進法案の施行後2年以内に制定するIR実施法で定める」(2013年6月、日本維新の会が提出した法案の場合)といいます。

「負の側面」の拡大を防ぐために、民間事業者と「反社会勢力とのつながりがないかなど厳しくチェック」し、「犯罪者や未成年者の入場を防ぐ仕組み」も導入。「賭博への依存症を防ぐための教育やカウンセリング」もアメリカの制度を手本に検討されています。

カジノ誘致の動きは、東京以外にも沖縄や大阪でも検討されているようです。

※その後、13年12月5日にカジノ解禁を含めた特定複合観光施設(IR)を整備するための法案が国会に提出されました。

カジノ法案:自民党など国会提出-1兆円市場実現に向け前進
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-MX6O616JIJX401.html

さて、こうして半世紀ぶりの東京オリンピック開催への期待が高まるなか、「五輪の効果は本当にいいことだけか」(日本経済新聞2013年9月28日)という観点も当然のことながら必要でしょう。

同紙によると、「2020年東京五輪までの経済効果は試算方法によって大きな幅がある」と指摘して、以下の試算を挙げています。

試算者/経済効果/ポイント
東京都(五輪招致委員会)/2兆9609億円/施設整備や運営費などの波及効果に絞って試算。雇用は15万人増
SMBC日興証券(牧野潤一さん)/4兆2000億円/建設、観光、飲食などが活性化。大企業経常利益を1986億円押し上げ
日本総合研究所(山田久さん)/6兆7780億~11兆7780億円/ロンドン五輪を参考に観光客数などを推定。雇用は40~70万人増
大和総研(熊谷亮丸さん)/10超円を超す可能性も/社会インフラ再構築や観光、消費者マインドの貢献なども見積もる
大和証券(木野内栄治さん)/150兆円/副次的な効果を含む。社会インフラ再構築55兆円と観光振興95兆円

ここまで開きがあると、まじめに聞く気が失せてしまいそうになりますが、東京都の五輪招致委員会がいう「堅めに見積もっても経済効果は3兆円」という数字の裏付けはこういうことだそうです。

「大会期間中の来場者は延べ約1千万人に達する見通しで、1日当たりで最大92万人が訪れる。海外からの観光客も大幅に増え、ホテルやレストランは混雑が続くとみられている」。さらに、「建設工事が増えると、鋼材やコンクリートの新たな需要が生まれる。鋼材を作るにも鉄鉱石や石炭、エネルギーが必要だ。外国人観光客にも土産用に日本製の家電製品が売れるなどの効果が見込める。建設や製造、観光で働く人の所得が増えれば、それが再び国内消費に回る。それらをすべて足し合わせて」出したもの。

同紙では、「景気が良くなるのはいいが、その反動も大きくなる」と、過去8大会の開催国の成長率が五輪開催の翌年減速していることを指摘。1964年の東京五輪の後も「昭和40年不況」があったことから、「五輪特需で底上げされた景気を日本経済の“実力”と勘違いして投資を増やすと問題」ではないか、としています。「この際だから」というマインドがあだとなるというわけです。

開催まであと6年。この時期の金融関係者による盛りすぎ経済効果の話は、自己都合で言ってるようにしか見えませんけれど、開催後の落ち込みが必然と考えられる以上、ビフォーアフターを通じた一貫した理念や戦略が必要で、今後は「月刊レジャー産業」誌がいうように、「忘れてはならないのは、『成熟社会』日本・『成熟都市』東京において開催することの意義である」という指摘をどう具現化するかを考えていかなければならないのでしょう。
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by sanyo-kansatu | 2014-02-09 13:24 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)


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