ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2014年 03月 11日

インバウンドには戦争の影響が避けられない非情な面もある(時局と外客誘致策)

「今次の欧州戦乱が我がツーリスト事業の上に、現在如何なる程度迄影響を及ぼしつつあるかは、未だ正確なる調査材料を得ざるを以て、竝に数字的方面より明言し得ざるを遺憾とするも、本年八月(其後の分は未だ材料を得ず)中の渡来外客数を昨年の同月と比較するに、実に七百八十余人の減少を見る、之を以てしても其打撃の決して僅少ならざるは明らかなる事なり」(「時局と外客誘致策」ツーリスト10号)

ツーリスト10号(1914年12月)では、1914年7月に始まった第一次世界大戦の影響で、ヨーロッパ客を中心に訪日外客が減少したことをジャパンツーリストビューロー幹事の生野圑六はこう報告しています。

「(当時の外客数は)支那人を別とし、常に其最大多数を占むるものは米人にして、英人之に次ぎ、露独仏の順位にあり」「支那人を覗き、交戦国民数は其約六割強を占む。而して是等交戦国民中大部分の渡来は少なくとも時局の終結迄は、全然期待し得ざるものと認めざる可らず。是我がツーリスト業者に取り決して僅少ならざる打撃と謂ふ可し」。

日本がようやく外客誘致に着手したわずか2年後に起きたのが、第一次世界大戦でした。先人たちは、いきなり出鼻をくじかれることになったのです。なにしろ当時の欧米外客のうち6割強が大戦の舞台となったヨーロッパ客だったからです。

いまでこそ、「ツーリスト産業は平和産業」などと深く考えることもなく言っていますが、100年前の日本人はいやおうなく戦争とインバウンドの非情な関係について現実的に考えざるを得なかったといえます。

それゆえ、「時局と外客誘致策」なる以下の提言が出てくるわけです。生野はこう書きます。

「然りと雖、年々米国より欧羅巴へ旅行する漫遊者の数は実に大なるものにして、假りに其十分の一を誘致し得たりとするも、優に我が國に渡来する外客総数に幾倍するものある可し」「これ我がツーリスト業者の乗ず可き機会にして、此際此方面に意を注ぎ、専ら是等(米国の)漫遊客を羅致するに力を致さば、欧州方面に失ひたるものを米国方面に補ひ、獨り現時の不景気を挽回し得るのみならず、将来益々多数の米客を誘致するの動機を作り、依て以て更に対米関係を円満ならしめ、外交上に、通商上に多少の効果を齎すに至らば尚一段の精巧なる可し」。

「刻下の急務は戦乱の為に失へる欧州方面のツーリストを米国方面より回収し、尚進むで所詮禍轉じて福と為すの策を講ずるにあり」。

要するに、米国客に対して、ヨーロッパに代わる旅行先として日本を売り込むべし、という提言です。なんだか火事場泥棒的という気がしないではありませんが、これが当時の「外客誘致策」の中身でした。

生野は具体的に米国向けの誘致策をこう説明しています。

「この機会を利用し、第一、我が國に対する米人の注意を喚起する事、第二、今回の戦乱は我が國に於いて生活上其他何等の変化を来さざりし事、第三、吾國の風景事物及ホテル其他の設備を広告紹介する事等に努めざる可らず」。

とはいえ、当時の日本の外客誘致の考え方が今日のそれと著しく違っていたとはいえません。今日おいても国際関係の緊張が外客誘致に大きな影響を与えることは、近年の近隣諸国との関係悪化から私たちも理解するようになったはずです。

第一次世界大戦時、日本は戦争の当事者ではなかったがゆえに、調子よくふるまうことができたにすぎず、その後の歴史は、日本が当事者となることで外客誘致どころではなくなることを物語っています。

ツーリスト誌は、その後も「時局と外客誘致策」について、そのときどきの情勢をふまえ、多くの提言をしています。それについては、今後紹介しようと思います。
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by sanyo-kansatu | 2014-03-11 14:22 | 歴史から学ぶインバウンド | Comments(0)


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