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ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2014年 04月 29日

朝鮮国際旅行社創立60周年記パ-ティで語られたこと

2013年8月24日は、朝鮮国際旅行社の創立60周年にあたります。その日、平壌で海外の旅行業者らを集めた記念式典が行われました。
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出席者は北朝鮮観光に尽力したイギリス、イタリア、ドイツ、スペイン、アメリカ、ロシア、中国、台湾、日本などから訪れた旅行業者80数名です。

その日のスケジュールは以下のようなものでした。

午前9時 万寿台大記念碑を訪問、献花(金日成主席と金正日総書記の銅像あり)
       朝鮮軍が拿捕した米国スパイ船「プエブロ号」展示見学
       朝鮮革命博物館を見学 
昼食   玉流館で朝鮮冷麺の食事
午後2時 羊角島ホテルで「朝鮮観光の展望」レクチャー
   5時 高麗ホテルで記念パーティ
   8時 メーデースタジアムで大マスゲーム「アリラン」公演
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それぞれ面白かったのですが、ここでは羊角島ホテル会議場で開かれた国家観光総局主催のレクチャー「Tourism Policies and Prospective Plan of DPR Korea」を報告したいと思います。北朝鮮が今後、外客誘致をどのように進めるか、その展望が語られています。
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そのレクチャーは、朝鮮国際旅行社が制作したプロモーションビデオの放映から始まりました。長いのでその一部を紹介します。

朝鮮国際旅行社60周年記念式典プロモーションビデオの一部
http://youtu.be/gSH4C4zvnfQ

そして、観光総局の担当者のスピーチです。最初に1953年8月24日、朝鮮国際旅行社が創立された経緯について説明がありました。朝鮮戦争休戦後、国際機関の視察を受け入れる必要からだそうです。以後、「廃墟から国を建てなおす」ため、観光事業に取り組んできたといいます。当初は、ソ連や東ドイツなどの東側「友好国」の親善訪問などがメインだったようですが、1980年代半ば、政策を転換。87年に国家観光総局を立ち上げ、世界観光機関(World Tourism Organization)に加入。その年、日本人の一般観光客を初めて受け入れています。

現在、北朝鮮は平壌プラス6地域の観光特区化を目指しているそうです。6地域とは以下のとおりです。

●元山―金剛山

朝鮮を代表する名山、金剛山は東海岸の江原道にあります。1990年代半ばから韓国経由の国際観光が開放され、韓国人約200万人、その他外国人約2万人が訪れています。現在、韓国経由の入国は休止していますが、韓国資本の現代的なホテルや免税店、温泉施設などが残されており、北朝鮮でほとんど唯一の国際水準のリゾート地といえます。

元山は東海岸最大の港湾都市で、美しい海水浴場があります。平壌から車で約5時間。元山から金剛山までは約2時間半です。

この地区では、登山や温泉(泥風呂が有名)に加え、さまざまなビーチアクティビティが楽しめると説明されました。韓国客の受け入れをいつ再開するかについてはわかりませんが、韓国が投資した金剛山の観光インフラがほとんど使われていないのだとしたら、残念なことです。また元山港には、あの万景峰号が停泊しており、咸鏡北道の羅先から中国東北三省や極東ロシアの観光客を乗せたクルーズ旅行も進めているようです。元山では空港を拡張し、国際会議ができるホテルも建設しているとのことです。

※今回、実際に金剛山を訪ねています。その模様は「2013年の金剛山観光はどうなっているのか?」参照。

●七宝山

七宝山は、朝鮮6大名山のひとつで、東海岸の咸鏡北道にあります。中国東北三省や極東ロシアに近いため、登山や海水浴客の誘致を進めています。戦前期に日本からの航路の玄関口としてにぎわった清津の再開発がいま始まっているそうです。

●白頭山

「朝鮮革命の聖山」とされる白頭山は、中朝国境にまたがる標高2750mの休火山で、「天池」と呼ばれるカルデラ湖の美しさは有名です。中国では「長白山」と呼ばれています。金日成将軍率いる朝鮮人民革命軍がこの一帯を拠点にしていたとされることからそう呼ばれているのですが、ふもとにはスキー場や温泉などもあります。

中国側と協力して山頂付近の国境を越えて両国を往来できれば、多くの登山客を呼び込むことが可能となるでしょう。中国側では、現代的な山岳リゾートホテルやスキー場の開発が急ピッチで進んでいることから、北朝鮮側もそれに乗じて観光客誘致に取り組みたいところでしょう。

●妙高山

朝鮮の4大名勝に数えられるのが、妙高山です。無数の滝や渓流の美しさで、登山客の誘致を進めようとしています。世界各国から金日成主席に届いた贈り物を展示しているという国際親善展覧館があります。

●南浦

平壌の西方、西海岸に面した港湾都市の南浦には、高句麗遺跡や温泉、ゴルフ場などがあります。紅葉の美しい九月山も有名です。

●開城

先ごろ、世界文化遺産に登録された高麗王朝の古都が開城です。古い街並みが残る民俗保存区域が有名です。朝鮮分断を象徴する板門店は、開城から東南約8㎞の場所にあります。せっかく世界遺産になったのですから、もっと積極的にアピールしていいと思います。
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要するに、平壌と上記6つの観光地区が北朝鮮観光のハイライトだというわけです。

ただし、それは日本人観光客受け入れが始まって間のない1990年当時と基本的に変わっていません。

それでもあえて特筆すべき点をあげるとすると、白頭山の国境観光を中国側と協働で進める展望があるらしいということでしょうか。確かに、カルデラ湖を真っ二つに分ける中朝国境の両サイドにイミグレーションを設け、観光客の往来を開放すれば、両国の名勝や観光スポットをめぐる国境観光が楽しめることから、年間20万人の登山客が見込めるだろうというのです。これ自体は面白い計画です。中断した金剛山の韓国客が延べ200万人に達したことからわかるように、北朝鮮にとって国境観光を活性化することは、外貨獲得の有効な手段といえるでしょう。
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ただし、中国吉林省延辺朝鮮自治州の関係者らによると、例の粛清騒動後の中朝関係の悪化もあり、すぐに進展するようには思えません。だいたいこの計画は数年前からすでに話題になっていたものですが、中朝国境に近い場所での北朝鮮の核実験もあり、ずっと動いていないのです。北朝鮮側は「いかなる国の協力も歓迎」とはいうものの、中国側からすると、朝鮮側のインフラ投資をするのは結局誰なのか。常に朝鮮側が他力本願に見えることでしょう。また近年、中国国内で不穏な動きが見られる少数民族問題にも影響を与えそうな国境観光をどこまで積極的に進めるべきか、ためらいがあるかもしれません。

朝日新聞2013年8月13日によると、韓国・平和自動車の朴相権社長が北朝鮮当局から得た情報として「北朝鮮が経済難を打開するため六つの地域で観光特区作りを進め、そのために軍が管理してきた三つの空港を民間の管理に移した」ことを明らかにしたそうです。「六つの地域」とは、白頭山や元山、七宝山などで、今回の記念式典でのレクチャーの内容と一致しています。

なかでも急ピッチで進めているのが元山地区だと同記事には書かれていましたが、昨年冬に完成した馬息嶺スキー場もその一部で、翌日、式典出席者一行は建設中の馬息嶺スキー場に視察に行きました。こうしたレジャー開発の動きは、確かに新しい領導による取り組みを感じさせるものですが、常に相反する事態が同時進行するのがこの国の姿といえます。本人たちがどんなに一生懸命でも、それでは対外的にその思いはなかなか伝わりません。

いずれにせよ、気長に事態を眺めていくほかなさそうです。今年7月に長白山を訪ねる計画があるので、現地の事情を見てこようと思っています。
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レクチャーが終わると、出席者はバスで高麗ホテルに戻り、レストランで食事会が開かれました。その後、マスゲームの観覧がありました。その話は別の機会に。

by sanyo-kansatu | 2014-04-29 20:34 | 朝鮮観光のしおり


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