2014年 05月 06日

沖縄県のインバウンドの“先進性”とは何か?

沖縄県が他の都道府県に比べ、いかにインバウンド力(訪日外客誘致力)において“先進性”が見られるか。いくつかの指標について考えてみました。

まず思いつくのは「外客の入込数・宿泊者数」や「消費額」といった量的な側面です。

たとえば、都道府県別の訪日外国人旅行市場を量的側面から比較する指標として、観光白書では、下記のようなデータを挙げ、動向をつかもうとしています。

①都道府県別の外国人延べ宿泊者数
②入国港(空港、港)別 外国人正規入国者数
③都道府県別の実観光入込客数・観光消費額

そのうち、①の最新統計は、以下の観光庁のサイトに載っています。

宿泊旅行統計調査(平成25年10月~12月、平成25年年間値(暫定値))
https://www.mlit.go.jp/common/001029997.pdf

このデータによると、2013年の「都道府県別の外国人延べ宿泊者数」のランキングは以下のとおりです。

1位 東京都 9,984,200
2位 大阪府 4,309,490
3位 北海道 3,050,300
4位 京都府 2,657,100
5位 千葉県 1,993,090
6位 沖縄県 1,363,120
7位 愛知県 1,148,700
8位 神奈川県 1,060,040
9位 福岡県 920,740
10位 静岡県 542,690

沖縄県は人口数や経済規模でみると国内では30位台に位置していますが、ここでは6位に入っています。大都市圏である東京都や大阪府、国際的にも観光地としてすでに定評のある京都府や北海道、成田空港やTDRのある千葉県に次ぐランキングであること。中部空港のある愛知県や福岡空港の福岡県、富士山のある静岡県より上位であることは、相対的にみて沖縄のインバウンド力が高いことを示していると思います。

また、過去3年間と比較した外国人延べ宿泊者数の伸び率(2013年)も、沖縄県は高い数字を示しています。たとえば、2012年度比でこそ、トップは長野県(82.9%増)で2位(74.5%増)でしたが、10年度比でみると196.2%増と断然トップです。つまり、過去3年間、沖縄はインバウンドに力を入れ、その結果が伸び率の上で最も反映されているといえます。

さらに興味深いのは、日本の利用客数の多い上位7空港(新千歳、羽田、成田、中部、関空、福岡、那覇)の国際線における外国人入国者数と日本人出国者の旅客数です。法務省の直近の統計によると、今年3月のデータは以下のとおりです。

       外国人入国者数 日本人出国者数 (2014年3月)
新千歳空港 40,800   13,738
羽田空港 121,128   244,456
成田空港 444,570   726,819
中部空港 54,198   139,873
関西空港253,763   317,624
福岡空港 74,301   81,677
那覇空港 41,382   6,919
総数    1,119,140   1,596,743

②入国港(空港、港)別 外国人正規入国者数(2014年3月)
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001118277

これを見ると、那覇空港の国際線外国人入国者数は6位です。特筆すべきは、利用者の85.7%が外国人(インバウンド客)という高い比率であることです。同じことは北海道にもいえますが、沖縄県の国際線誘致を促進している背景に、外国人入国者の増加があることがわかります。国内客の航空利用が伸び悩み、全国の大半の地方空港が赤字に苦しむなか、これほどうらやましい状況はないでしょう。

インバウンドの動向は「量」だけでなく、「質」も検討する必要があります。

たとえば、質的面からみると、こんな指標が考えられるでしょうか。

①コンテンツの強さ、多様さ
②国際的な認知度
③地元の観光産業の実力、経験値の高さ
④外客受け入れ態勢の充実度
⑤対外プロモーション手法の熟練度
⑥送客国・地域との交流の親密度(特に観光関係者同士の)

ここで一つひとつ上記のポイントを都道府県別に検討するのは難しいのでやめておきますが、本土復帰以来、「観光立県」として国内客を中心した観光誘致に力を入れてきた沖縄県のインバウンド振興に関する経験値の高さは他県と比べ一日の長があります。沖縄の観光関係者に聞くと、受け入れ態勢などまだ遅れていると正直に話すのが常ですが(実際、遅れている面も多々見られます)、それは他県の関係者に比べ、海外の競合地との比較において自らの弱点や相対的評価に対する理解が深いためでしょう。

実際のところ、沖縄県のコンペティター(競合地)は、東京や大阪ではなく、ハワイやグアム、バリやプーケットといった海外のビーチリゾートです。これらは沖縄県の東アジアにおける地勢的な位置付けや自然環境などによるものですが、それをどう活かしてインバウンドを発展させるか。その手法は当然、東京や大阪とは違ってきます。その独自のポジションに沖縄県の面白さがあります。

ところで、世界経済フォーラム(WEF)は、世界の観光分野の競争力を比較した報告書を毎年発行しています。2014年3月に発表された直近の報告書によれば、調査対象の140カ国・地域のうち、以下のとおり、トップはスイスですが、日本は14位となっています。

1位 スイス
2位 ドイツ
3位 オーストリア
4位 スペイン
5位 英国
6位 米国
7位 フランス
8位 カナダ
9位 スェーデン
10位 シンガポール
11位 オーストラリア
12位 ニュージーランド
13位 オランダ
14位 日本
15位 香港

The Travel & Tourism Competitiveness Index 2013 and 2011 comparison
http://www3.weforum.org/docs/TTCR/2013/TTCR_OverallRankings_2013.pdf

評価項目として3分野、14項目が挙げられますが、日本が比較的高い評価を得ているのは、「人的、文化的、自然の観光資源」(10位)で、「観光産業の規制体制」「観光産業の環境とインフラ」はともに24位。個別にみると、「陸上交通インフラ」(7位)や「情報通信インフラ」(7位)「文化資源」(11 位)などは評価が高いものの、「政策方針と規則」(36位)や「観光の優先度」(42位)「環境の持続性」(47位)「観光インフラ」(53位)などはいまいちで、とりわけ「観光との親和性」(77位)「観光業における価格競争力」(130位)はきわめて低く評価されていました。

A)T&T regulatory framework(観光産業の規制体制)
Policy rules and regulation(政策方針と規則)36位
Environmental sustainability(環境の持続性)47位
Safety and security(安全性)20位
Health and hygiene(健康と衛生)16位
Prioritization of Travel & Tourism(観光の優先度)42位

B) T&T business environment and infrastructure (観光産業の環境とインフラ)
Air transport infrastructure(航空インフラ)25位
Ground transport infrastructure(陸上交通インフラ)7位
Tourism infrastructure(観光インフラ)53位
ICT infrastructure(情報通信インフラ)7位
Price competitiveness in the T & T industry(観光産業における価格競争力)130位

C) T&T human, cultural, and natural resources(人的、文化的、自然の観光資源)
Human resources(人的資源)21位
Affinity for Travel & Tourism(観光との親和性)77位
Natural resources(自然資源)21位
Cultural resources(文化資源)11位
(※Climate Changeは指標外だが、要素のひとつではある)

The Travel & Tourism Competitiveness Report 2013(全文)
http://www3.weforum.org/docs/WEF_TT_Competitiveness_Report_2013.pdf

ここからうかがえるのは、日本の交通・通信インフラに見られる産業力や文化的な観光資源が高く評価されているのに対し、観光に対する政策面や社会の取り組みが評価されていないことでしょう。

「ものづくり大国」の旗印を掲げて経済成長した戦後の日本社会にとって、観光の「優先度」や「親和性」が低いのはある意味無理もないといえます。優先すべきものが他にあったからです。しかし、日本社会の観光力を高めていくことは、日本の「ものづくり」にとっても実は重要なことだと思います。今日「ものづくり」の担い手が新興国に移りつつあるなか、質の高い産業を国内に残しつつ、広く雇用を確保し、社会全体のバランスを見直すことは必要だからです。ヨーロッパ諸国の多くが観光政策に力を入れているのは、国家イメージのPRに観光ほど役立つものはなく、しかも雇用創出、とりわけ若年世代の雇用に大きく貢献するのが観光産業だと知っているからです。国際的にみて日本の観光は高いポテンシャルを有しながら、それをうまく活用できていないのは残念なことです。

インバウンド振興はグローバル化による外界の変化にいち早く気づくことから始まるという意味で、沖縄県が先んじていたのは、地勢的にも、歴史的にも、ある意味当然とはいえるのですが、そのノウハウから学べることは多いはずです。
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by sanyo-kansatu | 2014-05-06 22:23 | “参与観察”日誌 | Comments(0)


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