ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

inbound.exblog.jp
ブログトップ
2014年 06月 01日

クールな上海の消費者にアピールする方法をもっと考えるべき(上海WTF2014報告その5)

上海旅游博覧会(WTF 2014年5月9日~11日)には、2年ぶりに日本からの出展者もブースを並べていました。
b0235153_22264271.jpg

2012年9月に起きた尖閣諸島問題の影響で、同年11月に上海で開催されていた中国国際旅游交易会(CITM)と昨年5月のWTFへの出展を中国側から断られていたからです。あらゆる民間交流を政治と結びつけるのが常套手段の中国政府ですから、こうしたことが常に繰り返されるわけですが、先ごろ「民間交流と政治は分ける」との表明もあったばかり。その真意はともかく、こうしてようやく今回の出展に至ったといえます。

もっとも、中国の政治的リスクを嫌ってアセアン諸国へのシフトが強まるなか、日本の出展者数も、昨年の台北やバンコクの旅行博に比べると、かなり少なかったです。

日本からの主な出展者は以下のとおりです。

日本政府観光局(JNTO)
北海道観光振興機構
中部広域観光推進協議会
北陸国際観光テーマ地区推進協議会
瀬戸内海共同ブース(組織名不明)
埼玉県上海事務所
横浜市上海事務所
茨城県上海事務所
沖縄観光コンベンションビューロー
全日空上海支店
移動通信
東急グループ
小田急電鉄
名鉄観光
藤田観光
上海雅遊旅遊諮詢有限公司(ZEEWALK)

もしかしたら、漏れがあるかもしれません。日本からというより上海に事務所を置く企業や自治体が出展しているケースもけっこうあるからです。

いくつか目についた出展者に話を聞いたので、ざっと紹介しましょう。まず北海道観光振興機構から。
b0235153_22271087.jpg

2013年入域外国人数が100万人を初めて突破した北海道は、昨秋から戻ってきた中国客の誘致に今年は力を入れるとのこと。上海地区はFIT比率が高いので、リピーターのための細かい足の手段(JRパス、高速バス)の情報を提供しているそうです。
b0235153_2227373.jpg

中部広域観光推進協議会といえば「昇龍道」でしょう。同会の制作したチラシによると、「中部北陸地域の形は、能登半島の形が龍の頭の形に似ており、龍が昇っていく様子を思い起こさせることから『昇龍道』と名づけられました」とあります。
b0235153_22275433.jpg

ここでいう「昇龍道」には、石川、福井、富山、長野、岐阜、滋賀、愛知、三重、静岡の9つの県が名を連ねています。東京・大阪ゴールデンルートと北海道の次に来る「第三」の観光コースとして名乗りを挙げたということのようですが、ちょっと参加県が多すぎて、外国客からすると、イメージが拡散しすぎるきらいがあると思います。もっとコースを絞り込んで、伝えるべきではないでしょうか。いろいろあるよ、では外客には伝わりません。結局、どれがBESTなの? と聞かれるのがおちだからです。
b0235153_22283279.jpg

唯一知名度があるのが、高山黒部アルペンルートでしょう。はっきり言って、昇龍道のメインコンテンツはこれに尽きるといっていいいかもしれません。だとすれば、アルペンルートに絞ってアピールすればいいのですが、そうならないのが悲しいところです。そもそも外国客は単一県を目指して来日することは考えられないので、広域連携は不可欠なのですが、誰とどう連携するかにも戦略が必要です。今後の行方を見守るほかなさそうです。
b0235153_22284959.jpg

もうひとつの広域連携が瀬戸内4県と北九州市の共同ブースです。個性は違えどエーゲ海の魅力に匹敵する(少なくともぼくはそう思っています)瀬戸内海ですが、どうも中国四国の関係者は昔からアピール下手のように思えます。これではただ、うちの県のことを知ってくださいね、に終わっているように見えます。本筋でいえば、最も知名度の高い宮島で売れ、それを集客のメインの顔としていかに瀬戸内海のイメージづくりをしていくべきだと思うのですが、明確な戦略が見えません。単なる仲良し連合では宣伝効果は望めないのに。個別の県のPRも旅行博という場ではほとんど意味がありません。

自治体関係では、インバウンド振興において他県の追随を許さない経験値を持つ沖縄観光コンベンションビューローが入場客を引きつける手法も含め、突出していたと思います。
b0235153_22294336.jpg

東京都に隣接する埼玉県と茨城県、横浜市(ただしすべて上海事務所)も出展していました。このうち、茨城県は春秋航空の最初の日本でのフライト地ですが、上海客のほとんどは東京に直行し、茨城県をスルーしてしまうため、いかに地元で滞在してもらえるか、県のPRが目的でしょう。これがなかなか難しいようです。また埼玉県と横浜市の関係者に話を聞くと、それぞれ共通の悩みと目的を持っていました。ともに東京に隣接していながら、充分に地の利を活かせていないからです。逆に近すぎることで、宿泊地として選ばれることも難しく中途半端なのです。東京を起点になんとか足を延ばしてもらうためにはどうすればいいか、模索中のようです。
b0235153_22295922.jpg

民間企業としては、東急グループや小田急電鉄、名鉄観光、藤田観光などが出展していました。関係者の話をそれぞれポイントだけいえば、東急はいかに渋谷をアピールできるか。小田急は箱根に向かうFIT客をどれだけつかめるか。藤田観光は、ホテルの客室不足が取りざたされる現在、いかに外客の効率的な取り込みを図るかが課題のようでした。

いちばん驚いたのは、九州からの出展者がなかったことでした。これまで報告してきたように、いま上海の海外旅行市場におけるメイン商品はクルーズ旅行です。今年は多くのクルーズ船が福岡港を中心に九州各港に寄港することがわかっています。であれば、せめてクルーズの寄港地だけでもPRに来てもよかったのでは、と思わないではありません。しかし、尖閣問題後の中国の卑劣な仕打ちを受けた九州の関係者が、のこのこと上海に出てくる気にはなれないのかもしれません。そのあたりの事情は関係者に電話で話を聞いただけですが、日中関係はかくも難しく、せっかくどちらかが歩み寄ろうとしても意思のすれ違いが起きてしまうもののようです。

日本ブースの中で最もユニークな存在だったのが、上海雅遊旅遊諮詢有限公司(ZEEWALK)です。浴衣姿の上海の女の子がふたり、キャンペーンガールのようにいるのですが、ぼくも最初はどういう会社なのか、よくわかりませんでした。
b0235153_2230265.jpg

ブースにいたスタッフに聞くと、同社は上海にある日本の高級旅館のPR会社だそうです。北海道朝里川温泉の「小樽旅亭 藏群」、長野県昼神温泉の「石苔亭いしだ」、兵庫県宝塚温泉の「若水」、同じく塩田温泉の「夕やけこやけ」、岡山県湯原温泉の「八景」などと提携関係にあるようです。
b0235153_22304190.jpg

ところが、話を聞いていくうちに、同社のボスはぼくのよく知っている上海の友人であることがわかってきました。その人とは、上海スマートビジネスコンサルティングの総経理、張凌藺(愛称:りんりん)さんです。

上海スマートビジネスコンサルティングと張凌藺さんについて
http://shanghai-zine.com/topics/442

実は、彼女と知り合ったのはもう8年くらい前で、現在の会社を起業する前に東京に来た彼女を秋葉原に案内したこともありました。彼女の仕事のベースになっているのは、学生時代の日本のアニメ体験でした。彼女は、いわゆる「80后(80年代生まれ)」の代表的な中国人といってもいいかもしれません。以下の記事に登場してくれています。

上海の若者がアキバへ社会科見学~宿題は「なぜ中国でアニメの産業化が進まないか?」(NBOnline2008年5月20日)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20080516/157149/

さて、それはともかく、彼女はいまや企業家として、あるいはブロガーとして上海と日本を往復し、訪日旅行のプロモーションに貢献しています。そんな彼女が会場でぼくにこっそり話してくれた次のことばが、とても印象的でした。

「実は、この博覧会に入場してくる上海人のうち、うちの旅館を利用してくれるような客層はたぶん2割もいない。対象としているのは富裕層だからです。それでも今回ブースを出したのは、日本の関係者も含めて、我々の存在を知ってもらいたかったから」

今回出展した日本ブースの中に、彼女ほど市場を正確に理解し、鋭く的を得たコメントをしてくれた人物は、どれだけいたでしょうか…。
b0235153_22351370.jpg

最後に、日本政府観光局(JNTO)のブースを紹介しましょう。今回のWTFの特徴は販売色が強まったことです。そこで、JNTOのブースの中でも、上海の旅行会社に交替でブースの一部を貸して日本ツアー商品の販売を行っていました。
b0235153_22352922.jpg

なにしろJNTOの作成したパンフレットも、旅行会社のツアー商品の紹介が大部分を占めています。春秋旅行社は自社便を使った佐賀や高松を起点としたツアーなど、特徴的なものもいくつかありました。安さで勝負する旅行会社の販売ブースとは一味違う商品ラインナップが見られましたが、どれだけの入場者に気づいてもらえたか、そこが課題かもしれません。
b0235153_223554100.jpg

10年ぶりに視察した今回のWTFでいちばん感じたことは、すでに上海の消費者にとって旅行博というイベントはもうそれほど目新しくもなく、自分たちを夢中にさせてくれる体験を提供してくれるとは思われていないということです。ネットによる情報が行き交うなか、旅行博でなければ入手できないものはそれほどないと考えられているからでしょう。特に若い世代にとって。馬英九総統が開幕のあいさつに現れるという台湾の旅行博とは盛り上がりが違うのです。台北やバンコクでは旅行博はお祭りでしたが、上海ではそうでないようです。

ことほどさように、上海人というのはクールな消費者です。そんな彼らに効果的にアピールしていくには、それなりの知恵が必要となるでしょう。それが何なのか。もっと多くの関係者に話を聞いて見る必要があると思った次第です。
[PR]

by sanyo-kansatu | 2014-06-01 22:37 | “参与観察”日誌 | Comments(0)


<< なぜ世界は我々に対してこんなに...      上海のオープンエアバスに乗った... >>