2014年 06月 06日
この夏、関空への路線を大幅に拡大する春秋航空を有する春秋グループは、訪日旅行市場に対してどのような戦略を持っているのでしょうか。 上海WTF閉幕の翌日(5月12日)、春秋旅行社本社で日本出境部経理の唐志亮氏に話を聞くことができたので、以下報告します。 ―今回のWTFで御社は最大規模のブースを展開、多数のスタッフを会場に送り込み、即売にも力を入れていました。何をいちばん売りたかったのですか。 「会期中限定のキャンペーン料金を打ち出し、海外ツアーを販売するのが目的でした。販売コーナーの周囲には、クルーズや航空(春秋航空)、ビーチリゾート、自由旅行、都市観光バスなどのブースを個別に設え、プロモーションにも努めましたが、メインは販売です」 ―世界一周クルーズも販売していましたね。 「はい、これは上海で初めての商品です。来年5月の出航に向けて販売を始めています」 ―訪日旅行商品としてはどんなものがありますか。 「現在、春秋航空は上海から茨城、高松、佐賀、関空(2014年3月15日運航開始)と4つの日本路線があり、それらの都市を組み合わせたツアーです。これから夏にかけて、北海道やファミリー向けにUSJやTDRを付けた本州のツアーも、市場のニーズに合わせて販売します」 ―御社の特徴は旅行会社を母体に自前のエアラインを有していることですね。近年、吉祥航空など、中国のLCCが日本に就航していますが…。 「春秋グループが他社グループと違うのは、旅行会社と航空会社が並列の関係にあることです。一般にこの業界では、航空会社が旅行会社の上位にあり、路線開拓に合わせてツアーを造成するという主従関係にある場合が多いですが、弊社は母体が旅行会社でもあり、ともに協力しながら発展していくというのがビジネスモデルです。 ですから、春秋航空の路線計画はレジャー市場に合わせて展開されます。日本の航空会社が中国路線ではビジネス路線に注力しているのとは対照的です。もちろん、我々もビジネス客の動向も合わせて考えていますが、メインはレジャー市場です」 ―自前のエアラインを持つことで、他の旅行会社にはない、どんな新しい訪日ツアーが商品化されているのでしょうか。 「そうはいっても、お客様のニーズに合わせた商品造成が基本となりますから、東京・大阪のゴールデンルートがいちばん人気であることは、実は変わりません。そこで、弊社の場合は、関空や成田利用ではなく、春秋航空の乗り入れている高松や茨城を起点としたコースにしてゴールデンルートに新しい変化を加えたり、3月15日から就航している関空+X、それ(X)は九州(佐賀out)であり、中部であり、鳥取(2012年、同社は鳥取へのチャーター便を実現している)であり、四国であるといったさまざまな組み合わせが可能となります」 ―関空就航の意味は大きいですね。さらに、6月27日から春秋航空日本が国内線を運航します。 「はい、それ以後は国際線に加えて、成田―高松、佐賀、広島の国内線も組み合わせることができるようになります。またそれだけでなく、たとえば、佐賀inで福岡から他社便を利用し、人気の北海道に行くというツアーも考えています。実は、春秋航空は今後さらに新千歳や那覇など日本各地に就航する考えを持っています。 ―国際線と国内線を組み合わせると多彩なコースが考えられますね。これまで東京・大阪のゴールデンルート一辺倒だった中国人のツアーコースにさまざまなバリエーションが生まれていくことは、日本側からみると、訪問地の分散化につながるだけに、御社の取り組みに対する期待は大きいです。 「弊社は2012年5月、東日本大震災後、中国から初めて東北を訪ねる旅行業界関係者のツアーを実施しました。茨城線を利用したものです。同じ年の夏、鳥取へのチャーター便も運航しました。今後もチャーター便の計画はあります。 もっとも、これからは中国からの訪日だけでなく、日本からの訪中の双方向の交流を進めたいと考えています」 ―すでに日本に2つの法人を設立していますね。 「航空会社の春秋航空日本株式会社と、旅行会社の日本春秋旅行株式会社です。前者は日本の旅行大手のJTBの出資を得ていること、後者はすでにJATAから第1種旅行業を取得しています。日本から中国へのアウトバウンドもやりたいのです」 ―とはいえ、昨今の日中関係の悪化は気になるところですね。中国からの訪日客は増えていますが、日本からの訪中客は減少の一途をたどっています。 「確かに、政治的にはそうかもしれませんが、私には何とも言いようがありません。でも、はっきり言えるのは、日中間の民間交流は止まらないということです。弊社の役割は、そのためのベースづくりをすることだと考えています」 ―昨年11月、春秋航空の日本市場担当の孫振誠さんに話を聞いたのですが、日中間の観光交流の将来について、とても楽観していると話していたのが印象的でした。当時は確かに、尖閣問題以降減少した中国の訪日客が徐々に戻って来ていたのですが、本当にこのまま回復するのだろうか? と私は少々疑心暗鬼でした。でも、年が明けて孫さんのいうとおりになった。唐さんも同じことをおっしゃるんですね。 「もちろん、そのためにはさまざまな手を打たなければなりません。また就航地を増やしたからといって、すぐにツアーのバリエーションが増えるかというと、そんなに簡単ではない。新しいツアーコースの造成においても、東京や大阪は外せないと考えています。中国の消費者は、やはり日本に旅行に行く以上、東京や大阪には絶対行きたいのです。お客様のニーズがそうである以上、いきなり東京や大阪なしの新しいデスティネーションだけのツアーの造成は難しいと考えています。 佐賀線があるので、なんとか九州を売りたいと考えていますが、九州だけのツアーではまだなかなか売れない。そこで、佐賀inで春秋航空日本の国内線を利用して成田に飛び、東京に立ち寄り、茨城outとなるコースや、佐賀inで九州と中国地方を周遊し、関空outとなるコースなどを仕掛けたいと思います。ツアー企画を成功させるためのポイントは『人気の場所+新しいデスティネーション』の組み合わせなのです」 ―なるほど、明確な戦略を有しつつも、あくまで現実的な戦術をとるわけですね。 「もちろん、今後はFITも増えていきますから、着地型の商品(日本国内で造成される中国客向け商品)も作っていくことになると思います。JTBとの関係構築も、その布石となります」 唐志亮さんは1983年上海生まれの「80后」世代で、福岡、京都(大学)、東京(就職)と8年間日本で暮らしたそうです。春秋旅行社入社は2年半前。「まだまだ経験が足りませんが、日本の事情には通じているので、それを活かしたい」とのこと。上海人らしく、とても明快なビジネス戦略を言葉にしてくれました。 上海市の中山公園に近い春秋旅行社本社の1階カウンターには、上海の消費者が来店する姿が見られました。実は、こうした日本の旅行店舗と変わらぬ光景というのは、中国では珍しいことです。旅行商品のEC化がいち早く進んだ結果、旅行店舗でツアーを申し込むというのは、それほど一般的なことではないからです。 唐さんによると、同社は上海市内に約60の支店をもち、中国各省にも旅行店舗を展開しているそうです。今後は上海や北京以外の都市でも、海外旅行を取り扱っていくそうです。 そういう観点でみても、春秋旅行社は中国でも異色の存在といえます。唐さんのいう「お客さまへのフェイスtoフェイスの対応を大事にしたい」という考え方は、いまの中国ではあまり一般的ではないからです。 中国では旅行市場が成長する過程とネットの普及が同時期(2000年代)に起こったことから、確かに市場の規模は飛躍的に拡大したものの、“成熟”の質という面からみると、独りよがりなところがあったと思います。海外で取りざたされるマナー問題や奇態なショッピング行動などに見られるように、中国国内では許されるローカルな行動規範が悪評を買っていることに、なかなか気づきませんでした。もし、旅行店舗で販売スタッフから“フェイスtoフェイス”で海外事情について話を聞いたり、質問したりというプロセスを一定時期、経験していれば、ここまでひどいことにはならなかったかもしれません。 旅行店舗販売を重視するという春秋旅行社のあり方は、一見時代遅れのように見えて、実は中国の海外旅行市場が、本来通過しなければならなかったプロセスをきちんとふみ直すという意味で、とても意義があるように思います。利益の追求だけ考えれば、EC化が進むのは当然ですが、旅行というモノではない商品を扱う企業が原点を忘れてしまうと必ずしっぺ返しを食らうということを彼らは理解しているからでしょう。 ※この記事をアップした2時間後、ぼくの携帯に春秋航空日本の担当者からの電話がありました。6月27日の運航開始が延期になったというのです。その日の午後、記者会見がありました。あまりのタイミングに驚きましたが、日本のLCCは同社に限らず、苦難続きのようです。詳細は、あらためて書くつもりですが、以下のニュースがすでに配信されています。 春秋航空日本、8月に就航延期、高松線減便も-最大1万席に影響(トラベルビジョン)http://www.travelvision.jp/news-jpn/detail.php?id=61885
by sanyo-kansatu
| 2014-06-06 10:41
| “参与観察”日誌
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