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2014年 06月 14日

金剛山の魅力は奇鋒と渓谷、美しく青みを帯びた深潭の醸成する幽寂な景趣にある

昭和9(1934)年9月に刊行された「朝鮮旅行案内記」(朝鮮督府鉄道局)の内容から、金剛山に関する記述を検討したいと思います。もともとこの本は、当時の朝鮮を鉄道で旅行するための案内書で、概説編(236p)と案内編(309p)の2部構成になっています。

概説編では、朝鮮の地勢や気候、産業、歴史、風習、年中行事などとともに、「金剛山案内」(38p)に多くのページを割いています。個別の観光地として概説編に紹介されるのは金剛山だけであることから、いかに特別の存在であったかがわかるのです。案内編では、朝鮮内のすべての鉄道路線と駅のある町が解説されています。

では「金剛山案内」にはどんなことが書かれているのでしょうか。

「金剛山とは朝鮮半島の東海岸に沿ひ南北に縦走する脊梁山脈中の一群の峻鋒を稱し、江原道の准陽、高城の二郡に跨って廣袤實に十八平方里に亘り日本海に面する斜面と内陸に面する斜面の二帯に分かれている。前者は即ち外金剛、後者が内金剛と稱せられている。

地勢は東は急峻で西は概ね緩やかな高臺状をなし、脊梁山系たる主脈と之より分岐する數多の支脈は変化に富んだ奇鋒峻嶺から成り立ち、千米以上の峻鋒重疉として聳立し岩骨を露出し削壁をなして所謂萬二千衆鋒を形造っている。そして主脈から分岐する支脈は何れも短かく河川は為に幾多の小支流は岐れ岩床は露出して巨岩怪岩を轉じ到る處に急湍激流を造っている」

「金剛山を構成する岩類は太古界から新生界に亙った可なり多くの種類を網羅しているが主なる岩石は斑状複雲母花崗岩及白雲母又は斑晶を缺ぐ黒雲母花崗岩であって、之等は著しく節理に富み其方向は垂直の場合が多く、其の他多種多様の節理を存し岩體は之に沿ふて永年の風化浸食により變幻の妙を極め金剛山獨自の山岳美を成している」

ここでは、金剛山が日本海側に面した外金剛と内陸に面した内金剛に分かれること。一万を超えるという露出した花崗岩から成る巨岩怪岩が屹立し、急流が造る山岳美が「變幻の妙を極め」ていると賛美しています。

それに続く「金剛山の風景と其特色」では、金剛山が「世界的名山」たる理由についてこう解説しています。

「金剛山が世界的名山として賞賛される所以は古来萬二千鋒と謳われる無數の奇鋒峻嶺と之等の峰巒が互ひに錯綜して構成する幾多の渓谷と其渓谷に懸る、瀑布、深潭、奔流等の醸成する豪壮雄渾或は清浄幽玄なる景趣にあることは、探勝者の齊しく認めるところで此勝景をして一層の光彩を添へるものは建築美と傳説美である。即ち興味深い史跡傳説を有し朝鮮藝術の粋を蒐めた碧棟朱楹の長安寺・表訓寺・神渓寺・楡岾寺等の大伽藍と多數の末寺は金剛山の怪奇なる紫峰を背景として絶壁の下或は幽谷の裡に點在し天工と人工の美を渾然一致して吾々に強い印象を與へている」

旧字の多い難解な文面を長々と引用したのは、金剛山を愛でるうえで、こうした漢文調の表現にこそ味わい深さを感じられると思ったからですし、おそらく当時の日本人は、そういうスタイルを好んでいたに違いないと考えるからです。
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金剛山の魅力は奇鋒と渓谷、瀑布、深潭、奔流の醸成する幽寂な景趣にある。これはわずか1日の登山体験をしたにすぎないぼくにも、理解できるものでした。特に心打たれたのは、これまで日本でも、また他の国でも見たことのないほど美しく青みを帯びた深潭でした。
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「朝鮮旅行案内記」(朝鮮総督府鉄道局)国会図書館近代デジタルライブラリーより
http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1234893/189
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by sanyo-kansatu | 2014-06-14 13:04 | 朝鮮観光のしおり | Comments(0)


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