ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2014年 06月 18日

日本の文化をストーリー仕立てで伝え、訪日につなげる多国籍フリーマガジン

成田や羽田空港の到着ロビーに、ひときわ目につく英字フリーマガジンが置かれています。『WAttension Tokyo』は巷にあふれる外国人向けフリーペーパーとはまったく異なるオリジナリティと可能性を持っています。発行元の和テンション株式会社の鈴木康子代表取締役に、どこが他誌とは違うのか、そもそもの成り立ちから今後の展開まで話を聞きました。

目次:
雑誌『和テンション(WAttention)』について
創刊の時期と目的
外客誘致につなげた事例
スマホアプリとの連携
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―『和テンション(WAttention)』とはどんな雑誌ですか?

ひとことでいえば、日本の文化情報に特化して、日本で唯一世界展開している多国籍フリーマガジンです。

現在、年4回発行の東京版をはじめ、世界9カ国・地域(シンガポール、マレーシア、タイ、ロサンゼルス、フランス、台湾、インド、そして今年6月香港版も登場)で展開しています。東京版は、成田・羽田空港の到着ロビーやホテル、大使館、外国人記者クラブなど、都内約350か所で配布しています。海外の旅行博では、各国のスタッフが会場で自国版を配布しています。

日本の情報を発信する以上、記事は東京でつくることが多いですが、編集方針として四季(季節感)を大事にしています。

各国版の共通コンテンツとして「こよみを楽しむ」という連載コーナーがあり、そこでは日本の文化を理解してもらうカギとなる季節の風物や食などを紹介しています。弊誌のこだわりとして、一般の情報誌のような表層的な情報は扱いません。

取材も、日本人とNon-Japaneseとが一緒に行うことで、日本の文化的背景をふまえ、外国人の新鮮な視点を盛り込むことに努めています。

読者ターゲットは海外の日本好きのFITです。台湾版と香港版、タイ版、フランス版以外は英字誌ですが、世界展開することで、日本を訪ねてきた外国人旅行者向けの「着地型メディア(東京版)」と、旅行に行く前に日本への興味を喚起し、誘客につなげる「現地型メディア(各国版)」の2つの機能を併せ持つことができるのです。

―創刊はいつですか。どんな経緯から立ち上がったのですか?

シンガポール版の創刊は2010年で、東京版は11年4月です。もともと弊社はシンガポールで邦人向け現地情報誌『マンゴスティン倶楽部』(1997年創刊)を発行していました。これはシンガポール在留邦人や旅行に来る日本人向けの日本語情報誌で、いってみればシンガポールのインバウンドに貢献するビジネスだったわけです。
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この仕事を通じて私たちはいかにシンガポールの観光政策が優れているか、精通することができました。08年に日本にも観光庁が設立され、日本でも観光誘致を本格的に始めることを知り、海外在住の私たちだからこそできる日本のインバウンドへの貢献はないかと考え始めたのが09年頃です。

シンガポールで仕事をしていて感じるのは“メイド・イン・ジャパン”クオリティに対する信任です。日本人がいいという店に行きたいと彼らは言います。

日本人の評価そのものに価値があると考えられているのです。ところが、外客誘致にそれが十分活かされているとは思えませんでした『和テンション(WAttention)』という誌名も、日本の和に対する気づきから来ています。もっとちゃんと日本を理解してほしい。そのためにふさわしい媒体が必要だと考えたのです。

―貴誌が外客誘致につなげた具体的な事例を教えてください。

東京版2012年冬号で大田区を特集しました。区からの依頼で訪日外国人向けにリサーチを行い、同区内のさまざまな観光ポイントを記事化しました。それを台湾版、ロサンゼルス版、シンガポール版にも転載し、日本政府観光局(JNTO)のFacebook上、WAttention web上でアンケート募集を実施したところ、5カ国から700名強の応募ありました。さらに、大田区特集のコンテンツを別刷りとして別冊“Letʼ’s all go to Ota City Tokyo”を制作しました。
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シンガポール版2014年春号では、山梨県と長野県、岐阜県の3県の「山国紀行」特集を企画しました。海外スタッフと日本人による取材を通じて、3県を訪ねる新しいモデルコースを造成し、シンガポールの旅行会社で実際にツアーを募集してもらいました。
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弊社はこうしたファムトリップ招聘事業を通じて、国内在住、もしくは海外から外国人やメディアを招聘し、さまざまなコンテンツとして記事化し、掲載することができます。

弊誌のもうひとつの特徴は、日本からの広告出稿だけでなく、海外現地企業の広告も多いことです。それだけ現地の方に読まれている証拠といえます。その国にローカライズした内容構成を心がけているからです。

―今後は雑誌以外にも多元的な展開があるそうですね。

弊社のビジネスモデルは、『和テンション(WAttention)』シリーズの発行をベースに自社ウェブサイトで情報発信するメディア事業に加え、これまで述べたように、イベント事業やリサーチ・コーディネーション事業(ファムトリップの手配、企業のシンガポール進出サポート、翻訳・通訳手配など)を行うものです。

我々のミッションは、日本の文化コンテンツをストーリー仕立てで海外に伝え、共感を得てもらい、訪日につなげることにあります。

今後はスマホアプリを雑誌と連携させていきます。7月に「WAttention App-WTN Guide(仮称)」をオープンする予定ですが、事前にダンロードしておけば、現地で店舗の地図やクーポンなどのお得情報を入手できます。

このアプリはKPI(訪問回数などがモニタリングできる重要業績評価指標)を取得できるので、スマホでかざすマーカーを雑誌と店舗の両方で用意しておけば、雑誌から店舗への誘引率などもわかるのが特徴です。

また11月にシンガポールの大型ショッピングモールのジュロン・ポイントに「WAttention Plaza」という催事場をオープンさせます。そこは日本の文化に触れられる常設の展示スペースとして活用していただけると思います。物販やイートインも可能なので、観光に限らずさまざまな日本の情報発信ができるはずです。前述のアプリのダウンロードプロモーションも実施する予定です。
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和テンション株式会社
東京都港区南青山5-18-10-202
www.wattention.com

<編集後記>
成田空港に置かれていた『和テンション(WAttention)』を初めて読んだのは、新宿歌舞伎町特集(2013年夏号)のロボットレストランの記事でした。近未来都市を描いた映画「ブレードランナー」の話から書き起こされる同レストランの記事を読んで、これはサブカルチャーを含めて日本の事情に詳しいライターさんが書いたものだと感じました。その話を鈴木代表に話すと、「日本在住の海外メディアの記者や特定のジャンルの専門ライターに記事を書いてもらっている」とのこと。「表層的な情報は扱わない」という編集方針とはそういうことです。

東京で入手できる英字フリーペーパーといえば、ロンドンをベースに世界展開している『Time Out Tokyo』のことが思い浮かびます。でも、よく考えてみると、同誌は東京でしか入手できないのに対し、『和テンション(WAttention)』は海外でも発行されていることがまったく違います。

ここ数年で外国人向けフリーペーパーは雨後の筍のごとく誕生しましたが、それらと『和テンション(WAttention)』が根本的に違っているのは、編集方針はもちろんですが、ビジネスモデルにおいてもそうです。海外で発行されていることから、単なる訪日誘客メディアとしてだけではなく、海外に進出したいと考えている企業にとっても使い勝手のいい媒体として機能しているからです。

こうした独自性は、シンガポール在住の日本人たちによる自由な発想から生まれたものでしょう。鈴木代表は「シンガポールの観光政策から学ぶことが多かった。MICE誘致しかり、周辺国・地域の観光インフラを開発し、それも含めてシンガポールの外客誘致に結びつけているところなど、日本はもっと学ぶべき」と言います。

彼女と話していてあらためて認識したのは「英語を話す華人」の存在です。2013年の訪日シンガポール人は約19万人。中国・台湾・香港を含めた華人全体から見ればわずかな存在にすぎませんが、英語ゆえのワールドワイドな広がりがあります。次々と海外で雑誌を立ち上げていく手腕には大きな可能性を感じます。こういう先進的なメディアをこれからどう活用していくべきか、考えるだけでも楽しくなります。
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by sanyo-kansatu | 2014-06-18 21:13 | “参与観察”日誌 | Comments(0)


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