ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2014年 09月 09日

バイキングのパイオニア「すたみな太郎」はいかに外国客の取り込みに成功したか

寿司と焼肉が食べ放題の「すたみな太郎」チェーンでは、外客の来店が年々倍増に近い勢いで増えています。その理由は何なのか。飲食店における外客受け入れのためのオペレーションや工夫はどうあるべきか。株式会社江戸一の岩月賢治営業企画部長に現場のお話をうかがいました。

―「すたみな太郎」はどんな飲食チェーンなのですか?

創業は1964年。先代が足立区五反野駅前に開業した居酒屋「江戸一」です。78年に寿司と焼肉の食べ放題の「すたみな太郎」1号店(環七店)をオープンし、現在全国154店舗をチェーン展開しています。

当時、食べ放題レストランという業態はなく、弊社はバイキングのパイオニアを自認しています。

以前はロードサイド型の店舗展開で主力はバイキングでしたが、昨今は業態を多様化し、駅前や商業ビル内に店舗を置く都市型の「すたみな太郎NEXT」や、女性向けの自然食ブッフェレストラン「森のめぐみ」、スイーツブッフェの「デザートフェスティバル」なども展開しています。

―訪日外客の受け入れはいつ頃からですか?

本部にインバウンド客の取り込みのための営業企画部を立ち上げたのが2010年12月です。それ以前は、アジアからの団体客を連れたツアーガイドが直接店舗に予約を入れ、送客しているケースが大半でした。

「すたみな太郎」の特徴は、全国の主要国道に面した店舗展開なので、駐車場も広く、バスも4、5台は駐車できる。バイキングの料理を置くスペースの必要などから店舗面積も他の飲食チェーンに比べ広く、席も250~350名様分を用意しています。メニューも老若男女に受け入れられるように、130品揃えています。うどんやラーメン、丼もの、そして季節のメニューも随時採り入れているので、ガイドさんたちから「“すたみな”に入れておけば安心」と思っていただいているようです。

こうした店舗戦略はもともと国内客向けにはじめたものです。価格も均一で、外客向けの特別なオペレーションが必要ないことは、インバウンドにフィットしているのは確かです。現在、年間約1300万人のご利用がありますが、そのうち外客は25~35万人です。国籍別にいうと、台湾5割、タイ2割、中国と韓国が1割ずつで、その他が1割といったところです。国内客に比べれば外客比率はまだ小さいですが、年々倍増に近い勢いで増えており、伸びしろの大きさを実感しています。

―訪日客の来店が増えている理由は何でしょうか?

訪日外客の国内旅行手配を行う業者団体の一般社団法人アジアインバウンド観光振興会(AISO)の会員になってから、ランドオペレーター経由で予約が入るケースが増えました。また最近は海外の旅行会社から直接予約をいただくようになっています。「食のワンダーランド」と私どもは呼んでいるのですが、バイキングは海外のお客様に向いています。アセアンのお客様の中には「豚はダメ、鶏ならOK」といった方も多く、メニューが豊富なので、食の好みや習慣の異なる方にもご利用いただけるからです。

一昨年の夏、中国や韓国から大型クルーズ客船が福岡や長崎に多数寄港しました。一度に2000人近くの乗客が何十台ものバスに乗って市内観光に出かけられるのですが、それだけの規模に対応できる飲食チェーンはなかなかありません。1台のバスが乗客40人として、最大でバス4台、時間をずらして2回転受け入れるとすると、一店舗で320人の集客ができることになります。「すたみな太郎」は九州に19店舗(うち福岡県は7店)あり、 それだけのキャパシティでも受け入れ可能ということから、ご利用いただきました。

体験できる店作りも魅力といえます。自分でラーメンを作ったり、綿菓子を作ったり、単純なバイキングではないのです。家族連れにも人気です。しかし、うどんとラーメンのスープの違いなど、日本人なら見ればわかることが、外国人には混乱をさせてしまうこともあるようです。どのようにサポートするのか、今後の課題でしょう。

―海外の団体客受け入れにはどんな点に気を使われていますか?

国内のお客様と同じ場所でお食事いただくことになるため、座席の指定にも工夫がいります。 家族旅行の場合、シニアの方とお子様の割合のどちらが多いかなど、細かく事前にチェックしておきます。ところが、アジアからのツアーは変更が多いので対応に注意が必要です。当初、シニアの方が何人で、お子様が何人と聞いていたのに、いらっしゃってみたら違っていたり、日程の変更やドタキャンも少ないとはいえ、ありますので。

一般に団体のお客様はお食事時間が60分前後。渋滞などの関係で時間通りいらっしゃるとは限りません。2回転を予定している日の場合、前のグループが遅れ、まだ食事をしているうちに後のグループの団体がいらっしゃることもあります。そういう場合は、お待ちいただかなければならないので、店のスタッフも対応に追われます。スタッフはガイドさんと携帯電話で密に連絡を取り合い、事前に情報をキャッチするようにして、現場に混乱がおきないよう、工夫をしています。さらに、バスの駐車スペースを確保しておくなど、経験による細かい対応力が増していると思います。苦労したからこそ、培ったとも言えますか。

―今後の展望やインバウンド業界への提言がありましたらお願いします。

現状ではなかなか難しいことですが、今後このような問題を解決していくためには、我々飲食業界も、ホテル業界のように統一したキャンセルポリシーの確立が必要だと思います。今春、外客向けの観光バス不足が問題となったことで、日本の受け入れ態勢は整っていないことを痛感しました。それは、飲食も同じです。

北陸では海外のツアー客が利用できる飲食店が少なかったため、本当に大変だったようです。これはこの夏にも起こることです。1000万人から2000万人の訪日外客を目指すということであれば、どこで食事をしていただくかも、重要な課題となっていくはずです。全国には飲食店の数はたくさんありますが、外客の利用に適していなければ使えません。これからはいかに飲食店が訪日客の多種多様なニーズに応えられるかがカギになると思います。

株式会社江戸一
東京都足立区西綾瀬2-23-22
http://edo-ichi.jp

<編集後記>
「すたみな太郎」を個人的に利用したことはまだないのですが、その存在を知ったのは2001年のことです。中国からの訪日団体ツアーが解禁された翌年、ある中国人ガイドに覆面インタビューをしたことがありました。7泊8日のホテルや飲食も含めた訪問先をすべて教えてもらうと、「すたみな太郎」という店名がよく出てきたのです。当時からすでに「すたみな太郎」では外客の来店がはじまっていたわけです。今回岩月部長の話を聞き、当時は個別のガイドが特定の店舗に予約を入れ、送客していただけだったことを知りました。何も手を打たなくても、ガイドが送客してくれたのは、それだけの理由があったからです。

「食のワンダーランド」としてのバイキングが外客のニーズに合っていたことは確かでしょう。アジア各国に進出した日本の外食チェーンの多くが、メニューのバラエティ化を図ることで現地化に成功するというのはよく聞く話です。アジアの人たちは、ワンジャンルの専門店より、いろいろな料理の中から選べる店の方が好きだからです。

しかし、「すたみな太郎」に来店する訪日客の利用が増えている理由は、それだけではありません。

全国の主要幹線道路のロードサイド型の展開は、訪日客のツアーの動線に沿って位置しており、利用しやすいことも大きいと思います。それ以上に重要なのは、オペレーションの担当者が全国の店舗の事情をよく知っていることだと、岩月部長はいいます。予約を入れてくるランドオペレーターや、海外の旅行会社の担当者が知りたいのは、主要観光地から店舗までの距離や所要時間、交通事情、駐車場や店舗の状態などの詳細だからです。岩月部長は営業部長の経験もあり、全国のほとんどの店舗に足を運んでいたことが活きているといいます。

日本の外客の受け入れ態勢が飲食においても十分整っていないということは、逆にいえば、今後新しい可能性が広がっているともいえます。新しい外客向けの業態やサービスが生まれることを期待したいと思います。
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by sanyo-kansatu | 2014-09-09 20:19 | “参与観察”日誌 | Comments(0)


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