ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

inbound.exblog.jp
ブログトップ
2014年 10月 16日

香港デモ雑感~今ほど日本のリベラル派と中国人の本音が隔たっている時代はない

昨今の香港のデモを見ていると、やりきれない思いがしますが、こうした状況をもたらした中国政府に対するわだかまりや義憤を感じる人たちが日本にもそれなりにいるようです。日本のリベラル派と目されている人たちの一部がこの問題に関心を持とうするのは理解できます。

たとえば、乙武洋匡さんもそのひとり。報道によると、彼はデモに参加する香港の若い世代のメッセージや本音をきちんと伝えるべきだと主張しているようです。

香港デモを訪れて
http://www.huffingtonpost.jp/hirotada-ototake/umbrella-revolution_b_5943106.html
乙武氏が香港でデモ応援 「学生側は一貫して平和的」と擁護 (大紀元)
http://www.epochtimes.jp/jp/2014/10/html/d93232.html

日本のメディアのような配慮のない在外中国メディア(大紀元)の生々しい乙武さんの写真が印象的です。

9月下旬、香港で前倒しのデモが始まったとき、誰もが「六四天安門事件」みたいなことが起こらなければいいが、と思ったことでしょう。と同時に、「六四天安門事件」のとき、香港市民はあれほど北京市民を応援したのだから、大陸側にも、もっと香港の若者たちを支持する動きがあってもいいのではないか。いろいろ事情があるのはわかるけれど、いまのままでは北京市民はひどすぎるんじゃないの!?  香港デモを支援しようとして政府に拘束された数十人の人たちを除くと、ここまで中国大陸人が冷淡なのはあんまりじゃないかと思います。

でも、こういう感覚を持つことは、いまでは中国大陸人に対する一種の挑発にしかなりません。時代は大きく変わってしまったのです。

今後のデモの推移は、事前に多くの人たちが想定したように、徐々に収縮に向かっていくことでしょう。香港の学生さんたちは、再起を胸に秘めて引き際をわきまえたほうが賢明でしょう。ずるずる続けるより、引くべきときはさっと引き、必要な時期には何度でも繰り出せるようにしたほうが効果的だと思うのです。彼らの意思は十分世界に広まったからです(もちろん、そんなの素人に簡単にできることではないのでしょうけれど)。

それに、なにしろ六四の時代とは違って、中国政府は香港に大陸人を動員させ、さまざまなネガティブキャンペーンを行いました。黒社会を活用した暴力による抑圧もそうです。しかし、これは今日も、そして昨日も明日も中国では日常的に起きることです。そういう同じことが香港でも起きたということが、すでに香港が中国の一部になっていることを証明しています。

こういう状況を見ながら、ひとりの日本人として思うのは、香港の若い世代が受けた教育というのは、我々に近いものなんだなあ、という実感です。明らかに大陸から来た留学生とは違う。日本に近い教育を受けた香港の若い世代にとって、今日の中国が土足で踏み込んでくることには耐え切れないであろうことも、日本人ならよく理解できます。

さて、心情的にはまったくそう思うのですが、あらためて考えなければならないのは、コトの舞台はいまや中国の一部となった香港だということでしょう。もう一方の当時者である中国大陸人たちの本音にも耳を傾ける必要があります。

昨日、ひとりの在日広東人の友人とこのテーマで話をしました。広東人というのは、面白いもので、北京や上海を中心とした中国大陸人の感覚とは少し違う観点からモノを考える傾向があります。

彼は言います。「今回の香港のデモをめぐって大陸の人間が何を考えているかについて、ぼくの意見はこうです。

なぜ大陸の人間はこれほど香港のデモに冷淡なのか。それは政府のメディア規制や監視のせいでもあるけれど、多くの大陸人の胸の内には、これまでずっと偉そうにしていた香港に仕返ししているという思いがあるんです」

えっ、それはどういうことですか…。

「かつて香港と中国の経済格差が大きかった時代、香港人は大陸人を明らかに見下していた。でも、いまや経済力は大陸がはるかに上回っている。それなのに、中国に反旗を翻すとはどういうつもりだ。今回のデモの失敗で香港人も現実を思い知るだろう、そんな風に思っているんです」

う~ん、そういうことか……。でも、それは思い当たる節があります。1980年代から90年代にかけて、中国では香港が憧れのまちでした。当時よく言われたのが、北京のテレビ局のアナウンサーやタレントたちが香港っぽいファッションや言い回しを好んで使っていたという話。それがカッコいいことだったからです。その一方、当時香港人が大陸人を見下す光景をよく見かけたものです。その露骨な態度にぼくは義憤を覚えて、よせばいいのに香港人と口論になったことさえあったことを思い出しました。

そう話すと、彼はきょとんとして、「なぜ日本人のあなたが? 中国人のために?」と怪訝な顔つきになったので、「目の前で人が人を差別していることにぼくは耐えられない人間なので、黙っていられないんだよ」とコトの経緯を説明すると、「日本人らしいですね」と笑いながらこう言いました。

「でもね、北方の中国人と広東人では少し感じ方も違うと思います。香港の言葉がわからない北方人と違い、広東人は香港といまや一体化している面がありますから、そこまで露骨に仕返しとは考えていないと思う。ただ最近の共産党は締め付けが厳しくなっているのは確かなので、下手に口出しして自分を窮地に陥れることは避けたいと考えるでしょう」

彼はこんなことも言います。「いまの中国政府がよく使うことばに“話語権”があります。要するに、世界は自分たちをもっと認めるべきだ。でも、そういう気持ちが強すぎて、結果的に国際社会で嫌われている」とも。

“話語権”というのは、2000年代半ば頃から中国政府の公式文書等に頻繁に使われるようになったことばで、日本語でいうと「発言権」という意味に近いけれど、そこにはより強い意志が潜んでいそうです。大国となった中国は、外交や経済交渉の舞台で自らの主張を押し通す権利があり、それを推進していかなければならない、という強い確信に基づくものです。数年前に退任された青山学院大学の高木誠一郎先生の最終講義「中国外交の新局面: 国際「話語権」の追及」の中で一部、その中身が検証されています。中国の外交姿勢の転換は2009年から始まったとする専門家の分析もあり、何事も自分たちの思い通りに押し通さなければ気がすまない、といういまの中国の対外的な姿勢やふるまいは、彼らが自覚的に推し進めているものです。

今回のデモをめぐって「これから中国も香港の民主化の道を取り入れて、我々と同じ価値観を共有できる国になることを望む」というような紋切り型のコメントを安易に口にする人が日本にけっこういることが気がかりです。その点で、今ほど日本のリベラル派と中国人の本音が隔たっている時代はない、と感じます。いや、もうそれはリベラル派に限った話ではないかもしれません。そういう人たちは、えてして香港を単純に同情し、中国を敵視する心情に陥りがちです。最近の中国のふるまいからすれば無理もないかもしませんが、彼らがそうなる背景には、一筋縄ではいかない彼らなりの事情をあることを知っておくことは必要です。そのうえで、言うべきことは言う、であるべきでしょう。その方が実際、彼らと議論するには有効です。

いずれにせよ、中国の側に、香港に対する同情はほとんどないこと。むしろ冷笑にも似た感情が潜んでいるというのは、今後の中国のふるまいを予測するうえでも、よく考えておかなければならないことだと思います。

それとはまた別の意味ですが、今日アップされた日経ビジネスの以下の記事は、香港の「反デモ隊」の若者にインタビューしている点で面白いと思いました。

香港騒乱で「デモ潰し」に参加する若者は何を思うのか
学生と若者と、蔑視と憎悪の応酬
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20141015/272568

「社会の厳しさを知らない学生に、俺たち(反デモ隊)のような底辺の労働者の気持ちがわかるか」とマイクを向けると彼らは言うわけです。デモ学生たちに対する大陸の中国人とはまた異なる強い違和感が発せられています。デモをめぐる当事者たちの思いはさまざまなのです。

また以下は上海在住の姫田小夏さんというジャーナリストによる香港デモに関するレポートです。

上海エリートの目に
香港の民主化デモはどう映るのか
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41978

ここでは、上海の若い世代がデモに参加する香港の同世代に対してこう考えていると指摘しています。

「香港の学生たちの主張は「真の普通選挙の実現」である。しかしそんな抗議活動を、若い上海人エリートたちは「馬鹿げたことを」程度にしか思っていない。」

「「無邪気」に加えて「幼稚すぎだろ」「笑わせる」とさえ言う者もいる。その理由は明確で、「中央政府がそんなことを認めるはずはない」と確信しているからだ。」

やっぱり、でしたね。

さて、広東人の友人とそんな話をしたあと、彼はある在日中国人を紹介してくれました。その人物は、先頃中国政府の迫害から逃れて来日した中国人風刺漫画家“変態辣椒”こと、王立銘さん(41)です。

“変態辣椒”作品
http://biantailajiao.in/

彼は習近平をおちょくる風刺漫画をたくさん描いていて、中国にもこんな人物がいるのだなと、ほんの少しばかり我々をホッとさせてくれます。内容については、それこそ中国のニュースに日夜触れていないとすぐには理解できない作品も多いですが、こういうまっすぐな権力に抗する視線こそ、本来の中国人らしいものだと思います。ちなみに以下の作品は、習近平が総書記に就任した2012年11月の最初の演説で「中華民族の偉大な復興という中国の夢を実現しよう」と述べた内容をからかっています。PM2.5で汚染された濃霧が「中国の夢」を覆い尽くしてしまいそうな現実に習はどう立ち向かうのか? 
b0235153_1295086.jpg

こういう政府に対する批判が大陸からほとんど表に出てこないといういまの状況はやっぱり異常です。デモが収束し、ほとぼりが冷めれば、少し変わってほしものです。広東人の彼も、中国人は黙っているばかりではないという思いで、王さんのことを教えてくれたのかもしれません。今度、彼は王さんと会うそうなので、紹介してもらうつもりです。

【追記】
この記事アップした翌朝(10月17日)の朝日の朝刊に王さんの記事が載っていました。

中国の漫画家、日本に滞在延長求める 風刺で批判浴び
http://www.asahi.com/articles/ASGBG5HKNGBGUHBI01N.html?iref=comtop_6_02

北京発のこの記事では、以下のような王さんの境遇を伝えています。

 「中国版ツイッター」の微博などで漫画を発表しつつ、食品のネット販売で生計を立てていた王氏は5月、日本製品の販売に向けたリサーチで来日。ところが8月、自身の微博アカウントが突然、封鎖された。

 その後、共産党機関紙人民日報傘下のサイトが王氏を「媚日」「売国奴」などと批判し、関係部門に「法に基づく調査」を求める文章を掲載。王氏が目にした日本人の礼節や日本の平和主義などについて好意的な感想をネットでつぶやいたことも批判された。

たぶん来週あたり、ぼくは都内で彼に会うことになりそうです。
[PR]

by sanyo-kansatu | 2014-10-16 16:06 | のんしゃらん中国論 | Comments(0)


<< 今年の国慶節はそれほど多くない...      訪日外客1300万人超えなるか... >>