人気ブログランキング | 話題のタグを見る

ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

inbound.exblog.jp
ブログトップ
2014年 11月 29日

北朝鮮のイカ釣り漁船急増は朝鮮東海岸の中国漁船の操業と関係がありそう

おととい(2014年11月27日)の朝日新聞に「北朝鮮、外貨を求めて海へ 日本海 イカ釣り漁船急増」という記事が掲載されました。
北朝鮮のイカ釣り漁船急増は朝鮮東海岸の中国漁船の操業と関係がありそう_b0235153_1703124.jpg

「日本海の排他的経済水域(EEZ)境界で操業する北朝鮮のイカ釣り漁船が急増している。木造の小型船。監視役を合わせた少人数のグループ。軍への上納金――。難破して保護された北朝鮮の漁師らの証言から、外貨獲得のため、漁獲量を増やそうとして活発な動きを見せる北朝鮮の状況が明らかになった」

なんでも水産庁と海上保安庁が確認した北朝鮮漁船の数は、「2011年約15隻、12年約80隻、13年約110隻、14年約400隻」だといいます。確かに増えていますね。

同紙によると、「深刻な経済難 操業命がけ」と急増の背景を解説。「2013年2月の核実験で後ろ盾の中国との関係が急速に悪化。金融制裁に加え、中国とのパイプ役だった張(成沢)氏が粛清されると貿易量が激減し、食糧支援の向上も見込めず、政府関係者は『海に活路を求めている』とみている」という。

確かにそういう側面はあると思います。いまの北朝鮮が外貨獲得のために必死になっているのは事実だからです。

しかし、日本海の排他的経済水域(EEZ)境界に北朝鮮のイカ釣り漁船が出没するようになった理由は、朝鮮東海岸近海でイカが獲れなくなっているからではないか。ぼくはそう考えます。

今年7月上旬、ぼくは北朝鮮咸鏡北道の羅先と清津、七宝山を訪ねています。羅先では、現地ガイドの案内で水産加工工場を視察しました。関係者らによると、近年羅津港での漁獲量が激減していて、加工工場は長らく休業しているそうです。

戦前期に羅津に住んでいた日本人の話では、羅津港の漁獲量はハンパじゃない多さで知られていました。朝鮮半島の東海岸近海はもともと豊富な漁場だったのです。そこで1990年代頃から在日同胞が水産加工工場設立のためこの地に投資し、冷凍魚介類を中国などに輸出していたのです。経済制裁前は、日本にも朝鮮産のカニなどの水産物は流れていたでしょう。羅先には現在、ふたつの大きな水産加工工場がありますが、どちらも運営はうまくいっていないとのこと。

ではなぜ漁獲量が激減したのか。

現地の人間によると「北朝鮮政府は中国政府との話し合いで、中国漁船の朝鮮東海域の操業を認めた影響だ。2013年には約4000隻の中国漁船がイカを根こそぎ獲りまくったことが大きい。イカは還流性魚類なので、食物連鎖が崩れてしまった。そのため、近海ではかつてのような水揚げが望めなくなった」とのことです。

その結果、日本の排他的経済水域(EEZ)境界近くまで操業せざるを得なくなったのでは……。ぼくは朝日の記事を読んで直観的にそう思いました。

なぜ羅津港の漁獲量が激減したことを知ったかというと、現地ガイドの案内で羅津市場を訪ねたときのこんなエピソードがきっかけでした。

羅津市場の門の前に小さな川が流れ、橋が架かっています。その上空を大量のカモメが徘徊しているのです。確かに港町ですから、カモメがいてもおかしくないけれど、そこは市中なので、ちょっと不思議な光景です。ぼくはガイドに訊きました。「どうしてカモメがこんなに街中にいるの?」。

彼はこう答えました。「海に魚がいないからです。市場では魚のあらを取り出し、川に捨てています。それが餌になるから、カモメはこんな街中まで飛んでくるのです」。

ぼくは再び訊きました。「なぜ海に魚がいなくなったのですか?」

理由は前述したとおりです。

この話を聞きながら、北朝鮮はあらゆる資源を中国に切り売りしながら、つかの間の平穏を維持しているのだと実感せざるを得ませんでした。鉄鉱石などの地下資源だけでなく、水産資源までも。いまでも羅先の市中上空を徘徊する大量のカモメの異様な光景を思い出し、不穏な気持になります。

以下の写真は、羅津港近海で操業しているイカ釣り漁船です。朝日新聞の記事に載っていた漂流する漁船と同様の小型船です。これでは中国漁船にはかなわないでしょうし、とても遠海で操業できる代物ではなさそうです。
北朝鮮のイカ釣り漁船急増は朝鮮東海岸の中国漁船の操業と関係がありそう_b0235153_1644879.jpg

もうひとつの写真は、某水産加工工場の中です。関係者によると、しばらく稼動していないようでした。
北朝鮮のイカ釣り漁船急増は朝鮮東海岸の中国漁船の操業と関係がありそう_b0235153_16441817.jpg


中国漁船の違法操業は、今秋の小笠原諸島沖の赤サンゴ密漁問題でも話題となりましたが、彼らが例の調子で徒党を組んで北朝鮮の漁場を荒らしたことが(ただし、朝鮮東海域の操業は両国間の了解はあったとみるべき)、今回のニュースにつながっているのではないか……。羅先での見聞はまたあらためて。

※朝鮮半島近海の中国漁船の操業問題については韓国でも黄海上でいろいろ起きているようです。

[ルポ]中国不法操業漁船を取り締まる韓国海洋警察船

禁漁解除を控え経済水域に群がる
一群を追い出せば別の一群がやって来る
夜通し命賭けのかくれんぼ
鉄格子にひっかかり短艇転覆
「武力抵抗に命の危険を感じることも」

http://japan.hani.co.kr/arti/politics/18535.html

by sanyo-kansatu | 2014-11-29 16:44 | 朝鮮観光のしおり


<< 今年訪日中国客数はどこまで拡大...      大連現代博物館の近代史の展示は... >>