ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2014年 12月 26日

訪日1300万人を達成したものの、気がかりな入国管理の話

今週22日(月)、日本政府観光局(JNTO)は、訪日外国人旅行者数が1300万人を突破し、成田空港で記念セレモニーを実施しました。

一月半前の11月上旬、JNTOの関係者に取材した際、その時点の認識では「1200万人後半くらいでは」という慎重な発言が聞かれたものですが、今月中旬に11月の訪日外客数が発表されて以降、1300万人超えは確実なものになったようでした。

このこと自体は喜ばしいことだと思いますし、2003年のビジット・ジャパン事業開始以降の官民を挙げたさまざまな取り組みの成果であることは間違いありません。ただし、JNTOのリリースがいうような「観光立国実現に向けたアクション・プログラム2014」や「『日本再興戦略』改定014-未来への挑戦ー」などと仰々しく名付けられた、いかにも官報的な文面をみていると、安倍政権の数少ない成果として訪日旅行市場の拡大を持ち上げたい国交省、あるいは政権の思惑のようなものが感じられて、ちょっと引いてしまうところもあります。

メディアも、同じような印象を受けたからなのか、気がかりなことを報じています。

たとえば、産経新聞のサイトにこんな記事が出ていました。以下、転載します。

ビザ免除国の入国拒否者急増 タイ12倍、マレーシア18倍(2014.12.24)
http://www.iza.ne.jp/kiji/events/news/141224/evt14122413320006-n1.html

昨年7月から査証(ビザ)なしで日本に入国できるようになったタイとマレーシアの入国拒否者数が急増していることが23日、法務省への取材で分かった。今年上半期(1~6月)と前年同期を比べると、タイで約12倍、マレーシアで18倍に増加。「観光立国」を目指す政府は東南アジア諸国連合(ASEAN)を中心にビザ免除などの入国促進策を進めているが、両国の入国拒否者の増加率は訪日者数の増加率を大きく上回っている。主に不法就労目的とみられ、入国者の利便性と同時に“水際対策”の重要性が浮き彫りになった。

同省入国管理局によると、今年上半期に日本の空港などで入国拒否となった外国人は、前年同期比35・8%増の1586人(速報値)。このうちタイは386人で前年同期の33人から約12倍に、マレーシアは54人で同3人から18倍に増え、他国と比べ増加率が飛び抜けている。

日本政府観光局によると、今年上半期の訪日外国人数(暫定値)は前年同期比26・3%増の約626万人。このうちタイは約33万人(同63・8%増)、マレーシアは約12万人(同62・5%増)。両国の訪日者の増加率自体が平均値を超えているが、入国拒否者数の伸び率は訪日者数の伸び率をはるかに上回っている。

同局は「昨年7月に始まったビザ免除措置の影響だ。過去に強制退去処分になったタイ人が『入国できるかも』と考えて来日したり、経済情勢のよくないタイの地方から不法就労するために来たりするケースが目立つ」と説明する。

不法入国者を選別するため、同局は指紋などの個人識別情報を活用。また入国審査時に、観光目的地が曖昧だったり、訪問先の電話番号が架空のものだったりした場合は問い詰めて「実は働きにきた」と白状させることもあるという。

政府は日本再興戦略の中で観光立国を重要な柱と位置づけ、2020(平成32)年の東京五輪開催までに「訪日外国人2千万人」を目指す。今年は既に過去最高だった昨年(1036万人)を上回り、11月には推計値で1200万人を超えた。ASEAN諸国を中心にビザ免除の措置を進めており、12月からはインドネシアのビザを免除、今後はフィリピン、ベトナムも対象とする方向で検討中だ。

外国人の労働問題に詳しい慶応大の後藤純一教授(国際労働経済学)は「ビザ免除で外国人の観光客が増える一方、不法就労が増える副作用もあるだろう。入国時のチェックと入国後の摘発をしっかりすることが重要」と指摘している。

◇用語解説

査証免除 外国人が日本に入国するには、原則的に本国出発前に日本大使館などで査証(ビザ)を取得する必要があるが、国家間で短期滞在者のビザを免除する取り決めをすることがある。現在、67の国・地域が対象となっている。

ここ数年間推進されたアセアン諸国に対するビザ緩和によって訪日外客が増えたことは周知のとおりですが、こうした事態が起こり得ることは、ある程度予想されたものでした。最初に観光ビザが免除されたタイについても、当初からこの問題が発生する懸念は指摘されていました。

タイのビザ免除で、むしろタイ政府側に不法就労再発の懸念があるらしい
http://inbound.exblog.jp/20666821/

ただし、この記事は読者にミスリードを与えかねない内容を含んでいます。ここで「タイ12倍、マレーシア18倍」という数字を上げているのは、あくまで「ビザ免除国の入国拒否者」であって、不法滞在や就労といった話でありません。入国前に水際で差し止めた人数に過ぎないのです。しかも、増えたといっても、「タイは386人で前年同期の33人から約12倍に、マレーシアは54人で同3人から18倍」と、小さな母数を高い倍率にみせることで印象操作をしているようにも思えます。

むしろ気がかりなのは、ただでさえ日本の入国審査に要する時間の長さが外国客からコンプレインされている現状から、それに応じて短縮化を進めている入国管理局の関係者のプレッシャーでしょう。

昨年、中高校生向けのキャリア教育書の仕事で、羽田の入国審査官の若い女性にインタビューしたことがあります。そのとき、彼女が話していたのは、この仕事でいちばん重要かつ神経を遣うのは、入国申請する人物に不審なところはないか、その場で見抜き、あやしい場合は素早く上司に報告し、別室に連れて行く一連の流れの中で、列を並ぶ他の外国人客を待たせないようスムーズに対処することでした。

たとえば、こんな事例があるそうです。「90日間以内の観光目的であれば、ビザ免除される外国人でも、よく見たら前回も90日滞在、その前も90日という長期滞在が入国スタンプの日付けから判明した場合、本当に観光目的の来日なのか、日本で不法就労しているのではないか、という疑いが生じます。なかには、偽造パスポートを所持しているケースもあり、おかしいなと思ったら、特別審議官という専門の担当官を呼んで、別室で詳しく調べてもらいます」

こうした人物の中には、いわゆる「スルーガイド」が含まれるものと思われます。ノービザで許される日本の滞在期間中、何度もツアーの添乗ガイドを繰り返し、バスの中で物品販売などをして売上を手にしながら、確定申告もしないで帰国してしまう連中のことです。

1日何百人という外国人の入国審査を行う審査官に求められる集中力は相当なものだと思います。経験がものいう世界とはいえ、神経をすり減らす仕事といえそうです。

しごと場見学! 空港で働く人たち
http://www.perikansha.co.jp/Search.cgi?mode=SHOW&code=1000001632

これから先、ますます訪日外客が増えていくことを思うと、入国審査官の仕事の現場も大変になることはあっても、軽減されることはないでしょう。いまやどこの業界でもそうですが、入国審査官も人材不足が問題になっているそうで、求人に力を入れていると広報の方は話していました。

受入態勢の整備という意味でも、政府が予算をつけなければならない方面は多岐にわたっていると思います。
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by sanyo-kansatu | 2014-12-26 12:06 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)


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