ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2015年 01月 26日

大阪あいりん地区のゲストハウスに泊まってみた

今年の初め、ぼくは大阪にいました。ある中国語の通訳案内士の方にお会いするためです。

その方に「面白い宿」として紹介されたのが、大阪市西成区あいりん地域にある「ビジネスホテル来山北館」でした。
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JR大阪環状線の今宮駅を降りると、大通りをはさんで住人とまちの雰囲気が一変する地区があります。そこがあいりん地域です。ぼくはこれまで大阪とはあまり縁がなく、今回初めてその地に足を運んだのですが、意外にアクセスがいい。今宮駅からも近いですが、地下鉄御堂筋線の動物園前駅からだと徒歩30秒という場所に、そのホテルはありました。外観はよくあるビジネスホテルという感じです。
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1泊シングルで2500円(連泊すると、翌日から2200円にディスカウント!)。風呂やトイレは共用ですが、ぼくは海外のゲストハウスの利用は慣れているほうなので、Wifiさえ使えれば、それほど気になりません。そんなことより、「面白い宿」ということでご紹介いただいた以上、この宿のステイを体験しつくすことにしました。

ここでいう「面白い」とは、外国人が多く宿泊している施設という意味ですが、まさか元簡易宿泊宿を改装したホテルのことだとは思ってもいませんでした。

これがぼくの泊まった部屋です。ベッドが一つ入ると、ほとんど歩くスペースはありません。
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部屋のタイプはいくつかあるようです。洋室だけでなく、和室やドミトリーもあります。
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狭い廊下の両脇に個室が並ぶ光景は、ここだけ見ると、かつての簡易宿泊所の雰囲気が残っているといえるかもしれません。
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1階のフロントを抜けると、ロビーには洋間と日本間(といっていいのでしょうか)の2タイプのキッチン&食卓のスペースがあります。その隣にテレビとソファがあり、ここで宿泊客は自炊をし、くつろぐことができます。
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奥にお風呂とシャワー室があります。
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ダーツも置いてあります。コーヒーは宿泊客のみ飲み放題だそうです。
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外国人旅行者のための掲示板や各種観光案内、地図、フリーペーパーが置かれているラックもあります。
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このホテル発のオリジナル日帰りツアー(英語版と中国語版あり)の告知も貼られています。まるで海外のゲストハウスそっくりではありませんか。興味深いことに、このツアーを主催しているのは旅行会社ではなく、関西の某都市の自治体だそうです。若い外国人客が多いホテルだと聞きつけた市のスタッフが自分たちのまちを知ってもらおうと企画したのだそうです。もし時間があって、このツアーに外国人旅行者の皆さんと一緒に参加できれば、このホテルならではの楽しさをより味わうことができますね。
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もちろん、パソコンも利用できます。館内はどこでもWifiフリーです。
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さて、このホテルの宿泊客ですが、ざっとロビーで見ている限り、日本人より海外のバックパッカー風の若い旅行者が多そうでした。欧米系もいれば、アジア系もいます。

面白かったのは、お風呂の入り方の説明書があったことです。よく外国客が訪れる温泉旅館でこの手のイラストを見たことがありますが、やっぱりこれは基本なのですね。
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このホテルでは、夜だけでなく、早朝からお風呂に入れるのがうれしいです。
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実は、こういうホテル(立地がドヤ街にあるゲストハウスのこと)に泊まったのは初めてだったので、その晩FBにのせたところ、友人のふたりの女性ライターさんがするどく!?反応して、こんなやりとりになりました。

●1月某日のぼくのFBにて

(ぼく)今大阪にいて、知り合いの紹介で西成区あいりん地域の来山ホテルという元労働者向けの簡易宿泊所を改装したホテルに泊まっています。想像以上に安くて快適で驚いています。

(A女史)ひょえ〜!周辺の治安は悪くないの?

(ぼく)それが山谷と一緒でかつてのどや街の一部のホテルが外国人ゲストハウスになっているんです。欧米のバックパッカーも泊まっています。さっき一緒にお風呂に入りました。

(A女史) (^_^;)

(B女史)女性とかはいますか?

(ぼく)もちろんいます。

(B女史)安いとは1泊いくらくらいなのでしょう?昔のイメージで判断してはダメですね。

(ぼく)1泊シングル2500円、連泊すると2200円です。

(B女史)ひゃ~。安い~。でも清潔そうに見えますね。とっても狭いのかしら?

(ぼく)でも自炊できるラウンジやPCコーナーもあり、全室Wifi対応です。

(A女史)場所が場所だからでしょ? ホテルはリノベしてあるみたいだから問題…というか心配ないでしょうが、夜ひとりでホテルに帰るのとかどうなのかしらん

(ぼく)ラウンジにバックパッカーのみなさんがいてくつろいでいます。

(A女史)あ、いやいや、道のり

(A女史)その値段でWi-Fiあるなら部屋は狭くても別にいいけどね

(ぼく)地下鉄駅から徒歩1分。今ホテルのすぐ外にいるのですが、欧米の若いバックパッカーや労働者のおじさんがふらふら目の前を通りすぎて行きます。

(A女史)駅から1分とはいいですね

おふたりの質問&コメントの趣旨はよくわかります。どうしてまたそんなところに? と思ったことでしょう。ぼくは別にすかして答えているわけではありませんが、ちょっとばかし得意げだったかもしれません。

さて、今回泊まった「ビジネスホテル来山北館」について、トリップアドバイザーをみると、宿泊者の声がいろいろあります。その内容については、以下をご参照ください。

トリップアドバイザー「ビジネスホテル来山北館」
http://www.tripadvisor.jp/Hotel_Review-g298566-d1084498-Reviews-Raizan_Kitakan-Osaka_Osaka_Prefecture_Kinki.html

同館は、ホテル中央グループが運営するホテルのひとつです。

ホテル中央グループ
http://chuogroup.jp/

このグループが運営するホテルは、外国人バックパッカーが多く宿泊していることで知られているようです。

トリップアドバイザーによると、「中央グループのホテルの中で最もバックパッカーズ色が強いホテル」がここだそうです。

ビジネスホテルみかど
http://www.tripadvisor.jp/ShowUserReviews-g298566-d1081268-r133109424-Business_Hotel_Mikado-Osaka_Osaka_Prefecture_Kinki.html

このホテルの評価は「大阪市で 268 軒中 40 位」。かなり高いではありませんか。ぼくの泊まったビジネスホテル来山北館も十分面白かったですが、ここには多くの楽しい口コミが書かれています。

それにしても、いったいこのホテルを誰が運営しているのだろうか……。

思い切ってフロントのスタッフに話を聞きたいと伝えたところ、翌日の午後、同グループの山田英範代表取締役に話を聞くことができました。

後日、山田さんに「ご自身のプロフィールを簡単に教えてください」とメールを送ったところ、返信された内容は以下のようなものでした。

山田英範 やまだひでのり
1977年1月14日生まれ
学生時代にバックパッカーとしてアジアを旅していた経験を生かし、外国人バックパッカーに快適に滞在してもらえる安宿づくりを目指し、ホテルを経営する。

以下、山田さんとビジネスホテル来山北館の森川マネージャーとの一問一答です。

――このホテルはいつごろ、どんな経緯で海外のゲストハウスのような世界になったのですか?

「もともとこのホテルは父親が経営していたんです。ぼくは25歳のとき、勤めていた会社をやめてオーストラリアに2年ほどワーキングホリデーと語学留学の旅に出ていました。2004年に帰国して、このホテルに入社し、スタッフとして勤めることになりました。

当時、ホテルはガラガラで、稼働率は最悪の状況でした。いずれ父親のあとを継ぐことになると思い、どうやって経営を立て直すか考えました。まずは宿泊客を呼び込むためにHPを立ち上げることにしました。

ところが、HPを見てホテルに来た人たちの中に、日本語のわかる韓国や台湾の若い旅行者がいたんです。そのとき、初めてこんな需要があるんだな、と思いました。

旅から帰ったころ、漠然とバックパッカー宿みたいなのを経営してみたいなと思っていました。旅先で出会った仲間の中にも、そういう夢を持っている人は多かった。でも、それを実現するには、資金を貯めなくてはならないし、そう簡単ではない。その点、ぼくはそれができる環境にあったんです。

しかし、当時の従業員は誰も英語をしゃべれない。経営状況も悪いということで、そういう夢は一時封印した。ところが、HPを立ち上げたとたん、外国客が現れたのです。

そこでHPの多言語化を図ることにしました。英語、中国語、ハングル対応にしたのです。うちと同じ元労働者の簡易宿泊所を改装して外国人宿になった東京山谷のホテルニュー紅陽の話を耳にしたので、オーナーの方に話を聞きに行ったのも、この頃です」。

ホテルニュー紅陽
http://www.newkoyo.com/japan.html

――まずはHPの多言語化なんですね。それからどうしたのですか。

「1階にロビースペースをつくることから始めました。もともと簡易宿泊所でしたから、フロントを抜けると、ちょうど2階以上の客室フロアと同じで、廊下の両脇に個室が並ぶという構造だったものをぶち抜きにした。それから外国人のためにシャワー室を設け、トイレや客室の洋式化を進めました。もちろん一気にはできないので、徐々に進めていったんです」。

――なるほど。外国客の需要に応えるためには、ロビースペースとシャワー、洋室が必須なんですね。

「寝るだけの場所から旅行者のためのスペースへ。そのためにはなにをすべきか。自分はバックパッカーだったので、それがわかるんです。そうやって少しずつ変えていきながらいまに至っているわけです」。

――外国客の比率は? どこの国の人たちが多いのでしょうか。

「宿泊客のうち日本人と外国人の割合は半々です。時期にもよりますが、国籍の比率は韓国が3~4割、中国台湾香港も3~4割、タイ2割、欧米2割というところでしょうか。外国客の比率が高くなるオンシーズンは3月と8月。オフは11月、1~2月。グループホテル5軒で年間の外国人ステイは8万泊、1日平均200名というのが実績です」。

――予約はホテルのHPに直接入ってくるのですか。

「大半はHostelworldのような宿泊サイトを見て、予約を入れてきます。現在、それ以外にもAgodaやBooking.comなどにも登録していますが、最初はバックパッカー系の予約サイトということで、Hostelworldに登録してもらうようお願いしたところ、予約が入るようになり、他のサイトからも登録するよう話がきました」。

Hostelworld
http://www.japanese.hstelworld.com
世界各地のバックパッカーホステルの即時予約サービス。

――ホテルのスタッフは若い方が多いですね。

「父親からこのホテルの経営を譲り受けて何年かたちますが、ホテルにとって大事なのは施設ではなく、スタッフだと思っています。トリップアドバイザーの口コミをみていても、スタッフの印象が良ければ、リピーターがついてくれるからです。

その意味でスタッフの教育が重要なんですが、英語力だけでなく、どれだけ宿泊客のことを考えて対応できるかが大事なんです。先日も大浴場のボイラーが壊れてしまい、お風呂に入れない日があったのですが、そういう場合も、スタッフが宿泊客にどう伝えるかで評価が分かれるんです。宿泊客に納得してもらうような対応とはどういうことか。スタッフのレベルを上げるというのは、どこまでやっても終わりはありません」。

ところで、山田さんの話は、若い経営者が父親の稼業を継いで、時代のニーズに即した新ビジネスを始めるというよくあるストーリーだけでは終わらないところがあります。ホテルの立地が、大阪市西成区あいりん地域という特殊な事情があるからです。
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後日、ぼくはメールで山田さんにこんなぶしつけな質問を送りました。

――貴ホテルの外国人客は、ホテルの周辺のあいりん地域についてどのように理解しているのでしょうか。ホテルの前を通り過ぎていく労働者の人たちについて治安などを気にする声はないですか。というのは、若い欧米系の女性なども泊まっているのを見たからです。

山田さんはこう回答してくれています。

「気にする声はあります。しかし、他のアジアのホテルよりも安全という声もよく聞かれます。こちらの声も、トリップアドバイザーのコメントによく出てきておりますので、生の声を見ていただいた方が実感していただけるのではないでしょうか」

確かに、アジアの安宿の世界を少しでも知っている人間からすれば、「他のアジアのホテルよりも安全」というのは同感です。そんな偏見よりむしろ、このまちがアジアの安宿街のようになっているのだとしたら、それは興味深いことです。

ここから先は、ぼくの個人的な見解、いやそれ以前の、初めてこのまちを訪れて感じたことをもとにしたひとり語りにすぎません。西成区の事情について、何も知らないぼくがあれこれ発言できるとは思えないからです。でも、ひとことだけ。

実は、その後、ネットで検索していたところ、ホテル中央グループの古いHPが残っていて、その中に山田さんが綴ったと思われる文章を見つけました。もしかしたら、彼は現在、ここに書かれている内容とは違う考えを持つに至っているのかもしれないと思いましたが、今回話を聞いて、オーストラリアから戻ってきた当初、彼がこの地域の特殊性をどう受けとめ、ホテルを経営することの意味について何を考えていたか、よくわかる内容だったので、一部転記させてもらいます(もちろんネットでも読めます)。

「西成の街の変貌 
外国人旅行者の増加をきっかけにこの街は変わるのか
街を変える為に何をするべきか           

ドヤ街からヤド街へ

自己紹介
2004年よりこの仕事に携わる事に成った。代々簡易宿所を経営し私で5代目に成るらしい。生まれた時よりこの仕事をする運命だったのかもしれない。
当時27歳だった私はこの仕事を始める時にある野望を胸に抱いていた。

「西成のあいりん地域を変えてやる」
「日雇い労働者の街から外国人旅行者の集まる街へ」
「ドヤ街からヤド(宿)街へ」

ドヤとは簡易宿泊所のことで、宿(やど)を「人がすむところではない」と自嘲的に逆さまに読んだのが始まりといわれる。このような差別的な言葉である。

ドヤをヤドへ。労働者の街から旅行者の街へ。西成で一番マイナスイメージに成ってるあいりん地域(新今宮周辺地域)を西成一の街へ。
これが私の一生の夢であり実行していかなければ成らない事である。

中央グループ
専務取締役 山田英範」

山田さんの当時の「野望」については、同じサイトの以下の文章の中でより具体的に述べられています。

第一章 あいりん地域をカオサンの様な街へ
http://www.chuo-group.com/No1.html

第一章-3 私もバックパッカーでした
http://www.chuo-group.com/no1-3.html

第一章-4 来山南館のスタッフの一人としてデビュー
http://www.chuo-group.com/No1-4.html

先日、ホテルのロビーで山田さんに話を聞いたとき、こうした彼の思いや地域の事情についてぼくは十分理解していなかったので、最後に「今後の展望をどうお考えか」というようなずいぶんお気楽な質問をしていました。そのとき、彼はこう答えています。

「ここがアジアの安宿街のようになる必要はないと思う。実は、大阪市では西成特区構想と称してまちを活性化するためのプロジェクトを立ち上げているのですが、ぼくに言わせれば、橋本市長、西成の観光地化はいいから、Wifiだけ飛ばしてくれ! そう言いたいですね」。

彼はかつての「野望」を口にしませんでした。繰り返しますが、このときぼくは西成の観光地化プロジェクトについても、まったく知りませんでしたから、彼の発言の真意を理解していたとはいえません。彼はこう付け加えました。

「観光地化というけれど、本当に旅行者が求めているものは、旅をした人間しかわからないところがある。その意味で、いま西成にいちばん必要なことがあるとすれば、施設でもイベントでもなく、Wifiなんですよ」。

大阪市の進める西成特区構想の概要については以下から参照できます。これを読むと、この地域で起きていることの一端を知ることができるのと同時に、彼のことばの背後に感じられる行政の取り組みに対するどこか冷めた感じも、納得したくなるような思いがしました。

大阪市「西成特区構想」
http://www.city.osaka.lg.jp/nishinari/page/0000168733.html

西成特区構想プロジェクト
http://www.city.osaka.lg.jp/nishinari/category/2389-4-0-0-0.html

西成特区構想プロジェクト「観光振興専門部会」
http://www.city.osaka.lg.jp/nishinari/cmsfiles/contents/0000168/168733/25kanko.pdf

第1回あいりん地域のまちづくり検討会議
https://www.youtube.com/watch?v=cdb9NT4pBcQ&feature=youtu.be
なかでも怒号の飛び交うこのYOU TUBEの動画は印象的でした。
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結局、ぼくはこの宿に2泊して、ホテルの周辺をずいぶん歩くことができました。

動物園前商店街というのが近くにあるのですが、ちょっとした異次元トリップ感がありました。実際、若い外国人旅行者たちが一眼レフ片手にシャッター通り化の進むこの商店街を歩く姿を見かけました。彼らにも魅かれる何かがあるに違いありません。
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訪日外国人旅行者の国籍はさまざまで、目的や旅行スタイルなど千差万別です。なかでもバックパッカーのような、なるべくお金をかけずに長期で旅する外国人たちを吸い寄せる安宿が集中する地区は、世界中至るところにあります。そうした安宿の必要性や楽しさを身をもって理解している元旅人たちが始めた取り組みをみると、ぼくは諸手を挙げて支持したくなります。

外国人旅行者が増えることで、このまちが蘇るなどとは簡単にはいえませんが、山田さんとそのスタッフたちによって、これまで考えてもみなかったまちの変化のタネが蒔かれていくとしたら面白い。その可能性を信じたいと思います。
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ビジネスホテル来山北館
大阪府大阪市西成区太子1-3-3
http://www.chuogroup.jp/kita/ja/
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by sanyo-kansatu | 2015-01-26 12:55 | “参与観察”日誌 | Comments(0)


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