ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2015年 02月 22日

日中の物価が完全に逆転しています(訪日客急増と「爆買い」の背景)

2月上・中旬に上海を訪ねて、強く実感したのは、日中の物価が完全に逆転したことでした。こうしたことは、中国に暮らしている人たちの間では、2年くらい前から徐々に顕在化し、昨秋の急激な円安によって、もう誰もが否定できない常識となってしまっていたようです。
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もちろん、中国は広く、いくつもの国が連邦のようにそれぞれ独自の事情で存在しているというのが実態ですから、中国全土の話をしているわけではありません。ただ少なくとも北京や上海、広州などの大都市圏において、日本に近い水準の衣食住を享受しようとしたら、いまでは2倍近いコストを見積もらなければならないようです。

たとえば、上海人たちが朝の通勤タイムによく手にして歩いているスタバのカフェラテは30元≒600円(いちばん安いショートでも27元≒540円)です。これは日本の2倍近い感覚です。
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※2015年2月12日、外灘にある租界時代の絢爛豪華な建造物に収まっている中国工商銀行で日本円を両替したところ、1元=19.89円(手数料を差し引かれているため、若干レートが悪い)でした。つまり、1万円両替しても500元相当です。正直、焦りました。

上海で暮らす知り合いの日本人に話を聞くと、「こんなに高くちゃ、スタバにはもう行く気がしない」とのこと。そりゃそうでしょう。上海でインフレが進んでいることもあるでしょうが、それ以上に円安が効いています。なにしろいまから2年ほど前、1元≒13円くらいだった頃に比べると、手持ちの人民元が半分近くに減ったように感じられるからです。

なかでも中国の観光施設の入場料のたぐいは高くてびっくりです。今回、わけあって上海市内の観光施設をいくつか覗いてきたのですが、こんな感じです。日本の似た施設の料金と比べてみましょう。

上海動物園 800円(40元)    cf. 上野動物園 600円
上海水族館 3200円(160元)  cf.すみだ水族館 2050円
東宝明珠塔 3200円(160元) 
環球金融中心(通称「上海ヒルズ」)展望台 3600円(180元)
cf.東京スカイツリー 3090円(2060円(展望デッキ当日入場券)+1030円(展望回廊))
※すべて大人一般料金。
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実は、この話を上海に長く暮らす友人のカメラマンにしたところ、撮影のため訪ねた広州タワーの展望台の料金はもっとすごくて、480元(9600円)だそうです。

こういう話はいかにも中国的といえるかもしれません。旅行ができるほど生活にゆとりのある階層からはたんまり取ってもいいだろうというわけですから。それだけ、旅行になんて行きたくても行けない人がたくさんいるんだぞ、という国情の反映とみることもできなくありません。1990年代くらいまでは、外国人料金と人民(自国民)料金を分けていたこともある国(つまり、外国人=リッチ、中国国民=貧乏 と国が認めていた)だったのに、いまや人民料金ですら、周辺国に比べ相当高いというのが実態となっています。

こうした日中の物価の逆転が、中国客が大挙して日本を訪れる大きな理由になっています。彼らにしてみれば、日本は何でも安くてたまらない。この機に日本に行かない手はない。そう考えるのは無理もありません。

この状況に至り、思い出すのが、ぼくが大学の頃に起きた、いわゆる「プラザ合意」(1985年)以降の急激な円高と、それに乗じて海外に遊びに出かけるようになった自分自身も含めた当時の日本人の気分でしょう。なにしろ1980年代前半までは1ドル≒200円台後半だったレートが、85年以降、劇的に変わり、1ドル≒100円台になっていったからです。

当然のように、ぼくは手持ちのドルが、自らの努力は何もともなわないまま増えていく感覚に浮かれていたことを告白しなければなりません。アルバイトで貯めたお金を手にし、海外を数か月間ふらつくというようなことが可能になったものですから、若いだけが取り柄で分別のなかったぼくは、迷うことなくそれを実践してしまうことになります。いまから考えれば、たいした額を手にしていたわけではないのですが、それでも強い円のおかげで、世界中あちこちに飛び回ることができたわけです。

いま中国の人たちは、これに似た感覚を持っているのは間違いありません。これは日本に限らぬ話で、金融緩和は先進国が総じて着手している政策(米国が打ち止めにしたとしても)ですから、中国からみれば、世界中どこでも安く感じられるのです。

もっとも、ひとこと付け加えておくと、中国の国情からいって、すべての物価が日本より高いというわけではありません。地下鉄やバス、そして高速鉄道においても、交通機関の料金は相当(無理して)低く抑えられています。上海の地下鉄の最低区間は3元(60円)です。
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また地方出身者が働いているような食堂では、10元(200円)も出せばお粥やラーメン、ワンタンなどが食べられます。上海人の多くは朝食を自宅で取らないのか、通勤タイムにこうした食堂が繁盛しています。朝マックもあり、日本と同じようなマフィン系+ドリンクのセットメニューがありますが、最も安いのは、ソーセージマフィンと(コーヒーではなく)豆乳のセットが6元(120円)でした。コーヒーとのセットになると、10元を超えるので、日本(200円)より高くなります。ただし、世界の物価比較の指標とされるビッグマックの単品は16元(320円)で日本(370円)より少し安いようです。
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中国は日本の格差問題など話にならないほどの厳しい階層社会ですから、政策的にというだけでなく、民間ビジネスにおいても、低所得者向けの価格設定をなくすわけにはいかないものと思われます。

いずれにせよ、訪日中国客の増加は少なくとも、この夏くらいまでは続くだろうと、中国の旅行関係者も話していました。そして、「爆買い」も同様でしょう。
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by sanyo-kansatu | 2015-02-22 11:03 | “参与観察”日誌 | Comments(2)
Commented by ASAO at 2016-06-01 14:26 x
本文では昨年2月に,中国人爆買いが15年8月まで〜とありますが。16年6月現在(東京吉祥寺在住ですが)爆買いは収まっていないようですね。特定の店舗ではなく,あまねく販売店で見かけるようになり,定番化した感があります。普通に野菜や肉を買って料理し生活する,もっとも安い定食屋でたべる、は、今どんな状況なんでしょうか?
Commented by sanyo-kansatu at 2016-06-01 22:06
ちょうどこの記事を書いた去年の2月頃、上海の旅行関係者と話したとき、この「爆買い」の勢いは、少なくとも夏くらいまでは続くだろうと彼らは言っていたのです。政治によってすべてが決められてしまう中国人の感覚では、先のことは誰にも読めないところがあるからです。実際、今年4月以降、海外での買い物にも高い関税がかけられ、これまでのような面子買いのような大量買いはできなくなるのでは、という話もあります。でも、おっしゃるように、吉祥寺界隈では、いまになっても「爆買い」は収まっていないのですね。特定の店だけでなく、「あまねく販売店」で買い物しているのだとしたら、悪い話ではないですね。ただし、吉祥寺で見かけるのは、中国人だけでなく、台湾や香港の人たちが多いので、若干同じ華人でも行動が違う面があるかもしれません。


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