ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

inbound.exblog.jp
ブログトップ
2015年 02月 23日

中国「新旅游法」は元の木阿弥―キックバックを原資としたツアー造成変わらず

中国の旧正月、春節を迎え、訪日中国客の“爆買い”報道が続きました。

「春節到来 円安好機」(朝日新聞2015年2月19日)

「中華圏で18日から旧正月の「春節休み」が始まった。円安や観光ビザの条件が緩和されたのを追い風に中国などから多くの観光客が日本を訪れ、百貨店やホテルは早くもにぎわっている」

もうそのこと自体は世界的な現象ですし、それほど新奇な話題でもない気がしますが、先日上海の旅行関係者らにヒアリングしたところ、少し気になる話が聞こえてきました。

それは、中国の「新旅游法」がすでに元の木阿弥となっていることです。

中華人民共和国旅游法(新旅游法)は、旅行商品の質向上と消費者保護を主な目的に、旅行業者が低価格でツアーを販売し、オプションや強制的な免税店連れ込みで利益を上げることを禁止するものでした。オプションというのは、ツアー代金をとにかく安く見せるため、旅行中のあらゆる観光アトラクションや食事を極力省き、現地でそのつど追加料金を請求することです。実際、ある時期まで中国人のツアーでは、オプションと称してツアー中に請求される総額がツアー代金と変わらなかったという話があります。オプション支払いをこばんた客がバスから置いてきぼりにされるという信じられないようなこともよく現地のメディアをにぎわしていたものです。

こうしたことから中国の消費者の不満が高まり、訴訟なども頻発したことから、中国政府は旅行業法の改正を打ち出します。しかし、その背景には、「中華民族の自尊心」をことのほか気にする政府が、国内外で不評を買っている自国の海外旅行者および旅行業者のありようを改善することがありました。その実態については、以前書いたことがあります。

ツアーバス運転手は見た! 悲しき中国人団体ツアー
http://inbound.exblog.jp/19743507

せっかく海外各地に送り込んだリッチな中国人たちのふるまいが、自国の名誉につながるどころか、反感と冷笑の対象になっていることに、政府は我慢ができなかったのでしょう。いきなり2013年4月下旬に以下の法令が公布され、半年後の10月1日には施行されました。
b0235153_11244054.jpg

中華人民共和国旅游法(新旅游法)
http://www.cnta.gov.cn/html/2013-4/2013-4-26-8-21-88078.html

なにしろ中国という国は、事前に関連業界へのヒアリングや検討会などほとんどなしに法改正を強制的に執行するものですから、13年夏ごろの中国の旅行業界の人たちは施行後に旅行商品の価格設定をどうすべきか、どこまで徹底した違反業者の取り締まりが行われるかなど、疑心暗鬼でした。

それでも、当時の中国メディアによると、違反した業者への取り締まりやツアー料金「適正化」の結果、ツアー価格の安すぎた韓国への旅客が一時減少した、といった報道も見られました。

中国《旅游法》生效后访韩游客数量锐减一半(2013.10.17)
http://www.ckbiz.net/news/show.php?itemid=3109

確かに、13年秋ごろの現地での関係者へのヒアリングでも「海外ツアー商品の料金の適正化が進む」というコメントが得られていました。

ここでいう「適正化」は、あくまで中国人が考えるものですから、日本から見て必ずしもそうとは思えませんでしたが、訪日ツアーの料金も軒並み「3~4割」アップすると言われていました。

そして、確かに2013年秋から14年の春節くらいまでは、落ちるところまで落ちた訪日ツアー料金は若干の「適正化」がみられました。中国の旅行会社のサイトに載っているツアー商品の料金表をみて、当時ぼくも一応確認していました。

新旅游法の施行で中国団体客はどうなるか?(ツアーバス路駐台数調査 2013年10月)
http://inbound.exblog.jp/21193424/

ところがです。14年の夏ごろになると、すでに日本国内のランドオペレーター関係者から、「新旅游法はもう終わった」という声が聞かれるようになっていました。一時「適正化」したと思われたツアー料金の下落が再び始まったからです。

なぜなのか。今年2月上旬に上海で会った現地の旅行関係者がこうはっきり証言してくれました。

「いま中国の海外旅行客は、旅行会社と2枚の契約書を取り交わします。1枚は旅行申込書、もう1枚は免税店立ち寄りとオプションの内容に関して意義は申し立てないという同意書です。中国の消費者は、免税店の立ち寄りがあってもいいから、ツアーが安いほうがいいと判断したのです。やはり市場に合うものしか存在できないということです」。

現在、中国の旅行会社のサイトをみるかぎり、訪日ツアーの料金は13年当時と変わらない価格帯に下がっています。「元の木阿弥」というのはそういうわけです。

おかげで、オプションを支払わないツアー客を置き去りにしたり、免税店立ち寄りをめぐるガイドと客のトラブルが起きたりというような中国の消費者側の問題はおおむね解消されたのかもしれません。ツアー客は、出発前からそれを承知のうえで、免税店に立ち寄っているからです。

その結果、中国人団体ツアー客の“悲しき”実態は最悪の状況を脱したといえるのかもしれません。そのかわり、免税店からのキックバックを原資にしたツアー構造は温存されてしまったのです。そのしわよせを被るのは、日本側の関係者でしょう。

さらにいえば、同じ問題は日本だけではなく、台湾や韓国など中国の周辺国でも起きています。

中国客が増えても大歓迎といえないのは韓国、台湾でも同じらしい
http://inbound.exblog.jp/23872141/

今年は昨年よりさらに多くの中国客が日本に訪れることが予測されるため、なんらかのかたちでこの問題が明るみに出てくるのでは、という懸念があります。

今度は日本の側がこの問題にきちんと向き合い、状況改善に向けて知恵を絞るべき段階に来ていると思います。
[PR]

by sanyo-kansatu | 2015-02-23 11:32 | “参与観察”日誌 | Comments(0)


<< 上海のデパ地下では日本のお菓子...      日中の物価が完全に逆転していま... >>