2015年 02月 28日

思い出横丁で初めて日本に来た外国人の気持ちを考えてみる

トリップアドバイザーによる新宿区の観光名所の口コミ人気ランキングで、新宿駅西口にある思い出横丁が7位なんだそうです。
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トリップアドバイザー
http://www.tripadvisor.jp

トリップアドバイザーは米国発の世界最大の旅行口コミサイトで、圧倒的に欧米の利用者が多く、5人のうち4人はアジア系旅行者で占める日本の場合、口コミ数と実際に訪問する外国人観光客の数はリンクしているわけではないのですが、欧米の旅行者の好みを理解するうえではそれなりに参考になります。ちなみに新宿区の10位までのランキングは以下のとおりです。

1位 新宿御苑
2位 東京都庁舎
3位 新宿ゴールデン街
4位 神楽坂
5位 明治神宮外苑
6位 明治神宮野球場
7位 思い出横丁
8位 消防博物館
9位 東郷青児美術館
10位 新宿西口カメラ街

このうち新宿ゴールデン街と思い出横丁がいわゆるナイトスポットですが、外国人の書き込みをみるかぎり、前者が夜遅くまでにぎわうバーエリアと認知されているのに対し、後者は「Yakitori Heaven」などの言葉に代表される日本のローカルな情緒を味わう場所とみられているようです。
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実際、思い出横丁の焼き鳥屋には多くの外国人がいます。一部の店では、日本人より外国人の姿のほうが多く見られることもあるほどです。

大半はロンリープラネットのようなガイドブックやトリップアドバイザーのような口コミサイトを見て訪ねてくる日本は初めてという外国人だと思われます。そういう意味では、英語の情報ソースにアクセスできるシンガポール人や香港人、一部のタイ人などのアジア系も含まれます。

なかにはいろんな人がいて、「英国のMCM EXPO」について何やらつぶやきながら思い出横丁を散策し、ビデオを回している外国人もいるようです。MCM EXPOとはロンドンで開催されるコスプレとマンガのイベントです。

MCM EXPO
http://mcmcomiccon.com/london

そんなことを知ったのは、昨年5月に上海で開かれた「動漫美学双年展(ANIMAMIX BIENNALE)」という美術展で、ある英国人アーチストのビデオ作品を観たときです。
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動漫美学双年展(ANIMAMIX BIENNALE)2014.4.12~6.5

その作品は“ANJIN 1600 EDO WONDERPARK”といいます。アーチストは、1976年ロンドン生まれのDavid Blandy。
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David Blandy
1976 Born in London
1995-98 Chelsea College of Art BA (Hons) Sculpture
2001-03 Slade School of Art MA in Fine Art Media

David Blandy
http://davidblandy.co.uk/

ここでいうANJINとは、1600年に日本に漂着した英国の航海士ウィリアム・アダムズ(三浦按針 1564-1620)です。のちに徳川家康に外交顧問として仕えた按針ですが、David Blandyはいまから400年以上前に日本を訪れた英国人にとっていかに当時の江戸がワンダーランドだったか、想像力をふくらませています。わずか8分間ほどの作品で、上記の彼のサイトの「MENU」から「Films」に入ると観ることができます。

これは基本的にアニメーション作品です。奇妙なことに、David Blandy本人らしい英国人青年が『宇宙戦艦ヤマト』の古代進に似た白地に赤のクロスラインの入ったスーツを着て浮世絵の世界を歩いています。彼は江戸時代にタイムスリップして三浦按針になったつもりなのでしょうか。

ところが、途中から場面が急転回し、なぜか『宇宙戦艦ヤマト』の戦闘シーンが挿入されます。まあこういう作品は理屈抜きで観てもらうしかありません。

そして、後半6分40秒頃からエンディングまでの約2分間、彼は新宿の思い出横丁を歩くのです。そのとき彼はロンドンのコスプレイベントを思い出しながら、日本のサブカルチャーや歴史について考察し、何やらぶつぶつ、つぶやいています。
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ちょうどいま来日している英国のウイリアム王子がNHKを訪れ、女優の井上真央さんの隣でかぶとをかぶっておどけてみせるというおとぼけシーンがニュース配信されていましたが、どこかそれに似た脱力感いっぱいの作品です。

でも、おそらく日本を初めて訪ねた欧米の外国人の多くに共通する心の動きとはこういうものではないでしょうか。

目の前に広がる現代日本の風景の中から、日本に関する知識を頭の中で総動員させながら、知っているものならそれを参照してみる。一方、知らないものに出くわすと、それを理解する手がかりとして、近代以降の日本に大きな影響を与えてきたとされる欧米カルチャーに似た断片を見つけて、そこから類推しようとそっと拾い上げてみるものの、そこには本来持っていたはずの文脈は断たれてしまっているよう…。独自に日本で変容して現在に至ったであろう姿かたちは自分たちの理解をはるかに越えており、ついにお手上げとなってしまう。それはおかしいような、面白いような、不思議なことであり、彼らにとって現代日本におけるワンダーランド体験なのではないでしょうか。思い出横丁はなぜか、そんな象徴的なスポットのひとつとして選ばれているようなのです。

こんな話もあります。いまの思い出横丁の焼き鳥屋の多くは、中国人が切り盛りしているのが実態です。日本人経営の店は少なく、わざわざ日本の国旗を店先に張り出している店もあるほどです。
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そんなフェイクそのものともいうべき現実もそうですし、場所が新宿の高層ビル街に近いことから、思い出横丁は映画『ブレードランナー』の世界みたいに見えたりしないのかな、と思ったりもするのですが、トリップアドバイザーにはそのような書き込みはいまのところ見当たりません。

この作品を観てからというもの、ぼくは思い出横丁のそばを通るたび、初めて日本に来た外国人の気持ちを想像するようになりました。なるべく彼らの疑問やアメージングに感じるもろもろを説明し、納得させてあげたくなります。簡単じゃないですけど。

さて、David Blandyの作品が出展されていた「動漫美学双年展(ANIMAMIX BIENNALE)」が開かれた上海当代芸術館についてひとこと。そこは上海の人民公園の中にひっそりたたずむユニークなアートスポットです。

上海当代芸術館 
http://www.mocashanghai.org/

「アニマミックス(Animamix、動漫美学)」というのは、アニメーションとコミックを合わせたコンセプトで、上海当代芸術館のクリエイティブディレクターで、この美術展のキュレーターのビクトリア・ルー(Victoria Lu)による造語です。台湾出身の彼女は、アジアの現代アートに日本のアニメやマンガの影響が著しく見られることから、この新しい美術傾向を表現する言葉として2006年に「アニマミックス」を提起しています。

「動漫美学双年展(ANIMAMIX BIENNALE)」は、2年に1度、上海(上海当代芸術館)や北京(今日美術館)、台北(台北当代芸術館)、広州(広東美術館)で同時開催または巡回される美術展です。世界中のアーティストの作品が出展されていますが、その多くはアニメやマンガと共に育った1970年代~80年代生まれの若手で、日本人アーティストもいます。

かれこれ10年近く前のことですが、ぼくは彼女に会ってインタビューしたことがあります。

アニメ美術展で中国を変える「出戻り上海人」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/person/20061201/114780/
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by sanyo-kansatu | 2015-02-28 16:44 | 東京インバウンド・スポット | Comments(0)


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