2015年 03月 17日

中国のダンス(広場舞)おばさんと改革開放30年の人生に関する考察

今朝の朝日新聞の「国際」欄に以下の記事が掲載されていました。
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中国の広場舞、騒音深刻 夜にダンス、住民とトラブル
http://www.asahi.com/articles/ASH3J5D82H3JUHBI01L.html

「中国の中高年女性の間で、楽しみながら健康づくりができるとして人気を集める「広場舞(広場ダンス)」が、社会問題になっている。毎晩のように音響機器を持ち込んで踊りまくる女性たちと、騒音に悩まされる近隣住民とのトラブルが絶えないのだ。話し合いでは解決できず、規制条例を定める動きまで出始めた」(朝日新聞2015年3月17日)

同紙によると、広場舞とはこういうものです。

「中国各地の公園や広場で音楽に合わせて踊るダンスの総称。健康維持やダイエットを気にする中高年女性の間で絶大な人気がある。特に決まった形式はなく、農村に伝わる伝統的な踊りから、社交ダンスやジャズダンス、少数民族風のものまで様々で、個人が好みのグループに入って踊る。参加費用は無料か少額。由来は諸説あるが、1980年代以降に各地で広場が整備されるようになり、広まったとも言われている」。

中国に住んでいる人、最近行ったことのある人なら、公園や広場で興じられる一群のダンスおばさんたちの姿を一度は見かけたことがあるのではないでしょうか。ぼくは、中国の東北三省でしか見たことはありませんでしたが、どうやらそんなローカルな流行ではなく、全国的な規模で繰り広げられているのが、おばさんたちの広場舞のようです。
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これは中国黒龍江省牡丹江市にある江浜公園で見かけた広場舞のグループです。
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なんだかかわいくないですか。おばさんたちがスカートを翻し、真剣に踊っている姿は微笑ましくさえあり、これを怒鳴りつける輩の気持ちは理解できません。
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踊っているのは30~60代の女性ですが、たまにおじさんや子供が交じっていることもあります。たいていは「仕事や家事を終えて、家で夕飯を食べた後に集まってくる」ということで、夕暮れどきに出くわすことが確かに多いですが、実際には昼間から楽しんでいるグループもよく見かけます。
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広場には、1938年に満州国の軍隊に抵抗して追い詰められ、牡丹江に身を投じたとされる若い女性たちの像(八女投江記念像)が立っています。その先には、牡丹江がのどかに流れています。
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こちらは同じく黒龍江省綏芬河の広場です。ここはロシアとの国境のまちで、ロシア語の看板があふれています。特注でコスプレ風の衣装を揃えているように、かなり気合が入っています。どのグループにもリーダーがいて、音楽の選曲はもちろん、自ら習得したダンスをみんなに教えるそうです。全国各地にカリスマ的な師匠がいて、たいていどのリーダーもその師匠に踊りを習いに行き、ひととおりマスターしたら、地元に戻って仲間に教えるといいます。各地でコンクールもあって、みんなで精進し合うようです。いってみれば、中国おばさん版「ダンス甲子園」のような世界なのです。
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暇に飽かせて撮った動画もこのさい載せてしまいましょう。

黒龍江省牡丹江 江浜公園の広場舞(2014.7)
http://youtu.be/FdnhLssfSIc

黒龍江省綏芬河 中心広場の広場舞 昼間(2014.7)
http://youtu.be/alQOh-8AUvw

黒龍江省綏芬河 中心広場の広場舞 夕方(2014.7)
http://youtu.be/FDF6nLVH2Cs

それにしても、この朝日の記事、反日姿勢を隠さなくなったいまの中国(の為政者といっておきましょう)を好意的に見ることが難しくなった昨今、中国の民間事情を理解するネタとして繰り出された苦肉の策のはずだった、という気がしないでもありません。中国に駐在している者なら誰でも知っているであろう広場舞を、いつか記事にしたいと考えていたのでしょうけれど、そんなほのぼのしたネタでは東京のデスクに取り上げてもらえそうもない。

ところが、このところ各地で「近隣とのトラブル多発」し、「社会問題」が顕在化してきた。「おばさんたちが踊っている最中に何者かによってパチンコ玉を撃ち込まれた」り、「北京では2013年8月、苦情を聞き入れられなかった56歳の住民が激怒。不法所持していた猟銃を持ち出して空に向かって威嚇射撃した上、踊っている人たちに向かって飼っていたチベット犬を放ち、刑事事件に発展」という、何やら物騒な話になってきたことで、この記事はようやく取り上げられるに至ったのではないか。

海外の3面記事にすぎないネタを日本の全国紙の「国際版」で取り上げるには、それ相応の理由が求められるのでしょう。同紙は「広場舞」問題の背景として中国の大学教授の以下のコメントを採りあげ、こう解説しています。

「広場舞のグループと周辺住民の対立の背景には、急速な都市化のひずみがある。中国では、都市部の住宅問題は解消しつつあるが、公共スペースが圧倒的に不足している。みんなで余暇を楽しむことも必要なのに、開発業者が町づくりを主導する現状では、住宅以外は商業施設しかない状態だ。住民は広場や公園に行ってダンスや歌を楽しむしかない。

双方で話し合い、音量を絞ったり、時間を限ったりという取り決めをすることもある程度は有効だが、根本的な解決にはならない。政府が都市計画の中で、みんなでサークル活動を楽しめる公共の場所を設けていくことが必要だ。こうした場所がない既存のコミュニティーでも、政府が一定のスペースを買い取って住民に提供する方法もある。

いきなり罰金を科すようなやり方は解決にはつながらないだろう。庶民にだって自由に歌ったり、踊ったりする権利はある。強制的な手段は、そういう場所を提供し、ふさわしい規則を設けた上で実施すべきだ」(「急速な都市化のひずみ 背景」中国人民大学公共管理学院 楊宏山教授(公共政策))

まあそりゃそういうもんでしょうけれど、これではよくある紋切り型の現代中国批評にすぎない気がします。確かに、日本であれば、この世代のおばさんたちは近所のジムに通ってエアロビクスをやっていることでしょう。一方、中国では庶民が手ごろな料金で利用できるジムなどの施設が普及していない。あるとしても、その手の施設は日本よりはるかに高額な会員制しかない。だから、「政府が一定のスペースを買い取って住民に提供」すべき、というような話になるのかもしれません。でも、「ひずみ」だなんていまさらそんなこと、これに限らず社会のあらゆる面で見られるのが中国です。

ぼくはダンスおばさん軍団を横目で見ながら、心の中でこうつぶやいていました。「なんでみんな踊りたいのだろう? きっと太極拳は古臭くてやりたくなかったんだな。やっぱりみんなが見ている広場で踊るんだから、おしゃれもしたいんじゃないかな…」。

いまでも中国では早朝に太極拳を楽しむおじいさん、おばあさんの姿を見かけますが、すでに広場の主役はダンスおばさんです。広場をめぐる世代交代はほぼ完了しているのです。

なにしろこの世代、中国の年代別人口構成の最大ボリュームゾーン。幼少期から青年期にかけては文化大革命のさなかで、社会主義と改革開放30年を生きてきた人たちです。紅衛兵世代といってもいい年代も含まれています。

また一方で、ダンスおばさんたちを見ていると、安い団体ツアーで日本にやって来る、あの“爆買い”中国人に似ているように思えてきます。実際、この世代の誰でも日本に来られるわけではありませんが、訪日団体客のメイン層であることは確か。

広場舞は、海外旅行に出かけられるほど豊かになった改革開放後の30年を生きてきた中国人にとって自分たちの人生とは何だったのか、という問いを改めて考えるうえで格好の題材のように思います。

この点について、中国でどのような議論がなされているのか、百度などで検索してみるのですが、基本的にネット世代をメインの読者とするせいか、もうひとつよくわかりません。いっそのこと、「ダンスおばさん100人に聞きました」的なインタビューを試みてみるのも面白いかもしれません。この30年間、彼女たちは何を考え、どう生きてきたのか。それぞれの個人ヒストリーを聞いたら、何を語り出すのでしょうか。こういうアプローチは、まさに中国のドキュメンタリー映像作家たちの得意とするところでしょう。

リアルチャイナ:中国独立映画
http://inbound.exblog.jp/i29/

少なくとも、前述の朝日の記事のように、大学の先生が上から目線で「庶民の権利」や政府の役割を論じている限りでは、中国庶民の実像には迫れないように思われます。中国が深刻な問題を抱えていないのでなければ納得しないというような姿勢、あるいは書きぶり。まあ気持ちはわからないではないですが、中国の市井の人たちがいま自分たちの人生や社会をどう認識しているのか。それが肯定であれ否定であれ、その心情をじっくり探ってみることは今日の中国理解にとって重要だと思います。

それに、この広場舞、ダンスおばさんに代わる世代交代も始まろうとしています。

彼女たちの子ども世代の「広場舞」はこうです。これも場所は牡丹江。中国の片田舎ですが、明らかにダンスおばさんとは目指すもの、ダンスに賭ける思いは違うようです。

中国「四線」級地方都市の夏の風物詩、広場に繰り出す若者たち(黒龍江省牡丹江市)
http://inbound.exblog.jp/23931622/

そもそも中国のおばさんや若者は、なぜ広場で踊るのか? どんな欲望にかられ、何を表現しようとしているのか? 彼女らのダンスに込められている何かは、いまの中国の庶民の内面が映し出されているに違いないという意味で、広場舞は研究に値する現象だと思います。

「社会問題」化されているという中国のおばさんたちのささやかな楽しみが今後どうなっていくのか。いつか彼女たちに話を聞いてみたいと思います。
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by sanyo-kansatu | 2015-03-17 10:43 | のんしゃらん中国論 | Comments(0)


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