ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2015年 03月 27日

訪日客増加で客室も足りない!?  多様化する宿泊ニーズに対応した新サービスや業態転換はどこまで進むか

今日の朝刊で以下の記事が報じられていました。

国内宿泊客最多4.7億人、14年外国人33%増(朝日新聞2015年3月27日)
http://www.asahi.com/articles/ASH3V4W9BH3VULFA01B.html

一昨日、やまとごころのサイトに寄稿したのが、ちょうどこのテーマでした。以下、全文を掲載します。

http://www.yamatogokoro.jp/report/2015/report_11.html

訪日外国人数が1300万人(2014年:1341万人)を突破し、全国の観光地や都市部で外国人旅行者の姿をよく見かけるようになった。

なかでも東京や大阪など大都市圏のホテルは客室稼働率が上昇。外国客の国内手配を担当するインバウンド関係者からは、春と秋の繁忙期には各国の訪日ツアー客の受入を断念しなければならない事態が常態化しているとの声が聞こえてくる。

政府は2020年までに訪日外国人2000万人の目標を掲げるが、都内の旅館やホテルの客室数は現在約14万室。訪日2000万人時代には「1万室が不足する」(JTB総合研究所)といわれる。

早くもこの時点で訪日を希望する外国客の受入をお断りしているようでは、達成は難しい。昨年、本レポートで指摘したツアーバスの不足問題とともに、客室不足も今後の訪日旅行市場の成長にとって大きな懸念材料になっている。

ホテルの客室不足は2020年まで続く!?

2014年の国内ホテルの客室稼働率は好調だった。だが、都市別にみると地域差がみてとれる。前年比で大きく伸ばしたのは、ともに3.0%増の大阪(88.9 %)や沖縄(77.3%)だが、名古屋のように0.7%減(84.0%)の都市もあるのだ。通年で86.0%と高い稼働率で推移する東京も、8月以降は前年度を下回る月が多かった。

売り手市場となったことからホテルの客室単価が上昇している影響が考えられる。海外の旅行会社からは「都心のホテルは予約がただでさえ入らないうえ、高くなった」という恨み節が聞かれる。客室を押さえられないため、ツアー催行を断念するケースも増えているからだ。低価格で大量送客するビジネスモデルの団体ツアーでは、都内の宿泊施設を避け、近隣県にシフトしているのだ。「東京はホテルが取りにくい」という風評の広がりは気になるところだ。

こんな指摘もある。ある上海の旅行関係者は「20年まで日本のホテル不足は続くだろう」と観念しているという。なぜなら、都内の客室供給は今後それなりに増えるだろうが、五輪後の需要の落ち込みをふまえ、日本の開発業者は慎重だからだ。上海万博(10年)前のホテル開業ラッシュで、中国の高級ホテルは軒並み客室稼働率の低下に悩んでいる。日本側が上海を反面教師にするのは当然だと彼らはみているのである。

もっとも、訪日外国客の宿泊実態はさまざまだ。全体の5人のうち4人を占めるアジア系、すでにFIT化している成熟市場の欧米系、富裕層から訪日客のボリュームゾーンであるミドルクラス層、さらにはお金をなるべくかけずに旅行を楽しむバジェットトラベラー層に至るまで、国籍や階層、年代別に異なるその実態は多様化している。

問題は単に客室不足だけではないのだ。多様化する宿泊ニーズへの適切な対応こそが求められている。

これは新規ビジネス創出のチャンスである。以下、この喫緊の課題に応えるべく、国内で生まれつつある新しい宿泊サービスや業態転換などのユニークな動きをみていきたい。

都内のホテル地区が可視化してきた

2014年12月、ラグジュアリーリゾートの代名詞であるアマンリゾーツによる「アマン東京」が大手町タワー(千代田区)に一部営業を開始した。国際的に評価の高い同グループが手がける初の都市型ホテルだけに、巨大な和紙で覆われたガーデンレセプションなど、日本の伝統素材が使われた館内の優雅な意匠の数々は、海外からも注目されている。
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アマン東京 http://luxury-collection.jp/hotel/Amantokyo/

一般に外資系ラグジュアリーホテルは、物件を所有せず、運営に特化する経営スタイルを採用。都心の再開発の目玉である超高層複合ビルの上層階に入居し、客室数を絞り込んでいることが特徴だ。アマン東京は84室。客室数だけみれば一般のビジネスホテル並みで、今日急増する訪日外国客の客室不足の解消には必ずしもつながらない。

富裕層向けの外資系ラグジュアリーホテルの動向は華やかな話題性があるものの、訪日外国客のボリュームゾーンを占めるのは、やはりミドルクラスの旅行者である。こうした我々日本の一般国民の感覚に近い外国客が利用する宿泊施設の集まる地区が近年、都内に現れている。これは欧米やアジアのインバウンド先進都市にはほぼ見られることで、東京でも遅ればせながら可視化してきたといえる。

現在、都内の主なホテル地区は、新宿や銀座、品川、上野、浅草などだろう。これらの地区は、外資系ラグジュアリーホテルが集中する東京駅周辺(八重洲、丸の内、日本橋など)や六本木とは明らかに街の景観が異なっている。エリアによって宿泊施設のタイプや旅行者の層も色合いが違う。同じ地区の中に、欧米やアジアの個人客、ビジネス客が利用するシティホテルと、一般レジャー客のための宿泊特化型ホテルチェーンやビジネスホテルが混在していることも多い。最近では、若いバジェットトラベラー向けのゲストハウスが増えている浅草から隅田川沿いのようなエリアもある。

気がついたらまわりに外国人が……東新宿は外客FITゾーンに変貌中

新宿は1970年代に開発された西新宿のホテル地区が広く知られているが、近年JR山手線をはさんだ内側の東新宿にある手ごろな価格帯のビジネスホテルを利用する外国客が増えている。主に欧米からの個人レジャー客だ。この地区のホテルは以前、地方からの出張客やレジャー客が主に利用していたが、外国客もそれに加わりつつあるのだ。円安の影響で50米ドルを切る価格帯のホテルも多いことから、いまや東新宿は外客FITゾーンになっている。
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なかでもこの地区では老舗の「東京ビジネスホテル」は外国客比率の高いことで知られる。関係者によると「うちは昔から欧米客が多い。口コミで訪ねてくる方ばかり。西新宿のホテルに比べると宿泊料金は半分(1泊4100円~)だから、長期滞在される方が多い。うちを拠点に箱根や京都に行ってこられる方もいる」という。シンプルなホテル名が外国客にわかりやすいことも大きいようだ。

フロントサービスもチェックイン・アウトの手続きなど簡略なもので、西新宿のシティホテルのようなコンシェルジェ機能は特にない。施設や客室も決して新しいとは言えない。それでも、コストパフォーマンスを重視する宿泊客には問題ないようだ。彼らは自らネットを活用し、東京滞在を楽しんでいる。
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東京ビジネスホテル http://tbh.co.jp/

最近、東新宿ではアジアからの個人客も増えている。香港や東南アジアから来た若い旅行者が、新宿3丁目や東新宿の地下鉄駅から重いスーツケースを引きずり、ガラガラ音をたてながらホテルに向かって歩いている。都心に位置しながら閑静な住宅街だった東新宿の住人からすると、気がついたらまわりに外国人がいっぱい、という現象が起きているのだ。

東新宿は、明治通りをはさんで歌舞伎町や伊勢丹があり、東京を代表する繁華街に近いという絶好のロケーションでもある。交通の便もよく、東京滞在をリーズナブルに楽しむには好都合の場所なのだ。直近の話題としては、歌舞伎町のコマ劇場跡地に15年4月に開業する「ホテルグレイスリー新宿」がある。最上階の30階にゴジラの世界を体感できる客室を設けているという。すでに巨大なゴジラの頭部はお目見えし、「アジア最大の歓楽街」で異彩を放っている。海外で圧倒的な知名度を誇る歌舞伎町に立地していることから、外国客の人気を呼ぶことだろう。
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ホテルグレイスリー新宿 http://gracery.com/shinjuku/

サービス付き賃貸など新種の宿泊形態も

ここ数年、全国展開する宿泊特化型ホテルチェーンが都心に続々進出している。たとえば、東新宿には「アパホテル」がすでに3軒開業しているが、これは新宿に限った話ではない。共立メンテナンスは2015年4月アジア客に人気の上野御徒町に「ドーミイン」を開業する。またダイワロイヤルは17年春に東京五輪会場に近い有明エリアにビジネスホテル「ダイワロイネット」を開業予定だ。これらのホテルチェーンは、地方ではアジアからの団体客の受け皿となっているが、大都市圏では急増する個人客の動線をふまえた出店となっている。

ドーミイン http://www.hotespa.net/dormyinn/
ダイワロイネット http://www.daiwaroynet.jp/

新しい宿泊サービスも登場している。

たとえば、銀座では新タイプの国内ビジネスホテルチェーンの進出ラッシュが起きている。14年12月に三井不動産が東銀座に「ミレニアム三井ガーデンホテル」を開業。15年春には京浜急行電鉄も東銀座に「京急EXイン」、16年秋には相鉄ホールディングスが「相鉄フレッサイン」を新橋に2ヵ所新設する。これらのホテルはサービスの効率化を進めた従来の宿泊特化型とは違い、外国客やカップルの利用を想定。客室の約7割はダブルベッドにしたり、英語や中国語のスタッフを配備したりしているのが特徴だ。

ミレニアム三井ガーデンホテル http://www.gardenhotels.co.jp/millennium-tokyo/
京急EXイン http://www.keikyu-exinn.co.jp/

相鉄フレッサイン http://fresa-inn.jp/


ホテルのようなサービスを受けながら長期滞在できるサービス賃貸(高級サービスアパートメント)も増えそうだ。

東急リロケーションは16年春に部屋に乾燥機やミニキッチンを備える中長期滞在用の「東急ステイ銀座」を開業予定だ。グローバル企業で働くビジネスマンや観光客などの取り込みを図る。

東急ステイ http://www.tokyustay.co.jp/

サービス付き賃貸は、海外駐在や長期出張の経験のある人なら利用したことがあるだろう。アジアの主要都市では、ホテルに併設されるケースが多い。家具や家電製品は備え付けで、ホテルに比べて割安な料金で毎日の清掃やリネン交換などのサービスが受けられる。滞在日数にもよるが、敷金や礼金が不要で煩わしい手続きがない点も人気の理由だ。コンシェルジュサービスを提供する施設も多い。

日本では海外に比べ普及が遅れていたが、17年にはシンガポールのリゾートホテルチェーンのバンヤンツリーがサービスアパートメントの進出を予定している。

京都や大阪でも外資進出が活発化

外資系ラグジュアリーホテルの進出は京都でも起きている。2014年2月、「ザ・リッツ・カールトン京都」が開業。古都の景観を守るため、地下2階まで掘り下げてレストランや宴会場を配置した。料金は1泊6万5000円からという。また15年春には米スターウッドグループの最高級ブランド「翠嵐 ラグジュアリーコレクションホテル 京都」が開業する。

ザ・リッツ・カールトン京都 http://www.ritzcarlton-kyoto.jp/
翠嵐 ラグジュアリーコレクションホテル 京都 http://www.suirankyoto.com/

京都は盆地で、1200年以上の歴史遺産も多く、大規模再開発によるホテル建設に適した土地を見つけるのは難しいといわれていた。これまで修学旅行などの団体客を多く受け入れていたが、少子化の影響で国内需要は限界がある。一方、外国客は増加基調にある。

米国の旅行雑誌「トラベル+レジャー」が14年7月発表した世界の人気観光都市ランキングで、京都市が初めて1位となった。同誌は北米の富裕層を中心に読まれる月刊誌で、発行部数は約100万部。ランキングは風景や文化・芸術、食などの項目の総合評価で決まる。京都市を13年訪れた観光客数は5162万人、外国人宿泊客数は113万人と過去最高だった。

こうしたことから、行政も世界の富裕層の力で京都を活性化しようと規制緩和や特例措置で外資の誘致を後押ししている。16年に開業予定の「フォーシーズンホテル京都」は現在、東山地区の病院跡地に建設中だ。当初は隣に京都女子高校があったため、ホテル建設は認められていなかったが、例外規定で進出が実現した。

ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の人気で、大阪のホテル競争も激しくなっている。14年7月の人気映画『ハリー・ポッター』をテーマにした新エリアの開設で、夏のUSJの入場券予約は前年比6倍増。同社と提携するホテルは利用者が大幅に増えている。

14年に関西国際空港を利用する外国客が630 万人(前年比136%増)と3 年連続で前年を上回り、過去最高となっている。背景には、関空に乗り入れる国際旅客便に占めるLCC比率が22.4%(14年冬季:週174便)に上昇、国際線の発着回数が過去最高になったことがある。関空と伊丹空港を合わせた14年度上期(4月1日~9月30日)の訪日外国客も、初めて日本出国者を上回るなど、関西の訪日旅行市場は全国や関東平均を上回るペースで拡大している。

簡易宿が外客向けホテルに業態転換

実際、2014年の大阪の客室稼働率は88.9 %(前年比3.0%増)と東京より高かった。それだけホテルの客室不足も深刻である。

JR大阪環状線今宮駅を降りると、通りをはさんで住人とまちの雰囲気が一変する地区がある。大阪のドヤ街として知られる西成区あいりん地域だ。その一角に「ビジネスホテル来山北館」がある。外観は普通のビジネスホテルだが、1泊シングルで2500円と格安。風呂やトイレは共用だが、全室Wifi完備。ロビーには共用キッチンがあり、気軽に利用できる。LCCを利用する海外のバジェットトラベラーのニーズにぴったりの宿泊施設である。
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ビジネスホテル来山北館 http://www.chuogroup.jp/kita/ja/

ホテルの立地には西成区あいりん地域という特殊性がある。山田英範取締役によると、同ホテルはかつて労働者のための簡易宿泊所だった。ところが、バブル崩壊以降、労働者を取り巻く環境が変わり、宿泊客が激減したという。2004年、父親から家業を引き継いだ彼は、外国客向けの宿泊施設に業態転換を始める。まず着手したのは、HPの多言語化だった。さらに、宿泊客が自由に利用できるロビーの改修を進めると、HPを見た外国客が訪れるようになった。「宿泊客のうち日本人と外国人の割合は半々。時期にもよるが、韓国3~4割、中国・台湾・香港3~4割、タイ2割、欧米2割」とのことだ。

同じような簡易宿から外客向けホテルへの業態転換は、東京山谷地区(台東、荒川区)でも起きている。

ホテル市場を活性化する海外予約サイト

こうした多様な宿泊施設と外国客を直接結びつけているのが、海外から参入するホテル予約サイトである。予約サイトはいま、日本のホテル市場を大きく変えつつある。訪日客の増加にともない、海外からのネット予約が増えているからだ。

国内ではどんなに無名の宿泊施設でも、予約サイトのプラットフォームの上では、見せ方次第で外国客の目に留まる可能性がある。東新宿の老舗ビジネスホテルの「ホテルたてしな」の関係者も「昔は国内客がメインだったが、いまでは閑散期は外国客のほうが多くなる。海外からの予約はExpediaなどを使ったネット予約が大半だ」と語る。

これは高級外資ホテルからゲストハウスに至るまで事情は共通している。ホテル予約サイトが国内の宿泊施設の業態転換や新種のサービスの創出を後押し、市場の活性化を促しているのだ。

ラブホテルの外客向け活用も

これまでみてきた宿泊施設の関係者の話に共通するひとつの指摘がある。外国客には固定観念はない、ということだ。

興味深い話がある。客室不足に悩む大阪市は2014年、外客向けにラブホテルの活用を検討。「交通の要所である京橋や天王寺などのラブホテル街を対象に、フロント拡幅などの設備更新に補助金を出して業態転換を促せないか模索」(朝日新聞2014年8月4日 大阪版)したという。

ところが、関係者によると「進展はなかった」という。ラブホテルは小規模経営者が多く、新規施設の投資や多言語化の対応などに難があるためだ。

こうしたなか、清潔でくつろげる客室やカラオケ、ジャグジーバスなどのエンターテインメント設備を備えたレジャーホテル(ファッションホテル、ブティックホテルともいう)の中に、外国客の受入に取り組む施設が現れている。

関西を中心に47軒のチェーン展開を広げる「ホテルファイン」では、11年からHPを立ち上げ、ネット予約を開始した。ウォークインが基本のこの種のホテルで、予約を受け付けることは機会損失につながりかねないため、賭けでもあった。

翌年、海外のホテル予約サイトから問い合わせがあり、登録を決めるとすぐに海外からの予約が入るようになった。同ホテルの関係者は「外国客には日本人のような固定観念はない。単純に価格とスペック、サービス内容で宿選びをする。その点、レジャーホテルは客室が広く、ファミリー利用にも適している。日本が得意とするハイテク設備もある。それが優位に働くようだ」と語る。

日本の若いカップルと海外のファミリー客がフロントの前で鉢合わせするところを思い浮かべると苦笑してしまうが、この3年間外国客数は順調に伸び続けているという。
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ホテルファイン http://www.hotel-fine.co.jp/

都内のインバウンド関係者によると、新宿歌舞伎町でもラブホテルを利用する外国客が増えているという。先にみた簡易宿のケースもそうだが、既存の施設の業態転換はこれからの訪日旅行市場の拡大のためには不可欠かつ有効な取り組みといえるだろう。
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新宿歌舞伎町でも外国客のラブホテル利用されている

客室不足が顕在化するなか、この状況を打開するには、個別多様化した訪日客のニーズに即した施設やサービスをどれだけ提供できるかにかかっている。通念にとらわれない発想による新しい取り組みはすでに始まっている。すべては外国客のニーズをどこまで細かく捕捉できるかにかかっている。
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by sanyo-kansatu | 2015-03-27 14:54 | 最新インバウンド・レポート | Comments(0)


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