ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

inbound.exblog.jp
ブログトップ
2015年 04月 01日

台湾で売れてる日本のドラッグストア購入ガイドが面白い

今年2月、上海の書店で偶然著作を手にしたことで知り合うことになった台湾のドラッグストア研究家の鄭世彬さんと、3月上旬、都内某所でお会いしました。

台湾のドラッグストア研究家、鄭世彬さんと知り合う
http://inbound.exblog.jp/24182824/

彼は台湾で日本の医薬品や美容商品、化粧品などに関する8冊の著作をすでに上梓しています。その一部は中国の出版社が版権を買い、簡体字版として出版されています。

その日、ぼくは彼の泊まっているホテルのそばの喫茶店で話を聞くことになりました。こちらは、事前にメールでやり取りした「どうして『东京美妆品购物全书(東京コスメショッピング全書)』(中国軽工業出版社 2014年)のような本を書くに至ったか」について、もう少し詳しくおうかがいしようと思っていたのですが、彼は自分の少年時代の話を始めました。

彼は1980年台南市生まれの台湾人です。彼の話からは、台湾の人たちの日本に対する想いが伝わってくるので、少々おつきあいください。

日本語との出会いと挫折

―あらためて鄭さんが日本の医薬品や化粧品の本を書くに至った経緯を教えてください。

「子供の頃からぼくは数学が苦手で、そもそも勉強があまり好きではありませんでした。でも、父は伝統的な考え方を持つ人で、男は手に技術をつけるようにと高専に進学させられました。一方、4歳年上の姉は日本語を勉強していました。父に言わせると、語学は女がやるものだ、というんです。

ぼくが小学校高学年の頃のある日、姉の机の上に置いてあった日本語の学習テキストを見つけました。本を開いてみると、漢字と一緒に並んでいたひらがなやカタカナのかたちがとてもきれいだな、と思ったんです。これがぼくの日本語との出会いでした。それ以後、ぼくは姉の本を勝手に持ち出し、意味もわからず眺めていたんです。

高専に通う頃から、ぼくは日本語の独学を始めました。4年生のとき、どうしても日本語を専門的に学びたいという思いがやまず、高専を中退しました。そして、高雄にある短期大学の日本語学科で、日本語を学ぶことになります。以来、父とは自分の進路をめぐって口論が絶えない日が続いています。

その後、1年間軍隊に行ってから大学院に進学しました。その頃から、短大時代の友人の勤める出版社で日本のマンガなどの翻訳のアルバイトを始めました。

2005年に大学院を修了。そのとき、初めて厳しい現実をつきつけられました。台湾に進出している日系企業に就職しようと100社あまりに履歴書を送ったのですが、まったく返事がきませんでした。台湾にはもともと日本語学習者が多いからですが、当時の日系企業は日本留学を採用の条件にしていたからです。仕方なくぼくは翻訳のアルバイトを続けながら就職浪人の身となりました」。

日本の医薬品ガイドの企画はこうして生まれた

―そういう挫折があったんですね。フリーランス翻訳家としての職業人生はこうして始まった。

「それからしばらくして知り合いの出版社でディアゴスティーニが日本で発刊していた医療雑誌を台湾でも出すことになり、ぼくはその翻訳を手伝うことになりました。このとき医療や薬品に関する日本語を勉強することができました。

この仕事を続けていくうちに、ぼくは日本の医薬品の購入ガイドの出版企画を考えるようになりました。先日メールでお伝えしたように、ふだんでも身近な人たちから日本の医薬品についてよく聞かれるようになっていたからです。面白いことに、台湾人というのは、誰か知り合いが日本から何かを買ってくると、自分も買いたくなるんです。だから、そういう本を出したら、売れるんじゃないかと思いました。

こうしてぼくの最初の本『東京小旅及保健採購地圖:外用藥篇』(2012年2月刊 大康出版社)は生まれました。同じ年の7月に続編の『内服藥篇』も出しました。
b0235153_11154798.jpg

東京小旅及保健採購地圖:外用藥篇 2012/02/05
http://www.books.com.tw/products/0010533628


b0235153_11161571.jpg

東京小旅及保健採購地圖:內服藥篇 2012/07/16
http://www.books.com.tw/products/0010550399

これらの本の内容は、タイトルにもあるように、東京観光のついでにドラッグストアに立ち寄り、そこで購入すべき人気の医薬品を紹介するというものです。

ところで、台湾の読者からこういう質問がよくあるんです。『私はドラッグストアで何を買えばいいんでしょうか?』。そんなこと聞かれても、と思いませんか(笑)。

―つまり、この人にとって日本のドラッグストアに行くことは大前提なんですね。ふつう人は何か買いたいものがあるから店に行くものです。でも、台湾の人たちにとって、日本に行くからには必ずドラッグストア行って、何かいいものを買ってこなければならない。まずそう考えるんですね。それをお土産として家族や友人に渡すことで、とてもいい気分になれるから。

「ぼくが初めて日本のドラッグストアを見たのは、確か2000年頃で、初めて日本に旅行に来たときでした。これまで台湾では薬局といえば、暗くて陰気なイメージでした。ところが、日本のドラッグストアは明るくてカラフルでキラキラしていて、医薬品だけでなく美容商品やコスメ、お菓子まで売っています。こんな楽しい場所があるんだなあと思ったんです」。

―でも、当時は台湾にも香港系のワトソンなどの似たようなチェーン店もあったでしょう。

「あそこはコスメ中心で、医薬品はあまり扱っていません。ぼくの中では別物なんです。何より日本の医薬品を買いたくなる理由は、パッケージのデザインです。およそ薬っぽくなくて、おしゃれな感じがする。多くの台湾人もそう感じているはずです」。

―なるほど。日本人はあまりそんな風に考えていなかったけど、そうかもしれませんね。

「こういう読者の方々が潜在的にいるわけですから、これらの本でぼくは台湾の人たちが必ず買いたくなるような医薬品や化粧品を厳選して紹介しました」。

鄭世彬さんの著作紹介

こうして彼は以下の日本の医薬品や化粧品を購入する方法を解説する本を次々に上梓していきました。刊行順に簡単に紹介します。
b0235153_11175452.jpg

東京藥妝美研購(彩圖版) 2012/11/20
http://www.books.com.tw/products/0010565761
これが第1弾の「東京コスメショッピングガイド」。これまで出した2冊と違うのは、化粧品や美容商品をメインに扱ったことです。台湾で約1万部売れたといいます。日本の人口の5分の1にすぎない台湾でこれだけ売れるとはかなりのものです。

ちなみにこれが簡体字版として中国の書店で売られていた本の原本です。中国の出版社から版権を買いたいという話があったのは刊行の翌年の13年で、発売は1年後の14年だったとか。「中国では海外の書籍を出版する場合、一文字一文字チェックするため、時間がかかるのです。なぜ中国の出版社がこの本に興味を持ったかですが、担当者はこう言っていました。『中国でも日本のドラッグストアの商品は人気があるが、それを中国人が書いても信用されない。台湾人であれば、日本のことをよく知っているから、読者もその内容を信用する』。」

なるほど、中国人というのはそのように考えるものなのですね。中国の書店には日本の小説など翻訳書がたくさん並んでいますが、必ずしも刊行まで時間がかかるとは限りません。刊行が遅れたのはきっと別の理由があったからだとぼくは思いますが、いずれにせよ、活字メディアの情報に対して疑り深いのは、お国柄ゆえ仕方がなさそうです。
b0235153_11181599.jpg

日本購藥指南:OTC醫藥品事典 2013/02/04
http://www.books.com.tw/products/0010574632
日本の優れたOTC(市販の)医薬品を紹介する本。彼はドラッグストアの魅力の語り手でもありますが、日本の医薬品そのものにも関心が強いようです。「この本があれば、台湾の人たちもドラッグストアで医薬品を買うとき、迷うことがないだろう」とのこと。
b0235153_11185373.jpg

首爾美研購:攻陷人氣榜的美妝就要這樣買(彩圖版) 2013/08/27
http://www.books.com.tw/products/0010597709
東京のコスメガイドを出したのだから、ソウル版も出してほしいとの話があり、つくったソウルコスメガイド書。「あんまり気乗りがしなかったけど、需要はありそうだったのでつくりました」。
b0235153_11192955.jpg

東京藥妝美研購2:東京藥妝搜查最前線 嚴選東京藥妝不可錯過的新掀貨!最夢幻!超逸品! 2013/12/31
http://www.books.com.tw/products/0010620812
「東京コスメショッピングガイド」の第2弾です。第1弾に比べて内容は一新。「基本的に、日本のドラッグストアやバラエティショップで売られる商品を紹介していますが、前回と同じパターンでは飽きられると思ったので、人気ブランドのたくさん入っているデパートが集まっている銀座を特集しました」。ほかにも、日本のコスメ口コミサイトの「@cosme」の担当者を取材しています。

「台湾でも、@cosmeは日本の化粧品情報を収集するための重要な情報源なんです。たとえ日本語が読めなくても、商品写真やランキングの結果などを参考にする」そうです。
b0235153_1120997.jpg

日本回遊:關東篇 Go!Japan Again!食+宿+遊+買+逛,日本旅遊回頭客私藏的60個定番提案! 2014/06/18
http://www.books.com.tw/products/0010636854
この本は、鄭世彬さんが日本在住の外国人によるインバウンド情報発信チーム「JAPANKURU」のメンバーと一緒につくった日本旅行ガイド。東京の細かい街ネタ的な情報が詳しく紹介されています。さすがは日本慣れしている台湾人読者向けの内容です。鄭さんをはじめ、制作チームの皆さんも写真で登場していますが、とても楽しそうです。

「ほとんどの内容が東京のネタなんですが、ぼくがいちばん印象に残っているのは那須高原の取材でした」。実際、この本の表紙は那須高原の写真が使われています。そこには雪をかぶった峰々と青空がどこまでも広がっています。「実は、台湾でもこんな青空は見たことがないんです。こんなに多くの台湾の人たちが日本各地を訪ねるのも、美しい山や自然が日本にはあるからだと思います」。

JAPANKURU
http://cometojapankuru.blogspot.jp/
b0235153_1121777.jpg

日本家庭藥:34家日本藥廠的過去與現在,老藥起源X歷史沿革X長銷藥品
Japanese Medical History 2015/01/10
http://www.books.com.tw/products/0010658803
今年1月の最新刊です。鄭さんはこれまでの仕事のひとつの集大成として、日本の医薬品メーカー数十社に取材してこの本をまとめました。簡単にいうと、日本の家庭薬の歴史を紹介する内容です。

「日本のOTC医薬品がなぜ台湾の人たちにこれほど人気があるかというと、実際に使ってみてよく効くと実感しているからですが、その背景には古くは400年もの歴史をもつ日本の老舗医薬品メーカーの存在があることに気がつきました。そこで各メーカーにご協力いただき、それぞれの定番商品の誕生秘話や創業者の努力、企業の発展の歴史を紹介しました。いま日本で花開いているドラッグストア文化は、これらの老舗企業の歴史があってこそなのだとぼくは思います。その素晴らしさを台湾の読者に伝えたかったんです」。

鄭さんは3月13日、幕張で開催されていた日本ドラッグストアショーの会場を視察していました。これはそのとき撮った鄭さんです。最新刊を手にしてもらっています。
b0235153_1123546.jpg

次回は、「台湾で日本のクスリや美容商品が人気の理由」について、具体的な商品名を挙げながら彼に解説してもらったので、それを紹介しようと思います。

台湾で日本のクスリと美容商品が人気の理由
http://inbound.exblog.jp/24314372/
[PR]

by sanyo-kansatu | 2015-04-01 11:23 | “参与観察”日誌 | Comments(0)


<< 台湾で日本のクスリと美容商品が...      『太陽にほえろ』のスモッグ空と... >>