ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2015年 04月 04日

2015年、日本政府観光局は九州の訪日旅行プロモーションを強化しています

訪日客の増加で、東京や大阪など大都市圏のホテルの予約が取りにくくなっていることが報じられています。

訪日客全体の5人のうち4人がアジアからの旅行者であることを考えると、都市圏に集中してしまうことは無理もないかもしれません。彼らの大半はアジア新興国の都市住民で、円安の日本を楽しむのであれば、やはり地方より都会のほうがショッピングであれ何であれ、いいに決まっています。

しかし、大都市圏のホテル客室不足はますます冗談ではすまされない状況になっていて、日本に暮らす我々にとっても予約が取りにくいのは同じことなので、なんとかしなければなりません。

観光庁や日本政府観光局(JNTO)が、海外各地で訪日客の訪問地の分散化を図ろうとプロモーションを打ち出しているのもそのためです。

では、今年彼らが掲げる訪日プロモーションの強化エリアはどこか。

それは九州です。
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これまで官民で継続的に続けられてきたプロモーションによって、東京・大阪の大都市圏とそれをむすぶ「ゴールデンルート」、北海道、沖縄といったエリアは海外の旅行マーケットにも浸透し、多くの訪日客が訪れるようになりました。それまで海外の人たちの頭の中で、日本という白地図に記されていた地名は、東京、京都、大阪、広島くらいにすぎなかったのですが、いまでは北海道や沖縄の地名も記されるようになりました。

逆にいえば、知られているのは、それだけなのです。彼らが日本旅行を計画するとき、残念ながら、九州の地名はまったく認識されていません。それは、ひどい言い方をすれば、存在していないことと同じなのです。

九州はアジアにも距離的に近いのに、なぜなのだろうと思うかもしれませんが、それは単に存在を認識されていないからなのです。日本人なら九州の魅力はよく知っています。海外で認識されるかどうかは魅力の中身ではないのです。

2009年、北海道を舞台にした中国映画がヒットしたおかげで、初めて「北海道」という地名を中華圏の誰もが知るようになり、中国客が北海道を訪れるようになったことからもわかるように、観光地のひとつとして認識されないと、外国客はやって来ないのです。

とはいえ、そんなに簡単に外国人に地名を認識されるものではありません。結局のところ、いろんな手をこつこつ打っていくなかで、なにかのきっかけが生まれる瞬間を待つ、ということなのかもしれません。

今年2月に上海を訪ねたとき、そういうこつこつ型の中国市場向けの九州プロモーションが始まっていることを知りました。以下、報告します。

2月上旬、地下鉄静安寺駅の2号線と7号線の乗換通路に、日本政府観光局による九州プロモーションの大ポスターが貼り出されていました。それがこの写真です。
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ご覧のように、名湯・黒川温泉や阿蘇山などの自然、熊本城、テーマパークのハウステンボスなど、九州の訴求ポイントが表現されています。地下鉄構内のある一画とはいえ、これだけ派手なポスターがデカデカと集中的に貼られている光景は、日本ではあまり見たことがないと思います。でも、これが中国の地下鉄構内広告のスタンダードなスタイルです。

関係者によると「当初、1月1日~28日が掲載の契約期間だったのに、2月12日に同所を通過したときにもまだありました。次の広告主が未定であるため、デザインが残っているようです」とのこと。こういう大雑把なところがいかにも中国らしいですね。逆にいえば、上海も次々と新しい広告が打たれるような景気のいい時代ではなくなったということでしょう。

近年、中国経済の減速が指摘されています。それは北京や上海の地下鉄広告の状況からも実感します。以前は地下鉄路線の飛躍的な拡張にともない、乗換通路もどんどん伸び、ド派手なポスターがあちこちに貼りまくられていました。それが、ここ1、2年で明らかに減っています。あれほどにぎやかだった地下鉄広告は、いまでもないわけではありませんが、ずいぶんおとなしくなってきた印象です。

それでも訪日客が増えるのはなぜか。これは個人的な推測にすぎませんが、バブル崩壊で株価が暴落した1990年代でも、海外旅行者数が増え続けた日本の状況(ただし、2000年代に入り、伸びは止まる)と少し似たことが上海でも起き始めているのではないか、と思います。

こういうことです。不動産価格がついに下がり始めた中国で(ところが、昨秋から株価は上昇中。不動産が期待できないため、株にお金が流れたのでしょう)、人々はバブル志向からやや地道な消費スタイルに移り始めている。日本もそうだったように、経済の伸びが鈍化して初めて人や社会は成熟化するものだと思います。しかし、いったん知った豊かさや消費の楽しみは忘れられない。そんな時代、気軽に消費を楽しめる近場の国はどこか。政治向きの事情もあって、最初は韓国に殺到したものの、やはり日本のほうがいい。

少なくともいま、彼らはそう思っているのではないか、そんな気がします。実は90年代の日本人の海外旅行先も圧倒的に近場のアジア各国でした。

さて、話がそれてしまいましたが、上海の海外市場向けの九州プロモーションとしてメディアがらみのものも、いくつかあるようです。
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たとえば、中国の旅行雑誌『旅行者』2015年2月号では、1冊丸ごとの九州特集をやっていました。これは完全な日本側とのタイアップ企画ですが、一般的な観光地だけでなく、九州の食文化とその担い手となる人物なども続々登場し、きわめて完成度の高いものでした。人や素材を提供したのは九州側だったのでしょうが、中国側の編集スタッフもよくまとめたと思いました。

数年前まで新潮社が出していた『旅』の休刊を最後に、日本にはほぼビジュアル系の旅行雑誌がなくなってしまいましたが、中国ではまだいくつか生き残っています。その一誌が『旅行者』です。しかし、中国でも広告を頼りに旅行雑誌を維持していくのは大変なよう。ネット時代のいま、紙媒体の影響力がどこまであるのか、という指摘もあるかもしれません。

その点、中国の大手ネット旅行会社の途牛(tuniu)での九州キャンペーンは面白そうです。
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途牛
http://www.tuniu.com/zt/jiuzhou/

阿蘇山を背景に熊本城と着物姿の女の子という、日本人の目からみればいかにもこてこて“フジヤマ、ゲイシャ”的な絵柄ですが、海外向けにはこれくらいしないと伝わらないものだと、ここは大目にみてほしいと思います。実際、こうしたトップページは中国人のデザイナーがつくっています。この手のPRとはそういうものなんです。そういう意味では、『旅行者』のイラストを使った表紙は、日本人からみると悪くないと思いますが、中国市場からみてどちらの訴求力があるか。これは判断が難しいですね。

いずれにせよ、このサイトのコンテンツは、九州を中心としたさまざまな旅行商品の特集で、その販促を強化することが目的でした。やはり中国で九州をPRするといっても、まずは海外旅行市場が最も成熟し、個人旅行化も進んでいる上海エリアから始めるのは当然のことでしょう。

はたして今年、中国客は九州を訪れるのでしょうか。

こんな話もあります。実は、最近上海でも「福冈(福岡)」「长崎(長崎)」といった地名をよく見かけるようになりました。なぜなら、上海発の東シナ海周遊クルーズ客船が九州各地をよく訪れるようになっているからです。その話については、昨年5月上海旅行博(WTF)を視察したとき、紹介したことがあります。

上海の海外旅行市場の大衆化を象徴するクルーズ人気(上海WTF2014報告その2)
http://inbound.exblog.jp/22692387/

そして、今年なんと福岡港に約200回クルーズ客船がに寄港することになっています。これは去年の倍増ですから、ちょっと驚くべき話です。当たり年といってもいいかもしれません。そのため、福岡という地名自体は上海の消費者にかなり認識されるようになっています。これは九州にとって絶好のチャンスといえます。

ところが、地元の福岡では、それほど盛り上がっていないという話を耳にしました。どういうことなのか。

次回以降、上海発のクルーズ客船の話をしてみたいと思います。
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by sanyo-kansatu | 2015-04-04 14:05 | “参与観察”日誌 | Comments(0)


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