2015年 04月 17日

これはやばい!? 日本にはおかしな中国語表示があふれている

昔アジアの国々では、おかしな日本語の使われ方をした表示や商品コピーが氾濫していました。今でも見かけることはありますが、そういう物件を見つけては脱力感を味わいつつ、面白がっていたものです。

たとえば、海外のお土産店などに書かれた「どうぞフタタビよくいらっしやいませ」(「またのお越しをお待ちしております」のつもり?)というような日本語表示です。

雑誌『宝島』で連載されていた「VOW街のヘンなもの」という読者コーナーには、国内外の看板や標識、商品コピーなどに見られる誤植や間違った日本語の例が数多く投稿されていました。海外旅行に行ってわざわざおかしな日本語を探したり、変な日本語が書かれたTシャツを土産にしたりする、なんてことを競い合っていたのです。

VOW街のヘンなもの
http://vowtv.jp/

ところがです。最近の訪日中国客とその爆買い旋風にあおられた全国各地の観光地や量販店などで、同じことが起きてしまっているようなのです。

そうなんです。いまや日本でも、間違った中国語が使われた看板や標識、商品表示が続々と現れ、中国語VOWな世界と化してしまっているのです。

海外でもそうであるように、そのまちに暮らすコミュニティの人たちはほとんどその間違いに気づいていません。この場合、それに気づくのは中国語を使っている人たちです。彼らから見れば、「なんじゃこりゃ!?」という感じでしょう。

このことをぼくに教えてくれたのは、台湾のドラッグストア研究家の鄭世彬さんです。以下、彼が見つけてぼくに送ってくれたVOWな中国語表示をいくつか紹介します。

台湾のドラッグストア研究家、鄭世彬さん
http://inbound.exblog.jp/24182824/

まず単純に笑っちゃうものから。これは大阪のあるコンビニに貼られていた中国語表示です。
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「从清晨到深夜 你可以购买便利店 上午7:00~2300(全年无休)」

これを見たとき、鄭さんは「エーっ」と思わず声を上げたそうです。なぜなら、これは「早朝から深夜まで、あなたはコンビニ店を購入できます」という意味になるからです。購入できるのは商品であって、コンビニ店舗そのものではありませんよね。

正しくはこうなります(以下すべて、ぼくが中国語を教えていただいている中国人大学院生に添削してもらったものです)。

「可以在便利店买东西 7:00~2300(全年无休息日)」

次は某量販店の告知です。「万引きは犯罪です。発見次第、警察に通報します」と日本語では書かれているのですが、中国語簡体字の表記はこうです。
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「高是犯罪,找到在次序和警察通」

ここでも、鄭さんは一瞬頭がポカーンとしたそうです。「高」って誰だ? 中国人の名字に高さんというのはよくありますが…。なぜこんな単純な間違いをしたのか、笑うしかなかったそうです。万引き=偷窃です。

正しくはこうなります。

「偷窃是犯罪,一旦被发现将被通知警察」

次はもうなんというか、たいして中国語のできないぼくから見ても、唖然としてしまいました。「多目的トイレ」の中国語繁体字表示です。
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「多功能馬桶」

「馬桶」というのは、室内で使用するふた付き簡易トイレ、要はおまるのことです。いまのように高層ビルが建つ30年くらい前、水洗化の遅れていた上海では、ふつうに使っていたそうですが……。このトイレ、ウォシュレットや赤ん坊を寝かせるベッドなども付いた最新式のものだと思われますが、なぜこういう中国語が充てられたのか。悪意すら感じられないでもない。トイレの中国語は、初級者でも知っている「洗手間」「廁所」でいいはずなのに。鄭さんも、さすがにびっくりしたそうです。

【追記】
後日、ネットで以下の記事を見つけました。

日本で爆買いされているウォシュレットが売れている理由
http://omiyagejapan.blue/omiyage/panasonicwashlet.html

この記事によると、ウォシュレットは中国では「馬桶蓋」と呼んでいるようです。そこで、鄭さんにこれは正しい理解かどうか尋ねてみました。以下、彼のメールによる回答です。

「「馬桶蓋」は台湾では、一般に便座の蓋の意味です。ウォッシュレットは「免治馬桶座」と言っています。調べたところ、中国では一部の人がウォッシュレットのことを「智能馬桶蓋」と呼んでいるようです。

もしかしてそこから略してそう呼んでいるのではないかと思います。でも、「馬桶蓋を買う」という言葉は中国人なら理解できるかもしれませんが、台湾人には便座の蓋を買うことに聞こえるため、なんで蓋だけ買うの? と理解不能かもしれません。やはり台湾と中国の言葉遣いは大きな差がありますね」。

以下は、ちょっと惜しい!という例。

これもある量販店の表示です。
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「我可以使用银联卡 可使用 各种信用卡」

「当店では、中国のデビットカードである銀聯カードが使えますよ」と伝えたかったのでしょう。でも、これでは「私は銀聯カードが使えます」と読めてしまいます。

正しくはこうなります。

「您可以使用银联卡 也可以使用各种信用卡」

あるいは、主語の「您(あなた)」を取って「可以~」でもいいはずです。

次は、成田空港行バス乗り場の表示。「未予約のお客様」という意味の中国語として以下が充てられています。
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「客户毫无保留」

「毫无保留」というのは、「保留なく(隠すことなく)、すべてを打ち明ける」といったときに使われる四文字熟語です。ただ予約の済んでいない乗客ということなのに、すごく大げさな表現になっているのです。こういうのも、中国客から見ればVOWそのものでしょう。

正しくはこうです。

「没约的乘客」

次は同じくバス乗り場の表示。
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「客人乘坐请等待巴士站」

これなどはぼくには、どこがどうおかしいかうまく説明できませんでしたが、通常お願いの場合、頭に「请」を持ってくるべきでしょうし、以下のように直すと中国人にはわかりやすいそうです。

「请乘坐(巴士的)乘客在巴士站等候」

最後の例は、かなりやばいことになっています。中国人向けにファストフード店がアルバイトの募集をしているようなのですが、鄭さんならびに中国人大学院生も、これでは何を伝えようとしているのか、よくわからないと言っていました。
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「新的船员大学招募
1周两次在1日从2小时起热烈欢迎!
每周能改变日程!
计时初次来访的用户放心,能工作。
如果日语能说的话,可以。
许多的外国人工作」

ここで仰天なのは、頭の「新的船员」です。「船員」すなはち「Crew(クルー)」という表現は日本では一般化しているようですが、中国人にはまずこれがわからないそうです。「船員」は文字通り船で働く人だからです。中国では一般にレストランなどのスタッフを募集する際、「服务员(服務員)」を使っています。

そして「如果日语能说的话,可以」ですが、これを直訳すると「もし日本語を話せればいい」というようなことになるのでしょうが、その前文の「初めての人でも安心して仕事ができます」の後に続く一文だとして、採用に当たって「日本語を話せなくてもいい」のか「話せた方がいい」のかよくわからないそうです。中国人大学院生による添削語の文章は以下のとおりです。

「新的服务员招聘
1天工作2个小时也可以
每周能改变工作日/时间
1000日元~/小时 从5:00到22:00
夜间1250日元~/小时 从22:00到6:00
第一次打工人也能放心地工作
不会说日语的人也可以(日本語が話せなくてもいい)/会说日语的话更好(日本語が話せればなおいい)
有很多外国人在这里工作」。

……とまあこんなことになっているのです。これらが中国客の脱力感を誘い、「日本人もかわいいところあるね」と好意的に解釈してもらえるといいのですが、鄭さんによると、このままではいろいろ支障もあるのではないか、といいます。

たとえば、高額なブランド品や化粧品のコーナーでこうした“とんでも”中国語表示を見かけると、なかには品質を疑いたくなる人も出てくるのではないか、というのです。笑いや脱力ではちょっとすまされないシーンであることは、確かに想像できます。

またこれは彼が台湾人であることからくるものですが、とにかく日本は簡体字に席巻されていることが不満だといいます。これは微妙な話ですが、一般に台湾の人たちは簡体字を見ると、目を背けたくなるといいます。つまり、台湾人は簡体字表記ばかりの店には足を運びたくないという心理があるということです。

鄭さんはこんなことも話してくれました。

「いま台湾では日本のオーブンレンジが人気で、購入する人が多いのですが、中国本土ではまだブームになっていません。先日、新宿のビックロに行ったとき、オーブンレンジのコーナーの商品表示に繁体字が使われていました。よくわかっているな、とぼくは思いました。オーブンレンジを買うのは、台湾客だけだから、繁体字を使っていたのです」。

ビックロの販売スタッフは、中国本土客と台湾客の売れ筋商品を理解したうえで、簡体字と繁体字を使い分けているというのです。実際に、ビックロの免税品コーナーに行くと、オーブンレンジは「過熱水蒸氣水波爐」と繁体字表記されていました。すごいですね。
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中国語をかじったことのない人からすると、こうした話をされてもお手上げと思うかもしれませんが、そんなに難しく考えることではないと鄭さんはいいます。

「最近では外国客がよく利用するショッピング施設に中国人スタッフを置いていることが多くなりました。であれば、まずは彼らにチェックしてもらうことが必要でしょう。ただし、中国人だからといって安心してはいけません。中国人は出身地によって方言もあり、言葉の使い方が異なります。正直なところ、台湾人からすると、中国本土の中国語はかなり違和感があります。ですから、そうした両岸や地方による違いも理解している正式な中国語翻訳会社に発注したほうがいいと思います。そのうえで、売れ筋ごとに簡体字と繁体字の使い分けまでできると、さすが!と思います」。

実をいうと、これは中国語に限った話ではありません。同じことは、タイ人留学生も気づいていました。日本のショッピング施設には、タイ語のおかしげなポップや表示も各所に見られるというのです。

タイ人留学生とお土産談義~なぜ日本の文房具は人気なのか?
http://inbound.exblog.jp/22471366

その留学生は、安易に翻訳ソフトを使うのは間違いのもと、と指摘しています。

訪日客が増えると、実にいろんなことが起きるものです。彼らといかにフレンドリーなコミュニケーションを築いていけるのか。そのためにも、台湾や中国、タイの皆さんからの指摘には謙虚に耳を傾けていきたいと思います。

【追記】
その後、中国本土の人たちも指摘してくるようになりました。

日本にあふれる「恥ずかしい中国語」をついに中国人に指摘されてしまいました
http://inbound.exblog.jp/26343657/
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by sanyo-kansatu | 2015-04-17 10:27 | “参与観察”日誌 | Comments(2)
Commented by Thomas at 2015-07-06 22:49 x
こんにちは。Thomasと申します。よろしくお願いいたします。貴ブログは検索中に偶然発見したのですが、大変興味深く読んでおります。
さて、この問題なのですが、「繊細」かつ「慎重」な対応が求められるような問題のように思います。問題は単純なものではなさそうです。エントリー冒頭のVowの話が、このことを裏側から示しています。日本人は、海外旅行に行ったとき、海外観光地にあふれる「間違った日本語表記」を、むしろ「楽しんでしまう」傾向があります。日本語表記が間違っていることに激怒した、失望した、という話は、寡聞にして聞いたことがありません。このことは、日本人が、(語学力の低さには定評がある(笑)にもかかわらず)海外において「日本語表記」を「当てにしていない」ことを示します。「異国情緒が損なわれてがっかりだ」といって、日本語表記を忌み嫌う人すら少なからずいます。
そこで生じる問題は、「このような気質の、国民感情的な射程」です。英語圏出身者のように、世界中で自国語(英語)が通じて当たり前、外国人は正確に表記できて当たり前、世界中の人々がすべての看板に英語表記して当然に決まってる、という感覚の持ち主もいます。ところが、全く正反対に近い日本人のような気質の人もいる。諸外国、国民感情に照らして細かく見ていかなければなりません。エントリーを拝読しますと、中国人のみならずタイ人も、日本人よりは英語圏の人に近いように見える(奇妙な表記についてマイナス評価を与えているように読めます)。ただ、そこまで神経質なのかは分からないし、日本において、店頭等で自国語の表記がされることに対して、どのような感情を抱いているのかも、丁寧に分析しなければなりません。対象も増えていきます。タイ語の次はインドネシア語でしょう。その次はベトナム語か、あるいは中南米の経済成長を考えてスペイン語でしょうか。ひとつひとつ、細かくみていなければならないように思います。
 なお、余談ですが、日本人の「海外での日本語表記嫌い」は、一時世界を制覇する?までの経済力を持っていた日本の言語(日本語)が、海外でまるで広まらない一つの原因なののかもしれません((外国にとっての)インバウンドで来る日本人が、語学力が無いにも関わらず、心情的に日本語に触れたがらないことは、外国人にとって少なからぬ日本語習得モチベーションの低下要因です。)
Commented by sanyo-kansatu at 2015-07-07 11:39
投稿ありがとうございました。当初ぼくの意図した内容とは異なる論点が示されていたので、とても興味深く思いました。要するにおっしゃりたいのは「(外国人が)日本において、店頭等で自国語の表記がされることに対して、どのような感情を抱いているのかも、丁寧に分析しなければなりません」ということでしょうか。「このような気質の、国民感情的な射程」という表現が面白いと思いました。ぼくにはThomasさんのご専門や関心の背景がわからないので、なぜこうしたことに問題意識をもたれたのか、知りたく思いました。ちなみに、この記事は知り合いの台湾人やタイ人との日常的な会話の中で出てきた話を少し広げて考えてみたというものにすぎません。また彼らは日本社会をそれなりに精通している人たちなので、おかしな自国語表記に「激怒したり、失望したり」しているというわけでもなさそうです。素直な親切心から話してくれたという印象です。


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