2015年 05月 05日

NHK報道をめぐり思う。通訳案内士って何だろう?

GWに入る前の週、NHKが以下のニュースを報じています。もうネットには記事が残っていないので転載します。

外国人向け「地域限定」通訳ガイド新設へ(2015年4月22日 NHKニュース)

「日本を訪れる外国人旅行者の増加に伴って、有料で通訳ガイドができる国家資格の「通訳案内士」が地方を中心に不足していることから、観光庁は自治体の研修を受ければ地域を限って有料で通訳ガイドができる新しい制度の創設を検討することになりました。

外国人旅行者に通訳をしながら、有料で観光ガイドをする場合、原則として通訳案内士の国家資格が必要ですが、外国人旅行者が増加するなかで地方を中心に通訳案内士が不足しています。

観光庁は有識者や旅行関係者などで作る会議で制度の改善を検討してきましたが、22日の会合で見直しの案が示されました。具体的には、自治体の研修を受ければ、一定の地域に限って、外国人に対して有料で通訳ガイドができる「地域ガイド制度」を全国的に導入することを検討するとしています。

また増加している東南アジアからの観光客の需要に応えるため、現在、英語や中国語など10か国語しかない通訳案内士の言語を増やし、インドネシア語やベトナム語などを加えることも検討することにしています。

一方、制度の罰則も強化し、資格を持たない通訳ガイドを有料で手配した旅行業者を罰則の対象にできないか議論することにしています。観光庁は制度の見直しによって、外国語ができる主婦や学生などを活用しやすいようにして、地域に根ざした通訳ガイドを増やしたい考えで、今後検討を重ねたうえで、ことしの夏までに結論を出すことにしています。
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通訳案内士 大都市に集中

通訳案内士は、旅行会社などから依頼されてツアーに同行し、外国人の観光客に日本の地理や歴史、文化などを分かりやすく説明します。

原則として、「通訳案内士」の資格を持たない人が報酬を得てガイドの仕事をすることは法律で禁じられています。

60年以上前の昭和24年に創設されたこの制度は、このところ、多くの課題が指摘されるようになりました。

その1つは地方での通訳案内士の不足です。

通訳案内士は、去年の4月時点で全国に1万7000人余りいますが、そのうちの4分の3は東京や大阪などの大都市に集中しています。

このため観光庁は、3年前から全国の9つの地域(※)を特区に指定し、自治体の研修を受ければ、その地域に限り、報酬を受け取って通訳ガイドの仕事ができるようにしました。

この特区で、通訳ガイドになった人は633人いて、観光庁は「一定の成果を挙げ始めている」として、この制度を全国に拡充しようとしているのです。

※札幌市、福島県、高山市の中心市街地、和歌山県の一部、泉佐野市、奈良公園、沖縄県、九州、島根の一部

試験と言語は

通訳の言語にも偏りがあります。

案内士の資格を取ることができる言語は、10か国語。このうち7つが欧米のことばで、アジアは、中国語、韓国語、タイ語の3つだけです(※)。

しかも全体の67%は、英語の通訳で、中国語ができる人は12%韓国語は5%タイ語ができる人は僅か0.1%にとどまっています。

急増するアジアからの観光客の需要に、どう応えて行くかが課題となっています。
さらに通訳案内士の国家試験の見直しも課題です。

去年の案内士の合格率は22.7%。かつてより合格率は高くなったとは言え、難問や奇問が多く、およそ4人に1人しか受からない状況です。

問題は、複数の選択肢の中から1つの正解を選ぶ形式ですが、2012年の年末と2013年の年末の日経平均株価を問う問題や、高知県室戸岬での林産資源の活用方法を答える問題など、外国人向けの観光ガイドには、必ずしも必要とされないような細かい知識が求められています。

このように試験が実務に沿った内容になっていないという指摘があるため、観光庁は試験問題の見直しも行いたい考えです。

例えば、外国人のニーズの多様化に合わせて、ポップカルチャーなど新しい文化やトレンドの知識を盛り込むことや、外国人とのコミュニケーション能力を重視して行くことなどが検討される見込みです。

※対象言語=英、仏、独、露、スペイン、イタリア、ポルトガル、中国、韓国、タイ

鹿児島県 現状は

日本を訪れる外国人旅行者は、去年1年間で、1300万人を超えて過去最高となりましたが、多くの自治体では、通訳ガイドの不足に頭を痛めています。

温泉をはじめ、多くの観光地を抱える鹿児島県では、去年1年間に延べ25万人を超える外国人が宿泊しました。前の年よりおよそ36%増えています。

最近、増加が目立つのが海外からクルーズ船で訪れる外国人たち。船を下りた観光客の多くは、旅行会社が手配したバスで観光地に向かいますが、案内をするガイドが必要になります。

しかし鹿児島県内には、資格を持った通訳案内士が65人しかいないため、大型の船が入港する時には、他の県から応援を呼んで対応しているということです。

鹿児島県の通訳案内士の1人、内山眞弓さんは「観光していて、ただ通りすぎるのと、通訳案内士から詳しい話を聞くとでは全然捉え方が違う。大きい船が入ると、東京、大阪、福岡、広島あちこちから応援がきて、数が足りない状況です」と話していました。

このため鹿児島県は、通訳ガイドの育成に力を入れています。

韓国や中国からの観光客が多い九州では、おととし、国から特区の指定を受けて、自治体などが主催する中国語と韓国語の研修を受講すれば、九州内に限り通訳ガイドの仕事ができるようになりました。

報酬も受け取ることができるため、今回、国が検討を始める「地域ガイド制度」を先取りした形です。

鹿児島県では、特区の制度を使って、地元の通訳ガイドが26人誕生しました。地元の歴史や文化の紹介のしかたを教わりながら、ガイドとしての質の向上を図っています。

鹿児島県観光課の五田嘉博課長は「通訳案内士は非常に難しい試験なので、短期的に増えるのは難しい現状にある。急増する外国人旅行者に対応するためには、特区ガイドを増やしていかないといけない。鹿児島の魅力を多くの外国人に伝えて、また来たいと持ってくれるガイドをしてもらいたい」と話していました」。

さて、このニュース、視聴者はどう理解したでしょうか。そもそも「有料で通訳ガイドができる通訳案内士」とはどんな資格なのか。

一般の視聴者にとって、この問題をどのように理解すればいいか、よくわからないところが多いと思われます。あらためて言うまでもないことですが、通訳ガイドのサービスを受けるのは日本を訪れた外国人であり、日本の消費者ではないからです。もちろん、日本人も海外旅行先で通訳ガイドのサービスを受けたことはあるでしょうが、現在日本で行われている通訳ガイドの質や、居住都市、言語の片寄り、人材不足、制度の見直しといった問題について、ぴんとことないのは無理もない話だと思われます。

一方、この問題の当事者である現役の通訳案内士の人たちはこのニュースをどう受け取ったでしょうか。彼らは事業者のひとりとして、新設されるという「地域限定」通訳ガイドが自分の仕事にどう影響を与えるのか、気にしていることでしょう。

さらにいえば、東京五輪開催や訪日外国人旅行者の増加で、いはゆる「おもてなし人材」が求められるなか、将来観光ガイドとして外国人の旅行を案内したり、接遇する仕事に就きたいと考えている若い世代にとっても、この報道と議論の行方は関心のあるところでしょう。

そこで、通訳案内士の現状について考えてみたいと思います。観光庁の以下のサイトをみると、かなり具体的な状況が公開されています。

通訳ガイド制度
http://www.mlit.go.jp/kankocho/shisaku/kokusai/tsuyaku.html

以下、その内容の一部を見ていきましょう。

通訳案内士とは
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通訳案内士試験に合格した人に与えられる資格です。

通訳案内士の仕事の受注の流れ
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通常、通訳案内士には旅行会社などから通訳ガイドの仕事が発注されます。

通訳案内士の合格者・登録者数
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受験者数は2005年頃から増えていますが、09年頃には下がり始めています。また13年に急に合格率が上がっています。といっても25.5%で、4人に1人の合格率です。NHKは、「去年(14年)の案内士の合格率は22.7%。かつてより合格率は高くなったとは言え、難問や奇問が多く、およそ4人に1人しか受からない状況です」と報じています。

この点については、関係者の間では逆の意見もあるようです。合格率が上がることで、質が低下するのではないかという懸念です。

通訳案内士の登録者数(都道府県別)
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東京都や神奈川県、大阪府、千葉県、兵庫県、埼玉県、京都府などの都市部で75%を占めています。都市への片寄りとはこのことです。

通訳案内士の登録者数(言語別)
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2014年4月現在、通訳案内士として登録しているのは17736人。そのうち66.9%が英語(11865人)で、次が中国語(2202人)です。14年に日本を訪れた1341万人のうち、アジア客が全体の約8割、また全体の半数近くが中国語圏(中国、台湾、香港)の人たちだったことからすると、中国語ガイドがわずか2202人と聞けば、なるほど人材不足であると思わざるを得ないでしょう。

通訳案内士の全体像
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これがすでに始まっている地域限定通訳案内士」「特例ガイド」の実態です。「3年前から全国の9つの地域を特区に指定し、自治体の研修を受ければ、その地域に限り、報酬を受け取って通訳ガイドの仕事ができるようにしました」と説明されています。NHKは「観光庁は『一定の成果を挙げ始めている』として、この制度を全国に拡充しようとしているのです」と報じています。

いずれにせよ、訪日外国人旅行者が東日本大震災以降のここ数年で500万人以上増えたという市場の激変があるだけに、通訳ガイドの人材育成は待ったなし、というのは多くの関係者の共通の認識でしょう。

ところが、観光庁では「通訳案内士の就業実態等について」(2014年12月)という報告もまとめていて、そこにはかなりショッキングな内容が書かれています。

通訳案内士の就業実態等について
http://www.mlit.go.jp/common/001066340.pdf

その一部を紹介します。

通訳案内士の年齢構成
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ここには「通訳案内士は、どの年代にも満遍なく分布している」と書かれていますが、年齢別で最も多いのは50代(31%)で、60代(24%)、40代(23%)と続きます。一般的に働き盛りと思われる30代(9%)、20代(1%)がこれほど少ないとは驚きではないでしょうか。

就業者の就業日数
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「就業者の年間就業日数は、30日以下が半数以上を占めており、より一層の活用方策が求められる」とあります。しかし、社会一般の通念からすると、年間30日以下の就業で生計を立てているとは考えられません。

通訳案内業に関わる年収
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「就業者の年収割合は、200万以下が約半数を占める」とあります。この数字からも、通訳案内業で生計を立てているといえるのだろうか、という疑問が生じます。

※ちなみに、観光庁の2009年の通訳案内士に関する報告書の中に、通訳ガイドのガイド料金の目安が記されています。そこには「1日25000円~45000円 半日20000円~30000円」とあります。
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通訳案内士の兼業先
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このデータをみて納得した人も多いでしょう。兼業先として「通訳・翻訳、学校教職員、塾・語学学校講師」があり、「主婦(夫)」の割合が高いというのが、通訳案内士の実態だったのです。

だとしたら、NHKが報じていた通訳ガイドの人材不足という指摘の妥当性はどうなのでしょうか。確かに、訪日外客がものすごい勢いで増えているのは事実なので、そう言って間違いではないとは思いますが、実際に資格を持ちながら、これほど就業実態が少ないという状況をどう考えたらいいのか。

次回以降、関係者の声を聞きながら、この問題をさらに考えてみたいと思います。

「通訳案内士制度のあり方に関する検討会」って何?
http://inbound.exblog.jp/24445622/

メディアは「通訳案内士」問題をどう報じてきたか
http://inbound.exblog.jp/24446629/

通訳案内士になるには? 適性は?
http://inbound.exblog.jp/24449064/

通訳ガイドの働き方、海外ではどうなのか?
http://inbound.exblog.jp/24450294/

海外の観光ガイドサービスのモデルを日本に持ち込もう
http://inbound.exblog.jp/24460875/

通訳案内士制度をめぐる議論がかみ合わないのはなぜか
http://inbound.exblog.jp/24463450/

無資格ガイド問題とは何か?
http://inbound.exblog.jp/24472149/

訪日旅行市場最大の中国語通訳案内士の現場は大変なことになっていた
http://inbound.exblog.jp/24486566/

中国語通訳案内士を稼げる職業にするための垂直統合モデル
http://inbound.exblog.jp/24489096/
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by sanyo-kansatu | 2015-05-05 16:41 | “参与観察”日誌 | Comments(0)


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