ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2015年 05月 07日

通訳ガイドの働き方、海外ではどうなのか?

前回、通訳案内士になるための試験や適性について関係者らの声をまとめてみましたが、フリーランスとしての実際の働き方は、1年の中で繁忙期と閑散期があるなど、専業にするのはなかなか難しいところがあることもわかってきました。

通訳案内士になるには? 適性は?
http://inbound.exblog.jp/24449064/

ここでは視点を変えて、海外では通訳ガイドはどのような制度として運営されているのか考えてみたいと思います。海外から観光客が訪れる国や地域には、どこでもガイドという職業は存在するものだからです。

観光庁では、2009年7月に「通訳案内士のあり方調査に関する中間報告(海外通訳ガイド制度事例)」として以下の資料を公開しています。

http://www.mlit.go.jp/common/000058983.pdf

さらに、それを2014年12月の「通訳案内士の現状及び制度見直しの検討経緯」という報告書の中で簡略化して表に整理しています(「海外における通訳案内士制度」)。

ここでは以下の7カ国の事例が表にまとめられています。
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アメリカのように国として統一した制度自体がない国もあれば、中国のように自国民にしか資格を与えず、実力によってガイドに等級を設けている国などもあるようです。

しかし、これだけではよくわからないというのが正直なところです。ポイントは「業務独占」や「資格取得方法」「事後研修・育成制度」「無資格者使用に対する罰則」の具体的な中身がそれぞれの国情や旅行市場との関係でどう設定されているのか、でしょう。専門家による解説がほしいところです。

昨年2月刊行された『訪日観光の教科書』(高井典子、赤堀浩一郎著 創成社)という本の中で、英国の観光ガイド制度に関する記述があります。

英国における観光ガイドは「Blue Badge Tourist Guide(ブルーバッジツーリストガイド)と呼ばれています。英国政府公認の観光ガイド制度によって認定されているプロのガイドです。

「彼らの多くは旅行会社との契約ベースで仕事を受け、フリーランスのガイドとして働いており、その点は日本の状況とよく似ている。しかし、ガイド制度や人材育成システムが日本とは大きく異なる」そうです。

以下、英国と日本の通訳案内士の制度を比較している箇所を転載します(同書の174~175ページ)。

■制度としての特徴―適正重視の入学試験

英国のブルーバッチガイドは、英国政府公認の観光ガイド境界であるInstitute of Tourist Guiding(以降、ITGと表記)が認可する資格の中でも最高ランク(Level 4)の資格である。日本の通訳案内士試験のようにいきなり試験を受けるのではなく、まず上記のITGでのトレーニングを受講する資格を得て、そのうえで観光ガイドとしての教育を受けるシステムになっている。受講資格を得る手続きとしては、書類先行→基礎知識テスト(記述問題および小論文)→面接を経る必要がある(使用言語は英語)。

受講資格を得るために面接を課すには理由がある。観光ガイドとしての「適性」を見るためだ。英国に関する知識が豊富で高い語学力を有していたとしても、接客業務で必要となる高度な対人コミュニケーション能力が低い人はここでスクリーニングされてしまう。また、身だしなみや言葉遣いなども重要だ。面接では「英国の顔」として観光客を案内する資質があるかどうかを見る。こうして基礎知識と適性をクリアした人だけが、ITGのトレーニングコース受講を許可される「観光ガイド候補生」となる仕組みである。日本の通訳案内士試験においても、口述試験においてコミュニケーション能力などガイドの現場で必要となる実践的な能力を問う形式の試験形態への移行が見られるが、英国のシステムはより適性を重視しているようだ。

英語が母国語の人は半年、英語以外を母国語とする人は通常18ヵ月のトレーニングをITGで受ける。歴史、建築、美術、地理、英国の産業といった基礎的な講座を受講するとともに、実地研修にも参加しなければならない。実際にマイクを持って人前で話す訓練やボイストレーニング、ファーストエイドなどの実務的な講座も用意されている(使用言語は英語)。

この講座を終了後、最終試験をパスすることで、ガイド資格を取得できます。最終試験は筆記試験と実地試験があるそうです。

こうした英国の制度について、同書では次のように日本との違いを説明しています。

●日本の通訳案内士試験に比べよりハードルの高い資格であること。
●これらの試験やトレーニングは英語で行われることから、ITGが育成するのは「観光ガイド」であって「通訳ガイド」ではないこと。

基本的に日本とは人材育成の考え方が違うようです。

一方、こんな記述もあります。

「英国の観光ガイドは総じて「生きるための職業」としてガイドを選択している人は少ないようである。中産階級の知識人で、現役をリタイアしたあとに趣味としてガイドをする人、あるいはそもそも給与所得を必要としない人もいる。そのため、自分の趣味や得意分野を生かしたガイディングをする人が多い。もともと自分の趣味としてその道を極めた分野でガイドをするのである。英国ならではと思わされるのが、美術館や博物館、建築物やガーデンなどを専門分野とするガイドたちである」。

この記述はよく考えると微妙な意味を持っています。観光ガイドを一般的な意味で職業として捉えていないとも受け取れるからです。日本の通訳案内士でも同様のことは指摘されていますから、似た面があるのかもしれません。

ともあれ、インバウンドの歴史の長い英国では、「通訳ガイド」ではなく、あくまで「観光ガイド」を育成していく仕組みがしっかりできていることがわかります。その一方、「これは世界で通用する英語が母国であるがゆえの制度といえる」と指摘されているように、この制度の背景には、英語の本家本元の国という圧倒的な強みがあることもわかります。日本が同じようにできるとは限らないということです。

こうなってくると、もっと他の国の事情も知りたくなります。そのうえで、もし共通する部分や参考にできる部分があれば、それを取り入れるなどして日本独自の制度設計を考えるべきなのでしょう。日本はこの方面では圧倒的に海外から後れを取っているというのは否定できない事実だからです。

誰かこのようなテーマで研究をしている方はいないものでしょうか。そこのところがすごく知りたいものです。
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by sanyo-kansatu | 2015-05-07 17:01 | “参与観察”日誌 | Comments(0)


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