ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

inbound.exblog.jp
ブログトップ
2015年 05月 13日

“爆買い”はいつまで続くのか?(あるドラッグストア関係者の見方)

先日、東京と関西を中心に展開する某ドラッグストアチェーンの関係者に話を聞きました。大挙してドラッグストアに押しかけているという外国人観光客の実態はどのようなものなのか、売り場の方の話をお聞きしてみたかったからです。
b0235153_885363.jpg
※写真と文章は関係がありません。

都内某所にある店舗を訪ねると、確かに多くの外国人観光客の姿が見られました。売り場の奥にある小部屋に案内され、「実際に外国のお客さんは多いようですね」と店長に言うと、開口一番、「これ、いつまで続くんでしょうね?」と逆質問されてしまいました。

なるほど、売り場の世界にいる方は、いまの状況をそれなりに冷静に見ているのだな、と思いました。以下、話のやりとりを紹介します。

―外国客はいつ頃から増えてきたのですか。

「去年からですね」。

―やはり昨年10月からの免税枠拡大の影響でしょうか。増えたのは秋からですか。

「いいや、去年の春先からですね。どっと増えたのは。もちろん、それ以前もけっこう来ていましたが、いわゆる“爆買い”状態は去年からです。うちの店は免税カウンターを設けていないし、クレジットカードも受け付けていない。特に外国人を意識した販売をしているわけではないんですが、観光客の多い場所のせいか、大勢いらっしゃいますね」。

―外国客の恩恵はあるといってよさそうですね。

「確かにそう。去年の消費税導入前に3月特需があって、4月以降はドスンと売上が落ちるかと思っていたら、そうでもなかった。これは外国客のおかげだね。

ただし、店の立地によっても売上はずいぶん違います。都内では観光客の多い上野や新宿、渋谷、原宿など、大阪なら心斎橋、難波、黒門市場、船場くらいで、郊外店は必ずしも売り上げが伸びているわけではない」。

―だとすれば、外客効果は本物ですね。どこの国のお客さんが多いですか。

「うちの場合は、売上でいうと、やはりいちばんは中国かな。全体の4割くらい。次いで台湾客が2~3割、そして韓国、マレーシア、シンガポール、タイという順。欧米の人も多いけど、彼らはそんなに買わない。必要な物をちょこっと買う感じ。やっぱり買い物はアジア客。

最近はキットカットが1日100ケース(12個入り)売れちゃうからね。うちは1個199円で売っているからだけど、マレーシアの人に聞くと、向こうじゃ1個700円くらいらしい。抹茶味とかわさび味とか、日本にしかないものを買っていく。まあ海外旅行に行けば、チョコレートを買うってのは、別に日本に限った話じゃない。ハワイでもそうでしょう」。

―アジア客の買い方はずいぶん違うんですね。

「中国人なんて、値段も聞かないで買っていくからね。『救心』なんかはけっこう高いけど、一度に2、3個、お一人様お買い上げ3~4万円とかよくある」。

―他にはどんな商品が人気ですか。

「肝油のドロップ。向こうは一人っ子政策だから、子供が大事なんだね。風邪薬だとかかゆみ止めだとか、子供用のクスリを買っていく。ベビー用品も多い。カルシウムのサプリメントとかも。

大人向けだと、胃腸薬の『強力わかもと』や『エビオス錠』、疲労回復薬の『アリナミン』とかね。みなさん商品の写真をコピーして何枚も束にして持ってくる。欲しい商品の画像をスマホで見せてくれたりね」。

―外国のお客さんも商品知識がついてきているんですね。

「でもね、うちはまちのクスリ屋さんというスタイルでいきたいんです。一般のお客さんあっての商売ね。というのも、うちもそうだけど、多くのドラッグストアが震災後の怖さを知っているから。都心の外国客の多い店では売上80%減なんてことも起きた。やっぱり地元のお客さんを大事にしないとね。

もちろん、うちでは外国のお客さんでも、日本人と同じように接客しますよ。クスリの写真を見せられてこれがほしいと言われたとき、もっと安い商品があれば、それをおすすめします。ただ外国客専用のスタッフは置いていません。店としての営業方針に影響を与えるようなことはしたくないんです」。

店長のお話をうかがっていると、中国人は日本の家庭薬の存在をついに知ってしまったのだなあ、と思いました。豊かになった彼らだからこそ、こんなに身近でありがたいものはないことに気づいたのでしょう。

冒頭の「いつまで続くんでしょう?」という店長の問いは、いま多くの日本人が感じていることだと思います。

店長もこうおっしゃいます。

「なんでこんなに日本で買っていくのか。メーカーに聞くと、中国にも工場があるのに、そっちで作ったものは買いたがらず、わざわざ日本で買っていく。このままいくと、原材料が足りなくなるおそれもあり、日本での生産が追いつかなくなることだってありうる。まったく中国人はそこまで自国製品を信じられないのかねえ」。

中国“爆買い”の真相は、これに尽きるのでしょう。だとしたら、そんなにすぐには終わらない!?……。

―やっぱり“爆買い”はすごいですか。

「これが困ったものでね。ふつうの買い方じゃないんです。彼らは観光客ではない。店に出しているお値打ち商品を見つけて、500個くれという。根こそぎもっていこうとするんです。要は業者買いです。そんなことされたら、せっかくうちが苦労して安く仕入れた商品を一般のお客さんに販売できなくなってしまう。だから、うちでは業者買いはお断りしています」。

―いわゆる「代購」業者でしょうか。日本で買った商品を中国で売りさばく連中ですね。

※最近、都心の郵便局に行くと、中国に荷物を送る人がやたらと増えていて、以前なら1~2週間で届いていた荷物が1ヵ月以上かかるそうです。中国側でさばききれないとも聞きます。おそらく日本から中国への小口の荷物が激増しているのでしょう。その中に入っているのは、日本のドラッグストアで販売されている医薬品や化粧品に限らず、あらゆる種類のメイドインジャパンの商品だと思われます。都心の量販店にも、代購するための商品を探しに来ている中国人たちがずいぶん姿を見せているようです。目当ての商品がいくらで売られているか、こっそり写真を撮っています。これが“爆買い”のもうひとつの実情なのです。

「そういうのはほぼ中国人。台湾人はそこまでやらない。せいぜい持てるだけ。あとは留学生が帰省のとき、小遣い稼ぎにまとめ買いすることもあるけど、まあかわいいものですよ。

うちは小売店。卸じゃないからね。でもね、一部の大型ドラッグストアチェーンでは、けっこう業者買いにも対応しているという話を聞きますよ。大手ほど売上をつくらないといけないでしょうから」。

※実は、この点について台湾のドラッグストア研究家の鄭世彬さんに聞くと「代購業者は中国本土だけの話ではありません。台湾にもいます。ただし、台湾ではネットで医薬品を販売できないので、中国のようにおおっぴらにはやっていないから目立たないのかもしれない」とのこと。

また別の関係者によると、中国でも台湾同様にネットでの医薬品販売は禁じられているようで、タオバオなどで販売したことがわかると、営業中止を申し渡されることもあるとのこと。ただし、販売量にもよりますが、1週間程度の営業中止だそうです。

こうしてみると、いわゆる中国"爆買い"現象は、移り気な中国人観光客の一過性のブームに終わるかどうかということも気になりますが、もうひとつの側面としては、代購業者が中国本土に横流ししても日中の価格差があるぶん儲かると判断すればその間は続くという面もありそうです。つまり、彼らにとって利益がないと手を引けば、とたんに終わってしまうかもしれないのです。

またこの現象がいつまで続くかという話は、伝えられる中国経済の減速よりも、自国製品を買いたがらない国民に業を煮やした中国当局が日本からの小口の郵送の受け取りをストップさせるなどの手に出るかどうかが大きいかもしれません。

※そんなことを思っていたら、中国政府は輸入品の関税を引き下げ、自国での消費を促進するよう手を打ってきたようです。

爆買いを見るにみかねた中国政府は輸入品の関税を引き下げるもよう
http://inbound.exblog.jp/24564700/

しかし、この現象の背景として重要なのは、彼らが自国製品を信じられるようになるか。つまり、中国の製造業の問題がいつ解決されるかにかかっているのではないでしょうか。中国社会がこれから自国の労働者の扱いをどう変えていくか。仮にも社会主義を標榜する中国が、労働者を粗末に扱ってきたという話はおかしいと思われるかもしれませんが、実際のところそうなのですから、仕方がありません。粗末に扱われてきた労働者がまともな仕事をするはずがない…。中国の消費者がそう思い込んでいることに、彼らの不信の原点があると思います。

労働者の扱いという観点でみると、日本もいまや他人ごとではない状況になりつつありますが、いま起きていることをまっすぐ眺めながら、目先にとらわれずに、挽回を図るしかないのでしょう。

スマホなどのIT機器や家電製品には流行り廃りがありますが、日本の家庭薬は一度使うと手放せないところがあります。なんだか面白い時代になってきたと思います。
b0235153_885998.jpg

[PR]

by sanyo-kansatu | 2015-05-13 08:25 | “参与観察”日誌 | Comments(0)


<< バスは渋谷にも現れています(ツ...      通訳案内士制度をめぐる議論がか... >>