ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2015年 07月 07日

東シナ海クルーズラッシュの背景:博多港にいつ頃から現れていたのか?

前回、博多港に世界最大規模の中国発クルーズ客船「クァンタム・オブ・ザ・シーズ」が初入港した話を書きましたが、その後も、すでに次便が7月1日博多、2日境港(鳥取県)へと寄航しているようです。
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6月27日中国発客船「クァンタム・オブ・ザ・シーズ」が博多に初入港しました
http://inbound.exblog.jp/24648018/

中国メディアは、7月2日、鳥取県境港に寄航した際、クルーズ客が地元のイオンモールで“爆買い”したことを報じています。

村の人口より多い中国旅行客、日本の小さな村で爆買い!(レコードチャイナ2015年7月6日)
http://www.recordchina.co.jp/a113381.html

中国記事の簡約で、十分に下調べしていないのか、「鳥取県日吉津村へ寄港」と間違ったことを平気で書いています(寄港地は正しくは境港)。おそらく「村の人口3455人を上回る4000人がショッピングモールで爆買いをし、短時間で商品が空っぽになった」という話がしたかったのでしょう。確かに、福岡のような大都市ならともかく、山陰の地方都市に4000人超のクルーズ客が上陸するとなると、地元の受け入れ態勢も大変なことだったでしょう。

さて、今年は九州に限らず、全国の港で中国発クルーズ船の上陸が相次ぐことになるのですが、ではいつ頃から日本に寄航するようになったのでしょうか。

福岡市によると、中国発クルーズ客船の博多港寄航は2007年に始まります。初めて寄航したのは、2005年に中国市場に参入したコスタクルーズ社(伊)の客船で、同年ロイヤルカリビアン社(米)も中国市場に参入。翌08年4月に大型客船「ラプソディオブザシーズ」が初入港した際は、先月と同様に福岡市長らが出席し、船内で歓迎式典が行われています。

その後の寄航回数は以下のように推移しています。

博多港におけるクルーズ船寄航回数の推移(福岡市クルーズ課2015.1.13)

2009 外航28 内航14 計42
2010 外航63 内航21 計84
2011 外航32 内航23 計55
2012 外航91 内航21 計112
2013 外航22 内航16 計38
2014 外航99 内航16 計115

福岡で最初に中国発クルーズ客の話題が盛り上がったのは2010年でした。上海万博の年で、全国で中国客“爆買い”現象が話題となり始めていた時期と重なっています。

クルーズ船急増 買物中国人 福岡席巻(東京新聞2010年8月13日)

「九州に寄航する中国発のクルーズ船が急増している。7月から中国人の個人観光ビザの発給用件が大幅緩和されたことも追い風となり、割安な船旅で海外旅行を楽しむ中流層が増えているためだ。しかも旅の主目的は「お買い物」。不況が長引く日本にとって、一隻につき数千人規模で押し寄せる中国人観光客は、まさに“宝の山”。自治体も民間も、あの手この手でクルーズ船の寄航先争奪戦に奔走している」。

福岡在住のインバウンドプロデューサーの帆足千恵さんも当時の状況について報告しています。

帆足千恵のコラム 九州のインバウンド最前線 第1回「中国発クルーズ客船」による大航海時代の到来!
http://www.yamatogokoro.jp/column/2012/column_83.html

地元のシンクタンクもクルーズ客の上陸後の動向について調査しています。

博多港寄港クルーズ船 中国人乗降客観光動向調査 要旨(2011.8.6 福岡アジア都市研究所)
http://urc.or.jp/wp-content/uploads/2014/03/22crusej_001.pdf#

ところが、これから盛り上がろうとしていた矢先の翌2011年、東日本大震災に見舞われてしまいます。これは致し方ないことですが、ダウンしたのはそのときだけではありません。上記の寄航数の推移をみると、この9年間で寄航回数は激しいアップダウンを繰り返していたことがわかりますが、13年に大きくダウンした要因として、12年秋に発生した尖閣問題による政治的な影響が直撃していることもわかるのです。

2013年、九州に寄港する外国クルーズ船はなぜこんなに減ったのか
http://inbound.exblog.jp/22350487/

自然災害や政治といった不測の事態に翻弄されながらも、再び勢いを取り戻したのが2014年でした。「外航クルーズ船の寄航数の増加や船舶の大型化に伴い、クルーズ船がほとんどを占める不定期航路の乗降人員数は約42万2千人(対前年比:36万4千人増、629.0%増)となり、過去最高であった平成24年の21万人から倍増しております」(クルーズ課リリースより)

そして、関係者によると、今年外航クルーズ船の博多港寄航予約件数は280回を超えそうだそうです(当初は250回程度とされていた)。というのは、MERSの影響で、韓国に寄航予定だった中国船のほとんどが九州寄航に振り替えたからです。

2015年博多港クルーズ客船入港予定(現在は大幅に変更されているもよう)
http://port-of-hakata.city.fukuoka.lg.jp/guide/cruise/index.html

中国クルーズ船、MERS避け九州寄港が増加(西日本新聞2015年6月18日)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150618-00010000-qbiz-bus_all

つまり、この調子で行くと、2015年はほぼ毎日のように博多港に中国客船が寄航するようなものです。これまで東シナ海を渡るクルーズ船は、海の比較的穏やかな春から夏にかけてがシーズンといわれていましたが、今年は12月30日まで予定が入っているそうです。

こうして福岡は、東シナ海クルーズラッシュの主要な舞台となっているのです。

もちろん、こうした背景には、クルーズ船の発地である中国の旅行マーケットの事情があります。
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昨年および今年の2月に上海を訪ねたぼくは、現地の旅行関係者を訪ねて回りましたが、彼らは口をそろえて「今年のビジネスは何を置いても東シナ海のクルーズ船の集客だ」と息巻いていました。

そして、それは昨年から着々と進められていました。以下、昨年5月の上海市の旅行博覧会の報告です。

上海の海外旅行市場の大衆化を象徴するクルーズ人気(上海WTF2014報告その2)
http://inbound.exblog.jp/22692387/

2014年の中国人の海外旅行、調子はどうですか(上海WTF2014報告その3)
http://inbound.exblog.jp/22698019/

春秋旅行社のチラシに見る上海人の海外ツアーの中身(上海WTF2014報告その4)
http://inbound.exblog.jp/22702574/

これらを読んでいただくと、なぜこれほど中国で大衆的なクルーズ人気が起きているか、おわかりいただけると思います。

ポイントは、初めての海外旅行経験者でも楽しめること。3世代ファミリー旅行ができること。これが理由です。こうした感覚は日本とはまったく違っています。初めての海外旅行でクルーズ船に乗るというような日本人は少ないでしょう。

また富裕層たちは東シナ海クルーズのような大衆的な商品だけでなく、世界一周や南極クルーズなどにも参加し始めています。階層社会となった中国ならではの市場動向といえるでしょう。

そして、2015年の中国のクルーズ市場にとっての最大の話題が、先月寄航した「クァンタムオブザシーズ」の存在でした。昨年から今年にかけて上海中の旅行会社がこの船のポスターを貼って集客に努めていたのです。その結果は、まさに実を結んだというべきでしょう。
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上海のハイソな情報誌(Time Out Shanghai 2015年1月号)にも「クァンタムオブザシーズ」の紹介記事が載っていました。ここで彼らが強調したいのは、同船がもともとカリブ海マーケット向きに造られた客船だったということ。今日北米マーケットよりはるかに拡大基調にある中国マーケットに振り替えられ、投入されたということです。それが彼らの自慢なのです。

いまや東シナ海は、少なくとも中国人にとってレジャーの海となっています。

これまでそうだったように、いともたやすく政治に翻弄されてしまうかもしれませんが、こうした現実を目をそむけないで冷静に見ていく必要があります。もとより彼らが我々の都合どおりに動いてくれるとは限りませんが、なぜそのようにふるまうのか少しでも理由がわかっていれば、慌てることもないと思うからです。
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by sanyo-kansatu | 2015-07-07 17:11 | “参与観察”日誌 | Comments(0)


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