ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

inbound.exblog.jp
ブログトップ
2015年 07月 08日

ホテルが外国客を受け入れるメリットは何か(エクスペディアの取材から)

エクスペディアは、米国生まれの世界最大のオンライン総合旅行サイトです。
b0235153_23255092.jpg

エクスペディア
http://www.expedia.co.jp/

グローバルの月間ユニークユーザー数約9000万人、年間で5兆円の売上があるそうです。本社は米国ワシントン州ベルヴューにあります。

テレビやネットのCMを通じて、エクスペディアがホテル予約サイトであることはすでに知られていると思いますが、ここでいう総合旅行サイトとは、ホテル以外に航空券やその他の旅行サービスをすべて扱っているオンライン旅行会社ということです。楽天トラベルと同じです。違いは、ワールドワイドに拠点を広げ、世界中のマーケットを相手にしていることでしょう。

海外に比べ、日本のオンライン旅行比率は低いといわれていましたが(それだけ日本ではリアル旅行店舗がそれなりの存在感を持ち、低価格化の波に対応してきたからですが)、最近では33%に上昇しているようです。

日本の旅行予約、ネット比率は33%に、オンライン旅行市場規模は2.9兆円(2015年4月23日)
http://www.travelvoice.jp/20150423-41292

先日、エクスペディアの日本法人を取材する機会がありました。都内で外国客に人気のホテルの大半がエクスペディアやBooking.comなどの海外ホテル予約サイトから予約を受けていると聞いていたからです。確かに、海外の訪日旅行者にとって宿の確保をするうえで頼りになるのは、ホテル予約サイトだからです。

日本法人の木村奈津子マーケティングディレクターに話を聞きました。

―エクスペディアの特徴は何でしょうか。

「2006年11月に日本法人を設立し、海外ホテルに強い予約サイトとしてスタートしました。ご存知のように弊社はマイクロソフトの旅行部門として立ち上がっていますから(現在は独立)、本社はアメリカで、その後、ヨーロッパ、オーストラリア、インド、そして日本という順で海外展開を進めてきました。

現在では世界に31の販売拠点があります。それだけに、日本のお客様には海外のあらゆる場所のホテルをご提供できます。ホテルの側からすれば、日本の旅行会社が国内のお客様を中心に何人送客できるかに対し、我々は世界中から送客できるといえるのが強みです。そのため、仕入れ交渉をするうえで世界最大規模のメリットが出る。それが弊社の掲げる「最低価格保証」につながると考えています。

当初はホテルをメインに扱っていましたが、2011年から航空券。今後は保険やレンタカーを強化することで、名実ともにオンライン総合旅行会社となることを目指しています」
b0235153_21195353.jpg

―確かに他の海外サイトはホテルのみの扱いが多いようですが、エクスペディアは違うのですね。ところで、日本進出にはどんな理由があったのでしょうか。

「日本の旅行市場の規模を考えると、グローバル企業にとっても魅力的です。以前は日本のオンライン旅行比率は決して高いとは言えませんでしたが、オンラインのパイが拡大基調にあることを見極めながら進出の時期を決めたといえます。いまやオンライン旅行会社のニーズは拡大していると思います」。

―確かに、自分の周囲でも旅慣れた人ほど、国内の旅行サイトではなく、海外の旅行サイトを利用する人が増えていると思います。それは先ほど言ったように、比較検討できる海外のホテルの数が国内サイトに比べ圧倒的に多いからでしょう。世界中日本人が訪れていない場所はないというけれど、ホテル選びにはできる限り多くの選択肢がほしいというニーズは旅慣れた人間ほどあります。それに応えうるのは、海外の旅行サイトであることは間違いない。

ところで、このところ都内のホテル関係者の話を聞いていると、海外のお客様の予約はたいていエクスペディアのような海外予約サイト経由が多いと聞きます。これは高級シティホテルからゲストハウスのような格安宿まで共通しています。海外経由で日本のホテルを予約するニーズが拡大しているのですね。いま日本法人の取り扱いでは、国内客と海外客ではどちらが多いのですか。

「現状では、やや国内客の海外予約の取り扱いが大きいですが、インバウンド(海外客の訪日予約)は勢いがある。震災直後は打撃が大きかったが、この2、3年で状況は大きく変わってきました」。

―海外客の訪日予約はいつ頃から増えましたか。どこの国の取り扱いが多いのですか。

「訪日の取り扱いでは、アメリカのパイが最大ですが、2位以下はアジアの国々です。特にこの3年でアジアは伸び率が高い。背景には、日本法人設立後しばらくして、2012、13年に一気にアジア市場に販売拠点を開設したことがあります。現在、アジア11カ国・地域に拠点がある。なかでも韓国、シンガポール、タイ、台湾、香港の市場が伸びています。また韓国、香港、台湾、タイのエクスペディアでは訪日市場の売上が最大となっています」。

エクスペディアではアジア各国からの訪日ホテル予約が急増している
http://inbound.exblog.jp/24509107/

―国籍によって都内の人気エリアが異なるそうですね。

新宿は都内で外国客に最も人気なホテル地区(エクスペディア調べ)
http://inbound.exblog.jp/24510962/

「それをまとめたのがこのマップです。これまでエクスペディアの利用の多い欧米客の宿泊エリアは都内の南半分に偏っていましたが、ここ数年、旅行単価の安いアジア客が増えたことで、都内北側のホテル利用も増え、いまではまんべんなく広がっています」
b0235153_212043100.jpg

―なかでも都内で宿泊先の人気エリアはダントツで新宿だそうですね。その理由は何でしょうか。

「ユーザーのコメントなどから、以下のように説明できると思います。

■アクセス面:新宿は都内の各種観光地へのアクセスが良いほか、海外の人に人気の箱根にも電車で一本、富士山にもバスで一本で行けて便利。

■街の魅力:大都会を象徴する大きなビル群と、歌舞伎町や思い出横丁のような古い日本のごちゃごちゃしたところが入り混じっているのがいい。

■施設面:高級ホテルからエコノミーホテルまで選択肢が豊富。六本木や赤坂だと高級ホテルばかりで、所得のある欧米客が集中してしまうが、近年増えているアジア客はエコノミークラスで十分。

ホテル人気ランキング(予約件数)をみると、有名な高級ホテルというより、リーズナブルな宿泊施設が多くなっています」。

―2014年に人気急上昇した都市のランキングの上位に沖縄が入っています。沖縄ではどのようなタイプの施設が人気なのでしょうか。国籍でいうと、どこが多いのですか。

「沖縄は、香港、韓国、台湾のお客様に人気です。近年ではLCCの直行便の乗り入れが多く、家族旅行やゴルフにと、気軽に国内旅行の延長上のような形できていただいています。

沖縄でのウェディングもかなりメジャーになってきました。傾向としては2回目、3回目のリピーター層が多く、那覇や恩納村などの本島王道エリアから足を伸ばして、北部の美ら海水族館周辺エリアや名護のホテルが人気です。

人気ホテルは、ザ・ブセナテラス、オキナワマリオットリゾート&スパ、ザ・リッツカールトン沖縄などのラグジュアリーリゾート。ヨーロッパ圏の方は、離島びいきが多く、石垣・宮古・久米島が人気です」。

―お話をうかがっていると、当初日本の海外旅行市場に狙いを定めて参入したものの、インバウンド市場の急速な拡大にともない、訪日外客向けの国内ホテルの仕入れが急務となっているように思われます。

「おっしゃるとおりです。当初は欧米客が主流でしたが、アジア客はレジャーの比率が高く、リピーターも多いので、東京や大阪だけを押さえていても足りない。弊社の仕入部隊も地方の在庫強化を進めています。アジアからの急速なインバウンド需要に対応していく必要があるからです」。

―ホテル予約サイトには国内客向けと海外客向けの2つの顔がある。海外のホテル予約サイトは国内サイトに比べ、海外客の国内ホテル手配は弱みがあるといえますね。国内ホテルの仕入れ在庫数は国内サイトにはかなわないからです。また国内の宿泊施設のすべてが外国客を受け入れているかというとそうではない。こうしたなか国内ホテルの仕入れはどうしていますか。

(以下、仕入れ担当のレラン・ラビ アソシエイトマーケットマネジャー)

「正直なところ、数年前まではインバウンドの割合が少なかったです。あってもせいぜい東京、京都、大阪のゴールデンルートがほとんど。ところが、最近急速に北海道や沖縄、福岡、箱根などに足を延ばす海外客が増えています。そのため、弊社の仕入部隊も全国を飛び回り、契約施設を拡充しています。しかも、どんな施設でもいいというのではなく、なるべく外国客が泊まりたくなるような宿と契約しようと考えています。」

―外国客が泊まりたくなる宿とはどんなものでしょうか。

「実を言えば、外国客だからといって一括りにはできません。国によって全然違います。同じ欧米でも、なじみのあるヒルトン、ハイアットに泊まりたい人もいれば、日本でしか体験できないカプセルホテルや旅館に泊まりたいという人もいる。

アジア客は一般にリーズナブルな価格帯のホテルにニーズが大きいので、ビジネスホテルとの契約も増やしています」。

―外国客を泊めることに抵抗のある施設もまだ多いのでしょうか。

「インバウンドというキーワードは盛り上がっていますが、地方の旅館などに話をすると、外国客も取っていかなければいけないのはわかっているが、外国語が出来ないからと躊躇する経営者の方もいます。2020年のオリンピックは決まっている以上、どこかのタイミングで始めなければとは考えているが、タイミングを見計らっているような方もいます。ですから、我々はいまこそそのタイミングですと営業しています」。

―外国客を受け入れることのメリットは何でしょうか。

「いくつもあります。ひとつはリードタイムが長いこと。リードタイムとは、予約を入れてから実際に旅行するまでの日数のことで、ホテルの側からすると、予約がギリギリになるより、事前に入っているほうが安心です。海外のお客様は数か月前から予約を入れるケースが多いんです。

もうひとつは連泊が多いこと。一般にインバウンドの滞在は平均3~4泊といわれます。また平日利用も多く、連泊してくれるので、平日の需要の弱い曜日も埋められる。シーツの交換など、コストも軽減できる。アジアの団体客は1日1日動いていくイメージがあるが、エクスペディアはFITのみの扱いです。カプセルホテルから5スターホテルまでさまざまな需要があります」。

-もうひとつうかがいたかったのは、レイティング(ホテルの星付け)についてです。エクスペディアには独自の基準によるレイティングがあるといっていましたが、これはどんなものでしょうか。日本人の評価とは少し違うのでしょうか。

「世界基準でみると、同じ3つ星ホテルでもアジアの国のそれと日本では質が違う面もあります。海外を旅慣れている外国客が日本のホテルに泊まると、シーツがきれいで全然クオリティが違うという印象を持つ場合も。一方、客室の狭さは日本の特徴といえます。

エクスペディアには独自のスターレイティングチームがあって、以下のような基準で星付けをしています。

・施設の充実度
・サービスレベル
・部屋の内装
・共有部の内装・外観
・アメニティの充実度
・ホテルの築年数 など」

―最後に、仕入れ担当者からの宿泊施設に対するアドバイスをお願いします。外国客を受け入れるためにホテルが考えるべきことは何でしょうか。

「確かに、外国人に慣れていない施設では、言葉の面などハードルが高いと考えられるかもしれませんが、外国客も日本人がペラペラと外国語を話せるとは思っていません。最近の外国客はネットやガイドブックでよく調べてから訪日しています。たいていの日本のルールはよく理解している。エクスペディアが扱うのは、団体ツアーの世界ではありません。

ですから、何か特別に改善すべきというより、いままで通りのサービスで外国客は満足してくれると思っていただいていい。無理して外国客に合わせる必要はない。日本人に対するのと同じサービスで十分です。

問題はメンタルにある。その点少し日本人はまじめすぎるかもしれません。

ただし、シンガポールからの出張者が言っていたのは、たとえば、トイレに英語表記がほしいとのこと。日本の温水洗浄器付きトイレは使い方がわかりにくいものです。ボタンひとつ意味がわからないと焦ってしまうそうです。館内の英語表記は必要でしょう」。

訪日外国人の急増で、特にアジアからの団体客の受け入れを始めたホテルや旅館の苦労が並大抵ではないという話をよく聞きます。温泉やトイレの使い方が日本人には信じられないような結果になるといいます。しかし、エクスペディアのような海外ホテル予約サイトは、基本的にFIT(個人旅行者)を対象としていることから、海外旅行も慣れていて、こうした非常識な事態はほとんど考えられません。この違いは大きいといえます。

アジア客を扱うランドオペレーターから、海外と同じように日本でもホテルに対する公的な星付けをしてほしいと要望がよく聞かれます。海外ではツアー料金を決める際、ホテルが2つ星なのか3つ星なのかで差別化することができるが、日本ではそれぞれのホテルの評価があいまいで、料金差を設定するのが難しいからです。これはあからさまな「格差」が可視化することを好まない日本社会の特性からくることなのかもしれません。なぜ日本のホテル業界が星付けを採用しないのか、ぼくには本当のところはよくわかりませんが、こうなってしまうと、少なくともインバウンドの世界ではエクスペディアのレイティングがスタンダードになっていく可能性もあるのではないでしょうか。

いずれにせよ、いまの時代、どんなに無名の施設でも、適正な価格帯でエクスペディアに載せたとたん、予約が入ることはあながち誇張とはいえません。それだけに、今後ますますエクスペディアの国内宿泊マーケットにおける存在感は増していくのではないかと思います。
[PR]

by sanyo-kansatu | 2015-07-08 21:22 | “参与観察”日誌 | Comments(0)


<< 多言語化に取り組む楽天トラベル...      東シナ海クルーズラッシュの背景... >>