2015年 07月 28日
今年50万人の中国クルーズ客が押し寄せることになっている福岡で、LAOXに負けじとドラッグストアを開店した地元企業が現れています。 今年2月に開店したドラッグオン福岡(株式会社ケアルプラス)で、場所は福岡空港の裏手の住宅街にあります。 ドラッグオン福岡(訪日外国人観光客インバウンド対応型大型免税ドラッグストア) https://www.facebook.com/drugonfukuoka 今年上半期、中国客の“爆買い”のターゲットは、ドラッグストアで販売される日本の家庭常備薬や化粧品、健康・美容商品だったことは知られていると思います。当然、クルーズ客の購入ニーズはそこに集中します。 社長もビックリ! 「爆買い」で売れまくる日本の“神薬” http://www.iza.ne.jp/topics/world/world-7309-m.html だったら、誰かがその受け皿をつくらなければ…。すべてをLAOXに持っていかれてはたまらないし、もしそうなってしまうと、福岡の人たちはこう思うことでしょう。「所詮、中国人は中国人の店でしか買わない。それなら、我々には関係ない。勝手にすればいい」。 こうしたことから、福岡の人たちは現在のクルーズラッシュをどこかクールに受け流しているという声もあります。 その一方で、「せっかくこれだけ多くの人たちが福岡に来てくれるんだから、彼らのニーズに応えて儲けさせてもらおうじゃないの」。そう考える地元企業が出てきてもおかしくないでしょう。それがドラッグオン博多だというのです。 クァンタム・オブ・ザ・シーズが寄港する日の午前中、ドラッグオン博多を訪ねました。福岡空港からタクシーで15分近く走った場所にその店はありました。店頭に「热列欢迎皇家加勒比海洋量子号游轮贵宾」(ロイヤル・カリビアン社クァンタム・オブ・ザ・シーズのお客様を熱烈歓迎します)と書かれた垂れ幕が掲げられていました。 店内にはまだクルーズ客は現れていませんでしたが、陳列される商品や中国語簡体字オンリーのポップなどを見る限り、そこは日本のドラッグストアとは思えません。 昨年秋に中国のネット上で流通した「神薬12種」(日本で買うべき家庭常備薬リスト12種)をまとめた棚もあります。 日本に行ったら絶対に買うべき12の“神薬”とは? http://www.recordchina.co.jp/a96011.html 棚の上にはそれぞれのクスリに関する詳しい解説もあります。 中国客を意識したPM2.5対策商品の棚もあります。 この店の人気商品のラインナップも。よく中国客は事前に日本で買うべきものをリストにしているといわれますが、クルーズ客は消費が進んだ上海の人たちばかりではなく、内陸の人も多いので、店内には彼らが何を買うべきかについて懇切丁寧に情報提供されています。 昨年10月以降、クスリなどの消耗品も外国客には免税扱いとなったことから手続きに関する解説です。 そして、これがこの店の最大の特徴、店員のほとんどは中国人です。これでLAOXと同様に、大量のクルーズ客の受入を可能としたのです。 ドラッグオン博多については、地元テレビ局のRKB毎日放送で平日の夕方に放映されている情報番組「今感テレビ」の中で紹介されていました。 店内では、6月中旬に放映された「フクオカの外国人観光客 最新の人気店は免税ドラッグストア」が流されていました。 フクオカの外国人観光客 最新の人気店は免税ドラッグストアhttp://youtu.be/H6LoH61BbTo この番組では、中国客の人気商品のランキングを伝えていました。 まず3位から。「サンテFXネオ」(参天製薬)。 2位は「龍角散ダイレクト スティックタイプ」(龍角散)。 そして1位は「液体ばんそうこう リュウバンS」(大木製薬)。 この番組を中国客向けに編集した映像には音声がなく、簡体字の字幕が付いていました。それをみると「(中国人)中国国内商品不信任(中国人は国内商品を信用していない)」という番組内の解説コメントも簡体字訳されていました。確かにそれは事実なんですが、はっきり書くものですね。 さて、同店の関係者にも話をうかがいました。以下、満園昌嗣副社長とのやりとりです。 ―こちらの店をオープンされた経緯をお聞かせください。 「博多にはすでに9年前から中国のクルーズ船が寄港していたが、一般の福岡市民とクルーズ客が触れ合う機会は少なく、いわば彼らに場所貸ししているようなものだった。2012年キャナルシティにLAOXができると、クルーズ客は一気に押し寄せるようになった。 とにかく中国客は買い物がしたい。だが、一度にバス何十台ものお客様が来て対応できる店はLAOXしかなかった。それともうひとつはキックバックの問題がある。LAOXはクルーズ客を手配したランドオペレーターやガイドに自分の連れてきた客の売上に応じてキックバックを払う」。 ―それは飛行機を利用した中国の団体ツアーの特徴ですが、クルーズ客も同じ構造にあるわけですね。 「そうしないと中国で安い料金のツアーを催行できないからだが、逆に安くしているから、これほどクルーズ市場が急拡大した。もし日本で彼らを相手に商売しようとしたら、この構造に合わせるしかない。つまり、LAOXと同じようにキックバックを支払うということだ」。 ―いつごろから開店準備を始めたのですか。 「2014年の9月だ。とにかく中国のスピードは速いので、こちらもそれに合わせないとやっていけないところがあった」。 ―そして、今年2月にオープン。クルーズ客はバスで来るから、市内に店舗を置かなくてもいいわけですね。実際のクルーズ客の買い物の様子を見て何か特徴がありますか。 「ひと口にクルーズ客といっても、ロイヤル・カリビアン社のような豪華客船の場合と中国資本の船で4泊5日のツアー代が2000元というような安いものある。客層はまったく違い、販売単価も全く違う。またバスによって旅行会社が違うので、客層も違う。もはやクルーズ客には上海人はほとんどいないといっていいかもしれない。多くは華中エリアの浙江省や江蘇省だが、最近は湖北省や四川省といった内陸からの団体が多くなった」。 ―どんな商品をどれくらい買っていくのでしょうか。 「ふつうは1人1~3万円くらいだが、高い客だと一度に50万円お買い上げということもある。健康食品やサプリを1年分。498円の目薬を30個といった感じだ。 中国客は「神薬」のようにネットで流れた情報や口コミを頼りに買いにくる。そして大量購入する。となると、品揃えや在庫の考え方も、一般のドラッグストアとは店づくりも含め、変えなければならない。地元向けの店では、1商品在庫は5~6個でいい。多品種少量が基本だ。しかし、クルーズ客が来ると、1商品が1日で1000~2000個売れる。つまり、ここでは棚に置く商品を絞り込み、在庫を多く用意する必要がある。いまこの店では1200アイテムくらいに絞り込んでいる。一般の日本の店の10分の1だが、在庫は豊富に置いている。 中国客相手の商売は、彼らが欲しいものだけ用意するしかない。選択肢をなるべく減らさないと、在庫がふくれ上がるからだ。そして、最も重要なのが、店にどの商品を置くか。4月から上海事務所を置いて、現地で中国国内のSNSなどを通じて売れ筋商品のマーケティングを行うようにしている」。 ―なるほど、このビジネスモデルだと、彼らが何を買いたいか事前につかんでおかないと在庫を抱えることになる。情報収集が最も重要といえるんですね。ところで、このビジネスの今後の展望についてどうお考えですか。 「はっきり言ってこのビジネスが10年続くとは考えていない。とにかく中国の変化のスピードは速いので、3~4年は続くかもしれないが、常にその先を考えておかなければならない。今後は、福岡以外の九州の寄港地にも出店を考えている。4月には長崎にオープンしたが、7月には鹿児島をオープンする予定。 実は、LAOXとは紳士協定を結び、あちらはドラッグストア関連商品を売らないかわりに、こちらも家電には手を出さないという住み分けをしている。もともと地元でクルーズ客専用のドラッグストアを出してほしいという話は中国関係者からずっとあった。彼らも中国客は福岡に来るけど、LAOXでしか買わないという状況は好ましくないと考えていたようだ。地元にも経済効果があるということでなければ、クルーズの受入にも支障をきたすからだ」。 ―確かに、東京のLAOXは家電からブランド、宝飾品、クスリまで中国客の買うものはすべて揃えているという感じですが、キャナルシティのLAOXは違うんですね。それにしても、なぜ中国客はこんなに日本のクスリや健康食品を大量購入していくのだと思われますか。 「ひとことでいえば、中国人は自国商品に対する国民総不信任がある。それに加えて、輸入品が高い。関税もそうだが、中国では不動産価格の高騰で小売業が日本のように薄利多売できる環境にはない。流通コストもかかる。そこへきてこの円安。彼らはこんなに安ければ、日本に来て買うのが賢いと考えるようになるのは当然かもしれない」。 いつも思うことですが、中国人の“爆買い”の背後には、なんともいえない不遇なお国事情があるといっていいのです。中国政府もそれを承知しているので、いまのところはクルーズ客の大量送客に目をつぶっているところがあるのかもしれません。 実は、店内には血液検査のコーナーが併設してありました。 ―これは何のためですか。 「確かに、買い物にかけられる時間は限られているが、ここで血液検査をしていただき、その結果を送るので、また日本に来てもらえればと考えている。いまのクルーズ客の博多上陸の様子を見ていて、このやり方が長く続くかどうか疑問はある。なにしろ8時間の上陸で、買い物ばかりでは、ラーメンも食べられない。でも、現状ではそれを言っても仕方がないので、クルーズは次にまた福岡に来てゆっくり過ごしてもらうためのステップと考えるほかない」。 基本的に、中国人の訪日団体ツアーの現状は、クルーズ旅行についても共通していることがよくわかりました。こうした大いなる矛盾をはらみつつも急拡大する中国訪日旅行市場に向き合うには、そして実利を得るには、それらを承知の上で、ひとまず矛盾を呑み込むこと。そして、刻々と変わりゆく市場の行方をにらみ、臨機応変かつスピーディに対応していくという姿勢が必要とされるのだとあらためて思った次第です。
by sanyo-kansatu
| 2015-07-28 10:13
| “参与観察”日誌
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