ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2015年 08月 11日

ようやく撮らせてくれた朝鮮の漁村の遠景ショット

とにかく朝鮮のガイドは写真を勝手に撮るのを許しません。これは職業上、ひどいストレスになります。1日中不快な気分が持続しているようなものです。まったく気が晴れないのです。こちらは見るもの聞くもの、面白いと思ったらなんでも撮ってしまいたいからです。普段はどこに行ってもそうしているのです。

※2014年7月上旬、北朝鮮咸鏡北道の七宝山を訪ねた話をしています。

七宝山(チルボサン)は金剛山とは似て非なる朝鮮の名峰
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毎日のようにガイドと言い合いになります。こちらとしては、景勝地や女子供の歓迎の舞踊ショーなどはもう飽き飽きで、本当に撮りたいのは、朝鮮の人々の暮らしぶりや表情が伝わるカットなのですが、それがいちばんこの国ではNGなわけです。

今回いちばん腹が立ったのは、清津から七宝山に向かう鏡城の海岸沿いにある鏡城邑城という高麗時代の城郭跡のそばを通りがかったとき、一部城壁が見えたにもかかわらず、撮影を拒否されたことでした。理由は、1991年に刊行された「朝鮮観光案内」(朝鮮新報社)の以下の鏡城邑城に関する記述にあるようです。
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「鏡城郡勝岩労働者区にある鏡城邑城は、勝岩山を背にして鏡城平野にそびえる代表的な平地城である。

12世紀の始めに高麗の尹瓘将軍が女真を追い北方の要塞として固めたところで、李朝に入っていまの名がつけられた。

その後1615~6年に大幅に拡張、改修された鏡城平野は壬辰戦争の際、若き義兵将鄭文孚が、二王子を縛り加藤清正に寝返った鞠世弻を処断し、侵略者撃滅に立ちあっがった歴史的なところである」。

加藤清正の因縁ゆえ日本人は立ち入りを許さないというのではなさそうです。冒頭の「鏡城郡勝岩労働者区」に位置することが問題なのです。

確かに、ちらりと見えた古い城壁の周囲には、へばりつくような低い家々が並ぶ漁村がありました。どの家の屋根の上にもするめが干されていたことが印象的でした。漁民の暮らしぶりがうかがえるとても迫力のある集落でした。しかし、それは彼らが外国人には見せたくない労働者の世界だったのです。

なぜダメなんですか? そう尋ねると、ガイドは言います。「貧しい人民の姿を撮った写真を宣伝に使われては困ります」。「誰がそんなことをするのです。それに、貧しいことは恥ずかしいことではないでしょう」。そうはっきり言ってやると、彼らも一瞬黙り込みますが、最後は「我々の首が飛ぶからやめてください」と泣きが入るというわけです。

こうした北朝鮮のガイドたちの頑なな構えは、改革開放の始まった1980年代当時の中国とはまったく違います。当時中国では、外国人がどんな写真を撮ろうと、止められることはほとんどありませんでした。もちろん、その街の浮浪者や貧民窟に類する場所にあからさまにカメラを向けると問題があったかもしれませんが、市井の人民の生活の様子を撮ることで「海外の宣伝に使われるから困る」などとは、彼らは言いませんでした。この違いは何でしょうか。

そういう押し問答の日々でしたが、ほとんど唯一朝鮮東海岸の村落のカット(といっても、かなり遠景です)を撮るのを許されたのが、この写真です。
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場所は七宝山の北側の山道から見えた海岸線の小さな漁村です。風光明媚な海岸線にこの土地の伝統的な民家が並んでいます。鏡城邑城の周辺にあった労働者区に比べると、整然とした集落でした。

こういう村をゆっくり歩いてみたいものだと思わせる光景です。今日の世界で、近代以前の風景がじかに見られるような場所はもうどこを探してもほとんどないからです。どんな辺境の地でも現代文明が入り込んでいます。観光用に白粉直しをされたものではなく、そのままの姿で残っているということ自体が奇跡的ともいえます。それがいまの朝鮮にはあるのです。「アジア最後の秘境」といっていいでしょう。それなのに……。
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ガイドが写真を覗いてくるので、ついいやみを言ってやりたくなりました。「今回朝鮮に来て、これがいちばんフォトジェニックなスポットですね」。

これまで見た七宝山のどんな景観に比べても、あなたたちが恥ずかしいと隠そうとする朝鮮の漁村の風景のほうがずっと美しい。そう言ってやりたくなったのです。

ガイドは薄笑いを浮かべていました。その瞬間、ちょっと大人げなかったなと反省したものです。この後味の悪さ、朝鮮旅行につきものです。
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by sanyo-kansatu | 2015-08-11 17:55 | 朝鮮観光のしおり | Comments(0)


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