2015年 09月 01日

中国内陸客の増加がもたらす意味を覚悟しておくべき

新宿5丁目の中国団体ツアーバスの路駐スポットにある焼肉屋「味仙荘」は、中国ツアーバス客ご用達の食事処です。

ランチタイムと夕刻時には多くの中国人バスツアー客が来店しています。
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焼肉食べ放題「味仙荘」は今日も中国ツアーバス客であふれていました
http://inbound.exblog.jp/24747719/

7月末、来店客の様子をウォッチングするために同店を訪ねたとき、ひとりのアルバイトの大学生に出会いました。仮にOくんとしておきましょう。現在、上海の大学に留学中の彼は、夏休みの帰省で東京に戻っていたのですが、たまたま大学の同級生が同店のオーナーの娘で、アルバイトをしてみないかと誘われたのだそうです。こうして彼は7月下旬から8月中旬までの約3週間同店で過ごしたのでした。

そこでぼくは彼にちょっとした調査をお願いしました。彼のアルバイト中に来店した外国客に「どこから来たのか」聞いてもらうことにしたのです。その結果を集計してくれたのが以下のデータです。

「味仙荘 来店者地域別調査」(2015年8月3日~14日)
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Oくんのアルバイト時間は、午前11時から16時までの曜日と、22時までの曜日がありました。また混雑時の店内では、すべてのグループに聞くことはできなかったようです。

とはいえ、この集計からいろんなことを推察することはできそうです。この12日間を通じていちばん多く来店したのは「上海」です。今年1月のビザ緩和で上海戸籍を有する中国人はほぼ観光ビザを取得できるようになったという話を聞きましたが、さもありなんです。

もっとも、すべてのグループが本当に上海戸籍を有する人たちなのかどうかは疑問です。これまでぼくは新宿5丁目を訪れる中国人ツアー客に路上でどこから来たのかよく訊ねてきましたが、一般に江蘇省や浙江省など華中地域から来た人たちは「上海」と答えることが多いのを知っているからです。海外で見ず知らずの外国人から同じことを聞かれたとき、千葉や埼玉の人が「東京」と答えるのと似ています。だって、千葉とか埼玉といっても相手にはわからないからです。それに似た心理が働き、「上海」が増える傾向があると思われます。実際、ぼくが来店した日、あるグループの男性は最初「上海」と言っていたのに、しつこく聞き返すと「楊州」と答えてくれたこともありました。「上海」には、かなり広範囲な地域が含まれるものと思われます。

次に多かったのが「山東」と「東北(黒龍江省、吉林省、遼寧省)」でした。やはり、内陸からの中国客が増えていることがわかります。

「広東」も多いですね。「香港」というのもありますが、きっと香港発のフライトで来日した中国客(実際には、広東省出身では?)だと思われます。香港客が絶対ここには来ないとは言い切れないのですが、いまの香港の旅行市場は成熟していて、中国本土客と同じような旅行はほとんどしていないからです。

韓国人も意外にいますね。イタリア人やロシア人といった新宿5丁目界隈のビジネスホテルに宿泊していると思われる欧米の個人旅行者もたまに来店するようです。

アルバイトの最終日、Oくんに話を聞くことができました。彼は高校時代から中国に留学しており、中国語は堪能です。

-この3週間は忙しかった? この夏のアルバイトでどんなことを感じましたか。

「とにかく店ではいろんな地方の方言がよく聞かれました。ぼくは中国語を上海の学校で勉強した日本人なので、まったく聞き取れないことが多かった。だいたい従業員の方が全員東北三省の人で、なまりが強い。日本語を話せる人も少ないという環境です。

いちばん感じたことは、日本に旅行に来る中国人のお客さんはマナーが欠けているということです。上海のレストランではしないことをここではしている」。

-たとえば、どんなこと?

「中国の人は食事のとき、温かいお湯を飲む習慣があるのですが、当店では忙しいので出していないんです。あるとき、おばあさんが鉄板にガラスのコップをのせてお湯をつくり始めた。ビックリしました。慌ててコップを取り上げましたが、なんというか常識がないんです」。

-开水(お湯)が飲みたかったんですね。目を離していると、あぶないですね。

「鉄板にアルミの皿を載せて肉や野菜や水をまぜで煮物を作り始めた人もいました」。

-あいかわらず自由ですね(笑)。自分のやりたいようにやるのが中国人の流儀。でも、ねえ…。

「クレイマーも多い。従業員に対してもぞんざいな態度が見られました。網の交換も何度もしろという。お金を払っているんだから、好きにやっていいという考え方があるようです。日本式の焼肉に慣れていない人も多い。いちばん衝撃的だったのは、給仕するぼくに向かって「这个烤肉真的不能吃(この焼肉はまずくて食べられない)」と言い放ったお客さんがいたことです。日本では普通こんなこと言われることもないので、思わず笑ってしまいました。その人、帰り際にも同じことをぼくに言いました。

こんなこともありました。回族の人たちのグループが入店してきたのですが、宗教上の理由で豚肉が食べられないというのです。だったら、なぜここに来たのか。ところが、最初は食べないと言っていたのに、しばらくすると(豚肉以外に牛肉もあるから)やはり食べると言い出して、騒動が起きました。従業員と口論が始まってしまったのです。お互い中国人なので譲りません。

予約の1時間前にガイドから「お客さんが海鮮を食べたいと言っているので、なんとかできないか」というグループもいました。うちは焼肉屋なのに…。

(在日中国人の)店長も、中国人は本当に恥ずかしいと話していました。ぼくは上海に住んでいるので、このような人たちを見たことがありません。もともとぼくは中国人というのは気さくで親しみやすいという印象を持っていたのですが、ちょっとしたカルチャーショックでした」。

-確かに、上海や北京などではあまり見られない光景ですよね。地方からの訪日客が増えたことが大きいのでしょう。

「見た感じ、北方の中国人より広東省など南方の人のほうが態度がいいと感じました。ぼく、思うんですけど、せっかく日本に旅行に来ているのに、この店に来るのはどうか。だいたい日本式の焼肉とも違うし」。

-安いツアーで来くる人たちだから、コースに組み込まれていてシステム上変更できないんでしょうね。いまいくらでしたっけ?

「ランチは食べ放題1080円。団体は980円です。コストを削っているので、団体客には一般のお客様と同じようにはサービスできません」。

Oくんの東京の夏休みは、内陸中国人との遭遇によるカルチャーショックの連続だったようです。今年の夏も多くの訪日中国人観光客が来ましたが、内陸の人たちが増えていることで、全国の観光地ではさまざまな問題が起きていたのかもしれません。

安いツアーに参加し、バスに乗って団体旅行しているような人たちが大半である中国の内陸客は、言ってみれば、10年、15年前の上海人であり、北京の人たちといえるでしょう。中国の発展は地域によるタイムラグがあるためで、沿海部の人たちが少しずつ成熟してきても、内陸部の人たちが後から来るようであれば、Oくんのいう「マナーの欠けた中国人」イメージは簡単には消えることはなさそうです。

そもそも銀座の百貨店を訪れるような個人客とバスツアーの団体客には、その行動様式や消費活動などの面で大きな落差があります。今後ますます中国内陸客が増えることを想定し、受け入れ側もこの落差を受けとめる覚悟が必要だと思います。
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by sanyo-kansatu | 2015-09-01 14:43 | 東京インバウンド・スポット | Comments(0)


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