2015年 10月 05日

株価暴落は中国の訪日旅行市場にどんな影響を与えるか(前編)AISO王会長、大いに語る

一般社団法人アジアインバウンド観光振興会(AISO)の王一仁会長は、日本で訪日外国人旅行市場がひそかに動き出した1980年代の黎明期から大盛況を迎えた今日に至るまでのすべてを知り尽くした人物です。

一般社団法人アジアインバウンド観光振興会(AISO)
http://shadanaiso.net/index.html

総合ワールドトラベルとAISOのこと(トラベルマート2011 その6)
http://inbound.exblog.jp/17150936/

ぼくは年に何度か王会長の話を聞きにいくことにしています。

今回(9月中旬)どうしても王会長に尋ねてみたかったのは「株価暴落は中国の訪日旅行マーケットにどんな影響を与えるだろうか」という質問でした。

7月の訪日客の伸び率減速は正常に戻ったとみるべき

それに対する王会長の答えは以下のようなものでした。

「日本のメディアが騒ぐほど、中国の人たちは株価暴落後の世界をそれほど心配していないようだ。確かに、個人投資家の多くは資産をいくぶん目減りさせたとはいうものの、株価は去年の今頃の水準に戻ったようなもの。不動産バブルについても、一年前に政府が投資用のマンションの購入を事実上禁止したことから、すでに景気の後退は実感していたと思う。それでも、訪日旅行は増える一方だった」。

―つまり、影響は少ないということでしょうか。

「その前にふまえておくべきことがある。今年上半期の中国の訪日旅行市場はご存知のように異常な伸びでした。それは円安もあるが、それ以上にMERSの影響で、韓国から日本へ旅行先を変える中国人が増えたことが大きい。夏以降、若干訪日客の伸び率が減っているのは、株価暴落のためというより、韓国にも7月下旬頃から人が戻りつつあることで、いまはむしろ正常に戻ったと理解すべき」。

―確かに、今年7月の中国の訪日客数は前年同月比105.1%増と6月に比べて伸び率が落ちています。でも、総数は57万6900人と単月で60万人近い過去最高を記録。会長は上半期までが異常だっただけで、下半期に入ると、正常に戻るだろうという認識なんですね。

7月の訪日外客数、単月過去最高192万人を記録(JNTO)
http://www.jnto.go.jp/jpn/news/data_info_listing/pdf/150819_monthly.pdf
※ところが、8月は前年同月比133.%増の59万1500人と伸び率を増やしています。話をお聞きしたときはまだ発表前だったので、7月の伸び率の低下をみて王会長は「正常に戻った」と指摘しているものと思われます。

「だいたい今年1月頃は、訪日中国客が初めて単月で30万人超えたと騒いでいたのですよ。それがいまは60万人近い。大化けといっていい。実際のところ、日本のホテルやバスなどの受け入れ側は、正常に戻って(訪日中国客の伸びが減速して)かえって良かったと思っているのではないか。上半期は海外からの集客を断ってばかりだったのだから」。

人民元切り下げは関係ない

「9月に入ると、訪日客の勢いはだいぶ落ち着いたと思う。もともと9月は夏休みと国慶節のはざまのオフシーズン。だが、今年の中秋の名月は9月27日。国慶節より少し前倒しで中華圏からの予約が入っている。いま中国の長期休暇は、旧正月と国慶節の大きくふたつ。以前は5月の労働節もそうだったが、3つもいらないということで、政府が5月の長期休暇は取りやめにした。今年の国慶節は10日以上の連休を取る中国人も多いと聞いている。今年の国慶節は例年並みだと思う」。

―人民元の切り下げもありましたが、どうですか。

「切り下げたといっても4%程度。すでにこの数年間で30%以上円安になっているので、中国人にとっては大した影響はない」。

―では、“爆買い”には影響なさそうですね。

「いま中国では、自国で買い物をするように働きかける施策が打たれている。6月にまず一部の輸入品の関税を下げた。そして、8月には深圳に海南島と同じような免税店をつくったという報道もあった。そこでは香港と同じ価格で輸入品を購入できるそうだ」。

爆買いを見るにみかねた中国政府は輸入品の関税を引き下げるもよう
http://inbound.exblog.jp/24564700/

「実は、いま香港の景気は良くないようだ。昨年以来の反中デモや今年2月に起きた中国の運び屋に対する市民の反発もあり、中国政府は中国人の香港訪問を週に1回に制限するなどしたことから、かえって香港経済は影響を受けている。おそらく今後香港の不動産価格は下落に向かうだろう。もちろん、これまで高すぎたことが是正されるともいえるが、これまで好調だった香港の訪日客に影響が出るかもしれない」。

“爆買い”が減るとツアー代が上がるという連鎖

―なるほど。株価暴落以外に中国の国内外の事情が与える影響も考える必要がありそうですね。

「こういう言い方ができるかもしれない。確かに、株価暴落で少し懐具合が寂しくなると以前に比べて一人当たりの中国客の“爆買い”量が減ることは考えられる。それは中国団体客が日本国内の免税店に支払うキックバックが減ることを意味する。そうなると、在日中国人を中心とした国内のランドオペレーターは中国客のホテルやバスの手配をカバーできなくなる。すると何が起きるかというと、これまでのような安いツアーを中国の旅行会社が提供できなくなる。つまり、ツアー代金が値上がりする。そうなると、これまでのようにお客が集まるとは限らない」。

―う~む。そういう連鎖でいずれ訪日中国客の伸びが鈍化する可能性もあるということですか。まさにインバウンドの裏表を知り尽くした王会長らしい指摘ですね。その兆しは見えているのでしょうか。

「実際、大阪などの大都市圏ではホテル料金が高騰していて、国内のランドオペレーターはホテルの確保に窮している。だから、いまは噴火の影響で観光客が減った箱根のホテルが穴場だという話も出てくる。訪日客の動向は、日本側の受入事情によるところも大きいといえる」。

今後は個人客の動きに注目すべき

「訪日中国旅行市場を考えるうえでもうひとつのポイントは、C-Tripに代表されるオンライン旅行社の勢いだ。いまや中国ではオンライン旅行社による予約が浸透していて、C-Tripの関係者によると、訪日市場の伸びは前年比で7倍増らしい。上海市場においてはすでに半分、北京で30%をオンライン旅行社が占めるという。彼らの多くは個人旅行者なので、これまでの中国団体客とはまったく違う動きをするため、これからは目が離せない」。
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C-Trip
http://www.ctrip.com/

―いよいよ中国も個人旅行者の時代になろうとしているのですね。もちろん、内陸からの日本路線も急増しており、おなじみの団体客も減ることはないのでしょうが、これからは訪日中国人マーケットは二極化した実態に対応しなければならないということですね。

※以下の記事は2年前に書いたものですが、いよいよ彼らが日本に上陸する時代を迎えたといえるでしょう。

日本の1980年代を思い起こさせる中国のバックパッカーブーム
http://inbound.exblog.jp/20348104/

「もっとも、不安要因もある。中国の日本路線は激増している。特に10月以降、羽田への日本路線は1日約20便になると聞いている。はたしてそれだけ増やして席が埋まるのか。ちょっと疑問もある」。

そんなに飛んでくるの!?  ちょっと驚いてしまいますが、今後の市場がどう動いていくのか。要注目です。

バブル崩壊後も海外旅行者の増えた日本と同じ道を進む!?

中国の株価暴落と訪日旅行市場の関係については、個人的に思うところがあります。日本がバブル崩壊を迎えた1990年代初頭、日本人の海外旅行者数は約1000万人でした。では、バブル崩壊で日本人の海外旅行者数は減ったのでしょうか。実は違います。その後10年にわたって伸び続け、頭打ちとなったのは2001年の米国同時多発テロの年でした。それ以降は1600万人前後で伸びは止まっています(そうこうしているうちに、今年は45年ぶりに訪日外国人が出国日本人を逆転しそうです)。

つまり、中国で仮にバブルが崩壊したのだとしても、海外旅行者数はしばらくは増え続けるのではないか。ただし、やみくもに増えるというのではなく、「安近短」のアジア方面への渡航が拡大するのだろうと思うのです。

これから中国でも日本と同じようなことが起こるのではないか…。そう思っていたところ、最近こんな記事が東洋経済オンラインに出ていたので、一部抜粋しておきます。

株価下落でも「中国爆買い団」が減らないワケ(東洋経済オンライン2015年10月2日)
欧米旅行は急減し、日本に人気が集中
http://toyokeizai.net/articles/-/86559

「中国での海外旅行需要が縮小しつつあることから、日本のインバウンド業界にもなんらかの影響を及ぼす可能性は否めない。ところがフォワードキーズは、「欧米など遠くに行くのをやめ、日本や台湾などの近場に行こうとする需要は堅調」と分析している。

たとえば、11月の国際線航空券販売数の予想を見ると、欧州行きが前年と比べて11%、南北アメリカが50%も落ち込んでいるにもかかわらず、アジア太平洋行きは35%増加と引き続き高い伸びを示している。つまり「中国で株価下落が起きたものの、当面は日本への爆買いの波は止まらない」と見るべきだろう」。

やっぱり一度バブルの味を知った国民は、すぐにはやめられないのです。ただし、そう遠くには行けないので、近場を目指す。その恰好の旅行先のひとつが日本であることは間違いないようです。

次回は、王会長の日本のインバウンド業界に対する辛口の指摘を紹介したいと思います。

ニッポンのインバウンドはここがおかしい!?(後編)AISO王会長、大いに語る
http://inbound.exblog.jp/24974742/
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by sanyo-kansatu | 2015-10-05 12:13 | “参与観察”日誌 | Comments(0)


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