2015年 11月 12日

中国客の日本での爆買いも米英に比べればささやかといえるかも!?

中国客による「爆買い」が今年の流行語大賞にノミネートされたようです。

ユーキャン新語・流行語大賞2015
http://singo.jiyu.co.jp/

確かに、今年の訪日中国人旅行者の数は、2000年の解禁以降、総数、伸び率ともに過去最高の勢いです。

日本政府観光局によると、2015年1~9月までの訪日中国人数は約384万人で、このままいけば年間で500万人を突破すると見られています。訪日客全体も約1449万人と増えていますが、伸び率を見ると中国客の勢いが他を圧しています。

訪日外客数(2015 年9 月推計値)
http://www.jnto.go.jp/jpn/news/data_info_listing/pdf/151021_monthly.pdf

さらに、今年7~9月の訪日中国人の旅行消費額は4660億円(全体の46.6%)と半数近くを占め、1人当たりの平均消費額も28万788円とトップです。こうなると、中国客の「爆買い」が流行語大賞にノミネートされるのも当然かもしれません。

訪日外国人消費動向調査平成27年7-9月期結果
~ 1四半期で初めて1兆円を突破!7四半期連続で最高値を更新~(2015年10月21日)
http://www.mlit.go.jp/kankocho/news02_000263.html

では、ここで単純な掛け算をしてみましょう。すなはち、年間を通じた訪日中国人の旅行消費額の(ものすごくアバウトですが)推計です。

500万人(2015年訪日中国人数見込み)×28 万円(1人当たりの平均消費額)=1.4兆円

※実際に、観光庁の推計でも、今年1~9月の訪日中国人の旅行消費額はすでに1兆1016億円に達しているようです。

これはなかなかすごい数字といえます。ここで言えるのは、「爆買い」は、彼らの日本およびメイドインジャパンに対する信認の表れであることです。

こうしたことから、「2015年度の訪日外国人客消費が3兆円規模になると予想されるので、訪日外国人客の消費たる「爆買い」が輸出の4パーセント余りを占めることになり、輸出不振の一部を補う構図になるとも予想される」という指摘も出てきます。「訪日中国人旅行者は日本を救う」式のことを言い出す人がまたぞろ現われてくるかもしれませんね。

訪日消費、年3兆円超へ 7~9月、客数・金額とも最高
円安・免税拡大追い風 中国客頼み、持続力懸念も (2015/10/22 日本経済新聞)
http://www.nikkei.com/article/DGKKASDC21H08_R21C15A0EA2000/

ところで、せっかくの景気のいい話に水を注すようで申し訳ないのですが、こうした「爆買い」現象の背景について少し別の視点から冷静に考えてみたいと思います。というのも、今年の秋、中国政府は米英両国に対して「ボーイング300機購入」(価格は計約380億ドル(約4兆5663億円))、「初の原発受注」(投資額は約400億ポンド(約7.3兆円)を立て続きに表明したからです。

「「我が国には13億人の人口がある。5年後には10兆ドルの商品を米国から輸入し、対外投資は5000億ドルを超える」。習氏は22日、中国の地方政府や米国の州のトップが集まる会合で中国の経済規模の大きさを強調した」。

習氏訪米「13億人市場」アピール ボーイングから300機(2015/9/23 日本経済新聞)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM23H3L_T20C15A9FF1000/

「英国を国賓として訪問している中国の習近平(シーチンピン)国家主席は21日、キャメロン英首相と会談し、英国での原発新設計画に中国企業が参加することなど、経済関係を強化することで合意した。ロイター通信によると、キャメロン氏は会談後の会合で、両国の企業の間などで結ばれる投資や貿易の規模が総額約400億ポンド(約7・3兆円)になると語った」。

英国、中国製原発導入へ 英中首脳が合意、欧米で初(2015年10月22日 朝日新聞)
http://www.asahi.com/articles/ASHBQ21L1HBQUHBI004.html

こうした米英に対する破格な「爆買い」表明に比べると、日本での中国人の爆買いなんて、実はささやかすぎるといえるかも!?  そう思わざるを得ないところがあるのです。1.4兆円という推計は、年間を通じて全国のインバウンドに関わる官民を挙げた膨大な関係者の営為による総額なのだとしたら、なおさらです。

だから、こんなことも思います。なぜ中国は米英に対してここまでやるのだろう? また今年日本にこれほど多くの中国客が訪れた理由には何があるのだろう?

前者の問いについては、あとで触れますが、「新型大国関係」や人民元の国際化というキーワードで説明できるのでしょう。一方、後者の問いに対する日本政府観光局による公式な見解としては、円安という基調要因を除くと、以下の3点が指摘されます。

①今年1月の中国人に対する観光ビザの緩和措置
②中国側の訪日路線の積極的な拡充
③中国発クルーズ船の大量寄航

ただし、これらはあくまで表向きの論点といえます。確かに今日の結果を生んだ直接的な背景には間違いないのだけれど、もう少し長い目で見て、なぜ2015年にこれほど多くの中国客が日本を訪れ、「爆買い」することになったのか。その点について、ぼくはこう考えています。

これまで中国政府は外交上に使えるカードのひとつとして訪日客をコントロールしていました。尖閣問題が起きたときは、さまざまな手段を通じて訪日客にストップをかけ、震災が起こると、今度はちょっと無理してでも訪日客を送り込もうと、温家宝さんまで来日しました。反日デモなどで悪化した中国の好感度を上げるためには効果があると考えたからでしょう。

もともと中国政府は自国民の日本での「爆買い」を苦々しく思っていたはずです。なぜ自国で買わず、わざわざ海外で消費するのか。これは内需を拡大したい中国にとって愉快ではない話です。それでも現状を許しているのは理由があります。それは米英の場合と同様、日本に対する「お土産」みたいなものだと考え、割り切っているからだと思うのです。

もちろん個々の中国客がそんなことを考えて行動しているわけではありません。国内より海外の方が安くていいものが買える。合理的な判断ゆえの消費行動にすぎません。しかし、中国政府はそれをふまえ、訪日客の動向がいかに自国に有利に働くかを鑑みながら、さまざまな調整の手を加えているのです。そんな話、にわかには信じられないという人もいるかもしれませんが、実はこうした観光を政治の道具とする発想とその実践は、大学の観光学のテキストに載っていてもおかしくないほど、社会主義国ではきわめてスタンダードなものです。ではなぜそんなことをするのか?

それは中国の自己実現のためだと言っていいでしょう。それを「覇権」の拡大と呼ぶかどうかはともかく、「中華民族の復興」を掲げる現政権にとって、それぞれの対象国にとって最も効果的と思われる「お土産」を手渡すことで、なんとか自己実現にこぎつけるための環境を整えたいと考えているのだと思います。それは古来中国の冊封体制に見られた行動様式の延長線上にあるものではないでしょうか。

中国が多くの自国民を観光客として送り込み、「爆買い」させることは、いい意味でも悪い意味でも、情緒的なところのある日本人にとって歓迎こそすれ、それほど抵抗なく受け入れやすいことだと思います。日本には「ボーイング300機」のような大量買いつけに対応できるものは提供できなさそうにない。そのぶん、家電量販店やドラッグストアで販売される日用消耗品の品質の高さには定評がある。またコツコツみんなで積み上げていくような商売のやり方や「おもてなし」を好むという点でもうまくマッチしていると思います。つまり、中国政府はここ数年の対日政策の試行錯誤を通じてそれがわかったことが、今年の訪日中国客急増の結果にも反映しているといえるのではないでしょうか。

ずいぶんうがちすぎな指摘に見えるかもしれません。でも、この15年間の訪日中国旅行市場の変遷を眺めてきた実感として、ぼくはそう思うのです。

ただし、だからといって「爆買い」を懐疑的かつネガティブに捉えるべきだ、などと言いたいのではありません。国際関係というのは、たいていこのような駆け引きの中で存在しているものだからです。「爆買い」現象の背後にもいろいろ事情があるので、それをふまえた上で、うまく活かしていけばいいのだと思います。

では、来年以降この勢いは続くのでしょうか。

一部のメディアによると、中国経済の減速によって「爆買い」はそんなに長くは続かないかもしれないと指摘されています。

「『爆買い』効果でウハウハできるのは、せいぜい今年いっぱいまでと考えておくべきです。これから中国経済の悪化が進むことを思えば、中国人観光客が急減することはないにしても、『並買い』に変わるでしょう」(北京の日本大使館関係者)。

経済の死角
中国の製造業が崩壊する日
〜もはや対岸の火事ではない。中国発の恐慌に備えよ!(2015年11月11日 週刊現代)
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/46246

しかし、最近中国の内陸部を訪ねたぼくの個人的な見解としては、伸び率は今年のような勢いを見せるとは思いませんが、もうしばらくは「爆買い」は続くと考えます。

確かに、マクロ的にみれば、中国経済は減速しているのでしょうが、だからといって年間約500万人の訪日数も、総人口からすると0.4%にも満たない規模でしかないのです。桁違いの人口を有する中国において、この程度の数はもとよりたいしたことではないといえますし、また何より富の偏りの大きい社会だけに、海外旅行客ができる層は比率は低くても、それを全土からかき集めるだけでも相当なボリュームになるのです。さらにいうと、中国には公的統計に捕捉されない膨大なアンダーグラウンド経済(「未観測経済」というそうです)の存在があります。一般に中国客の「爆買い」の原資は、表向きの収入ではなく、「未観測経済」であると考えた方がよさそうです。このように中国の動向を占うには、我々とはあらゆる尺度が違うことを知らなければなりません。

そもそもいつまで続くかという話も、何を「爆買い」と呼ぶかによります。これは、我々の事情というより、中国側の事情でかなりの部分が決まるため、これからも観察を続けていく必要があります。

なぜ中国人は訪日旅行のいちばんの印象は「干净(きれい、清潔)」だというのか?
http://inbound.exblog.jp/25063841/

株価暴落は中国の訪日旅行市場にどんな影響を与えるか(前編)AISO王会長、大いに語る
http://inbound.exblog.jp/24963833/

“爆買い”はいつまで続くのか?(あるドラッグストア関係者の見方)
http://inbound.exblog.jp/24470851/

日中の物価が完全に逆転しています(訪日客急増と「爆買い」の背景)
http://inbound.exblog.jp/24162197/
[PR]

by sanyo-kansatu | 2015-11-12 17:39 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)


<< 中国ツアー客を乗せたバス事故の...      今年5月に続き、10月末大連の... >>