ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2015年 11月 17日

中国ツアー客を乗せたバス事故の背景には何があるのか?(静岡県浜松市のケース)

今年のゴールデンウィーク中、静岡県浜松市で中国客を乗せたツアーバスの衝突事故があったそうです。地元紙によると、概要は以下のとおりです。

「(2015年4月)27日午後7時15分ごろ、浜松市西区伊左地町の県道浜松環状線の長峰交差点で、千葉県内の観光バス会社が運行する大型観光バスが、信号待ちしていた別の大型観光バスに追突した。浜松中央署によると、2台の乗客少なくとも計28人が市内の病院に救急搬送された。このうち約10人が軽傷、他は体調不良を訴えたもよう。

同署によると、バスの乗客はいずれも中国人観光客で、別のグループだという。追突したバスには運転手と2人のガイド、乗客22人の計25人、追突されたバスには運転手とガイド3人、乗客30人の計34人が乗っていた。運転手はいずれも日本人、ガイドは中国人という。追突されたバスは沼津市から、追突したバスは千葉県浦安市から、ともに浜松市内の宿泊施設に向かう途中だった。

追突されたバスの男性運転手(51)は「相手の運転手は、ブレーキの掛かりが悪かったと話していた」と語った。

現場は東名高速道浜松西インターチェンジから南西に約2キロの下り坂の緩やかな左カーブ。同署が事故原因を調べている」。

観光バス同士、追突 中国人客28人搬送 浜松(2015/4/28静岡新聞)
http://www.at-s.com/news/article/social/shizuoka/45509.html

当時、ぼくはこの事故のことをまったく知りませんでしたが、ネットで静岡新聞の一連の記事を見つけました。

乗客15人けが 観光バス追突、整備状況を聴取へ 浜松(2015/4/28静岡新聞)
http://www.at-s.com/news/article/social/shizuoka/45505.html

<浜松・バス追突>料金所停止位置を逸脱 県内IC2カ所(2015/5/1静岡新聞)
http://www.at-s.com/news/article/social/shizuoka/45982.html

<浜松・バス追突>後輪ブレーキは異常なし(2015/5/2静岡新聞)
http://www.at-s.com/news/article/social/shizuoka/46096.html

中国メディアにも以下の記事がありました。

静岡県浜松市で観光バス同士が衝突 中国人観光客ら28人負傷(人民網日本語版 2015年4月28日)
http://j.people.com.cn/n/2015/0428/c94475-8884787.html

数ヵ月後、事故原因に関して以下のニュースが配信されました。要は、バスの整備不良だったようです。

バス法定点検に不備 不具合認識か 浜松・追突事故(2015/9/30静岡新聞)
http://www.at-s.com/news/article/social/shizuoka/157011.html

事故の背景を考えると、以下の2つのことが気になります。

①整備不良は個別の企業の問題なのか。労働環境や賃金面などで、インバウンド需要に応えるために無理をしている中小のバス会社は多いのか。こうした背景には、大手よりも過酷な価格競争があるのか。

②バス事故が多発することは訪日旅行のイメージ低下につながりかねない。事故を減らすために、業界で取り組むべき構造的な課題は何か。

これまでぼくは「やまとごころ」というインバウンド情報サイトでインバウンドバスを取り巻く状況について取材しています。

もし中国人ツアーバスが事故を起こしていたら……を真面目に考える(2012年5月28日)
http://inbound.exblog.jp/18359541/

バスの不足が国際問題に!~早くも直面した日本のインバウンド構造問題にどう対応するべきか (2014年6月18日)
http://inbound.exblog.jp/22803119

事故の背景に価格競争があるかどうかについては、昨年の貸し切りバスの制度変更で、表向きはなくなったことになっています。しかし、実際のところ、中小のバス事業者と手配を依頼するランドオペレーターの間で何が起きているかについてはわかりません。特に中国客を乗せるツアーバスの場合、たいてい在日中国人の事業者が中国の旅行会社から送客された団体客の手配をしているため、そこで(中小のバス事業者との間で)ルールが守られているかについては、関係者しかわからないからです。

とにかく、今年訪日中国客は2倍強増の勢いで増えており、静岡新聞記事にもあるように、特に静岡空港への中国からの新規就航が増えた関係で、貸し切りバス需要が急拡大していて、事業者の方々も相当苦労されていると思います。

国際線・国内線総合航空時刻表「FUHU AIRWAYS GUIDE」によると、中国発静岡線は以下のとおりです。

中国発静岡線(2015年11月現在)
 
 JD370/JD369 杭州 木、日
 MU2026/MU2025 杭州 月、木
 MU5100/MU5099 合肥 水、日
 MU2872/MU2871 南京 火、金
 CZ8312/CZ8311 南寧 月
 MU2089/MU2090 寧波 火、水、金、日
 MU2019/MU2020 上海浦東 毎日
 JD329/JD330 石家荘 水、土
 GS6651/GS6652 天津 月、火、水、金、土
 GS7423/GS7424 天津 水、土
 MU2095/MU2096 温州 水、日
 MU2019/MU2020 武漢 毎日 
 CZ8311/CZ8312 武漢 月、金
 JD489/JD490 塩城 木、日

いま静岡空港には中国からこんなに飛んできているのです。大半が内陸の地方都市からです。これにはぼくも驚きました。

中国からの団体客の大半は、いわゆる東京大阪ゴールデンルートを5泊6日のバスツアーで周遊しています。成田と関空というゲートウェイに、新たに富士山のふもとの静岡空港というもうひとつのゲートウェイが加わったことがわかります。それにしても、地方空港でこんなに多くの国際線が運航され、しかも大半が中国線という事実は、中国客がいかに激増しているかを物語っています。

今回の事故を知り、やはり現場では大変なことになっているのだなと思いました。また事故はGW中ですね。12年の関越バス事故もGW中でした。この時期、日本人の移動も多いため、貸し切りバス会社の需給は逼迫し、運転手も休みなしで働くという状況なのではないでしょうか。

業界で取り組む課題という意味では、なるべく多くの大手のバス事業者もインバウンドバス事業に参入してもらうことが必要でしょう。関係者らに聞くと、バスが足りないのではなく、インバウンドバスの運転手が足りないという声が聞かれます。外国人観光客を乗せたバスの労働環境に対する悪いイメージがあり、なり手が少ないそうです。

先日、一般社団法人アジアインバウンド観光振興会(AISO)の王一仁会長に話を聞いたところ、バス問題に関して以下のようにコメントされていました。ご参照ください。

ニッポンのインバウンドはここがおかしい!?(後編)AISO王会長、大いに語る (2015年10月8日)
http://inbound.exblog.jp/24974742/

ところで、最近になって今回の事故に関して新たな動きがありました。

追突事故を起こしたバス会社が道路運送法違反でも摘発されたというのです。

この会社は中国の旅行会社からの依頼を受けて営業区域外での運送を常習的に行っていました。逮捕された社長は「違法だとは分かっていても、断るに断れなかった。断ると仕事がなくなってしまう」と話しているようです。

西区の観光バス追突事故 社長らを略式起訴(2015年10月20日中日新聞)
http://www.chunichi.co.jp/article/shizuoka/20151020/CK2015102002000085.html

「営業区域」問題は、成田や関空などの国際空港周辺に集中している中小貸し切りバス事業者にとってはいかんともしがたいところがあり、AISOなどのインバウンド団体も運輸局に撤廃をずっと求めていました。実際、これまでも桜シーズンなどは時限的に撤廃することもありました。

今回ゴールデンルートのin(成田、東京)とout(大阪)以外の乗り入れ地として静岡空港が浮上したことで、県内には貸し切りバス事業者が少ないことから、千葉県の業者が運行するほかなかったのではないかと推察します。

とにかくいま海外からの人の流れが多様化し、地方へと拡大しています。

今回のバス事故は、富士山のふもとにある静岡空港という存在が激増する中国客を一気に呼び込んだことで、新たに起きてしまった問題だと思います。
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by sanyo-kansatu | 2015-11-17 19:01 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)


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