2015年 12月 02日
昨日、今年の流行語大賞に「爆買い」が選ばれたことが報じられました。 ユーキャン新語・流行語大賞2015 http://singo.jiyu.co.jp/ 【新語・流行語大賞】「トリプルスリー」「爆買い」が受賞、トップテンには「アベ政治を許さない」「SEALDs」も http://blogos.com/article/147468/ 苦笑してしまったのは、「爆買い」の受賞者がラオックスの羅怡文社長だったことです。ちょっとしたブラックジョークのように思えたからです。 それはさておき、先日ある在日中国人からこんな話を聞きました。彼女は黒龍江省ハルビン出身で、すでに来日して20年以上という人ですが、最近になってハルビンから学生時代の友人が日本旅行に来るようになったといいます。中国の内陸部から日本に来るくらいですから、みんな社会的成功者で富裕層だそうです。もっとも、内陸の人たちはお金があっても、北京や上海の人たちのように個人旅行ではなく、安い団体ツアーで日本に来ます。まだ海外旅行はその段階なのです。 それでも、せっかく東京に立ち寄るということで、その在日中国人のKさんはハルビンの友人にホテルに呼び出され、買い物や食事に付き合ったというのです。 ところが、呼び出されたのは木更津でした。中国団体客はツアー料金が安すぎるため、都心で泊まれるホテルが少なく、たいてい八王子や埼玉、千葉など首都圏郊外になります。 オークラ アカデミアパーク ホテル(木更津) http://www.kap.co.jp/oap/ 「ホテルの施設はきれいで良かったけど、木更津まで車で2時間。友人は自分がどこにいるかも首都圏の大きさもわかっていないから、呼び出された側の大変さなど気づいていないのよ。まあそれでも、初めての日本。いい思い出を持って帰ってもらいたいから、木更津のホテルまで東京湾を横断して行ってきたんだけど…」。 結局のところ、木更津くんだりまで行ってやったのは「爆買いのお手伝い」だったとKさんは言うのです。 「友人はとにかく買い物のことしか考えていない。1日だけ自由行動の日があったので、車で木更津のアウトレットまで連れて行った。もう買う買う、これが世間でいう爆買いなんだと初めて知った。買い方が尋常じゃない。なんでも20個単位で買い占める。歯磨き粉でも20個まとめて。私は日本の生活が長いので呆れてしまい、つい皮肉交じりに、そんなに買ってどうするの? と聞いたら、中国では安心・安全が買えない。歯磨き粉だって防腐剤が入っていて、身体によくないの。あなたは日本にいるから、いつでも買えるかもしれないけど、私はいま買っておかないと買えないでしょう、というのよ」。 三井アウトレットパーク木更津 http://www.31op.com/kisarazu/ 買い物がすんだら、友人は「神戸牛が食べたい」と言い出したそうです。「私がおごるから、いい店に連れてって」と。でも、木更津周辺で神戸牛がおいしい店なんていきなり聞かれても、わからない。仕方なくホテルの鉄板焼きレストランに行こうとしたら、予約を入れていなかったので入れなかったそうです。 バカのひとつ覚えみたいに「神戸牛」を連呼する友人を見ながら、やるせない思いになったとKさんは言います。 「去年、ハルビンに帰ったとき、大学の同級生に会うと、みんなお金持ちになっていて、不動産や株の話ばかりしている。豊かになったことは良かったと思うけど、日本に来てもがつがつしてばかりで、ちっとも日本のことなんか関心ない。いまの中国人は見かけは豊かになったようだけど、やっぱり欠乏感のようなものがあるのよねえ」。 帰国後、微信で友人に連絡を取り、「木更津を出たあと、どこに行ったの? 印象に残った場所は?」と聞くと、「なんにも覚えていない」と言ったそうです。 「せっかく日本旅行に来ているのに、まったく観光しないで買い物ばかりしていたっていうの。なんでこうなるかなあ…」。そう嘆くKさん。気持ちはわかります。でも、いまの彼らに何を言っても、きっと聞く耳を持たないんじゃないでしょうか。 これが「爆買い」中国人の実態であることは確かです。上海や北京などの若い世代はずいぶん洗練されてきたものの、いまや「爆買い」の主役は中国内陸部の富裕層というわけです。 話を聞いていると、なんとも気の毒に思えてきたので、「きっとあと10年もすれば、ハルビンの人たちも変わって来るんじゃないかな。あの上海人たちでもそうだったのだから」と言うと、Kさんはこんなことを言いました。 「アウトレットに行ったとき、免税カウンターのレジを打つ日本人店員の態度がひどかったのよ。およそ日本人のサービスとは思えない感じで、笑顔ひとつ見せずに嫌そうに仕事しているわけ。こんな態度を見せられたら、日本人なら怒るだろうに。ああ、こんな光景見たくなかった。どうして中国人が日本でこんなに買い物しているのに感謝されないのかなあ」。 まあそんなこともないと思うけど…。Kさんをそうなだめたものの、そうなる理由は、今回の経験で彼女がいちばんよくわかったかもしれません。 皮肉なことに、普段中国でぞんざいな接客を受けている中国人には、その日本人店員の態度もさほど気になるものではなかったのでしょう。 一方、その店員も、少しでも中国語がわかればコミュニケーションの取りようもあるでしょうけれど、1日中、山のような買い物をレジ打ちしていると、本来の日本人のサービス精神を忘れてしまうものなのかもしれません。それは理解できなくもない気がします。難しいですね。
by sanyo-kansatu
| 2015-12-02 09:23
| “参与観察”日誌
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