ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

inbound.exblog.jp
ブログトップ
2015年 12月 17日

「中国インディペンデント映画祭2015」が始まりました

今年も今月12日から中国インディペンデント映画祭が始まりました。場所は東中野のポレポレです。2011年に初めてこの映画祭の存在を知り、中国のリアルな世界がとにかく面白く、その後、主催者の中山大樹さんにお話をうかがったり、中国インディペンデント映画界の中心地である北京の栗憲庭電影基金を訪ねたりしました。

ぼくは映画論やドキュメンタリーの世界に特に精通しているわけではないし、山形ドキュメンタリーフェスティバルのような場所に足を運んだこともなければ、普段インディーズ系の作品を上映している東中野ポレポレにも好んで行くようなタイプではありません。しかし、この映画祭は特別です。中国の独立系映像作家たちが見せてくれる多種多様な世界は、この国の生の感触に触れられる貴重な場だと考えて、なるべく多くの作品を観るようにしています。
b0235153_1525412.jpg

中国インディペンデント映画祭2015(12月12日~27日)
http://cifft.net/index.htm

初日(12日)は初っ端ということで、以下の2作品を観たのですが、相変わらず頭を抱えて考え込んでしまうような中国の重い現実を見せられてしまいました。今回も何人かの監督が来日していて作品上映後、舞台挨拶があります。これもとても興味深いです。
b0235153_1526236.jpg

トラップストリート
水印街 / Trap Street
2013年 / 94分 / 字幕 JP+EN
監督:文晏(ウェン・イェン)
http://cifft.net/trap.htm
b0235153_6193628.jpg

女流監督によるミステリー作品。舞台は南京。主人公は測量士の青年で、前半はほのぼのした恋愛ストーリーなのですが、後半状況が一変します。中国には地図から抹消されている通りがあり、たいてい国家機密に関わる場所だそうです。主人公の青年は無自覚のまま、その通りで出会った女性と恋に落ちますが、その後、機密情報にアクセスしたかどで身柄を拘束され、執拗な尋問を受けます。結局、彼は解放されるのですが、いったい彼女は何者だったのか…。謎は明かされぬまま物語は終わります。

今年春、日本でも上映された『薄氷の殺人』(14)、『春夢』(12)などのプロデューサーとして知られる文晏の監督デビュー作です。公安による尋問シーンを見ながら、今年スパイ容疑で何人かの日本人(実際は、帰化した北朝鮮人、中国人)が中国当局から拘束されましたが、彼らも同じような取り調べを受けているのだと思うと、ゾッとしました。上映後のプロデューサーインタビューのとき、この作品を欧米で上映したとき、会場からスノーデン事件との関連を聞かれたそうです。みんな同じことを考えるものなのですね。あまり知られていない中国社会の一面を知ることになる作品です。

シャドウディズ
鬼日子 / Shadow Days
2014年 / 96分 / 字幕 JP
監督:趙大勇(チャオ・ダーヨン)
http://cifft.net/shadow.htm

2011年の本映画祭で上映されたドキュメンタリー作品『ゴーストタウン(廃城)』(2008)の趙大勇監督による続編ともいうべき作品で、同じ雲南省の廃墟のまちを舞台としたフィクションです。

雲南省の廃墟の町でリス族の歌う賛美歌が美しい(中国インディペンデント映画祭2011 その9)
http://inbound.exblog.jp/20040432/

都会で事件を起こし、警察に追われたこのまち出身の男と彼の子を身ごもった女が叔父の家を訪ねるところからストーリーは始まります。美しい雲南省の山間部のひなびたまちには多くの少数民族が住んでいます。ところが、このまちで産児制限を進める当局は少数民族の妊婦たちを次々と強制堕胎させます。そのリーダーが町長である男の叔父であり、彼もその仕事を手伝います。

ぼくは以前、広西チワン族自治区出身の中国人留学生から自分の村で起きた強制堕胎の話を聞いたことがあります。当時彼の話を聞いても、実際にどんなことが起きていたのか想像できませんでしたが、この作品はまさにそれを映像化したかのような世界でした。当局の男たちが家々を訪ね、逃げ惑う妊婦を数人がかりで捕まえ、病院に連行します。10数人の妊婦たちをトラックの荷台に乗せて運ぶワンシーンが一瞬挿入されていて、これには衝撃を受けました。

しかし、不可解な出来事が続き、男の結婚相手である女も叔父の指示によって強制堕胎され、自殺します。怒りに震える男は叔父を刺し殺すというのが結末です。

今年中国政府は一人っ子政策を廃止することをついに決めましたが、かつて自分たちが着手していた恐るべき政策をどう総括するのでしょうか。この作品が中国で上映できないところをみると、なかったことにしてしまうつもりなのでしょう。監督はこうした非情な歴史を記録しておく必要があると考え、この作品を撮ったのだと思います。中国社会には我々の想像を越えた深刻なテーマが爆弾のように隠されたまま放置されていることをあらためて知らされます。

翌日(13日)は徐童監督の『えぐられた目玉』という作品を観ました。29年前に浮気相手の夫に両目をえぐられ失明するという壮絶な過去をもつ内モンゴルの旅芸人の日々を追ったドキュメンタリーです。

中国の地方都市にはいまでも旅芸人の世界があります。東北では「二人转」と呼ばれる歌う夫婦漫才のような見世物がありますが、内モンゴルでは「二人台」というようです。いかにも徐童監督らしい世界でした。

えぐられた目玉
挖眼睛 / Cut Out the Eyes
2014年 / 79分 / 字幕 JP+EN+CH
監督:徐童(シュー・トン)
http://cifft.net/medama.htm
b0235153_6201342.jpg

※徐童監督については、以下参照。

北京郊外村のシュールな異界(中国インディペンデント映画祭2011 その2)
http://inbound.exblog.jp/17462741/
北京の風俗嬢と農民工生活区のすべて(中国インディペンデント映画祭2011 その6)
http://inbound.exblog.jp/19990728/
中国の成長の代価を負わされた存在をめぐって(中国インディペンデント映画祭2011 その7)
http://inbound.exblog.jp/20015027/

メディアでは知ることのできない中国のリアルな実像に触れてみたい人は、ぜひ足を運んでいただきたいと思います。
[PR]

by sanyo-kansatu | 2015-12-17 15:26 | リアルチャイナ:中国独立電影 | Comments(0)


<< 中国のろくでなしバックパッカー...      訪中日本人が減ったのは、日本人... >>