ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2016年 01月 07日

4500人の中国クルーズ客が山陰の人口3000人の村に押し寄せ、住民を困窮させたというのは本当か?

昨年7月上旬、こんなニュースがありました。

「鳥取県の北西部、島根県に隣接する境港市。ゲゲゲの鬼太郎の作者・水木しげるさんの出身地としても知られ、商店街には、キャラクターの銅像が立ち並び、妖怪の町として観光客の人気スポットとなっている。

その町におととい、これまで日本に寄港した客船の中で最も大きい、クァンタム・オブ・ザ・シーズが入港した」。

4500人の中国人が来航!地元港は大混乱!(「ウェークアップ!」読売テレビ2015年7月4日)
http://www.ytv.co.jp/wakeup/news/n11081879_main.html

で、何が起きたかというと、「村の人口(3455人)も上回る4000人以上の中国人が訪れて爆買いし、現地住民の生活が一時困窮した」(人民網日本語版)というのです。

日本の村で「食い尽くせ、買い尽くせ!」 クルーズ旅行の中国人4000人が爆買いで「村民困窮」(Focus Asia 2015年7月7日)
http://www.focus-asia.com/socioeconomy/photonews/422797/

中国人「爆買い」で困る鳥取県 ネット民「日本の観光客受け入れ能力が低すぎる」(人民網日本語版2015年7月9日)
http://j.people.com.cn/n/2015/0709/c94659-8918190.html

激増する中国人観光客の影響はこんな形で現れるものなのか…。

この日、境港に寄航した「クァンタム・オブ・ザ・シーズ」は、世界最大規模の大型クルーズ客船です。ロイヤルカリビアン社というアメリカのクルーズ会社が運営しています。

実は、その5日前、ぼくは博多港で同客船の内覧会に参加していたので、その巨大さは体感済みでした。

6月27日中国発客船「クァンタム・オブ・ザ・シーズ」が博多に初入港しました
http://inbound.exblog.jp/24648018/

博多中洲のショッピングモール「キャナルシティ」で中国客が「爆買い」する光景を見ていたので、確かに山陰の小さな村のショッピング施設では大混乱が起きていたのかもしれない。なにしろそんなに大勢の外国客が来店することなんて初めてだったでしょうから。

そんな報道がずっと頭に引っかかっていたので、年末のある日、鳥取県西伯郡日吉津村にあるイオンモール日吉津を訪ねてみました。

JR山陰本線米子駅からバスで30分。田園風景の中にイオンモールが見えてきました。
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イオンモール日吉津
http://hiezu-aeonmall.com/

その瞬間、思いました。「あれっ、話がちょっと違うのでは?」。 

山陰の片田舎にあるとはいえ、そのイオンモールはけっこう巨大な施設だったからです。東館(イオン直営店とドラッグストアなど)と西館(テナント中心)に分かれ、館内は歳末セールでにぎわっていました。地方都市なら全国どこでも同じでしょうが、地元客は車で郊外にあるイオンモールにまとめ買いに来るのです。おかげで米子駅前は閑散としているわけです。
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ネットが報じた「大混乱」の痕跡を探そうと、館内を歩き回ってみました。でも、入り口に1枚の外国語のポスターが貼ってあったのと、表に「免税 Tax-free」の垂れ幕があったくらいで、特になんてことはないのです。
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東館の中央部にサービスカウンターがあり、そこが免税手続きを担当する唯一の場所でした。女性のスタッフに話を聞いてみることにしました。

―今度友人の外国人を連れて買い物に来たいのですが、免税してもらうためにはここに来ればいいのでしょうか(すいません。ウソついてます)。

「はい、そうです。いったんお買い上げいただいた後、パスポートとレシートを持ってこのカウンターに来ていただくことになっています。ただし、お買い上げ金額の条件があります。医薬品やお菓子などの消耗品の場合、5401円以上でなければ適用できません。家電製品の場合は10801円以上です」

―つまり、8%分を差し引いた金額が、それぞれ5000円、1万円以上ということですね。ところで、ここに「免税手続きは1組45分程度」と書いてありますが、免税するのにそんなに時間がかかるものなのですか。

「中国のお客様はとにかく買い物の品数が多いので、すべてチェックしなければなりませんから。でも、だいたい平均して15分くらいです」
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話を聞きながら、これは大変なことだと感じました。どれほどの数の中国客がレジで受け取ったレシートを持ってここに並ぶのだろうか…。ついに本当に聞きたかったことを話すことにしました。

―今年の7月、境港に中国の大型クルーズ客船が来て、こちらで大勢の中国客が買い物したそうですね。1隻4000人以上のお客さんが乗っていたそうです。こちらにも来店されたのでしょうか。

「はい、お見えになりました。でも、イオンは松江にもあるので、そちらにも行かれたそうですから、4000人全員が来たわけではないですけど、大勢お見えになったのは本当です」

―でも、仮に1500人くらい来店されたとして、とても免税手続きに対応することはできなかったのではないですか。もしかして、このカウンターの前は大行列だったとか。

「確かにそうでした。ですから、とても全員の方の免税手続きに対応することができませんでした」

―そりゃあそうですよねえ。

カウンタースタッフの女性はとても素直かつまじめに答えてくださりました。当時の状況がだんだん見えてきました。

どうやらこの感じでは大半のクルーズ客は免税手続きができなかったのではないでしょうか。でも、円安なので、8%の免税のことなど彼らはそれほど気にしなかったに違いありません。そんなことより、買いたいものがどれだけ買えたかのほうが重要だったことでしょう。

―中国の方はどんなものを買い物されていましたか。

「ドラッグストアの商品が多かったです」

そこで、ドラッグストアを訪ねてみました。薬剤師さんがいたので、聞きました。

―7月に中国のクルーズ客船のお客さんが大勢いらしたそうですね。ずいぶん薬が売れたと聞きました。何が売れたのですか。

すると、若い薬剤師はぼくをあるコーナーに案内してくれて、次の話をしてくれました。そこには、外国客向け専用の棚ができていました。
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「いちばんよく売れたのは、目薬の『サンテボーティエ』(参天製薬)。なぜかこちらの安い『サンテFX』ではなく、高いほうを買っていかれます。あとは風邪薬の『パブロンゴールドA』『龍拡散』などです」。
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それらはまさに「神薬」のラインナップでした。なぜ『サンテFX』ではなく、『サンテボーティエ』が買われたかというと、『サンテFX』は「神薬」のリストに選ばれていないからだと考えられます。

まったくもって、世間で言われているとおりのことが、ここ山陰のイオンモールでも起きていたのでした。

おそらくその日は、駐車場にひっきりなしにバスが何十台も現れ、数十人ごとの中国客を下し、1時間ほど「爆買い」して帰っていくという光景が繰り返し見られたのでしょう。でも、だからといって「現地住民の生活が一時困窮」というような話ではなさそうです。日吉津村の人口が約3000人にすぎないことから、中国メディアはウケ狙いで面白おかしく書いたのでしょう。気持ちはまあわかります。

ただし、中国メディアが知ってか知らずか決して書こうとしなかったこともあると思います。日本では、たとえ山陰の片田舎にあるショッピング施設でも、中国人が「爆買い」したくなるような商品がふつうに売られていること。地域住民もごくふつうに車で来て買い物していることです。ここは中国でいえば、都市の規模や格でいうと5線級都市にもとうてい入らない鳥取県西伯郡日吉津村という農村地区であるにもかかわらずです。実は、これが日本と中国のいちばんの違いであるということを。

現地を訪ねてわかったことがあります。域内の主要都市である米子市への合併が周辺の町村で進む中、日吉津村は唯一合併を拒んでいるそうです。理由は、村内に王子製紙米子工場(旧日本パルプ)の一部があるためで、合併してしまうと同社の法人税を明け渡してしまうことになるからです。
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やはり、現地に行ってみないとよくわからないことってありますね。

境港の港湾関係者の話では、2016年は中国クルーズ客船の寄港回数はさらに増えるそうです。

次回以降、境港の関係者に聞いた話を紹介しましょう。
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境港が中国クルーズ船の寄港地に選ばれる理由
http://inbound.exblog.jp/25266871/

鳥取県境港に上陸した海外クルーズ客はどこに行くのか?
http://inbound.exblog.jp/25269581/
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by sanyo-kansatu | 2016-01-07 14:51 | “参与観察”日誌 | Comments(0)


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