2016年 01月 14日

境港が中国クルーズ船の寄港地に選ばれる理由

鳥取県境港は、昨年逝去した水木しげる先生のおかげでいまでこそ「ゲゲゲ」のまちとして広く知られていますが、残念なことに、この港町の本来の姿はあまり知られていません。せいぜい冬場に松葉ガニ(山陰の呼称。ズワイガニのこと)の水揚げがどうしたといった話題が出るくらいですが、それもいまはロシア産に押されて厳しい状況です。

しかし、ぼくは境港ほど渋い港はないと思っています。渋すぎるといっていかもしれません。なぜって、境港は極東ロシアのウラジオストクと定期旅客航路を有している日本唯一の国際港なんですから。
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この地図を見てください。すでによく知られていると思いますが、日本列島を南北逆さにした「環日本海諸国図」です。かつて日本海側こそ北東アジアの歴史の表舞台だったことを理解するうえで有効なため、よく日本海側の自治体の人などが使う地図です。あらためて見ると、やはりこうした発想の逆転は面白いと思います。

さて、この地図が大きく貼られているのを見たのが、境港の国際旅客ターミナルのロビーです。ここから週に1回、韓国東海岸の東海と極東ロシアのウラジオストクを結ぶDBSクルーズフェリーが定期運航しています。

境港(鳥取県)発ウラジオストク行き航路をご存知ですか?
http://inbound.exblog.jp/20162860/

3年ほど前、ウラジオストクに寄港するDBSフェリーを見たことがあります。だから、一度日本側の発地である境港の国際ターミナルを訪ねてみたいと思っていました。実現したのは昨年末のことです。
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極東ロシア:北東アジア未来形
http://inbound.exblog.jp/i33/

JR境港駅を降り、駅前の観光案内所でレンタルサイクルを借り、水木しげるロードを突き抜け、東に向かって5分くらい走ると、海鮮市場(境港水産物直売センター)があります。その裏手はカニの水揚げ港です。そこからさらに海沿いを走ると、国際旅客ターミナルが見えてきます。
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DBSフェリーが境港に入港するのは毎週金曜、出港は土曜なので、その日は船は停泊していません。それでも、旅客ターミナルは開いていました。中に入ると、電気は点いていなくて、静まり返っていました。
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入口のそばに、中国語や韓国語の各種観光パンフレット、なかでも特筆すべきはロシア語版が置かれていました。韓国ウォンやロシアルーブル、ユーロなどの為替レートが書かれた手書きの紙が何気なく貼られていたりします。いかにも境港的な光景といえるでしょう。
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その種のパンフレットをひとりで物色していると、背後から突然男の人の声が聞こえてきました。

「今日は船が入港していないので閑散としていますが、DBSクルーズフェリーは今年で運航開始から6年目になりますよ」。

そう話すのは、米子で輸入雑貨商を営む塩谷晃司さんでした。塩谷さんは英語と中国語が堪能なので、半ばボランティアのような立場で、国際旅客ターミナルの案内人を務めているのだそうです。

来訪の目的を話すと、塩谷さんはぼくを件の日本列島逆転地図の前に連れて行きました。
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「これを見てください。境港と釜山がどれほど近いか。船で4~5時間です。この週3便というのは物流船のことですが、DBSフェリーの向かう東海もこんなに近い。2015年はMERSの影響で一時韓国客が減りましたし、ロシアも経済苦境で確かに利用者が少なくなっています。でも、18年に韓国で開催される冬季オリンピックの会場の平昌は、東海から近い。境港から船でオリンピック観戦に行けるんですよ」。

そう言って塩谷さんは、平昌五輪の英語のパンフレットや東海の観光ガイドマップを取り出して手渡してくれました。なるほど、そんな行き方があったんですね。
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DBSクルーズ2016年料金
http://www.city.sakaiminato.lg.jp/index.php?view=7345

「山陰の高校のスキー部の子たちがDBSフェリーで東海に渡り、平昌の近くのスキー場で合宿したりもしてるんですよ」。

日本人の利用もあるのですね。

「上海からも物流航路があり、境港へはこんなに近いんです。中国からのクルーズ客船の寄港地として境港が選ばれるのは理由があるのです」。
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中国発クルーズ客船の最もポピュラーのコースは上海や天津を発地とした4泊5日。その日程内で周遊できるのは、九州(福岡、長崎、熊本、鹿児島など)や韓国の済州島、せいぜい釜山くらいで、それ以上東に向かうと日程を延ばす必要が出てくるため、これがツアー商品の造成上そんなに簡単ではないのです。1日日程を延ばすだけで、一般に認知されている相場より高いツアー代を設定せざるをえないからです。これは日本でも同じことです。いまでは渡航者がかなり減っているようですが、たとえばソウル2泊3日のツアー代金はいくらくらいという相場観が消費者の側にあって、それより少しでも高く設定すると売れにくくなるという話です。

さらにいうと、境港は島根半島が防波堤となっているため、天然の良港なのです。クルーズ客船の船長たちも、これほど利用しやすい港はないと言っているそうです(塩谷さん談)。実際、これまで境港に中国発クルーズ客船が寄港するケースは、たいてい九州側の事情で受け入れが難しかったとき(たとえば、台風などの影響で)、臨時で境港が選ばれることが多かったのです。

その意味で、境港は日本海側の港の中でも、中国発クルーズ客船の誘致において最も優位性があるといえます。

後日、境港管理組合の方に中国発クルーズ客船の境港への寄港動向については話を聞いたのであらためて紹介するつもりですが、塩谷さんは「鳥取県や島根県にとって中国クルーズ客船の寄港は地域経済の起爆剤になる」と言います。

塩谷さんは1970年代という日中が国交を回復したばかりの早い時期に、当時は珍しかった中国語を大学で学び、その後、台湾や香港、東南アジアなどで商売をされてきたそうです。そのため、山陰を訪れるVIP外国人客の案内などを市から依頼されることも多いといいます。

「山陰を訪れる外国人を案内して必ず喜ばれる場所をご存知ですか。それは島根県安来市にある足立美術館です。ここは横山大観のコレクションと日本庭園の美しさが日本一と評価され、ミシュランでも3つ星をもらっているんですよ」

そうなんですね。知りませんでした。

足立美術館
https://www.adachi-museum.or.jp/

鳥取県西部と島根県東部の中海を囲むエリアは、地元では中海圏と呼ばれ、県の枠を超えて観光振興を進めているそうです。中国からのクルーズ客船の受け入れも、まだ回数は少ないですが、数年前から始まっています。ただし実際には、山陰のインバウンドのメイン顧客は韓国人で、DBSフェリーもありますが、米子空港へはソウルからの定期便もあり、彼らは好んで皆生温泉や大山登山などを楽しんでいるそうです。
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ちなみにこれロシア語の「中海」観光ガイドです。ロシア語の「H」は英語の「N」です。だから、これで「Nakaumi」と読みます。
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塩谷さんは言います。「山陰といえば過疎で何にもないと言われがちですが、温泉と自然はあって、逆に何もないことが外国客にとってはいいのだそうですよ。惜しむらくは、もっと多くの日本人にその良さを知っていただき、DBSフェリーも利用してもらいたいです」。
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インバウンド時代を迎え、こんな地方都市にも、塩谷さんのような方が現れているのですね。昔は地元でもちょっと変わり者と思われていたおじさんが、俄然活躍する場面が増えてきた。そんな感じでしょうか(失礼!)。

これを機に、ぼくも一度DBSフェリーに乗船してみなければと思ったのでした。

※関連記事
4500人の中国クルーズ客が山陰の人口3000人の村に押し寄せ、住民を困窮させたというのは本当か?
http://inbound.exblog.jp/25247278
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by sanyo-kansatu | 2016-01-14 09:08 | “参与観察”日誌 | Comments(0)


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