ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2016年 01月 17日

中国の台湾人アイドルへの謝罪強要が総統選挙に影響!?

2016年1月16日、台湾総統選挙が投開票され、民進党の蔡英文主席が当選しました。

すでに早い時期からこの結果は予想されているものでしたが、投票日の午後、日本薬粧研究家の鄭世彬さんからこんなメールが届きました。

「実はここ数日、台湾で炎上している事件があり、昨日(1月15日)はそのピークに達しました」

彼とはいま、一緒に単行本の仕事をしていて、そのメールのやりとりの文中にあったものです。ちなみに、来月13日に彼の日本での最初の著書(『爆買いの正体』(飛鳥新社))が刊行される予定で、ぼくは本文の構成を担当しています。

「韓国のアイドルグループに所属している16歳の若い台湾人(周子瑜)が中国のプレッシャーによって謝罪する映像を公開させられたのです。

これを見た台湾の世論、特に若い世代の間で、反中、反韓の感情が強烈に盛り上がっています。韓国の芸能事務所は、なぜ責任を若い子に押しつけたのか。あまりにも卑怯ではないかというわけです。

私のFACEBOOKでも、ここ数日この事件への評論ばかりです。

今日の選挙は緑(民進党)が勝つだろうと思います」。

この事件については、韓国や日本のメディアも報じています。

TWICEツウィが台湾独立主義者? JYP側「政治的観念を論じるにはまだ幼い」(中央日報2016年1月15日)
http://japanese.joins.com/article/824/210824.html

この記事によると「ツウィ(周子瑜)はMBC(文化放送)の芸能バラエティ番組『マイリトルTV』に出演して台湾(中華民国)の国旗を振ったが、これに対して中国の作曲家ファンアンが「ツウィは台湾独立主義者でないことを証明しなければならない」と主張して問題が大きくなった」と、謝罪に至る背景を説明しています。

そして、これが問題の謝罪映像です。

쯔위 공식 사과 / 周子瑜公开致歉(2016/01/15)
https://www.youtube.com/watch?v=t57URqSp5Ew

これに台湾の世論が強く反応したのです。YOUTUBEで彼女の名前を入れて検索してみたところ、中国に対する怒りを伝える動画が次々に見つかります。

周子瑜道歉全台人震怒 藝人開砲聲援│三立新聞台
https://www.youtube.com/watch?v=gdmkOGhWe9k

こういう外国人に中国への反発を仮託して語らせるバージョンもあります。

老外看周子瑜事件: Unite We Stand Divide We Fall
https://www.youtube.com/watch?v=Xl6-o3woKd4

民進党の蔡英文主席や国民党の馬総統にもメディアはマイクを向けていますが、馬総統も「彼女は謝る必要はなかった」と明言しています。

周子瑜事件 蔡英文:嚴重傷害台灣人民的感情
https://www.youtube.com/watch?v=rvoPq_igpn8

周子瑜事件 馬英九:她沒有必要道歉
https://www.youtube.com/watch?v=_ooFBIeuVME

選挙結果の出る直前の16日の夕刊には日本のメディアもこの件を報じています。

台湾人アイドル「私は中国人」 独立派と非難され謝罪(朝日新聞2016年1月16日)
http://www.asahi.com/articles/ASJ1J1BVBJ1HUHBI038.html

韓国のアイドルグループ「TWICE」で活躍する台湾人、周子瑜さん(16)が台湾独立派と非難され、所属事務所が15日、周さんが「私は中国人であることを誇りに思う」などと語る謝罪ビデオを公表した。台湾では強い反発が出ており、16日投開票の総統選にも影響が出るのではとの指摘が出ている。

台湾メディアによると、周さんは韓国のテレビ番組に出た際、韓国の旗と台湾を実体的に統治する「中華民国」の旗を掲げた。これが、中国で活動するほかの台湾人芸能人に「台湾独立派」と非難され、中国のテレビ出演取り消しなどの動きが広がっていたという。

だが、「台湾と中国は別」と考える人が増えている台湾では、周さんが中国の圧力で謝罪を強要されたとの見方が強い。台湾人としてのアイデンティティーを踏みにじられたとの受け止めで、親中路線を採った馬英九(マーインチウ)政権の与党・国民党にも批判の矛先が向けられる。投票で怒りを示そうという声も上がる。

国民党の総統候補、朱立倫主席は交流サイト・フェイスブックに「16歳に対してこれはひどすぎる。周さん、帰っておいで」と書き込むなど、火の粉を払うのに懸命なようすだ。(台北=鵜飼啓)


今朝、鄭世彬さんから次のようなメールが届きました。

「選挙結果は予想通りに緑が勝ちました。国民党はもともと勝ち目がなかったのに、アイドル謝罪事件はまさに致命的な一撃となりました。多くの台湾の芸能人が民進党を応援し、みんなに投票に行こうと呼びかけたからです。

でも、ちょっと気になるのは、今回の事件によって台湾で反中の若者が激増したと思われることです。これによって中台関係の適切なバランスが崩れてしまうことを懸念しています」

穏健な親日家の鄭さんの心配はよくわかります。

ぼくも同じことを感じていました。日本のメディアも、むしろ台湾の盛り上がりを気にしているようです。

中台、静かな緊張 蔡氏圧勝、議会も民進党過半数 台湾総統選(朝日新聞2015年1月17日)
http://www.asahi.com/articles/DA3S12163290.html

以下は、ネットでは読めないようですが(紙面のみ)、朝日の中国総局長は「中台のきしみは避けられない」と題された解説文の中で、中国側に「「台湾人の台湾意識」といった微妙な感情を感じ取る繊細さはない」「台湾の民意を直視するよう求める国際社会の声に対しても反発しかない」と書いています。これが現実です。

鄭さんは以前、台湾で反国民党、反中の意識が強いのは比較的高年齢層で、若い世代はそれほどではないと指摘していましたが、今回のことで状況が少し変わってきたのかもしれません。1996年に李登輝国民党主席が台湾初の民主的な総統選挙に勝ったときも、中国が台湾海峡をミサイルで威嚇したことの反発が大きかったのですが、この投票前の敏感な時期に、なんと愚かなことをしでかした中国人の音楽家とやらがいたものです。これに見る鈍感さ、頑迷さこそ、残念ながら、いまの中国人の平均的な態度です。ぼくもそれはよく知っています。知っているからこそ、今回の成り行きを手放しでは喜べないのです。

今後、台湾がどんな困難にさらされるか気になるところですが、冷静に関心を持ち続けていく必要がありそうです。

【追記】
その後、また鄭さんからメールが来て、この作曲家というのは、もともと台湾生まれだそうで、現在は中国に活動の拠点を移しているのだとか。いま台湾メディアは、この人物がすでに中国国籍を取得しているのではないかと報じているそうです。

それにしても、このタイミングの悪さといい、この男はむしろ国民党を負かせるために確信犯的にやったのではないかと思えるほどです。もしそうでないなら、粗忽にもほどがある。でも、こういう周りが見えず、逆効果なことしちゃう人、中国によくいるんですよね。

この作曲家の中国版ブログ(微博)は現在、コメントができなくなり、本人の投稿も削除されたそうです。いま頃、彼は中国当局からお仕置きされているのかもしれません。
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by sanyo-kansatu | 2016-01-17 13:03 | のんしゃらん中国論 | Comments(0)


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