ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2016年 03月 27日

都内で民泊をやってる在日中国人の話を聞いてみた

上海から戻ってきた翌週、地下鉄の中吊り広告で目にしたのが、『ウェッジ』(4月号)の「中国民泊」の特集でした。
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特集「訪日外国人を囲い込む中国民泊」
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/6347

今年に入ってぼくは内陸都市の重慶や成都、そして上海を訪ね、現地の旅行関係者らにヒアリングを続けてきました。そのポイントは、中国では訪日客の個人旅行化のスピードが想像以上に早く進んでいるということでした。

その背景には、日本政府によるビザ緩和の推進があります。詳しくは以下参照。

ビザ緩和とLCC日本路線の拡充が日本旅行ブームをもたらした(日経BPネット2016.3.22)
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/IB-BU/031800009/

で、その結果、何が起こるかというと、AirBnBを超える勢いの「中国民泊」市場の拡大だったのです。

同特集をざっと読みました。冒頭のレポート「日本でAirBnBを猛追する中国民泊」を執筆しているのは、現代中国事情の専門家の富坂聡さんです。さすがに情報が早いですね。

同記事は、上海に本社を置く中国最大の海外民泊サイト「自在客」の紹介から始まっています。「同社の提供している部屋は、台湾で21都市、韓国で27都市、中国大陸に46都市、そして日本に40都市、さらにアメリカにも4都市」。なかでも「予約の多い都市として挙げられた10都市のうち6都市が日本」「自在客のホームページで「日本」と入力すると、2090件、1万2760室と表示される」。これは「現在日本で2万6000室を提供しているAirBnBが1年前は1万件にも満たなかったことを勘案するとその存在感は既に甚大だ」といいます。

では、実際に「中国民泊」サイトにはどのようなものがあるのでしょうか。上海の旅行関係者に聞いたところ、海外民泊を扱う代表的なものは以下の3つです。
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自在客 http://www.zizaike.com/
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住百家 http://www.zhubaijia.com/
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途家 http://www.tujia.com/

実は、他にもいろいろあるのですが、以下の2つは中国国内の民泊がメインだそうです。
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游天下 http://www.youtx.com/
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蚂蚁短租 http://www.mayi.com/

いまの中国には数多くの民泊サイトがあります。前述の旅行関係者は「人気の理由は、ホテルより安くて、利用者の個別のニーズに応えられること。ホテルが取りにくいオンシーズンに役に立つサービスです。個人旅行の増加で、特に日本の民泊が大人気になっている」といいます。

では、もう少し「ウエッジ」4月号の記事を見ていきましょう。同誌の記事の一部はネットでも閲覧できます。

日本市場に吹き荒れる「中国民泊」旋風
最大手「自在客」CEO独占インタビュー
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/6403

ここでは、同サイトの張CEOによるいくつかの興味深いコメントが載っています。一部抜粋してみます。

― 日本でのサービス開始はいつか? 現在どれぐらいの部屋数を提供しているのか?
張 日本では14年12月にサービスを開始した。現在、約2000人のホストがいて、約1万2000室を提供しているが、日々増加しており、1年後にはまったく違った数字になっているはずだ。

― 日本にいるホストは中国人が多いのか?
張 中国人、日本人、その他の国籍の人が、それぞれ3分の1ずつというイメージだ。以前は中国人ホストが多かったが、最近は日本人ホストが急増している。日本のホストのうち7割程度はAirbnbとの重複登録だと思う。

― 「自在客」以外にも、中国系民泊仲介事業者である「途家」や「住百家」なども日本市場へ参入している。
張 中国系民泊事業者のなかで比較すると、当社が日本でのシェアがもっとも高い。途家は中国国内での民泊に強く、住百家は富裕層に強いという特徴をもっている。当社はFIT(Free Individual Travel、個人手配の自由旅行)に強い。


AirBnBのホストたちの多くも、「自在客」に部屋を提供しているのですね。何人かのホストをしている知人がぼくにもいますが、部屋の回転率を上げたい彼らにすれば、窓口は多ければ多いほどいいということでしょう。実際、AirBnBでも中国本土客の利用が増えているからです。

張CEOはこんなことも言っています。

―― 現行の日本の法律では、特区等を除いて民泊は禁止されている。
張 その点は認識している。だが、中国では既に政府が民泊を許可しているなど、世界各国では合法化の流れがある。それに比べると、日本はやや法整備が遅れている印象をもっている。


この発言には少し違和感があります。確かに、中国では自国民を相手にした民泊ビジネスは盛んなのかもしれませんが、はたして外国人の受入は可能なのでしょうか。なぜなら、中国のホテルに泊まったことのある人なら誰でも知っていると思いますが、この国の宿泊施設では外国人のパスポートコピーを地元の公安に提出する義務があります。それは民泊でも同じはずです。そもそも中国では外国人を泊めていいホテルとそうでないホテルがいまだに存在します。それほど外国人の管理にうるさい国なのです。この状況を知る以上、張CEOの発言はずいぶん都合がよすぎる言い分だと思うからです。

さらに、彼はこうも発言しています。

Airbnbはホストとゲストの両方から手数料を取る仕組みだが、当社はゲストからは一銭も取らず、ホストから手数料10%を取る仕組みだ。中国の旅行者はホテルの仕組みに慣れており、「ゲストが手数料を徴収される」ということに慣れていない(笑)

おいおい、これは民泊本来の相互扶助の精神から逸脱するものではないでしょうか。ホテルと民泊は別物であるという感覚が麻痺しているように感じないではありません。経営者がこんな考え方で大丈夫なのでしょうか…。

そもそもAirBnBが登場する前から国を超えた個人同士が無料で部屋を貸し借りするというSNSは存在していました。カウチサーフィンといいます。
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カウチサーフィン
https://www.couchsurfing.com/
http://find-travel.jp/article/4012

上記サイトは、このサービスについて「直訳するとカウチ(ソファ)でサーフィンの意味。カウチゲスト(旅人)がカウチホスト(宿泊地提供者)を見つけることで旅が手軽になります。お金のやりとりはなく、無料でソファーに寝かせてもらうイメージ」と説明しています。

上海に住む友人のカメラマンもよくこのサービスを利用するといいます。地方出張に行くとき、カウチサーフィンに登録している中国人の家に泊まったり、地方から上海に遊びに来た中国人を部屋に泊めてあげたりするそうです。このサービスは2000年代の早い時期から存在していました。

ところが、AirBnBという金銭の授受を含む民泊サービスが登場してきて以来、状況は変わってきたといえます。

「中国民泊」について気になることは他にもいろいろあります。

上海でC-Tripのホテル予約を担当している関係者に話を聞いたところ、同サイトをよく利用する香港人と中国人ではホテル選びの考え方がまったく違うといいます。香港人は「要求がとても細かい。ロケーションはもちろん、部屋は何平米で、ベッドサイズはどうかなど、いろいろ聞いてくる。料金が少々高くても、自分の好みの部屋を探す傾向がある」のだとか。

一方、中国人が追求するのは安さのみだというのです。

これはひとことでいうと、香港と中国の消費者の成熟度の違いからくるものだといえるでしょう。海外のホテルの利用に慣れている香港人と、自分では慣れているつもりでも、実際はたいしてよくわかっていない中国人との違い。安さしか求めないというのは、残念ながら、それ以外の選択の基準を知らないからなのです。細かいリクエストを伝えることが身についていないわけです。

こうした中国人の消費感覚は、民泊市場の拡大につながっていると考えられます。いま東京や大阪のホテルは予約が取りにくいだけでなく、価格は高騰し、彼らが考える宿泊相場とは乖離が生まれています。だったら、どんな部屋でもかまわないから、安いところを見つけたい。

では、彼らはいくらくらいで泊まっているのか。

知り合いに池袋のマンションを数室借りて「住百家」で民泊ビジネスを始めた在日中国人がいます。彼は昨年、勤めていた会社をやめ、この商売に乗り換えました。彼によると、ワンルームマンション一部屋を1日800元(約1万5000円)相当で提供しているそうです。

ただし、たいてい家族4人、多い場合は6人くらいが1部屋に泊まるそうです。みんなで雑魚寝のイメージですが、かなり安上がりといえます。最低2泊以上を条件にしているようですが、実際、中国人の個人旅行は、カップルというより5~6人の小グループや家族が多いので、民泊は訪日中国市場に合っているという言い方もできそうです。

なにしろ100万人に近い在日中国人がいるので、できれば知人や親戚の家に泊まって安く上げたい、というのが彼らの本音なのです。本来AirBnBなどの民泊サービスは、海外のふつうの家に泊まって、現地で暮らすように滞在を楽しみたいというニーズから市場が拡大したはずですが、大半の中国人のニーズはそういうことではなさそうです。

実際、1泊800元ではホストである彼も、それほどの利益にはなりません。そこで、彼が始めたのは「空港からの送迎」です。家族や小グループで来日した中国個人客は、東京の交通機関に慣れていません。タクシーは片道数万円と法外な高さだし、香港人や台湾人には可能なレンタカーも利用できない。それゆえ、送迎サービスにはそれなりの需要があり、確実に利益も取れるからというわけです。

前述の富坂さんは記事の中で、在日中国人企業家の民泊ビジネスの実態について、「マンション丸ごと買い取るケースが多い」「外国人向けの寮、さらにはシェアハウスを買い取るか借り上げてしまうパターン」があると指摘しています。確かに、薄利とはいえ、今後も数の増加が見込める中国客相手に利益を上げようとすると、そういう発想になって当然かとは思いますが、彼らだって誰もがそんな資本力を持っているとは限りません。C-Tripや春秋国際旅行社などの中国の旅行会社が日本のホテルや宿泊に利用できる施設を買い上げる動きは起きていますが、民泊用に買い上げることがどれほど進むか、ちょっと疑問です。そもそも安く上げたい人向けのサービスだからです。

それに、言うまでもありませんが、民泊の法的規制の問題はまったく解決していないからです。これは日本に限った話ではなく、全世界的にいえることですが、ホテル業界の反発があります。彼らにしてみれば「ホテルに義務付けられる環境・食品衛生・防火安全対策が(民泊のホストらに)免除されているのは不公平」(「ウエッジ」4月号p31 英国のホテル業界のロビー活動の事例)だからです。

もうひとつは、近隣住民へのケアがおざなりなことです。自分の住むマンションの隣の部屋に、数日ごとに見ず知らずの外国人がやって来ることを、誰しも心よく思わないからです。

こうしたこともあり、富坂さんの記事でも、日本における「中国企業不在の民泊ルールづくり」を批判しており、これには大いに同意します。数の上では、いずれAirBnBを追い抜くかもしれない中国民泊の関係者らが、これまで政府の法規制のルールづくりの会合に呼ばれたことはなかったからです。彼らが外国人であったとしても、日本国内で事業を営む以上、本来は関係ないではすまされません。

中国民泊の話は今月初旬、九州で逮捕された中国人不法ガイドの問題と重なってきます。これほど訪日中国市場が拡大しているのに、団体ツアーの国内手配を実際に手がけている在日中国人関係者らは、日本の旅行業界の蚊帳の外、アンタッチャブルな存在として放置されてきたからです。だから、彼らは気兼ねなく中国式ビジネスを日本国内で続けてこれたわけです。

中国人不法ガイドの摘発は全国に波及するのか。訪日旅行市場に与える影響は?
http://inbound.exblog.jp/25461430/

もっとも、民泊に関してはAirBnBのホストの多くが日本人でもあるように、ガイド問題とは少し事情が違うのも確かです。市場が拡大し、儲かるとわかっていて、在日中国人らがこのビジネスに手を出さないわけがありませんが、それは日本人も同じなのですから。

いずれにせよ、訪日旅行市場の拡大をうまく仕かけたわりには、この領域に関する日本政府の法制度の整備を進める態度は、あまりに初心でおっかなびっくりという印象がぬぐえません。確かに、年間2000万人の外国人が訪れるということは、日本列島の歴史上初めてのことでしょうから、前例がなく、適正かつ果断な判断が難しいという面はあると思います。でも、これだけ外国人観光客を呼び込むことに成功した以上、それを日本社会の利益になるよう運営していかなければ、何のためにやってるの? という話になりかねません。AISOの王会長ら、外国人関係者ほど、この問題に関する政府の姿勢に首をかしげています。

お役所任せではもうどうにもならないのが、いまの日本なのかもしれせん。だとしたら、残念なことです。
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by sanyo-kansatu | 2016-03-27 14:40 | “参与観察”日誌 | Comments(0)


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