2016年 03月 28日

日本より進んでいる中国ECサービス 支えているのは誰か?

「上班买, 下班收 当日达, 当日用(出勤中に買って、仕事がすんだら受け取る。当日届いて、その日に使える)」。
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3月中旬、上海の地下鉄車両内で見かけた中国のECサイト「天猫」の広告のコピーです。これは単なる煽り文句ではありません。いまの上海では、ECによる宅配サービスが社会に浸透していて、文字通り、「出勤中に買って、仕事がすんだら受け取る。当日届いて、その日に使える」状況が実現しているからです。

上海の地下鉄には、ホームも通路も車両内も、さまざまなECサイトの広告であふれていて、政府広報を除くと、かつては大半を占めていたアップルやサムソン、高級ブランド系などの海外メーカーの広告よりも数の上では多そうです。7割がたそうではないでしょうか。

たとえば、これは「京東商場」(JD.com)というECサイトの広告です。
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またこれは「1号店」(Yhd.com)というサイトです。
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なかでも圧倒的な広告スペースを誇っているのが「天猫」です。3月はちょうど長い春節休みが終わったばかりの時期だったため、「新学期向け」商品の割引をうたう広告が出ていました。
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全車両「天猫」でラッピングされた地下鉄も走っているほどです。
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「天猫」とは、中国最大のネット企業「アリババ」が運営する越境ECサイト「天猫国際(Tモールグローバル)」のことです。
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天猫国際(Tモールグローバル)
https://www.tmall.com/

「越境EC」については、先週発売された日経ビジネスの以下の特集で次のように説明されています。

個人輸入を含む、国境を越えて商品が取引されるECのこと。中国では、政府がECを使って海外製商品の個人輸入を促進する枠組みを2013年から段階的に制度化。一般貿易と比べて税率が低い、個人輸入の際に課せられる「行郵税」が越境ECにも課せられる。

越境ECサイトの運営会社が上海の自由貿易試験区などの「保税区」に倉庫を設置。そこに海外製商品を在庫し、ECサイトからの注文に応じて中国内の消費者に出荷する。海外から個別に消費者に直送する場合と比べて、保税区の倉庫への一括納入で輸送コストを抑えられる。中国国内の倉庫から出荷するため、配達時間も短縮できる。

課税逃れの並行輸入業者を締め出したり、品質の悪い中国製品に対する消費者の不満をガス抜きしたりするために導入されたと言われる。リスクは突然の税率変更。実際、2016年4月から一部の商品について税率が引き上げられると言われている
」(p30)

日経ビジネス2016.03.21 特集「100兆円市場 中国にはネットで売れ」
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/special/031500264

つまり、いま上海では「天猫」を使えば、日本のドラッグストアで販売されているような商品などが、ECで手軽に購入できるというわけです。

同誌の特集では、中国のEC市場のランキングを載せていますが、「天猫」を運営するアリババが「2位以下を圧倒」しています。
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こうした中国のECビジネスの盛況ぶりについて、コンパクトにまとめられている記事をネットで拾ったので、全文を紹介します。筆者はジェトロの研究員です。

ECビジネス普及で再編期到来 中国流通業界の戦略とは(2015年12月19日 大西康雄(日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所・上席主任調査研究員)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5758


中国で流通業界再編の新しいうねりが起こっている。その直接的な契機となったのは、第1にインターネットの普及=ECビジネスの急成長である。

マクロ経済統計では、製造業が軒並み不振な中、全社会小売総額は二桁増を続けているが、その内容を見ると、デパートやコンビニ、スーパー、専門店など伝統的小売業態の売り上げ増加率は次第に低下している。

これに対してインターネット小売市場(Eコマース)売り上げ額は前年比で40%以上の急増ぶりを示し、15年上半期の売り上げ額は1兆6140億元で全商品小売額の11%となった。中でも携帯電話などの移動通信デバイス使った移動Eコマースがその4分の1近くを占めている。

第2には、消費者行動の大きな変化がある。特に都市部では、日用品に至るまでネットで注文するというライフスタイルが日常の光景となりつつある。

再編の間接的契機となったのは流通業界自身が、消費需要の把握や業態の近代化で出遅れたことである。確かに家電などの量販店、コンビニなどの先進国型業態が急速に普及したが、規模拡大で利益額を拡大する旧態依然な戦略が主流を占めてきた。消費者の要求が多様化する中で利益率が縮小し、15年上半期には、大手小売企業101社中42社がマイナス成長となった。

業界の対応は様々だ。第1は、店舗数縮小による「損切り」タイプの対応で、健康・美容商品の採活(VIVO)、高級スーパーOleなどを展開している華潤グループが代表例である。

第2は、逆に経営悪化の他店を買収し規模拡大を図るタイプで、チェーンストア大手の北京物美グループがその代表例。同グループは、廉美、新華百貨、江蘇時代スーパーなどを傘下に収め、売り上げを伸ばしている。

第3は、Eコマースを取り入れた新業態を模索するタイプで、これは上記の例を含め業界全体で採用されている。ネット上に取扱い商品を展示し、実体店舗にその実物を置いて消費者に体験させ、注文を受けると宅配で届けるというO2O(Online to Offline)方式はその典型例である。すでにウォルマートは「速購」、華潤は「e万家」というサイトを立ち上げている。

中国の世界に例を見ない規模で進む都市化や消費の高度化は止まることがない。流通業界の挑戦も終わることはないであろう。


ここでも、中国の都市部で「日用品に至るまでネットで注文するというライフスタイルが日常の光景」となっていることが指摘されています。

それが可能となった背景には、アリババが提供する「支付宝(アリペイ)」やテンセントの微信(WeChat)に組み込まれている「微信支付(ウイチャットペイメント)」などの決済サービスの普及があります。
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中国では国際的なクレジットカードを持っている人は多いとはいえませんが、こうした独自の決済サービスを広めたことで、ECの利用が日常化していったわけです。

コンビニなどはもちろん、ジュースの自動販売機などでも一部対応しているのを見かけました(これは余談ですが、上海では日本のように街中に販売機はほぼ置かれていませんが、地下鉄駅構内やホームにのみ置かれています)。
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しかも、その普及ぶりは、海を越えた銀座のドン・キホーテでも使えるほどなのです。

銀座のドンキ、LAOXに徹底対抗!価格以外でも負けません!?
http://inbound.exblog.jp/25347932/

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実際、上海人の「ライフスタイル」にECは定着していて、高価な外国製コスメや靴、電化製品だけでなく、お弁当やトイレットペーパーなどの日用品まで宅配で届けられているようです。

それを実感する場面として印象的だったのが、上海の知り合いに案内してもらった大学で、学生寮のそばにECで購入した商品を受け取るための特設施設があったことでした。中国の大学生は、基本的に寮住まいです。1部屋に数人が共同生活している環境です。ところが、豊かになった彼らは、ECを使って日常的に買い物をしているのです。
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その大学は、毛沢東の像がいまも鎮座する華東師範大学でした。女子学生が多いことで知られる名門大学です。
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さらに、「饿了吗(おなかすいた?)」というサイトがあり、これは市内のどこにいても近所の飲食店からお弁当や飲み物などを宅配してもらえるECサービスです。今回知人のオフィスを訪ねたとき、このサービスでお弁当を宅配してもらって、一緒に食事をしました。これは中国国内の他の都市部でもかなり普及していて、いまや中国は「出前パラダイス」といえそうです。

饿了吗
https://www.ele.me/home/

同じような話は、前述の「日経ビジネス」の特集でも書かれていました。

上海市の高級住宅地に住む専業主婦の滕綺達さん(45歳)の自宅には、1日に7~8回、宅配便が届く。段ボール箱の中身は、洋服から生活用品、家電から生鮮食品まで様々。どれも滕さんがECで購入した商品だ。

滕さんは11歳と7歳の2人の子供を育てている。忙しい生活の合間にも、スマートフォンを使ってアリババやJD.comなどのECサイトで買い物ができる。中国のECでは、既に5割強はスマートフォンなどのモバイル端末経由の購入。2019年にはこれが7割に達する見込みだ。支払いには、アリババの「支付宝(アリペイ)」などの決済サービスを使用。現金で物を買う機会はほとんどないという。滕さんは、「そのうち、リアルの店舗なんてどこにもなくなるんじゃない」と笑う
」(p30)

この記事は、海外事情をよく知らない読者向けの、ある一面のみを調子よく取り上げた印象がぬぐえませんが、エピソード自体はいまの上海では特別なことではありません。

冒頭の「出勤中に買って、仕事がすんだら受け取る。当日届いて、その日に使える」状況というのも、彼らが自分の勤めるオフィスに日用品の宅配を届けてもらっていることと関係あります。日本ではこうしたプライベートを職場に持ち込むようなことはちょっと考えにくいですが、彼らはそういうことを“気にかけない”文化といえます。つまり、そのような人が職場にいても、他人事として受け流すのが中国人社会なのです。これも中国でECが普及する背景のひとつでしょう。

こうしたことから、いまの上海では(中国では、とまではいえません)、日本に比べてはるかにECが身近なものとなっていることがわかります。

でも、話はそこで終わりません。

こうしたEC化の過度の促進は中国のリアル経済にとって良いこととはいえないと指摘する声は多いと聞きます。実際、前述のジェトロ研究者の記事でも「デパートやコンビニ、スーパー、専門店など伝統的小売業態の売り上げ増加率は次第に低下している」と指摘しています。ECがもらたす市場環境の変化から、これら巨大な売り場を必要とする業態が苦戦しているというのは世界的な現象ですが、中国は2000年代以降、いわば国を挙げた「不動産立国」と化してハコモノを量産し、GDPを増やしてきた国ですから、現状のように、全国どこでも高級ショッピングモールが閑古鳥という状況は、やはり心配なわけです。マクロ経済が不振となった根本的な問題が解決されているのではないからです。

それに、今回上海のECサービスのさまざまな便利さを体験し、その実情を垣間見てきたぼくがいちばん感じたのはこれです。

いったいECサイトで注文した商品を誰か運んでいるのか?

そりゃそうです。社会が便利になるためには、誰かがそれを支えているわけですから。そしてそれは、宅配便のバイク兄ちゃんたちなのです。 

実際、いまの上海の路上は、バイク便だらけです。彼らの多くは、建設労働が一段落したこの都市に居残ったと思われる上海戸籍を持たない地方出身者であることは間違いないでしょう。なぜなら、驚くほど安価でバイク便が運営されているからです。

この写真を見てください。いったい一度に何個の荷物を運ぼうとしているのでしょう。
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中国のECサイトを見ると、宅配手数料はわずか5~15元(100~200円)程度です。それで、利益を上げるためには一度にひとりが多くの荷物を運ばなければならないでしょう。ちなみに、日本のバイク便の料金相場をネットでみると、距離や重さで細かく料金が分かれていましたが、上海の10~30倍です。もちろん、ひとり1個が基本でしょう。人間ひとりの人件費で考えれば当然のことです。
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もちろん、中国にはたくさんの宅配業者があり、バイクだけが荷物を運んでいるわけではありません。問題はバイク便の彼らがどのような雇用条件で働いているかです。
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日本でもアマゾンの躍進は宅配手数料を引き下げています。しかし、それがどこまで可能かは、結局、荷物を運ぶ人たちの労働環境がどこまで担保されるかにかかっていると思われます。

それを考えると、中国のような地方出身者を外国人労働者同然に使える特異な階層社会でしか、現在上海で実現しているようなECサービスはありえないのでは、と思ったのも事実です。彼らのやることなすこと、持続可能性がどこまで考慮されているのか。それとも、彼らの存在はドローン宅配便が実現化するまでの時間つなぎということなのでしょうか?


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by sanyo-kansatu | 2016-03-28 09:52 | のんしゃらん中国論 | Comments(0)


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