ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2016年 04月 10日

上海で個人旅行化が進んだ理由は貧乏人だと思われたくないから!?

上海出張に行くと、いろんな人に会います。現地に住む日本人もいれば、中国人もいる。中国人といっても、地元生まれの上海人と大学のときから上海に来て働いている「新上海人」では考え方も、行動もずいぶん違います。その違いは旅行の形態にも現れるものです。

さらにいうと、上海でオフィスワーカーをしている人とそうでない人、後者の中には出稼ぎ労働者に近い階層の知り合いもぼくにはいるので、それぞれの人たちとの付き合い方はまったく変わります。ぼくは所詮外国人なので、異なる階層を自由に縦断しながら付き合うことができるのですが、おそらく彼らにはできないことでしょう。なぜなら、中国人というのは、自分の属する階層の中に閉じた社会を生きているからです。

ですから、中国人といっても考え方は人によってずいぶん違います。誰もがそれぞれ自分の立場からモノを言うからですが、それぞれの立場が日本では想像できないほど違っているからです。ですから、知り合いの中国人がこう言ったという話を、さも中国全体の話のようにいうのはたいてい間違いなのです。

そんな階層縦断を日々体験することになる上海出張で拾った話の中から、いくつかの興味深いネタを公開してみようかと思います。

ポイントは、なぜ上海ではこんなに急速に個人旅行化が進んだのか、です。

2015年の上海の訪日客、個人が団体を逆転 その意味するものとは?
http://inbound.exblog.jp/25638388/

この点について、上海翼欣旅游咨询有限公司という訪日旅行のプロモーションを手がける会社の代表の袁承杰さんはこんな風に語っています。ちなみに、彼は上海生まれの上海人です。以前、現地で日系旅行会社の日本語ガイドをやっていた人です。

「上海人が団体ツアーで日本に行きたくないのは理由があります。団体だと、確かにツアー代は安いけど、行きたくもない免税店に必ず連れていかれること。帰国して、その場で成り行きで買わされた商品を確かめてみると、決していいものではない。車内販売で中国人ガイドに売られる商品もそう。そんな後悔は2度としたくないんです。こんなことになるなら、渡航費用が高くても個人ビザで日本に行くほうがいいと思っているのです」。

これは健全な市場化の流れを実感する話です。彼は1980年代生まれのいわゆる「80后」世代。彼らの多くはすでに30代になり、結婚し、子供も産まれています。そんな上海人の日本旅行とは。

「私と同世代の上海人は、土日をはさんで4泊5日で日本に行くというのが標準的です。安く行くためには、LCCを使った羽田深夜着便だと航空運賃も相当安い。

私たちの世代の中国人は、日本人のライフスタイルを経験したいんです。日本人が好むような隠れ家レストランに行くとか。団体はありえないんです」。 

彼の話を聞いていると、もはや上海人の日本旅行は台湾人とそんなに変わらないことがわかります。

こうしたことが可能となった理由については、日経BPネット<インバウンドBiz>の以下の記事で説明したように、日本政府のビザ緩和と中国からの日本路線の拡充が大きいのです。

ビザ緩和とLCC日本路線の拡充が日本旅行ブームをもたらした
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/IB-BU/031800009/

とはいうものの、同じ上海の同世代のオフィスワーカーでも、上海戸籍を持たない外地人だと、ビザの条件が少し違っていることを、ある日系広告代理店に勤める女性と話して知りました。

彼女は長江が東シナ海に注ぐ場所にある浙江省寧波出身で、これまで何度も日本に旅行に来ています。でも、彼女の話では、上海戸籍の人たちと違い、日本への個人マルチビザを取得するために、いったん沖縄に入る必要があるというのです。これは日本政府が数年前、3年間有効の個人マルチビザを発給するのに、沖縄と東日本大震災の被災地である東北3県に立ち寄ることを条件にしたからですが(そういうインセンティブを与えて沖縄や被災県への中国客を増やそうとしたわけです)、上海戸籍の人間が個人ビザを取るのに、いまはその必要はありません。彼女が浙江省出身だから、いまでもその条件が適用されるのです。冒頭で、上海人と「新上海人」では、旅行の形態が異なるといったのは、そういうことです。

出身地によってこういう分け隔てすることは、日本社会では差別として糾弾されがちですが、中国ではこのような見えない「区別」はいたるところに散見されます。ビザ発給条件というのは、日本政府が決めたことですが、この点を批判するのは間違っています。中国社会というのは、このようにでもしなければ統制・管理できない世界であることは否定しにくいからです。

実際、2015年1月にビザ緩和が実施されたといっても、個人ビザの発給用件として、その人物の資産がある一定以上であること、場合によっては銀行口座の残高の明細を提出させることは変わりません。日本では個人情報をこのように強制する無茶苦茶な条件など絶対許されないことですが、これも仕方がない面があるのです。

ですから、中国客を誘致したいと考える人たちであれば、こうした事情はある程度知っておくべきでしょう。いまだに団体客の人たちは、ツアー料金のほかに、多額の保証金を旅行会社に預けていることも事実なのです。

さて、こうした日本では考えられない発給「条件」は、当然上海人の旅行形態にも影響を与えることになります。なぜ上海ではこんなに急速に個人旅行化が進んだのかという理由について、ある現地在住の日本人はこう説明してくれました。

「上海人の多くは、団体で行くのは恥ずかしいと思っているんです。なぜなら、個人でないと貧乏人と思われるから。個人ビザが取れないということは、一定以上の資産がないとみなされたも同然だからです」。

この話をしてくれたのは上海の外資系企業で働く日本人です。彼の奥さんは上海人で、中国人に対する理解の深さは一般の日本人とは違います。そんな彼が日常的に接している上海人の言動から、これほど直裁に、個人旅行化が進んだ理由を解説してくれたことに、ぼくは唖然としつつ、なるほどと、うなづくほかありませんでした。

上海人にとって、団体、個人どちらのビザが発給されたかで資産のほどが知られてしまうことを意味するのですから、メンツに大いにかかわることなのです。だから、とても知り合いに「団体で行った」なんて言えないのです。

さて、最後のネタとして、前述した袁承杰さんの開発した面白いアプリを紹介します。

これは、日本に観光に来た中国人向けの音声ガイドのサービスで、「导游说(ガイドトーク)」といいます。
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导游说
http://www.daoyoutalk.com/
https://itunes.apple.com/cn/app/dao-you-shuo/id1062285581?mt=8

彼は以前上海を訪れた日本人観光客のガイドをしていました。いまは訪日中国人向けのサービスやプロモーションを手がけているのですが、彼の書いた企画書がちょっと面白いので、以下紹介させてください。

彼は訪日旅行に団体、個人ともにいろんな問題があることを指摘しています。
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これがこのサービスの概要です。おそらくネットによるサービスが普及している上海人には比較的受け入れやすい内容なのでしょう。この点、日本人のほうがピンとこないかもしれません。
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もしこのサービスに興味がある方がいたら、彼をご紹介しましょう。おそらく若い上海人向けのサービスとなると思うので、彼らの好きな日本アニメなどのカルチャー関連施設や商業施設などで使えるのではないでしょうか。

中国人といえば「爆買い」というイメージだけではもうすまない時代になってきていることを実感します。
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by sanyo-kansatu | 2016-04-10 19:59 | “参与観察”日誌 | Comments(0)


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