2016年 06月 04日
前回、日本のブラッグ免税店問題に関する中国報道を紹介しました。 日本のブラック免税店が中国客を陥れる!? http://inbound.exblog.jp/25875503/ この記事を教えてくれたのは、日本に住む通訳案内士の中国女性です。彼女はふだんは翻訳の仕事をするかたわら、通訳ガイドの仕事も最近は増えているようです。団体客をガイドすることはまずなく、ブラック免税店のこともよく知らなかったせいか、この報道を見て義憤をおぼえたようです。 でも、こうした問題は以前からずっとあったことでした。 日本のメディアも数年前から報じています。 たとえば、かの文春砲もすでに放たれていました。 中国人が中国人をボッタクリ “日本観光”の醜悪現場 密着ルポ(週刊文春2013.3.7) http://hello.ac/guide/bunshun2013.pdf さらには、その前年にNHKも報じています。 NHK総合テレビ<追跡!真相ファイル>「中国人観光客訪日格安ツアーのカラクリ」(2012.8.21) https://www.youtube.com/watch?v=jLeQfCrZg80 ある語学学校の経営者も、無資格ガイドに絡むこの問題を長く追及しています。 <「ALEXANDER & SUN」免税店」脱税事件>の真相と深層 https://www.facebook.com/Helloguideacademy/posts/433254933447543 一方、中国側からこの問題が初めて出てきたのは、おそらく在日華人紙「東方時報」2009年6月25日が報じた、悪質な旅行会社とガイドが結託したボッタリ免税店への上海人団体客の連れ込みの実態だったと思います。そう、2008、9年当時は、上海や北京などの団体客がブラック免税店に連れ込まれていたのです。 ボッタクリや無資格ガイド問題も浮上。日中双方が解決すべき中国人ツアーの課題 http://inbound.exblog.jp/iv/detail/?s=16998604&i=201111%2F20%2F53%2Fb0235153_13233726.jpg こうした報道をうけ、ぼくも以下のような記事を書いたことがあります。 中国人の日本ツアーはメイド・イン・チャイナである(2011年) http://www.yamatogokoro.jp/column/2011/column66/column_02_4.html http://www.yamatogokoro.jp/column/2011/column68/column_02_2.html この問題の語り方は、立場によって変わってくるところがありますが、ぼくの場合、当時は東日本大震災直後で、訪日客が大きく減るなか、それでも日本に来てくれる中国客に対して、せめて日本国内では日本人と同じように消費者として最低限度の保護すべきだという思いがありました。その頃の訪日中国市場はいまの5分の1の規模だったのです。また、中国客に対する免税店ボッタクリ問題は、2000年代に入るとすでに香港やタイで頻発していて、ツアー客とガイドが殴りあうとか、免税店に行くのを拒んだ客を置き去りする事件などがずいぶん報じられていたからです。こういうことが日本で起きるのは恥ずかしい。そう思っていたのです。 これらの騒動から、中国政府は2013年に「新旅游法」を施行し、この問題の解決にあたったはずでしたが、結局もとの木阿弥に近い結果で終わりました。というのも、本来ツアー客の望まない免税店への連れ込みをした旅行会社は罰則を受けるという内容だった「新旅游法」なのですが、中国の旅行会社はその後、消費者に免税店への連れ込みをやめる代わりにツアー代金を上げるしかないが、それがいやなら連れ込みを承諾するという誓約書にサインを求めることにしたのです。 その結果、中国の消費者は、ツアー料金を安くするためには、免税店への連れ込みはやむ得ないという従来どおりの姿を選んだのです。中国では国内旅行でも、お土産のコミッションでツアー代が安くなるという仕組みは同じで、広く知られているため、それが無理なく受け入れられてしまったのです。逆に、ツアー代を安くしてくれたのだから、免税店での買い物も少し付き合わないとガイドさんが困るだろうというような感覚も彼らにはあるのです。 だからといって、法外な金額でニセモノをつかまされるのは許せないというわけで、今回の報道となったのでした。 中国「新旅游法」は元の木阿弥―キックバックを原資としたツアー造成変わらず http://inbound.exblog.jp/24166349/ こうして結局のところ、問題はなんら改善されることもなく、月日だけがたちました。そのうち、上海や北京などに住む経済先進地域の人たちは、日本を個人ビザで訪れるようになり、ブラック免税店に連れ込まれることはなくなったのですが、いまでは内陸都市の地方客が同じ目に遭っているというわけです。時代を変えて、この問題は温存されているのです。 そんなわけで、個人的には、この問題をまじめに考えるのが少し馬鹿馬鹿しい気もして、2011年当時のような「中国客を消費者として保護すべき」と声を上げる気分にはなれないところがあります。 とはいえ、今回の中国報道が指摘する日本政府の不作為については、決してこのままでいいとは思えません。 日本側にはおそらくこんな言い訳があるかもしれません。もしブラック免税店の摘発を本気で行うと、彼らからのコミッションで支えられている中国の団体ツアーが成立しなくなり、市場の混乱が起こりかねない。そもそも中国の旅行会社が不当に安いツアーで客を集めるため、日本国内での宿泊や交通、食事に至るまで、そのすべてを日本側の手配会社が負わなければならないわけで、そこに無理があるのだと。日本側としたら、あえてそのモデルをぶち壊すことで、予測不能な事態を引き起こすことはなるべく避けたいし、中国側の航空・旅行業界もそれを望んでいるとは思えない。 昨年くらいから中国発の日本路線が驚くほど増え、国内の地方空港への運航も拡充しているなか、こうした動きを止めたくないとの思いは両国の関係者に共通しているはずです。その実、日本側の本音は、自国の消費者にまったく影響のない世界だから、わざわざ手をつける理由は見当たらないというものでしょうけれど。 今日の中国団体客の状況は以下を参照してください。 中国「爆買い」の主役は内陸都市からの団体ツアー客 http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/IB-BU/010400002/ 中国沿海都市から新タイプの個人客、ニーズが多様化し新たな商機生まれる http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/IB-BU/011800003/ 東アジア航空網に新時代、訪日客増大の本当の理由は地方路線の大拡充 http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/IB-BU/022600007/ こうしたなか、中国側では高額商品の「爆買い」の失速が伝えられています。 コラム:失速する中国人観光客の「爆買い」、ブランド品を直撃(ロイター2016年 05月 18日) http://jp.reuters.com/article/column-china-shopping-idJPKCN0Y90CX であれば、コミッションモデルもそのうち成り立たなくなるのではないか。そうすれば、ブラック免税店も消えていくはず…。そんな安易で希望的な観測も日本の監督官庁にはあるかもしれません。 おそらく中国側はそれらを承知のうえで、自国民の“爆買い”にいかに自制を効かせられるか、あの手この手で考えているのでしょう。確かに、状況はかなり進みつつありそうです。 中国が爆買い客に課税強化 空港で化粧品など廃棄も(Newsポストセブン2016.04.20) http://www.news-postseven.com/archives/20160420_404278.html アングル:中国が「国内爆買い」喚起、海南島を免税天国に(ロイター2016年 06月 1日) http://jp.reuters.com/article/angle-china-duty-paradise-idJPKCN0YM028 であれば、今回の報道もこの問題を自国民がどう受けとめるかを探る観測気球のようなものかもしれません。はたしてブラック免税店問題は今後、中国側でどれほど盛り上がるでしょうか。それが訪日旅行市場になんらかの影響を与えることがあるのか。いつものことながら、中国の消費者の本音と建前、政府の顔色をうかがいながらも、そこに面子が絡むという独特の反応の行方を眺めていくほかありません。 ブラック免税店日中問答「それはおもてなしする側が解決すべき問題でしょ」 http://inbound.exblog.jp/25876810/
by sanyo-kansatu
| 2016-06-04 13:33
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