ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2016年 06月 04日

ブラック免税店日中問答「それはおもてなしする側が解決すべき問題でしょ」

前回、前々回と5月末の中国メディアの「日本のブラック免税店」告発報道を紹介しました。

日本のブラック免税店が中国客を陥れる!?
http://inbound.exblog.jp/25875503/
ブラック免税店問題はもうずっと前からありました
http://inbound.exblog.jp/25875949/

この報道を教えてくれた中国語通訳案内士の彼女と、この問題をめぐってチャットしました。あとで残った文面を見ながら、なるほど日中のこの問題に関する感じ方はこんな風に違うんだなと思った次第。以下、その一部を公開します。(A:ぼく B:彼女)

A「こんばんは。ところで、Bさんはブラック免税店に行ったことありますか?」

B「行ったことないですよ。基本的にあそこに行くのは安いツアーに参加した団体客。経営は中国人や韓国人がしているそうですよ。東京だけでなく、大阪にもあります」

A「Bさんは団体客のガイドはやりませんものね。実は、ぼくは以前、知り合いの中国の旅行会社の友人の引率するツアーに紛れて、お台場の近くのブラック免税店に行ったことがあります。そのとき、友人から『店に入ったら、日本語しゃべらないでね』と言われていました。でも、一緒にいたツアー客は、ぼくが日本人であることを知っているので、『これは本物ですか? ここで買うべきですか?』と聞かれて、答えに窮した覚えがあります」

B「こういう免税店に行くようなツアーは、だいたい闇ガイドを使っていますよ。中国からの添乗員がそのままガイドする場合もあります」

A「確かに、友人は中国から来た添乗員でした。こういう人は、かつて中国で日本から来た観光客のガイドをしていました。ですから、日本語は堪能です。いまは日本から中国へ行く旅行者が激減しているので、彼らは仕事を失い、逆に中国客の添乗員として日本に来ているのです。

一応日本側のガイドもいましたが、在日中国人。彼が通訳案内士の資格を持っているかどうかはあえて聞きませんでしたが、たぶんないでしょうね」

B「闇ガイドを見分ける方法は簡単です。彼らは通訳案内士の有資格証がないので、名所や博物館に入る際、ツアー客と一緒で入場券が必要です」

A「なるほど。でも、実際のところ、中国の団体客はほぼこのような無資格ガイドによるツアーではないですか。まったくもって公然とルール違反しているのに、誰も取り締まらなかったことと、ブラック免税店を野放しにしているのは、同じですね」

B「それなのに、いま日本では通訳案内士制度の規制緩和を進めようとしている。もともと規制なんてないも同然だったのに。要するに、闇ガイドを容認するということですね」

A「通訳案内士法というのが、ちょっと古すぎて時代に合わない面もあります。ただ無資格ガイド問題とブラック免税店の問題は、野放しという意味では同じだけど、このしくみが温存されるのは理由があって、それはガイドが免税店からコミッションを受け取ることができるからですよね」

B「この業界は、有資格者ほどコミッションを取る団体の仕事をやりたくない人が多いので、生計を立てにくい。逆に、闇ガイドは年収1000万円台という話です」

A「でも、最近は中国の団体客は以前のように“爆買い”をしなくなってきたから、闇ガイドも前ほど儲けられなくなっていませんか? この稼業は団体客がブラック免税店で買い物してくれないと赤字になるというリスクがつきまとうので、このままいくと、彼らはいつか仕事を放り出すのではないかと思うんです。そんなことないですか?」

B「確かに、中国人はこの問題に対して相当警戒が強くなっているようです。中国の税関も厳しくなってきた。だから、私が案内する個人客は、日本人がふだん買い物するところへ連れていけ、と言います。実際、私もそういうところしか知らないので、特に困ることはありません。でも、団体客はそうはいかない。今後は中国から免税店の投資があるかもしれません」

A「そうなんですか。中国ツアーの構造として、ガイドはブラック免税店からコミッションをもらわないと、ツアー客のホテルやバス、食事の支払いができません。中国の旅行会社はほぼ一銭もガイドにお金をくれないのですから。中国では東京・大阪5泊6日のツアー代が安い時期で3500元(5万7000円)ほど。これでは往復の航空券代と中国側の旅行会社の利益だけです。だから、ガイドはブラック免税店に客を連れていき、コミッションをもらわないといけないわけです。この不幸な構図が変わらない限り、問題は解決しないと思います」
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B「そうそう、向こうではガイドは投資者です。ツアーを買ってその回収に必死ですよ」

A「なるほど、彼らはそういう投資感覚でガイドをしているんですね。確かに、中国側の旅行会社にお金を払ってツアー客をもらうケースもあるそうですから。まさにギャンブル的です。なかなか日本人には理解できないところがありますね」

B「ただこれから中国客は自分たちで旅程を組んで日本に来るようになると思います。でも、買い物はやみそうにない」

A「個人旅行になるということですね」

B「すでにそういうお客様が現れています。彼らの静かな“爆買い”は続くと思います。日本の百貨店やアウトレットが人気です」

A「結局、北京や上海のような経済先進地の人たちはそうなるのですが、いまの時代、中国の内陸都市から飛行機がどんどん飛んできているので、彼らは団体でくるしかなく、この構造は温存されていくのでしょうね」

B「だって彼らは言葉もわからないし、闇ガイド業者の言いなりですよ。まだまだ日本旅行のメインテーマは買い物です。だからこそ、日本政府は違法行為をある程度取り締まるべきですよ。法治社会の信用を守ることは日本の国益につながるはずです」

A「う~ん、それはおっしゃるとおりですね。これまで日本政府は観光客の数を増やすことばかりで、きちんとしたルールづくりを怠けてきました。さすがに2000万人時代となり、今年はそういう議論が起きてくると思います」

B「中国人観光客の多くは、自国にはない生活のクオリティや秩序など、日本に理想像を求めて来たのに、騙されて帰ったら、SNSでどんどん日本のブラック免税店問題を発信すると思いますよ。たとえ加害者は同じ中国人だとしても、帰国後、日本に通報するのは物理的に難しい。やはり国には責任がある。それはおもてなしする側が解決すべき問題でしょ」

A「確かに、ブラック免税店を野放しにしておいて、おもてなしはないですよね。基本的にはおっしゃるとおりかと思います。では、今日はこのへんで…」

昨年秋、中国の河南省の鄭州を訪ねたとき、地元で有名な麺料理(会麺といいます)の店で食事をしていたとき、給仕のおばさんから「日本ってきれいな国なんだってねえ」と言われたことがあります。失礼な言い方だけど、そのおばさんは海外旅行できるような階層には思えませんでしたが、「日本=きれいな国」というイメージは民間に広まっていると感じました。これがここ数年の中国の日本旅行ブームを下支えしていた面もありそうです。

しかし、この国のSNS文化の影響は、予測しがたいところがあります。これからは「日本=ブラック免税店」のイメージが、民間で語られるようになるかもしれません。彼らはこう思うことでしょう。「なんだ、日本も中国と大して変わらないんだね」と。

さて、ひとまずBさんの意見を支持したものの、この問題、実際に解決に向けた道のりに進むためには、ただ取り締まればいいという話でもなさそうです。なぜなら、すでに書いたように、こういうことだからです。

ブラック免税店問題はもうずっと前からありました
http://inbound.exblog.jp/25875949/

翌日、またBさんとチャットしました。

A「昨日の話の続きですが、この問題はいまに始まった話ではなく、すでに日本でも何度も報道もされていて、なんら進展はないんです。日本の消費者庁は外国人消費者について守るべき法律はないという立場のようです。

こうなると、“爆買い”で恩恵を受けていた小売業界やJSTO(日本ショッピングツーリズム協会)のような団体がこの問題をどう考えるかということも、解決に向けた道のりにつながるのではないかと思うんです」

B「どういうことですか?」

A「要するに、日本のショッピングの悪評判がどんどん広まり、小売業が打撃を受けるというような事態にでもならないかぎり、彼らはこの問題を無視し続けるように思う。

だから、中国の消費者が日本旅行中、消極的に非買運動を続けてもらうことが良いかもしれません。そうなると、日本側の関係者も、少し慌ててブラック免税店を駆逐しようと動き出すのでは」

B「いまの中国の観光客に不買運動は難しいですよ。環境汚染でも団結できないくらいですから。やはり、日本に行ったら買い物したいわけだし。やはりルールをつくるべき」

A「そりゃそうなんだけど、日本人の理解を越えているのは、これだけたくさん中国客が来るのだから、何もニセモノまで売って評判を落とすこともないと思うのに、なぜブラック免税店はそんなことをするのだろう? 日本人ならいいものを売れば、もっと儲かるから頑張ろうとなると思うのだけど。彼らがやっていることは、ルール以前の問題のような気がする」

B「中国では横断歩道を守らない人が多いですが、警察官が立てば、日本人以上に守りますよ。日本は法治社会なのに、この問題はなぜか矛盾している気がする」

A「なるほど。それが中国的な法の意味ですね。日本人は法は国民の権利や利害を守るためにあると考えていると思います。規制緩和をめぐる議論もたいていそこが焦点になる。やはり、基本的な考え方がずいぶん違いますね。中国では、法は為政者が国民を文字通り統治するための道具ですね」

B「そうしないと、秩序が乱れるからです。中国人が日本に来て社会の整然とした秩序に驚くのは、そのためです。きっと厳しく統治されているのだろうと中国人は考えるのですが、実際は違いますよね。だから、中国人はなぜ日本ではブラック免税店を取り締まろうとしないのか、よく理解できません」

A「たぶん、自国民でない人たちだからかもしれませんね。彼らが自国民に直接害を与えているわけではないということもある。権威主義体制の中国では、為政者は外国人が自国で犯罪を犯しているのを放置するなんて考えられないとなるのでしょうかね」

B「でも、ルールはやはり必要です。闇ガイドの問題だって、このまま規制緩和されてしまうと、いま真剣に通訳案内士の資格を取ろうとする若者、必死に仕事を探している通訳案内士もそうですが、日本旅行に夢を見ている中国の観光客が可哀想ですよ。この問題で、暗躍しているのは中国人だけじゃないですよね」

A「個人的には、これだけ外国人旅行者が増え、さまざまなニーズが生まれているので、規制緩和はやむをえないと思っています。通訳案内士ほど高度な語学力がなくても、外国人を接遇する場面は増えているからです。ただし、規制緩和する以上、外国人を添乗するだけの仕事でも、団体客のガイドは監督官庁に登録させるようにすべきだと思います」

B「登録も必要ですが、やはりインバウト専門の苦情処理窓口と日本国内のメディアの力が必要です。取り締まるべきところは取り締まらないと。旅行者はいつか帰国してしまうので、圧倒的に弱者です」

A「そうですね。せめて苦情窓口は必要です。ただ現状でいえば、資格うんぬんの前に、登録させないと。いま誰がどこで何をやっているか、まったく監督官庁もつかんでいないため、取り締まりも何もできないですから。

昨年末、ある中国系免税店は自衛のためでしょうか、中国客を連れてくるガイドに「労働許可証」のない者には入店させないと通達を出したと聞いています。これはガイド資格以前の話ですが、実態の把握のためにも登録は最低限必要です」

B「いったん登録したら、観光客や関係機関に周知させ、ときどきチェックも徹底しないと、また無法状態。「杀一儆百」(少数を厳しく罰して見せしめにし、多数の人に警告すること。一罰百戒)。いまはこれがいちばん即効性があると思いますよ。検挙、検挙、また検挙…」

A「いかにも、中国的だなあ。ヨーロッパの一部では、確かにツーリストポリスがいて、現場の問題処理にあたります。ただ、中国団体客の問題となると、彼らもなかなか難しいのでは。まず言葉の問題があります。英語が通じればいいですけど。オーストラリアのような観光国でも、問題解決は難しそうです」

※澳洲“免税”店与旅行社勾结 专坑中国游客(新华国际 于 2016-05-29)
http://www.wenxuecity.com/news/2016/05/29/5244163.html
オーストラリアの免税店でも、旅行会社とグルになって中国客を陥れているという報道。

B「ブラック免税店の問題は、日中両国のずる賢い人たちが関与しているので、行政との知恵比べでしょう。日本の法治が問われていると思います。私は思うんですが、今回の中国のメディア報道や駐日中国大使館の苦情などを受けて、日本の関係機関は「丢面子」(メンツを失う)を感じていないのかしら? それとも故意に無視している?」

A「まだ十分に感じていないかもしれませんね。故意でもあり、むしろメンドウごとに関わりたくないという感じではないでしょうか。所詮、外国人の問題だからと逃げているのです。だからこそ、訪日中国客が消極的に非買運動することが、いちばん彼らを困らせるはず。なぜなら、“爆買い”がなくなれば、結果的に、中国人ツアーは減るほかありません。昨日書いた理屈で、在日ガイドが赤字になるような仕事は投げ出すため、中国側の旅行会社が送客しようとしても、受け皿がなくなるのですから。そうなると、これまで拡充した日中間の航空路線も縮小し、小売業にも影響が出る。そうなると、その原因をブラック免税店に求める動きがようやく起こるかもしれない」

B「わからないではないけど、やはり法治社会の日本の矛盾を関係者に注目してもらうようにすることも大事。孟子曰く『まず仁義が先にあっての利』です。私の見た日本の旅行業界には、利を先に求める人が多いようです。悲しいなあ」

A「人は利で動くものですからねえ。だからこそ、法という縛りが必要ということですね」

B「同感同感」

A「う~ん、まあそうかもしれないけど、今日はこのへんで」

結局、ふたりのチャットの内容は平行線をたどっているように思います。中国人の彼女からすれば、外国人による違法行為を野放しにすることは、日本政府のメンツに関わるはずで、そこをメディアの力や中国政府の苦情によって彼らのメンツを失わせることで、行動を促すことが問題解決になるという判断のよう。一方、ぼくにはどうやら日本側はそんなことでメンツを痛めたりすることもなく、むしろ日本国民に実害がないうちは、勝手におやりください。実害を受けているのは、中国の皆さんでしょう。そういう冷めた認識、あるいは底意地の悪さを感じないでもない。

やはり、日本人からすると、訪日旅行の周辺で起きている中国人のルールを無視したギャンブル的なやり方は、まるで「戦後のドサクサ」の時代を生きている人たちのようにも見えてしまいます。なぜ彼らはそこまでやるのか。こんなやり方では長く商売できないだろうに…。中国側の良識ある関係者らも、実は同じことを話しています。でも、結局のところ、中国人にはそのようなやり方しかできない、と彼らも同胞の姿をみて嘆いている。中国側にも問題の所在を理解している人たちもいるのですが、それを変えられない。

まあそんなことで、この問題はいろいろな見方ができるわけですが、彼女に言われた「それはおもてなしする側が解決すべき問題でしょ」という指摘から、我々も逃げることはできない道理はあるはずです。この数年間、中国客にたくさん買い物をしてもらうために、日本の小売業界を中心にしたさまざまな業界や自治体まで含め、あの手この手で中国市場も対応してきたのに、ブラック免税店問題は知らぬ存ぜぬでいるわけにはいかないと思うからです。

ひとまず問題の所在が社会に広く理解されないと、解決に向けて動き出すことはなさそう。だから、まずはそこから始めるしかないと思う次第です。

【追記】
数日後、実際にそれらの免税店を訪ねてみました。

中国メディアが名指しした新宿のブラック免税店を見に行ってみた
http://inbound.exblog.jp/25890462/

みなさんはこの現状をどう思いますか?
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by sanyo-kansatu | 2016-06-04 18:31 | 気まぐれインバウンドNews | Comments(0)


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