ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2016年 06月 07日

外国客に「娯楽サービス」は足りている?

前回、前々回とプロの通訳ガイドである通訳案内士の新しい動きを見てきました。

銀座と表参道をめぐる東京建築ツアー(英語)が面白い
http://inbound.exblog.jp/25882521/
通訳案内士の新しい動きに注目! 東京建築案内ユニットShowcase
http://inbound.exblog.jp/25883449/

ここで少しマクロの話をすると、観光庁が集計した「費目別にみる訪日外国人の旅行消費額」というデータがあります。

費目別にみる訪日外国人の旅行消費額(2015年)
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これをみると、費目として「宿泊」「飲食」「交通」「娯楽サービス」「買い物」「その他」に分けられていますが、外国人向けツアーは「娯楽サービス」にあたります。これにはTDRやUSJなどのテーマパークの入場費なども含まれると思いますが、比率でいうと、全体の3.0%。ふつうに考えて、旅行に不可欠な出費として「宿泊」や「飲食」「交通」、そして訪日アジア客の比率が80%を超えるいま、「買い物」が多くの割合を占めるのは当然かもしれません。でも、はたしてこれで外国客にとって日本の「娯楽サービス」は足りているといえるのでしょうか?

訪日外国人全体の旅行消費の推移(2011年~15年)
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もっとも、14年に比べ15年は総額が1.7倍と大幅に増えており、「娯楽サービス」もわずかですが比率を増やしています。今後はこのジャンルにもっと光が当たることが、日本のインバウンドを面白くするはずです。

では、いまこの市場に貢献しているのは誰か。それが、以下のようなツアーをはじめとしたアクティビティを扱うマーケットプレイスです。

viator (世界最大の現地ツアーを扱う。トリップアドバイザーの傘下に入る)
http://www.viator.com/
Voyagin (2012年にサービス開始した日本発の旅行体験予約サイト。15年、楽天の傘下に)
https://www.govoyagin.com/?lang=ja
Triplelights (2013年にサービス開始した通訳案内士と外国客のマッチングサイト)
https://triplelights.com/

これらの予約サイトやマッチングサービスの登場で、通訳案内士は外国人からダイレクトブッキングを受けられるようになってきたわけですが、このサービスに登録して集客を図る通訳案内士の側からみると、それぞれにどんな違いがあるのでしょうか。

Showcaseの木原佳弓妃さんによると「通訳案内士がこれらのサイトに登録する目的は、成約につなげることであり、登録するサイトが多ければ多いほどチャンスが増えると考えている。その際のいちばんの懸念事項は、コミッションの割合」だといいます。つまり、これらのサービスに登録する場合、発生ベースでガイド費の数%がサイト側に引かれるしくみになっており、ガイド側としては、それはなるべく低いほうがいいわけです。

さらに、「viatorは世界的に認知度の高いガイド検索サイトなので、Voyaginとはゲスト登録数の規模が違うと認識している。昨年からトリップアドバイザーと提携してviator経由で予約ができるようになったので、それまではツアー提供側の連絡先を確認して別途連絡をして予約を行う流れだったが、楽に予約できるようになった」と指摘します。

サービス提供側にも話を聞いてみましょう。

通訳案内士と外国客のマッチングサイトであるTriplelightsを運営する株式会社トラベリエンスの橋本直明社長とは、ちょうど1年前、話をしたことがあり、本ブログでも紹介しています。
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海外の観光ガイドサービスのモデルを日本に持ち込もう(2015年5月10日)
http://inbound.exblog.jp/24460875/

以下、最近お会いして話をお聞きした一問一答です。

-あれから1年、訪日客はますます増えていますが、トリプルライツはどうですか。

「昨年冬から今年の春に向けてUI(ユーザー・インターフェイス)を地道に改善し続けてきました。おかげさまでこの春、今までの4倍まで売上が伸び、現在複数名の新規採用とオフィス移転を予定しています」

-通訳案内士が外国人からダイレクトブッキングを受けるプラットホームとして、トリップアドバイザーやViator、Voyaginなどがあるようですが、御社と競合するそれぞれのサイトの特徴についてどう分析しておられますか。たとえば、どのジャンルが得意か、サービス内容の特徴は、登録している案内士の傾向、顧客層、実績などの面からみて何がいえるでしょうか。

「昨年、トリップアドバイザーがviatorを買収しました。全世界的に圧倒的な流入を実現していると思います。

たとえるなら、viatorは総合デパートのようなもので、特定なジャンルに強いというより、広く多種多様な品揃えをして、より多くのお客様を獲得していくモデルだと感じています。日本の旅行大手のパッケージツアーも扱いますが、オリジナル性の高い商品はそれほどないのでは。

一方、Voyaginは昨年、楽天に買収され、新しい成長を求められていると思います。チケット予約やレストラン予約など、よりパーソナルなトラベルコンシェルジェの機能が強化されてきました。外国人にはトラベルプランニングに手間をかけたくないというニーズがあり、そのニーズを満たすサービスだと感じます」

-では、彼らと競合するなか、トリプルライツはどう差別化していますか。

「viatorのガイド部門についていうと、海外のサービスなので、日本に支社がなく、ガイドさんへのサポートがほとんどありません。日本の通訳案内士は40代以上の方が大半を占めているため、ITリテラシーがそれほど高くなく、マニュアルやサポートがない中ではこういう海外のサービスはうまく使いこなせないのが実情ではないか。

viator expert tour guides
http://tourguides.viator.com/

その点、トリプルライツの場合は、ガイド一人ひとりに操作を説明する担当者がつくというサポート体制があります。実際、viatorに登録されている日本のガイドの数より、後から参入した弊社のほうが登録数は多く、現在約400名います」

-訪日市場におけるマーケットプレイスの現状について、いま何を感じていますか。

「まずツアー内容のバラエティがまだ少ないこと。人気なのは、サイクリングツアーやすし握りのようなフードツアーくらいでは。もうひとつが、地域の偏りです。実は、弊社のサービスに対する外国客の問い合わせの8割が東京、京都、大阪と大都市圏に集中しています。つまり、地方在住の通訳ガイドの活躍する場がまだまだ少ない。

※同じことは、トリップアドバイザーの都道府県別の外国人口コミ件数にも表れています。こちらでも、東京、京都、大阪で6割を占めています。

トリップアドバイザーで和風エンターテインメントが人気の理由
http://inbound.exblog.jp/25864340/

その理由は、圧倒的な外国語による情報不足だと考えています。問題は地方都市へのアクセスの難しさではない。たとえば、スノーモンキー(野生のサルが露天風呂に入ることで有名な長野県下高井郡山ノ内町の地獄谷温泉)のような外国人には行きにくい場所でも、広く知られるようになると、どっと彼らは現れる。もっと彼らが行きたいと思わせるような地方発の情報発信が必要です」

こうした認識は、先日知り合った名古屋在住のクリス・グレンさんと共通しています。実は、いまの日本には、外国人にしっかり届く情報がまだまだ不足しているのです。

なぜサムライは外国人の心を惹きつけるのか?
http://inbound.exblog.jp/25864895/

「こうした発想から生まれたのが、映像で見る日本最大の国内旅行ガイドブックとして昨年、立ち上げた「Planetyze(プラネタイズ)」です。

Planetyze(プラネタイズ)
http://planetyze.com

いま地方の動画コンテンツづくりに力を入れています。さらに、まだ経験の少ない地方在住の通訳案内士の方たちへのe-learningも始める計画です。情報発信と同時に、日本の通訳ガイドのスキルを向上させる必要があると考えています」

橋本さんの話を聞いていつも感心するのは、目の前のビジネスだけでなく、日本全体に欠けているインフラづくりを自ら担っていこうとする意欲があること。誰かがやらなきゃいけないなら、自分がやるという姿勢です。着地型ツアーの開発から始めて、通訳ガイドのマッチングサイト、そしていまやオンラインガイドブックの制作まで手がけているというのですから。

この領域には、ひとりの外国人(ステファン・シャウエッカーさん)が始めたジャパンガイドという先行者がいます。1996年に立ち上げられています。でも、もっといろいろあっていい。

japan-guide.com
http://www.japan-guide.com/
https://www.japan-guide.co.jp/

-ところで、昨今の通訳案内士制度の規制緩和への動きについてどう考えますか。

「よく言われているようなマーケットを奪うという話ではなく、むしろマーケットは広がり、通訳案内士にとってはチャンスだと考えます。いままで陽の当たらなかった業界が、規制緩和によって陽が当たり、多くの会社の智慧と投資が注がれ、業界が活性化します。実力のあるガイドにとってはより高単価に稼ぐことができ、経験がないガイドでも実力がつければチャンスが与えられると思います」

外国客への「娯楽サービス」をもっと提供するために、これからやることはいっぱいありそうです。
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by sanyo-kansatu | 2016-06-07 11:49 | “参与観察”日誌 | Comments(0)


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